河鍋暁斎『これぞ暁斎!』展レポート
 “大真面目にふざける”天才絵師の
画才とユーモアが炸裂する



河鍋暁斎 《名鏡倭魂 新板》 明治7(1874)年 大判錦絵三枚続 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London Photo:立命館大学アート・リサーチセンター




暁斎のおもしろさは、説明不要日本初公開の作品を含む159点の出展品は、すべて英国在住のコレクター、イスラエル・ゴールドマン氏の所蔵作品だ。ゴールドマン氏は、ある時ロンドンのオークションで、誰もが見落としていた暁斎の掛軸をわずか55ポンドで落札したという。以来、35年以上に渡り収集を続け、世界屈指の暁斎コレクターとなった。ある時「なぜあなたは河鍋暁斎をコレクションするのですか?」と問われると、ほとんど反射的に「暁斎はおもしろいから」と答えたのだとか。その言葉のとおり、暁斎の作品には、説明不要のおもしろさがある。事実、国外での評価も高く、大英博物館やボストン美術館など名だたるミュージアムにも、河鍋暁斎の作品が所蔵・展示されている。

イスラエル・ゴールドマン(Israel Goldman)氏




「画鬼」と呼ばれた早熟の天才河鍋暁斎は、7歳から浮世絵師の歌川国芳の下で修行を積み、10歳で狩野派に入門した。「画鬼」と呼ばれてかわいがられながら、19歳という異例の若さで修業を終えるが、その後も流派にこだわらず画法を学び自分のものにしていったという。ゴールドマン氏のコレクションにおいて特に魅力的なのが、動物を題材にした作品群だ。狩野派の技法で描いた猛虎、四条派の影響を感じる猫など、暁斎の技が光っている。

『ゴールドマン コレクション これぞ暁斎!世界が認めたその画力』内覧会レポート


『ゴールドマン コレクション これぞ暁斎!世界が認めたその画力』展示風景 左から4番目が《月に手を伸ばす足長手長、手長猿と手長海老》

手長、足長は、江戸時代の戯画によく登場するモチーフだが、そこに手長猿と手長海老まで加わったのが、《月に手を伸ばす足長手長、手長猿と手長海老》だ。縦に長い構図を生かし、力をあわせて月に手を伸ばす場面をかわいらしく表現している。


世界に羽ばたいた暁斎の鴉『ゴールドマン コレクション これぞ暁斎!世界が認めたその画力』展示風景



第1章に展示されている鴉(からす)の作品は、海外における暁斎の人気に火をつけたシリーズだ。「万国飛」の文字が刻まれた落款(掛軸におされたハンコ)には、世界へ飛んでいく鴉たちへの思いが感じられる。

河鍋暁斎《雀の書画会》明治4-22(1871-89)年 絹本着彩 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection,Lodon


河鍋暁斎 《動物の曲芸》 明治4-22(1871-89)年 紙本着彩 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London Photo:立命館大学アート・リサーチセンター



暁斎の最初の絵は、3才の頃にデッサンした蛙なのだそう。暁斎が蛙好きだったことは、たびたびモチーフにされたことだけでなく、上野にあるお墓の石が蛙の形であることからもうかがえる。他にも、カラス、虎、象、鼠など、数々の動物が生き生きと、時に擬人化され描かれている。溢れるユーモアに目を奪われるが、たしかな観察眼と写生力にもとづいた描写も見どころだ。


浮世絵師としての河鍋暁斎河鍋暁斎《名鏡倭魂 新板》明治7(1874)年 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection,Lodon

暁斎は、狩野派絵師であると同時に、国芳の元で修業した浮世絵師でもある。《名鏡倭魂 新板》はA4用紙を3枚並べた程度の大きさの浮世絵だが、目に焼きつくような極彩色と、肉筆画では表現できないキレのある描写、ダイナミックな構図に圧倒される。名鏡の輝きが悪魔外道を追い払う場面が描かれているが、逃げ惑う者たち中に洋服を着たものの姿もあり、時代が江戸から明治に移ったことを感じさせる。


いかに大真面目にふざけるか河鍋暁斎 《墨合戦》(部分) 明治4-22(1871-89)年 紙本着彩 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London 


河鍋暁斎『暁斎絵日記』明治21(1888)年 紙本墨画 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection,Lodon



この展覧会の監修者である及川茂氏(日本女子大名誉教授)は、「暁斎は同じ絵の注文があってもまったく同じ絵を描くことは二度となく、必ずどこかを変えた。そこに暁斎の画家としての良心を感じる」とコメントした。たとえば暁斎の絵日記には、鬼を退治する伝説の英雄である「鍾馗(しょうき)」の注文がたくさんきて、毎日鍾馗ばかり描いていたと記録がある。似た作品はあっても、同じ鍾馗の姿はない。

河鍋暁斎《鍾馗と鬼》(部分)明治4-22年 紙本淡彩 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection,Lodon


河鍋暁斎《鬼を蹴り上げる鍾馗》明治4-22(1871-89)年 紙本淡彩 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London



中国の神として知られる鍾馗だが、暁斎の鍾馗は鬼と相撲をしたり、鬼を使いっ走りにしていたり、鬼で蹴鞠をしたりする。また、七福神が皆で宴会をしていたり、狩野派の画法による山水図絵の中でのびのび過ごす姿として描かれていたりと、随所に遊び心がちりばめられている。


百鬼繚乱、暁斎の描く異界河鍋暁斎 《百鬼夜行図屏風》 明治4-22(1871-89)年 紙本着彩 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London Photo:立命館大学アート・リサーチセンター


河鍋暁斎 《三味線を弾く洋装の骸骨と踊る妖怪》 明治4-22(1871-89)年 紙本淡彩 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London



第五章では、妖怪や幽霊、骸骨がモチーフの作品を観ることができる。世界に7、8点確認されている《地獄太夫と一休》のうち、特に出来が良いとされるうちの2点が出品されている。どちらの遊女も地獄絵の着物をまとうが、そこには異なる地獄の場面が緻密に描かれている。ぜひじっくり見比べてみてほしい。

(2幅とも) 河鍋暁斎《地獄太夫と一休》 明治4-22(1871-89)年 絹本着彩、金泥 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection, London



この展示室には、とくに目を奪われる恐ろしい《幽霊図》がある。その作品は、2番目の妻のお登勢が亡くなった時、その亡骸を抱きおこしデッサンしたものを下絵に制作されたのだそう。暁斎の写生力の高さにゾッとさせられる。


仏画も戯画も春画も、画才を惜しまない河鍋暁斎(左から)《達磨》明治21(1888)年、《半身達磨》明治18(1885)年、《半身達磨》明治6(1873)年 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection,Lodon

最後の展示室では、55ポンドで落札したというゴールドマン氏の最初の暁斎作品《半身達磨》を観ることができる。創作スタイルも、手がけるテーマも多岐にわたるが、どの作品からも暁斎が意欲的に筆を振るっていた様が想像できる。別室には春画も展示され、才能豊かな暁斎の、画業の全体像を知ることができる展覧会だ。『ゴールドマン コレクション これぞ暁斎!世界が認めたその画力』は、2017年4月16日まで Bunkamura ザ・ミュージアムにて開催。

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イベント情報ゴールドマン コレクション
これぞ暁斎!世界が認めたその画力
開催期間:2017年2月23日(木)~4月16日(日)
※会期中無休
開館時間:10:00-19:00(入館は18:30まで)毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
主催:Bunkamura、フジテレビジョン、東京新聞
後援:ニッポン放送、ブリティッシュ・カウンシル、日仏会館フランス事務所
協力:日本航空
お問合せ:03-5777-8600(ハローダイヤル)他会場
■高知県立美術館
2017年4月22日(土)~6月4日(日)
■美術館「えき」KYOTO
2017年6月10日(土)~7月23日(日)
■石川県立美術館
2017年7月29日(土)~8月27日(日)
※会期は予定

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