清春、急遽アコースティック編成 か
えって際立った新譜の世界観
ロックミュージシャンの清春が1月26日、東京・恵比寿LIQUIDROOMで、全国ツアー『天使の詩 ’17 夜、カルメンの詩集「CARMEN'S CHARADE IN DESPAIR」』の初日公演をおこなった。この日は清春の体調不良もあってアコースティック形式に急きょ変更。ツアー初日ともあって心配されたが、蓋を開けてみれば19曲・約3時間の内容。更に新譜(2月発売予定)の世界観をより際立たせる構成で、かえって“プレミアム”な一夜となった。ツアーは名古屋、仙台、大阪と巡り、2月26日・新宿でファイナルを迎える。
前回のツアーで片鱗を覗かせた新作アルバムの世界観をより浮かび上がらせたものとなった。新譜は、フラメンコなどスパニッシュ音楽調の曲が並ぶ。その世界観はフランスのオペラ「カルメン」を連想させるもので、本ツアーではその物語が紡がれていく。
この日は、清春の体調不良もあって急きょ、バンド編成からアコースティック編成に変更。セットリストの一部も変更となったが、12弦アコースティックギター、6弦アコースティックギター、エレキギター、パーカッションで送られた“スパニッシュ”サウンドは、新譜の世界観をより鮮明にさせ、ゆったりともたせたテンポのなかで自由に行き交う、清春の伸びや且つ気迫迫る歌声も、その物語の情景を美しく映し出した。
オープニングを飾ったのは前回ツアーと同様、3つの新曲「赤の永遠」「夜を、想う」「アモーレ」。前回は、アコースティックギターを主役に、歪んだエレキギターやEDMなど多彩なバンドサウンドが彩ったが、今回は実にシンプルで音色も空気感も変わっていた。音の柔らかみや深み、清春の歌声はより際立ち、静かに燃えるようだった。
挨拶を終えてからの「夢心地メロディー」は、エレキギターのアルペジオが爽やかに導入部に触れていく。やがて、アコギのカッティングが入り込み、一気に世界観に引き込む。愛しい女性への想いを歌ったこの曲はこの日、オペラ「カルメン」のごとく、カルメンに想いを寄せるドン・ホセの心を映し出すように淡い色のような音色が場内を差した。それに続く「五月雨」もその物語を紡いだ。
情熱と気品の間を行き交うサウンドのなかで、清春は時に激しく、時に優しく、そして艶っぽく歌い上げる。そこにはブルースシンガーとしての顔をのぞかせ、体調不良がかえって気迫が呼び込み、より説得力のある言葉が次々と送られた。そして、それは表情や手足の動きにも反映されていた。マイクスタンドのてっぺんに置いた手は時に力強く震え、甘く彩るメロディのなかで遠くを見つめる表情は実に妖艶だった。
そして、物語の起伏の中で「my love」や「妖艶」「LOVE ME DO」など色気のある曲も届けた。
一方のMCでは声のトーンは低いもののリップサービス“清春節”は健在だった。コーラを一口飲み、煙草をふかす。ユーモアたっぷりに語り、観客をほほ笑ませた。そうした和やかなムードのなかにも音楽への本音を覗かせる。アンコール後のMCでは、このアコースティックライブへの思いも吐露した。
「アコギやプラグレスは脇役っぽいでしょ。フルバンド編成は普通と思われている。どうしてもそういうのがあるんですよね。“なんだアコースティックか”って。でもこっちの方が自信があるんですよ。本当に曲が好きじゃないと理解しづらい。そこを分からせていきたい。300回もやっていて、どんどん良くなっている。これを自信作にしたい。腰が痛くなったという理由ではなくて、これが良いと思えた僕がいる。自分も、好きなアーティストは両方をみたいけど、本当に好きだったら見たいのはアコースティック。歌がちゃんと聴こえるからいいなって。本当のものをみせたらいいと思う」
この日は、新曲「貴方になって」も披露された。体調不良が懸念されたが、いざ始まれば歌声にはそれを感じさせず。アンコールを含め全19曲を、約3時間にわたって届けた。清春が誘うアコースティックライブはまさに情景が見えるようで、時や場所を超えて物語の世界観へ惹き込んだ。黒に限りなく近い深い赤色のロングハットにシャツ、ガウンを身にまとった清春。曲を終えるごとに俯く佇まいは、全てを出し切ったあとの「美しさ」さえ覚えさせた。
1月28日の名古屋公演以降はバンド編成に戻り、また違った世界観をみせていく。(取材・木村陽仁)
ツアー情報
清春 天使の詩 '17 「夜、カルメンの詩集」 『CARMEN'S CHARADE IN DESPAIR』 1/15 (日) duo MUSIC EXCHANGE ※FC ONLY |
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