「枠で語られるラインを超えて」 Bo
Ningenが明かすこれまでの歩みとこ
れからの夢



なんだかドロッとしたものと、それに反したものがあるというイメージですかね?

――あ、まさにそうですね。

そう聴こえていたなら凄く嬉しいです。

――例えばサイケやノイズ、オルタナティブやインディーなどからの影響はありつつも、特定の何かに傾倒するわけではなく、Bo Ningenだからこその折衷感覚において、振り切った音楽というか。近年の日本だと、もちろんアーティストによって様々な背景はあるにせよ、どこかしら一色化された枠内に収まっていくイメージがあるんです。とは言っても、個での独自性を持ったサウンドは昔から多く存在しますし、音楽を発信するうえで国やジャンルというボーダー感覚を感じさせないアーティストも出てきています。そういう意味で興味深い時期だとも思うのですが。

日本は、ジャンルやシーンがはっきり分かれている印象が強いです。いわゆる”ロキノン系”と言われるようなギターロックとか、インディーとかサイケとか。東京と大阪、街によっても異なるシーンがありますし。サイケデリックとギターロックって全然違うものという捉え方だし、アニメやアイドルもそうですけど、ガラパゴス化してますよね。全てがそうではないと思いますが、それぞれの色が混ざることがあまり無いような気がします。でもそれを否定的に見ているわけではなく、僕はそういう感じって、好きなんです。

――その良し悪しはよく議論になります。

だと思います。まあ、僕らの場合は、そもそも日本が活動拠点じゃないし、周囲のバンドがサイケばかりでもないですし、ひとつのシーンの属しているわけでもないんで。

――アイドルやアニメに象徴されるような、日本独自のカルチャーを軸に世界で勝負しているバンドではないですからね。

イギリスで出会ってそのままイギリスで活動していますから。僕が移住したのは2004~5年辺りで、Bo Ningenを結成した2007年の時点では、日本のアングラとかサイケが共有できる部分だったので、それが初期衝動にはなっているんです。そこに、現地で受けるインスピレーションもあって形ができていきました。イギリスの音楽に対しては、いい刺激になったことも、反面教師的なところもあるんですけど。

――良いところと悪いところ、具体的にはどういうことなんですか?

イギリスに行った当初は、正直がっかりしたんです。日本はサイケでもノイズでもアイドルでも、メジャーどころのポップスも含めて、向かっている先は一緒……というと語弊がありますが、それぞれがエクストリームで、そこの幅があるような気がしていました。でも、それをオンタイムで活動していたイギリスのバンドからは感じなかったんです。だから、日本の方がいいのかなって思っていたところで、イギリスのクラブミュージックに出会いまして。ちょうどダブステップが流行りだした頃で、そのあとグライムに。団地の不良的な彼らが、そこの地域性や貧困をレペゼンしているように感じたんです。その反面、パンクとかロックとかインディーって言ってる人たちからは、なんとなくファッションのようなイメージを受けちゃいまして。

Bo Ningen 撮影=風間大洋



――なるほど。では、今出た日本のサイケ、インディーロックとグライム、ダブステップというワードについて、それぞれもう少し質問させていただきたいんですが、まずメンバーのみなさんを繋いだ日本のサイケというのは、どのあたりを指しているんでしょうか?

メンバーそれぞれ日本での出身地はバラバラなんで、聴いてきたものも微妙に違うんですけど……みんなが共通で好きだったアーティストとなると、僕のこの髪型でも分かるように灰野敬二さんとか、Merzbowとか。あとはヨーロッパで『ジャップロック・サンプラー』っていう本から火がついて、裸のラリーズが注目されていました。Acid Mothers Templeもそうなんですけど、日本人から見ると、欧米の音楽に触発された”現地さながらの”音っていうイメージだと思うんです。でも、海外の人から見るとそうじゃないんですよ。みんな全く新しい音楽として聴いています。ちょっと過剰にやっちゃう感じというか、行き過ぎて解釈を間違っているということではなくて、エクストリームということ。方法論やインフルエンスは、同じような過去の音楽からきていても、表現が違うからウケてるんです。

――それは確かに現地にいないと分からない感覚ですよね。ではイギリスのシーンはどうだったんでしょう?渡英からバンド結成当時となると、大雑把にいえばインディーはリバティーンズ以降、グライムはストリートからより大きなフィールドに、ダブステップも進化・細分化していく時期ですよね? それぞれの関係性などはどう見えていたんですか?

それぞれ分かれていたんですが、日本のガラパゴスとはまた違いました。メジャー、アングラ、ストリート、そこに架け橋があるんです。例えば日本だと、地下で活動をしていてメジャーに行くときって、エレベーターに乗って階を上がっていく感じがしますけど、イギリスは階段で繋がっているというか、いきなり階を飛ばすというより、やっていたことをそのままメジャーに提出して活動できるんで、そういう意味ではイギリスは健康的だと思います。

――そこで、それぞれの特色をTaigenさんはどう見ていたんですか?

グライムについては、ザ・バグ名義での活動や、キング・ミダス・サウンドとかやっている、ケヴィン・マーティンという人と仲が良くて、彼からもよく話を聞きます。グライムは、ダブステップがつまらなくなってきたと考え出すプロデューサーとか関係者が出てきて、その中で再発見されたような部分もあるんですが、もともとはバスの中で黒人の悪ガキが携帯電話からクソみたいな音質で流しているような、ストリートのイメージが強いんです。当時グライムのパーティによく遊びに行っていた友達もいたんですけど、本当に危なかったって。フライヤーにグライムという告知が出ているだけで警察が来るとか。2016年はスケプタがマーキュリー賞を獲って、またメジャーに戻ってきているような流れはあるんですが、ケヴィンが過去に出会ったMCは、みんな逮捕歴があるとか、なんかの抗争で刺されてレコーディングができないとか。僕はそこに入っていったわけではなかったのですが、そういうところからの叫びはリアルですよね。

――ダブステップはどうですか?

今は、いろんな音楽を飲み込んだうえで、若い人たちがミュータントな新しい音楽を作っているイメージですけど、2000年代初期の骨を残したパーティもまだ続いています。ファブリックっていうロンドンでは最も有名なクラブがあって、そこでは流行り廃りもありつつ、金曜日の夜は必ずドラムンベースみたいな。そういう感じに近い、お家芸ですね。ジャングル、ドラムンベースのあとにある感じで、本家のダブステップはシブいんです。グライムはガラージとか2ステップからきていて、そこにラップとかが入るんで、ちょっとこの流れとは違いますね。もっとストリート寄りというか。僕にとっては、それが1970年代のパンクのように映ったというか、凄く魅力的だったんです。

――そこが、サウンドスタイルとしてパンクを受け継いでいたインディーロックではなかったんですね。

ロンドンは移民の街というか、黒人やヨーロッパ諸国の人、いろんな人で溢れているんです。そういうメトロポリタンなところから生まれたグライムのようなカルチャーの方が、リアルでパンクなものだと感じました。だから当時のインディーロック・バンドがやっていることは、響いてこなかったんです。

Bo Ningen 撮影=風間大洋



――ここまでの話を踏まえたうえで、初期のリリース作、2009年のEP『Koroshitai Kimochi』や、2010年のアルバム『Bo Ningen』は、日本のアンダーグラウンドやサイケから受けたテイストの方が、前に出ていたように思うんです。カオティックなサウンドの中に、ダンスミュージック的なエッセンスや明快なポップセンスを見つけるような。そこから、2014年の最新アルバム『III』では、あらゆる要素がフラットに並んで、より踊れる印象でした。そこで思ったのが、Taigenさんのベースって”ロック”という感じではないですよね。

そうですね。実はBo Ningenを始めたときにはベースを弾いてなかったんです。それまでは、ベーシストとしていろんなバンドでやっていたんですけど、初めてボーカルを執ることになったんで、そこに専念して、これまでにはやってないことをやってみようって。でもせっかくベースも弾けるんだから、やっぱり使おうってことになったんです。そこには、いろんなロックからのインフルエンスもあるんですけど、先ほども言ったように、結成当時のイギリスのロック、インディーみたいなものにがっかりしたことも重なって、僕自身のベーシストとしての可能性に行き詰まっていまして。その時に出会ったのがダブステップなどの低音音楽で、クラブに遊びに行って身体で感じたこと、僕はそれを”フィジカル”って呼ぶんですけど、「こういうことなんだ!」って180度変われました。それが『III』の前、2012年にリリースした『Line The Wall』を作っていた頃から顕著に出てきたように思います。両方ともエンジニアは同じで、プライマル・スクリームやエイジアン・ダブ・ファウンデーションとも一緒に仕事をしていた人なんで、クラブサウンドにも通じていまして。『Line The Wall』も『III』も生で録るという方法は同じなんですけど、『III』はプロダクションにも時間が取れたんで、さらに違うレイヤー、次のステップに持っていくという意識を、僕らもエンジニアも持てていたんです。コンポーズの段階でもそこを踏まえていた部分はありましたし、おっしゃったような違いは出せたと思います。

――そして世に出た最新曲「Kizetsu no Uta」もまた新しい局面を感じさせますが、これはいつ頃の曲なんですか?

あれはコンペみたいな感じで、発注仕事なんですね。日本からのオファーで日本でレコーディングしました。ネタ自体は、確か2年くらい前からあったと思います。



――Bo Ningen流ネオ・ロカビリーと言いますか、音の色彩感はまさにBo Ningenですし、ビートの跳ね方も完全には寄せ切らずにらしさを保ったまま、違和感や物足りなさを感じさせることなく、しっかり引っ張っていってくれることが印象的でした。

マテリアルはクラシックなものだけど、実験的な感じにしたかったんです。というのも、ロックンロールの基礎となった人たちも大好きなんですけど、僕らはひとつのジャンルに突っ込むタイプではないので、いかに自分たちらしさを加えていくかということが、大切になってきます。特定のところには行き切らないで、でも中途半端なものにならないようにしようと葛藤するんです。

――そこのバランス感覚とその時々のモードが、Bo Ningenの音楽を進化させていくのだと思うんですが、ライブにおいいてはどうですか? 3月7日には大阪・梅田Shangri-laで、3月9日には東京・代官山UNITでワンマンを控えています。

2016年はサポートアクトが多かったんです。プライマル・スクリームや サヴェージズ、ザ・フォールといったバンドとツアーをしました。サポートだと時間も限られてるし、新曲を試すにしても少しずつになってしまいますけど、今回は新曲も試せますし、過去の曲もアレンジを大きく変えはしないにせよ、メンバーが向かっている今の方向性を入れている部分もあります。そこの変化に気付く人もいるかもしれないし、どんな反応が得られるかは僕らもまだ分からないんで、楽しみですね。

Bo Ningen 撮影=風間大洋



――サポートしたバンドから受けた影響はありますか?

プライマル・スクリームは、キャリアも長いですしアルバムも作品ごとに挑戦していますよね。いきなりクラブっぽかったりサイケデリックだったり、ストレートなロックンロールもありますし。これまでの活動で得た地位や、評価された音のキャラクターに満足しないじゃないですか。人間的にも凄くいい人たちで、ライブもですけど、それ以上に得るものはあったと思います。

――行動を共にすると、より見えてくることがあったわけですね。

今は4枚目のアルバムを作っているんですけど、保守的なところと真逆の挑戦、そこのバランスの部分ですよね。Bo Ningenらしさは出しつつ、今までやっていなかったこともしっかりと取り入れる。それが小難しいエデュケーションみたいな感じではなく、エンライトメントできるように、ちゃんと示していけたらいいなと思います。そういう部分で、彼らの存在は本当に大きかったです。

――そのうえで、これから先、Bo Ningenはどうなっていくのでしょうか?

シーンとか国とかジャンルとか、そういう壁を越えたいということはずっと言ってるんです。この5月で結成して10年。歩みは遅いんですけど一段一段、エレベーターのようにいきなり落ちるわけじゃなく、階段も底が抜けるわけじゃなく、着実にやってこれたと思います。

――独自の立ち位置は確立していると感じます。

”バンドにウケるバンド”みたいなところはありますね。プライマル・スクリーム、サヴェージズ、ザ・フォールもそうですし、ホラーズやカルトやTVオン・ザ・レディオ、そういったバンドからオファーをもらってサポートできることは、まさにミュージシャン冥利に尽きる。ただ、そこでも自分たちが知らない人たちにアピールはできるんですけど、そうじゃなくて、ヘッドラインとして頑張れなきゃ意味がないと思うんです。”全方位”ってよく言うんですけど、クラブだインディーだメジャーだ、そこを全部獲りたいっていうのもありつつ、いわゆる”音楽好き”とか”早耳さん”とかがいて、そうやって枠で語られるラインも超えて、一般層にも届けたいんです。

――「Bo Ningenってなに? なんかいいぞ」みたいに感じてもらえる層に。

そうですね。それがうまくいったのが、身近なところでサヴェージズだと思います。彼女たちは、2ndアルバム(2016年『Adore Life』)の方が、昔のロックのインスピレーションは多かったと思うんですけど、スタイルは崩さずにファン層が広がっていきましたよね。そこは僕らに足りないところであり、ということは、伸びしろだとも思うんです。今はレフトフィールドとメイン、どこにでも行けるいい位置で、有り難いことになんとか食べていけてます。じゃあ、それを維持することがが果たして挑戦なのか? 違うと思うんですよ。やっぱりバンドとして挑戦は続けていきたいと思います。

取材・文=TAISHI IWAMI 撮影=風間大洋

Bo Ningen 撮影=風間大洋



ライブ情報Bo Ningen 日本ツアー3月7日(火)大阪 / 梅田Shangri-la
OPEN 18:30 / START 19:30
前売¥3,000 All Standing (ドリンク代500円別)
3月9日(木)東京 / 代官山UNIT
OPEN 18:30 / START 19:30
前売¥3,000 All Standing (ドリンク代500円別)

チケット一般発売中 

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