一緒に考えたい、シナリオアート 空
想と現実の間で旅する新譜

独自のファンタジーをみせるシナリオアート

 男女ツインボーカル3ピースバンドのシナリオアートが3月8日に、メジャー2ndアルバム『Faction World』をリリースした。2009年に関西で結成し、2015年にはKANA-BOONとのスプリットシングルに収録の「ナナヒツジ」が、アニメ『すべてがFになる THE PERFECT INSIDER』のエンディングテーマに起用。少し毒のある独自のファンタジー溢れる世界観で人気を集め、同年にメジャー1stアルバム『Happy Umbrella』をリリース。今作では「空想と現実の狭間の世界を旅するアルバム」を目指した。シナリオアートが描くのはどのような世界なのか? メンバーを代表してハヤシコウスケ(Gt.Vo.Prog)に話を聞いた。

最近はテリー・ギリアムと星新一にハマっています!

シナリオアートのハヤシコウスケ

――『Faction World』というタイトルですが、「Faction」はフィクションとアクションの造語みたいな?

 シナリオアートは、ファンタジックバンドだと評されることが多いのですが、現実をファンタジーに見せかけている曲も多くて。それで、Fiction=空想とFact=現実の狭間を行き来するような曲だったり、狭間そのものを表した曲によって、アルバムの世界を表現してみようと思って作りました。

 このタイトルは、割と最初から考えていて。『Faction World』という名前の世界を旅する感じにしたいと思いました。曲はその世界にある国に例えて、いろんな国の情景が見えるようにしようと心がけました。

――曲を作るときは? キーボードとかでデモを作ったり?

 僕の場合は、頭にあるイメージを言葉で伝えて、“せーの”で合わせて作っていくやり方です。僕のイメージを受け取ったメンバーが、自分の中で変換してどう表現していくかというところに、バンドらしさを見出しているので。割と非効率的ではあるけど、解釈がずれて面白いものを生み出すこともあるし。

 たとえばドラムは、「ここはドカドカドカッという感じで」とかを口(くち)ドラムに、身振り手振りを織り交ぜて伝えるので、ドラムのクミコからはよく「何を言ってるか分からない」と言われます(笑)。

――そういうところから、こういうアルバムの音源のような形まで持っていくには、想像力が必要だと思います。想像力を高めるためにやってることは何かありますか?

 そのためにと言うわけではないですけど、映画も本も好きで、メンバーみんな時間を見つけてはインプットする作業をやっています。僕は、最近テリー・ギリアム監督の映画にハマって。

――『未来世紀ブラジル』とかですね。

 そう。あれはヤバイです。すごく不思議な世界観で、話が繋がってないようで繋がっているし。映像としての色彩感覚にも、すごくセンスを感じて、感化されました。昔に何作か見たことがあったんですけど、監督名までは知らなくて。それで、その作品が全部、テリー・ギリアムだったと気づいたら、すごく嬉しくなってしまって。今、全部見ようと思って、ちょっとずつ見ているところです。

 なかでも、いちばん好きなのは『バロン』です。演劇っぽいシーンから始まって、最終的にはまたその演劇のシーンに戻るんですけど、その間に描かれている旅がめちゃくちゃで。旅のお供が、怪力の人とか、息で何でも吹き飛ばす人とか、みんな変わった能力を持っていて。へんてこりんだけど、それがすごく面白いんです。

 本はそんなに詳しくないけど、星新一さんとか好きです。教訓があるのかないのか、考えるのも楽しいし。あと、筒井康隆さんのSFもので、『七瀬ふたたび』とかが好きですね。

――『七瀬ふたたび』は、昔にNHKでドラマ化されたものを見てました。そういう嗜好は、子どものころからですか?

 そうですね。だから、空想も好きな子どもでした。パラレルワールド的と言うか、自分がいる現実とは少しだけ違う世界を想像したりとか。そこにいるんだけどそこにはいない、何か拡張された場所にいるような感覚だったことを覚えてます。だから、学校でも“ボ〜ッとしてるなよ”って、よく注意されてました(笑)。

――そういう自分が好きなものや空想して楽しんでいたものを、今は音楽という形で自分から発信しているわけですが。

 すごく楽しいですね。でも、そこで終わってしまうのは、音楽としてはどうなんだろう? と思って。単純にファンタジーを表現して、それでハイ終わりで良いのかな?と思うんです。そこで、シナリオアートが表現する上では、単に物語(シナリオ)を提示するだけじゃなく、アートの部分もなければいけないと思っています。

 アートと言うのは、表現する側が何か問題定義をしたり、考えるきっかけを提示するものだと思っていて。僕らが提示した物語をきっかけにして、聴いてくれる人と一緒に何かを考えたいんです。ただ見て聴いて、「ああファンタジーだったね。面白かったね」と、そこで消費されてしまうのではなく、そこからさらに違うものをイメージしたり考えを広げていったりしてほしいと思っています。

 だから、このアルバムが、もし物語を提示するだけのものだったとしたら、タイトルはきっと『ファンタジーワールド』で良かったんだろうと思うんです。でもこれは、ファンタジーと現実の狭間で想像や思考を巡らせてもらうもので、なおかつシナリオアートの作品でもあるわけで。ファンタジーだけではなく、そこに現実をしっかりつきつけて一緒に考えたいという気持ちも込めて、『Faction World』と付けています。

栃木県の大谷資料館採石場跡でレコーディング

シナリオアート「Faction World」

――ジャケットはリュックを背負った後ろ姿で、今まさに『Faction World』という世界への、冒険の旅に出ようとしているところ。旅もこのアルバムのテーマの一つだと思いますが、ハヤシさん自身旅は?

 旅には出たいけど、そんなに長い休みが取れないので、せめて空想の世界でだけでも旅が出来たらと思って作ったところもあります。少しでも自分の心が今いる場所とは違うところに、トリップ出来る音楽だったら良いなと思いますね。そういう空想の旅をするだけでも、気持ちが救われる人もきっとたくさんいると思うので。

――前作のメジャー1stアルバム『Happy Umbrella』と比べて、今作はどんな風に変わりましたか?

 まず、曲の印象として明るくなりました。聴く人を問わない明るさを持ったアルバムだと思います。あと、生サウンドにすごくこだわったので、オーケストラを入れたり、使った楽器数もすごく増えました。今の時代、打ち込みでもこと足りるんですけど、あえて時間も労力もいるアナログな手法をとりました。そういう一つひとつが自分たちにとっての挑戦だったので、僕たち自身も冒険の旅をしているような感覚で制作することが出来ました。

 たとえばスティールパンとかスチールギターとか、自分たちでも出来そうな楽器は自分たちで演奏して、プロとは違う味が出せたと思います。あと楽器ではないですが、「コールドプラネット」という曲は、ひんやりした音像にしたいと思ったので、栃木県の大谷資料館という昔の採石場跡で、歌をレコーディングしました。

――映画とかMVの撮影でたまに使われますよね。でもそこでレコーディングした人は聞いたことがなかったです。

 普通はしようと思わないですからね(笑)。地下にすごく広い空間が広がっていて、天井もすごく高くて、周りは全部石で。気温もそれこそ氷点下なので、あまりの寒さで機材が止まってしまったほどですから。僕はそこにマイクを立てて、凍えて白い息を吐きながら歌いました。本当に寒くて、口が動かなくなっちゃったくらいなんですけど、曲の持つ寒い感じを表現するのには、それも含めてすごく良かったと思います。高く冷たい音が伸びる、独特の音像が録れました。

――また「イージーオーマツリ」という曲は、和風のお祭り感があって意表を突きました。「イージーオー」は、EGO=エゴで「エゴ祭り」ということ?

 はい。歌詞にもあるんですけど、一つになろうと言う人と、一つにならなくてもいいと言う人がいて。その両者が言い合いをしてるんだけど、そこからハーモニーも生まれるし、結局は自分が思っていることが正解で良いんじゃないか? と歌ってます。きっと世界が一つにまとまらないのも、そういうことなんだと思うし。ただ、今は情報が溢れているからそれに振り回されず、しっかり自分の中にブレない想いを持っていてほしいという願いも込めています。

――世界とかそういうことを日々考えているんですか?

 そうですね。ただ、すべての事象に振り回されてもいけないと思っていますし、今起きていることだけじゃなく、昔から繰り返されていることにも目を向けて、知っていかなければいけないなと最近は思っています。

世界が終わる日は、母親のクリームシチューを食べたい!

シナリオアートのハヤシコウスケ

――「コールドプラネット」もそうですが、「パペットダンス」とか「ラブマゲドン」とかからも、人間という儚い存在とか、終焉のときにこそ生まれる愛とか感動も感じました。特に「ラブマゲドン」はすごく壮大で、キャッチーさもあって。

 「ラブマゲドン」は、もし“明日世界が終わります”と言われたら、みんなどんな1日を過ごすのかな?って考えて。欲のままに誰かを傷つけたり奪ったりする人もいるだろうけど、君はどんな最後でありたいですか? と、聴く人に問うています。僕は、最後くらいは愛で溢れていて欲しいなと思うので、そういう願いも込めてこういう歌詞を書いたんですけど。

――明日世界が終わるとしたら、最後の食事も大事な気がします。ハヤシさんは何を食べたいですか?

 それは、すごく迷いますね〜。でも、やっぱり豚キムチをつまみにビールかな(笑)?

――迷ってそれ(笑)?どうせなら、すごく高級なものを食べたいとかはないですか?

 最後なんだから、きっと何を食べても価値は高級だと思うので。だとしたら、本当に自分が食べたいものを食べたほうが、それが最高級なものになるんじゃないかな? と思います。

――逆に、みそ汁とかおにぎりとか、母親の手料理だったりとか、そういうぬくもりの方向もありますね。

 そういうのも良いですよね。そういう方向なら、母親のクリームシチューかな。うちのおふくろの味はクリームシチューで、それを好きな人と一緒に食べられたらきっと最高だと思います。さっきの豚キムチはナシにして、こっちの答えにしようかな(笑)。

 でも本当にこんな感じで、聴いてくれた人も考えたり想像してくれたりしたらすごく嬉しいですね。それに思うのは、そういう日が実際にいつきたとしても、それを受け入れられるような人生を送りたいです。それはきっとすごく難しいことで、日々何かに向かって生きている中で、それがナシになることを受け入れられるくらいの、悔いのない人生ってどんなすごい人生だろうと思うし。「ラブマゲドン」の主人公の男女は、それでも良いと思えるくらいの人生を送れていたのか? でもどうなのか? ラストはみなさんで想像してほしいです。

(取材・撮影=榑林史章)

 ◆シナリオアート 2009年に関西で結成。現在は、ハヤシコウスケ(G&Vo, Programming)、ハットリクミコ (Dr&Vo)、ヤマシタタカヒサ(B&Chorus)の3人で活動。タワーレコード限定盤シングル「ホワイトレインコートマン」が、オリコンウィークリーインディーチャートで2位を獲得したのを機に、2014年にミニアルバム『night walking』でメジャーデビュー。COUNTDOWN JAPAN、ROCK IN JAPAN、SWEET LOVE SHOWER、イナズマロックフェスなど夏フェスを席巻し、2015年にはKANA-BOONとのスプリットシングルに収録の「ナナヒツジ」が、アニメ『すべてがFになる THE PERFECT INSIDER』のエンディングテーマに起用。同年にリリースしたメジャー1stアルバム『Happy Umbrella』は、オリコンウィークリーチャートで25位にランクインした。現在は、森見登美彦の原作小説をアニメ化した『四畳半神話大系』の特別放送版で、オープニングテーマ「迷子犬と雨のビート」(ASIAN KUNG-FU GENERATIONのカバー)とエンディングテーマ「ラブマゲドン」を担当。

ライブ情報

シナリオアート ワンマンツアー2017 [Scene #3]-World Journey-

3月25日(土) 心斎橋 BIGCAT
3月26日(日) 高松 DIME
3月31日(金) 岡山 CRAZY MAMA 2nd Room
4月1日(土)福岡 BEAT STATION
4月2日(日)広島 CAVE-BE
4月8日(土)仙台 CLUB JUNK BOX
4月9日(日)新潟 CLUB RIVERST
4月16日(日)札幌 Sound Lab mole
4月21日(金)名古屋 CLUB QUATTRO
5月7日(日)東京 EX THEATER ROPPONGI

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