福岡のシチュエーション・コメディ劇
団「万能グローブ ガラパゴスダイナ
モス」が1月7日より下北沢で新作上演



2005年に旗揚げ、公演を重ねる毎に評判が広まり、いまや福岡演劇界を代表する劇団の一つと呼ばれるまでに成長した。その勢いはとどまることを知らず、県外での支持率も着実に上昇中、2017年5月には、福岡のメジャー劇場であるキャナルシティ劇場に進出することも決定した。今回の東京公演も、12月から開始された熊本・福岡・東京・宮崎を巡る四都市ツアーの一環である。

新作『月ろけっと』の作品概要は、脚本・演出の川口大樹から既に次のようなコメントが公表されている。
「遠くに行きたいとか、何かになりたいとか、人の欲望が尽きることはそうそうないわけで。とはいえ、空に浮かんだ月に行ってみたいなんてバカげた欲望さえも現実にしちゃうんだから、欲、侮るべからずです。そんなパワフルな欲望という名のモンスター=つまり悪魔的な何かを、手なずけようとしたり、逆に振り回されたりしてアタフタする人達のコメディです」

東京公演全6回のステージでは、各回ごとにアフタートークがあり、また千穐楽には生コメンタリーというイベントも予定されている。SPICE編集部は、一昨年に引き続き東京公演直前に脚本・演出の川口大樹に話を聞いた。

―― 前回も聞きましたが、川口さんは劇団の代表ではないんですよね?

はい。よく間違えられるのですが、代表は椎木樹人(しいきみきひと)という者がやっています。椎木は高校の後輩なので、余計に誤解されやすいのですが(笑)。分業してるほうが、何かとやりやすいので、このようにしています。

-- 今回、四都市ツアーなんですよね。

これまで三都市が最大だったので、四都市をまわるのは今回が初めてです。九州で一箇所ふやしたいと思っていたところ、熊本の「男女参画センターはあもにい」という会場で公演が打てることになりました。昨年震災があって雲行きが怪しい時期もあったのですが、むしろ、だからこそ僕らのコメディで楽しんでいただきたいという思いが強くありました。だから実現に漕ぎ着けたことは本当に嬉しかったです。ただ、日程の都合で、ツアーの初日が熊本になってしまいました。しかも円形劇場なんです。今回の他の三劇場とは何かと勝手が違うので心配もありましたが、おかげさまで公演はなんとか無事に成功を収めました。

-- 東京公演の後には宮崎でも上演が予定されていますね。

宮崎県の三股町という、鹿児島県に近い都城市に隣接する町に行きます。会場の三股町立文化会館では毎年『まちドラ!』という演劇フェスティバルを町ぐるみでやっています。町の色々な施設を劇場にして、ツアーで観てまわるという面白い試みが注目を浴びています。ぼくも現地に滞在して町の人々と一緒に芝居を創るということをやらせてもらいました。そういう、演劇に対する意識の豊かな町で今回も公演を打てるということは、とても光栄です。

-- 今回のツアー、東京以外は、地元の九州の地盤を固めるという戦略でしょうか(笑)

まあ、そうですね(笑)。



-- 今回の『月ろけっと』の内容について、改めて教えてください。

人の欲望にかかわるコメディです。ぼくは、人が欲望にふりまわされる姿にとても興味があるんです。といっても、そのことに明確に気付いたのは最近なんですが(笑)。ならば、それをしっかりと芝居にしてやろうと思いました。そこで登場させようと思ったのが悪魔です。今回の公演チラシのイラストの下の方にも描かれていますけど。昔から、悪魔に願いを叶えてもらう代わりに魂を渡すという取引をする話が色々ありますよね。



-- ゲーテの『ファウスト』とか。

星新一のショートショートにもありましたね。そういうものを、ファンタジーではなくて、もう少し現代に引き寄せて書けないかなと思ったのです。

-- というと?

寿命を貨幣のように見立てるんです。たとえば5分間分の寿命を支払えば、こういう願いが叶えられるというメニューを悪魔が提示するんです。寿命を支払うということに最初戸惑いがある人も、目先の快楽を得られると、さらに欲が増してくる。寿命はいますぐ目の前の何かがどうなるというものではないので、それを支払うことの感覚がだんだん麻痺してくると思うんです。クレジットカード破産と同じような感覚です。そうやって、だんだん大きな買い物に手を出すようになり、気が付いたら大変なことになってしまう。ただクレジットカード破産をそのまま描くよりは、悪魔との取引のほうが寓話性が出せるので、悪魔と人間の攻防を描くコメディとして面白く見ていただけるのではないかなと思いました。

-- 面白そうですね。ただ、川口さんの作品は『西のメリーゴーランド』でもそうでしたが、死のイメージが付きまといますね。

ああ(笑)。とくに意識してるわけではないのですが、出て来がちなんですよね。人が極限状況に追い込まれる悲惨さこそがハタから見ると最も滑稽な状況ですから、死と隣り合わせになってしまうのは必然なのかもしれません。



-- 川口さんご自身も欲が強いタイプですか。

強いですね。それもアーティスティックに評価されるより、沢山のお客さんに観てもらいたいという欲ですね。

-- ならば、沢山のお客さんが入る代償として、悪魔に寿命を支払ってもよいと(笑)。

払うかもしれません(笑)。たぶん、福岡の演劇界で、ぼくほど自分たちの面白さを認めさせたいと思ってる人間はいないのではないかと思っているくらいですからね。

-- 東京公演のアフタートークは毎回あるんですか。

はい。7日(土)14:00が俳優の一色洋平さん。同19:30がMONOの土田英生さん。8日(日)14:00がyoutuberの財部亮治さん。同19:30が小山田壮平さん(AL、ミュージシャン)。9日(月)14:00は劇団☆新感線の中島かずきさん。10日(火)14:00はヨーロッパ企画さんという予定です。

-- 東京では千穐楽の10日(火)に行われるガラパ名物「生コメンタリー」とはどのようなイベントですか。

上演されたシーンを20分間程度抜粋して、もう一回演じるんです。で、僕がマイクを持って、舞台の上でうろうろしながら解説コメントを喋るというものです。役者にとって、ぼくという存在は邪魔以外の何ものでもありません。しかも、やってゆくうちに、ぼくは演技中の役者に悪戯をするようになった。最近は悪戯がメインといってもいい(笑)。芝居を維持しようとする役者と悪戯を仕掛けるぼくとの攻防戦みたいになってます。でもお客さんはそれをすごく喜んでくださるんで、やめられません。



-- 東京公演を下北沢でおこなうことは楽しいですか。

“演劇の街”下北沢で公演を打つことは、ぼくらにとって夢の一つだったんです。前回初めて駅前劇場でやらせていただいて、夢の一つが叶えられたことは本当に嬉しかったですね。以前上演させていただいたこまばアゴラ劇場や王子小劇場のお客さんとは少しタイプが違うなと思いました。当日券のお客さんも今までの中で一番多かったし、高校生のお客さんにも観ていただくなど、ライトな層に幅が広がったような気がします。ちなみに観ていただいた高校生は後日、自分たちの文化祭で上演までしてくれたようです。

-- 最後にSPICE読者にメッセージをお願いします。

2005年に福岡で旗揚げして、今年で12年目に突入します。ずっとシチュエーション・コメディだけをやり続けてきた劇団ですが、最近はSFの要素を取り入れた新境地を進んでいます。また、新人メンバーがたくさん入って、劇団員の平均年齢が24歳くらいに若返り、活気づいています。シチュエーション・コメディ好きな人、SF好きな人、福岡からやって来た元気な劇団に興味津々という人は、ぜひこの機会に足を運んでいただきたいです! 劇場でお待ちしております!



(取材・文・写真撮影:安藤光夫)

公演情報万能グローブガラパゴスダイナモス 第22回公演『月ろけっと』
<熊本公演(終了)>
■期間:2016年12月2日(金) 3日(土)
■場所:熊本市男女共同参画センターはあもにい
■料金:前売り 2,300円 / ペア券 4,000円 / 当日券 2,500円 / 学生券 1,000円

<福岡公演(終了)>
■期間:2016年12月7日(水)~18日(日)
■場所:ぽんプラザホール
■料金:前売り 3,000円 / ペア券 5,400円 / 当日券 3,200円 / 学生券 1,800円 / スタートダッシュ割 2,400円

<東京公演>
■期間:2017年1月7日(土)~10日(火)
■場所:下北沢・駅前劇場
■料金:前売り 3,000円 / 当日券 3,300円 / 学生券 2,500円
■アフタートークゲスト:7日(土)14:00:一色洋平(俳優)、19:30:土田英生(MONO)、8日(日)14:00:財部亮治(youtuber)、同19:30:小山田壮平(AL、ミュージシャン)、9日(月)14:00:中島かずき(劇団☆新感線)、10日(火)14:00:ヨーロッパ企画+生コメンタリー

<宮崎公演>
■期間:2017年1月14日(土) 15日(日)
■場所:宮崎県 三股町立文化会館
■料金:前売り 2,000円 / ペア券 3,500円 / 当日券 2,500円 / 学生券 1,000円
■作・演出:川口大樹
■出演:椎木樹人/横山祐香里/早樋寛貴/柴田伊吹/針生あかり他/杉山英美(客演)
■公式サイト:http://www.galapagos-dynamos.com/

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