デヴィッド・ボウイを少し知っている
人のための代表曲ガイド~大回顧展『
デヴィッド・ボウイ・イズ』の見どこ

選曲のエキスパート“ミュージックソムリエ”があなたに贈る、日常のワンシーンでふと聴きたくなるあんな曲やこんな曲――。
生誕70年、没後1年、大回顧展の開催と、近頃名前をよく目にするデヴィッド・ボウイ。何故、亡くなった後も世界中でリスペクトされ続けているのでしょう?彼の歌は何が特別だったのでしょう?
今回は、彼の代表曲に込められたメッセージと、関連する大回顧展の見どころ[ここに注目!]をご紹介します。

■大回顧展「デヴィッド・ボウイ・イズ」
公式ホームページ http://davidbowieis.jp/
チケットぴあ http://t.pia.jp/feature/event/davidbowieis/

1.「Space Oddity」/David Bowie

●宇宙の英雄が抱えてしまったダークサイド(究極の疎外感)
暗闇に神々しく光る青い地球、宇宙飛行に成功した英雄の生還を待ち構える地球の人々、しかし自分は宇宙船内を漂うだけの無力な存在です。宇宙飛行士トム少佐は、行き所のない疎外感に、自ら交信を断ち、宇宙を彷徨い続けることを選んでしまいます。全英チャート1位の大ヒットとなったこの曲は、未来への希望に溢れる宇宙飛行のダークサイドを歌うことによって、宇宙ブームが去った後も懐メロになりませんでした。
なお2013年には、本物の宇宙飛行士が国際宇宙ステーションでカバーしています。(彼は無事生還しました。)
1969年作『Space Oddity』収録。

[大回顧展のここに注目!]
発表から約10年後、ボウイは「Ashes to Ashes」で、トム少佐はジャンキーでこの物語は妄想だった、と切り捨てます。驚くことに、「Space Oddity」のアルバム裏ジャケットには、「Ashes to Ashes」のPVに登場する老婆とピエロが既に描かれていました。大回顧展では、ボウイによるその下絵を見ることができます。

2.「Changes」/David Bowie

●「新しい自分」宣言
1971年作『Hunky Dory』収録。今までの自分、さらに「Space Oddity」以来のファンとも決別して前へ進むぞ、という「新しい自分」宣言のような一曲です。「他人と違っていいんだ、あなた自身の道を歩み続けなさい。」と、聴き手の背中を押してくれる力強い曲です。
この曲を収める「Hunky Dory」は、曲が粒ぞろいの上、ボウイ流のアートとポップが最初に融合した、いわゆるビートルズの「Rubber Soul」のような位置付けのアルバムです。日本では過小評価されているように思いますので、是非一度聴いていただきたい作品です。

[大回顧展のここに注目!]
展示の全てが、ボウイの「Changes(決別と新たな挑戦)」の歴史です。この大回顧展そのものが、次のステージへ進むための過去との決別のようにも感じられます。事実、2013年大回顧展の開始と申し合わせたかのように、ボウイは10年振りのアルバム「The Next Day」で劇的に活動を再開しました。

3.「Life on Mars?」/David Bowie

●身近でリアルな疎外感への共感
家族や友達と心が通わず、鬱々とした日々を過ごす少女。行きどころのない彼女は、いつしかこんな夢想を始めます――「火星なら、私のことを分かってくれる生き物がいるのかしら?」。誰もが思い当たる思春期のリアルな疎外感が、美しいメロディで歌われ聴き手の心に刺さります。“火星の生き物”というシュールな展開が壮大な演奏と相まって強烈な印象を与え、この曲を一度聴いたら忘れられないものにしています。
1971年作『Hunky Dory』収録。

[大回顧展のここに注目!]
地球上の生き物とは思えないほど美しいボウイのクローズアップが鮮烈なMV、MVで着たアイス・ブルーのスーツ、そして手書きの歌詞。この曲のために設けられたコーナーは、大回顧展のハイライトの一つと言えるでしょう。

4.「Rock'n'roll Suicide」/David Bo
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●あなたは一人じゃない!手を差し出して!!
前曲の少女の願いが通じて、子供達を救いにやって来た異星人のロックンローラー「ジギー・スターダスト」。ジギーに扮したボウイは叫びます。「あなたは自分の素晴らしさが分かっていない。脳をナイフで切り裂かれるような痛みを感じているなら、僕はそれを一緒に引き受ける覚悟だ。だからあなたは一人じゃない。手を差し出して!あなたは素晴らしい!!」
ヒリヒリ沁みるメッセージ、そして劇的なサウンドとヴィジュアルで若者の心を鷲掴みにして、ジギー(=ボウイ)は一気にスターダムを駆け上りました。
1972年作『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』収録。

[大回顧展のここに注目!]
ボウイは、人気の絶頂期にバンドを解散してジギーを葬り、次なるステージへと向かいます。巨大な全方位スクリーンにラスト・ライブを締めくくるこの曲が映し出され、ガラスの棺にはジギーの遺体が収められています。

5.「“Heroes”」/David Bowie

●世界的なアンセムの本当の意味(なぜ“”が付いていたのか?)
この曲ほど、発表当時と現在で世間的な評価が一変したものはないでしょう。
東西ベルリンを分断する壁、その側で人目を忍ぶ不倫カップル、という二重の疎外感。銃を持った兵士が越境者を監視しているという危険な状況が、不倫の後ろめたさに勝って“英雄”的な気持ちにさせる(疎外要因がもう一つの疎外要因を相殺する)。ボウイはそのような皮肉を込めてタイトルに“”を付けました。そして、簡潔明瞭なパンク・ロック全盛の発表時には、全英チャート24位と全く注目されなかったのです。
ところが、この曲が一つのきっかけとなって1989年にベルリンの壁が崩壊した(疎外要因が無くなった)時から、英雄的な愛を讃える普遍的なアンセムとして世界中で支持されるようになったのです。
1977年作 『“Heroes”』収録。

[大回顧展のここに注目!]
本作を含む「ベルリン3部作」をボウイ流アートの頂点と評価する人も多く、ベルリン時代は50年にわたるボウイの活動期間の中でもとりわけ実り多いものでした。さらに、彼には珍しく感傷的な振り返りの楽曲(「Where Are We Now?」)を発表するほど、思い入れの深い日々となりました。
大回顧展の「ブラック・アンド・ホワイトの時代」コーナーには、ボウイが借りていたアパートの鍵と、東西の境界線がクッキリ入った携帯用路線図が展示されています。普通の市民生活を送る中でアートに立ち向かう力を取り戻していく、人間ボウイの息吹きが感じられます。小さな展示物なので、お見逃しなく。
もちろん、ベルリンの壁崩壊に力を貸したとされる1987年ライブのドキュメンタリーや、9.11同時多発テロ対応で活躍したニューヨ-クの警官と消防士を讃える感動的なライブ映像も観ることができます。
デヴィッド・ボウイは、わたしたち誰もが抱える疎外感と誠実に向き合い、リスクを恐れず「人と違う自分」を貫く姿を自ら示しました。その生涯をかけた果敢な挑戦が、人々に勇気を与え、世代を超えて世界中からリスペクトされ続けているのだと思います。
今年は「ベルリン3部作」の開始から40年にあたり、さらに「★(Blackstar)」と並ぶもう一つの遺作となったミュージカル「Lazarus」(2017/1/22までロンドンで公演中)の映像作品化も企画される(2017/1/15に撮影)など、まだまだデヴィッド・ボウイをめぐる動きは止まりそうにありません。
本稿が少しでも、皆さんの「Changes」のきっかけになるよう願ってやみません。
(選曲・文/藤原学)

■大回顧展「デヴィッド・ボウイ・イズ」
公式ホームページ http://davidbowieis.jp/
チケットぴあ http://t.pia.jp/feature/event/davidbowieis/

著者:NPO法人ミュージックソムリエ協会

OKMusic編集部

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