川平慈英と個性派俳優陣のこの冬一番
温かいミュージカル『ビッグ・フィッ
シュ』稽古場レポート



ティム・バートンの大ヒットファンタジー映画を原作に、2013年にはブロードウェイでミュージカル化。今回、ついに日本版のミュージカル『ビッグ・フィッシュ』が実現する。演出は、『ロンドン版 ショーシャンクの空に』『アダムス・ファミリー』『No.9‐不滅の旋律‐』『マハゴニー市の興亡』など、たしかな演出力で数々の話題作を生み出した白井晃が手掛ける。1月下旬、都内のスタジオに出演者たちが一同に介した挨拶と公開稽古をレポートする。

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』稽古場



はじめに、演出の白井が挨拶をした。

「ティム・バートン監督の映画版が有名な作品ですが、本作はブロードウェイ・ミュージカル版として作られた『ビッグ・フィッシュ』です。映画版もミュージカル版も同じシナリオライターにより作られましたが、映画とはまた違った雰囲気で、音楽や父親と息子の物語を強調した作品を楽しんでいただけます」と作品を紹介する。

白井晃

さらに出演者に向け「川平慈英さんをはじめ、ご覧のように個性的なメンバーに参加いただきました。あの、もしかしたら……。ちょっとブロードウェイよりいい作品になるんじゃないか?という良い予感がしております。それくらい充実した稽古で楽しく作らせていただいています」と語り、報道陣だけでなくキャストやスタッフからも歓声と拍手が贈られた。

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』稽古場

主演の川平慈英も「楽しいです。本当に楽しいミュージカルに参加させていただいています。日々その喜びを感じながら稽古をさせていただいています」と真摯な面持ちで意気込みを語ったが、「3人の素晴らしい女優さんとキスさせていただいています。これはデカいです。白井さん、ありがとうございます」と頭をさげ、皆の笑いを誘う。

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』稽古場



「チームと一緒にいいエネルギーになっています。最後のシーンでは稽古でも涙が出てしまうくらい、愛に満ち溢れた素晴らしい温かいミュージカルです。2月の東京といえば寒い時期ですので、『ビッグ・フィッシュ』でほっこり温まって、幸せを分かちあっていただいて“いいんです”!日生劇場で、幸せになっていただいていいんです!」と、川平おなじみのフレーズで締めくくった。

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』稽古場



冒頭の写真で、りょうた(鈴木福とWキャスト)が小さく親指を立てているのは、この写真の直後だったため。取材陣のリクエストに一番最後まで応えてくれていたと思うと、微笑ましい。

『ビッグ・フィッシュ』公開稽古公開されたは、結婚式を控えたウィル(浦井健治)と、父・エドワード(川平慈英)の対話からはじまる。「生まれたころからちっちゃな中年男」とエドワードにひやかされる現実主義のウィルは、父親の荒唐無稽な作り話を素直に楽しむことができない。その話術で周りの注目を集めるエドワードに苛立ちさえ感じている。場面は、子供のころのウィル(写真は鈴木福/Wキャスト)と、壮大なホラ話を聞かせるエドワードのシーンへ。

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』稽古場

人魚と出会った話、困っている漁師と出会った話を『♪ヒーローになれ』で歌いあげる。このナンバーを聴けば、今、始まる物語に、わくわくせずにいられないだろう。のびやかで深みのある川平の歌声は、失礼ながら「いいんです!」といっていた川平とは別の圧倒的な存在感を放つ。ピアノ伴奏とタップダンスのシーンは、観ている方も思わず体でリズムを刻みたくなるだろう。

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』稽古場

子どもの頃のエドワードが、魔女に会い“自分の最期”を知るという重要な場面だ。幼馴染のドン・プライス役の藤井隆のコミカルな演技が目をひく。ジャジーなナンバー『♪おまえの欲しいもの』で歌い踊る魔女役・JKimは、前半のスパイスとして印象に残る。

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』稽古場

物語は現代に戻り、結婚披露パーティーの場面へ。ウィルの妻・ジョセフィーン(赤根那奈)の妊娠を口止めされていたにもかかわらず、エドワードは皆の集まった場で暴露。悪気はなかったものの親子の間に決定的な溝ができてしまう。

それから時はすぎ、ある日ウィルの元に、エドワードが重い病気だという知らせが入る。

めくるめくファンタジーの世界余命を意識する重い病の身となっても、エドワードは壮大な物語を語り続け、観る者をさらに広いファンタジーの世界へ連れ出してくれる。

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』稽古場

『♪アシュトンで一番の青年』で歌われるアラバマで過ごした高校時代や、巨人・カールとの出会い。

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』稽古場

サーカス団では、霧矢大夢が演じる、サンドラとの出会いが、歌とダンスでたっぷりに描かれる。

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』稽古場

たくさんのキャストが登場するシーンでは「チームが一緒にいいエネルギーになっている」という冒頭の川平の言葉が思い出された。エドワードの歌声がまず世界をつくり、アンサンブルのキャストたちが世界の住人として命を吹き込む。技術だけでは生み出せない一体感に心をつかまれる。

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』稽古場

魅力溢れる女性キャスト、個性溢れる男性キャスト霧矢はサンドラの若き日と現在を演じ分け、学生時代のサーカス団のシーンでは、『♪アラバマの子羊』を歌って踊ってみせる。今のサンドラは、柔らかみある温かさで親子を繋ぎ、観る者の心のよりどころにもなる。赤根は、ジョセフィーンと親子のちょうど良い距離感を、力むことなく演じている。鈴木蘭々は、ハイスクールの人気キラキラ女子にありがちな、オシの強いジェニー・ヒルを演じるが、愛らしい演技と安定した歌声ゆえに好感度が高い。

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』稽古場

男性キャストもまた、映画版を凌ぐ個性派がそろう。ドン・プライス演じる藤井は、憎まれ役だが登場のたびに一矢報いるような笑いを残す。ROLLY演じるサーカス団長のエーモスを知ってしまうと、映画版の団長が物足りなくなるだろう。深水元基が演じる巨人カールも、映画版よりもウィットの効いたキャラクターに生まれ変わっている。その体の大きさは劇場でのお楽しみだが、2枚の写真の出演者の目線から想像してほしい。

ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』稽古場

このような世界だからこそ、浦井健治と鈴木福(りょうたとWキャスト)によるウィルの真っ当さが、ストーリーを追う上で重要な役割を担っている。子どもの頃から現実主義のウィルを、鈴木は賢さと純真さのバランスで嫌味なく演じる。浦井は、父親への複雑な思いを込め歌うパートも多く難しい役どころだ。サンドラやジョセフィーンの愛に守られながら、心配し、気を揉み、葛藤しながら、《第2幕》でどんな展開をみせるのか。

衣装も舞台美術もそろっていない無機質なスタジオに、カラフルで温かな世界を垣間見た公開稽古だった。演出の白井は、「ブロードウェイよりいい作品に」と語っていたが、ティム・バートン監督さえ嫉妬する名作になるのでは?と期待が膨らむ。すべての演出が出揃う本番が待ち遠しい。ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』は、2017年2月7日(火)から28日(火)まで日生劇場で上演。

取材・文・写真:塚田史香

公演情報ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』
■日程:2017年2月7日(火)~2月28日(火)
■会場:日生劇場

■出演:
川平慈英/浦井健治/霧矢大夢/赤根那奈
藤井隆/JKim/深水元基/鈴木福(Wキャスト)/りょうた(Wキャスト)/
鈴木蘭々/ROLLY ほか
■脚本=ジョン・オーガスト
■音楽・詞=アンドリュー・リッパ
■演出=白井晃
■公式サイト:http://www.tohostage.com/bigfish/

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