ドラマ原作コミック『銀と金』 鉄ク
ズも磨けば‟金”の輝きを放つ!?




書誌情報『銀と金(1)』


福本伸行(著者)
出版社:フクモトプロダクション/highstone,Inc.
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裏社会のフィクサー‟銀王”と鉄クズ「銀(ぎん)と金(きん)」……。あくまで私見だが、このタイトルにはさまざまな意味が込められている。本作の主人公は、銀髪ヘアーの壮年の男・平井銀二こと‟銀”(演:リリー・フランキー)、後ろで束ねた長髪が特徴の若者・森田鉄雄(演:池松壮亮)の2人。ここで両名の名前を見て、「銀はいるけど、金はどこ……?」と思う人もいるだろう。本作における‟金”がいったい何なのか? それをメインテーマにしながら、物語のあらすじとともに本作を紹介していこう。

物語は主人公2人の出会いから始まる。競馬場で有り金をスッてしまい、途方に暮れる森田は見知らぬ男に声をかけられる。そう、この男こそが銀。突然、「飲みに行かないか?」と誘われた森田は、戸惑いながらも銀についていく。そこで日当10万円で仕事をしないかと持ち掛けられた森田は、なんの仕事かもわからないまま銀の仕事を手伝うことに……。



翌日、待ち合わせに軽トラに乗って現れた銀を見て、チャチな仕事だとタカをくくる森田。しかし、荷台に森田が積み込みした段ボール箱の中身は現金10億円――。巨額の不正融資の情報を掴んだ銀は、‟ゆすり”で大金を稼いだのだった。すべての事実を知って驚愕する森田の前に、銀を‟銀王”と呼ぶ男たちが押し寄せる。それぞれの状況に合わせて脅したり励ましたり、たくみに表情を変えながら銀は裏金を高利で貸し付ける。その狡猾な姿は、まるで悪魔のよう。銀の凄さを目の当たりにした森田は、「どうして俺なんかに声を……?」と銀に問う。こういう仕事にはお前みたいな人間が‟うってつけ”だと答える銀。仲間にしてもいいとほのめかす銀の言葉に、森田は目を輝かせるのだが……。

森田はどこにでもいるような‟ごく普通の若者”であり、いわば読者の写し鏡のようなキャラクター。福本作品の登場人物らしく、定職に就かないでギャンブルにのめり込んでいるから、世の中的には‟クズ”かもしれない。この時点での森田は‟クズの鉄雄”でいわば、なんの価値もない‟鉄クズ”なのだ。そんな森田が怪しい光を放つ裏社会の大物‟銀”と出会う。そして銀の持つ力……、圧倒的なまでの‟金”に魅せられていく。物語の序盤は‟銀と金(かね)”の話であり、鉄クズ・森田の銀との邂逅が描かれるのだ。




森田の武器は、‟人間くささ”と‟強運”仲間入りの話に浮かれる森田だったが、銀はひと筋縄でいくような男ではない。すぐさま森田に対して、無理難題にも等しい究極のお題を出してくる。「ある男を殺してもらいたい」――。常人ならその場で腰を抜かしてしまいそうな突拍子もないオファーを受けるも、目の前に多額の現金を積まれて森田は頭を抱える。人間としてのモラルを考えれば答えはNOだが、そんなことは銀も百も承知のはず。悩み苦しみ、自分なりの答えを出した森田は、なんとか銀の仲間に迎え入れられる。





その後、警視庁OBの安田巌、元新聞記者の巽有三、元検事の船田正志といった銀のパートナーを紹介された森田は、銀たちとともに腐敗した金のニオイが立ち込める株の仕手(相場操縦の一種)に挑むことに。当初は役立たずと思われていた森田だったが、そこで持ち前の‟強運”を発揮して銀たちの危機を救うスーパープレーを見せて……。

平凡な森田に対して、厳しい対応をしながらもたしかな期待を寄せる銀。なぜなら、森田の‟人間くさい”部分を高く評価しているからだ。「蛇の道は蛇」というが、裏社会に染まった者同士の闘いでは双方どちらも同じような考えを抱いてしまうもの。森田のように‟染まりきらない”人間の考えや行動は、時に銀たちにとって‟奇跡”ともいえる想定外の利益をもたらすのだ。森田が持つ‟強運”の力は、その後もさまざまな場面で銀を救うことになる。知識も技術も、ましてや経験さえもない森田だが、彼ならではの武器で政財界の大物相手でも金を呼び込めるポテンシャルの片鱗を見せ始めるのだ。




銀よりも輝け! 森田の成長物語株の仕手戦を経て、評価を上げたように見えた森田だったが、銀からさらにハードルの高いお題を課せられる。その内容とは、「独力で億単位の金を稼いでみろ」というもの。前述の通り、何も持たない男である森田にとっては成すすべのない話に思えるが、森田はただでは引き下がらない。金のニオイのする話を求めて、高級ホテルの1階にある喫茶店に通い詰め、絵画商を巻き込んだ金儲けの話を思いつく。前回の仕手戦で得た人脈をフル活用し、時価6億円の高級絵画を一時的に手にした森田。贋作をひと目で見抜いてしまうプロの絵画商を相手に贋作を買わせる鑑識眼勝負を挑み、あの手この手を駆使して見事大金を手に入れて……。





独力で裏の仕事を完遂した森田だったが、初めて1人で手にした勝利の瞬間は表社会との別れの瞬間でもあった。この時、森田は『俺は「金」と呼ばれたい』という夢を口にする。銀を超える金(きん)に……と。こののち、森田は裏社会の男としての力を着実につけていく。時には、もう後戻りはできないと自分に言い聞かせながら。次第に銀も森田の持つ強運に頼るようになり、いつしか相棒として認められるように。銀とタッグを組んだ森田は、物語後半では日本の政治の中枢である永田町にまで切り込んでいく。銀の抱く‟裏の力で日本という国の中枢に入る”という野望のために……。



本作は鉄クズから金(きん)になろうとする森田の成長物語であり、銀という男の持つ悪魔的な力を知る物語だ。その中心にあるのは、もちろん金(かね)。裏の裏のそのまた裏を知り、金に魅せられた人間の醜悪な姿を骨の髄まで体感したとき、森田が出す究極の答えとは……? ぜひ、最後まで読んで、確認してほしい。






福本作品ならではの麻雀バトルも勃発!?最後に、ギャンブルマンガのパイオニアである福本先生の作品ならではの見どころを紹介したい。物語の中盤、銀と森田がタッグを組んで行う『誠京麻雀』という特殊ルールの麻雀バトルが勃発する(単行本5巻から)。その時の2人の姿は、まるで福本先生の代表作の主人公アカギ(『アカギ』)と天(『天~天和通りの快男児~』)のよう(どちらがどちらに似ているかは言わずもがな)。対戦相手の蔵前仁も『アカギ』の敵キャラ・鷲巣巌を彷彿とさせる見た目で、特殊ルールも‟鷲巣麻雀”(血液を賭ける麻雀)と同様に狂気を帯びているからおもしろい。福本ファンにはたまらないシーンが盛りだくさんなのも、本作の大きな醍醐味だ。今回、少し触れた福本先生の代表作を未見の方は、そちらも合わせて楽しんでみてはいかが?




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福本伸行(著者)
出版社:フクモトプロダクション/highstone,Inc.
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