Rei、ポップの新時代を切り開く可能
性に溢れた一夜


2016.12.16 心斎橋Live House Pangeaギターが上手くて歌も上手い、曲が書ける、音楽の歴史やアートなどにも精通している。凄いことだがそういったアーティストはたくさんいる。ならば、群雄割拠のシーンの中で、なぜReiの存在が一際輝いて見えるのだろうか? 答えは、彼女のオリジナリティーが、ポップ音楽においてエポックメイキングな存在であるから。

幼少期よりギターや歌に慣れ親しんでいたことで、息を吐くように出てくるフレーズやメロディー、ジャンルや時代に線を引くことなく吸収した、様々な音楽やカルチャーに触発され湧き出すアイデアなどを折衷し、自らの音楽を生み出す感覚が、実に自由奔放で開放的。ゆえに、その個性の強さに振れた瞬間は、少々風変りなサウンドだと感じるかもしれないが、まさにそこが真新しいフックとなり、気が付けば癖になって、あなたの中のニュースタンダートとなっている。そして、そんなReiの魅力はライブでこそよりダイレクトに真価を発揮する。

今回はレコードデビューしてから初となる地元関西でのワンマン。多彩且つ一本筋の通った音楽性を示したデビューミニアルバム『BLU』、ミニマルな反復や展開でも見せられるビッグな世界に挑んだ『UNO』。そして、シンプルなマインドやサウンドを突き詰めた上での、ピュアなユーモアと豊かさを持った『ORB』の3部作を総括する集大成として、同時に新たな旅の始まりとして、素晴らしいステージを披露してくれた。

Rei 撮影=kazuya tanaka

編成はRei(Vo/Gt)、サポートに玉木正太郎(Ba)と片山タカズミ(Dr)の3人。Reiと玉木の前にはシンセも置かれている。1曲目の「Pay Day」から、そのシンセが前面に出て活躍。描き出されるサイケでモダンな色彩感の強い世界と、ロック然とした生命力に溢れたメロディー、2つのダイナミズムのコントラストで観客を驚かせる。

3曲目「Black Cat」もまた、レトロ宇宙戦争のように飛び交うシンセとジャングルビートのマッチングセンスが光り、ブルーズという概念そのものが自由に躍動しているかのよう。続いては、ディスコやニューウェーブとスウィートなフォークの香りが交差する「Love Sick」。ラテンやアフロのエッセンスも効いた曲で、間奏ではReiが元気いっぱいホイッスルも吹いてみせ、お茶目な魅力を開放する。その流れのままに、軽快なモータウンビートから「Oo-Long-Cha(ウーロン茶)」というキャッチーなフレーズでキマる「Oo-Long-Cha」へ。

壮大なオープニングがあって、攻撃的なブルーズからキュートなポップまで、序盤だけで全く異なるテイストを持った曲たちが一気に放たれたわけだが、それらが、パワフルでありながら強引さはなく、ナチュラルに紡がれていったことが印象的だった。音源をベースに考えたときに、曲の良さがダイレクトに反映された部分もあれば、様々な音が足されている部分もあるのだが、それぞれがパーツとしてもトータルの繋がりにおいても、しっかりと意味を持ったものであることが分かる。

Rei 撮影=kazuya tanaka

ここで、玉木がいったんステージを降り、片山はドラムからカホンへ。Reiはギターをエレキからアコースティックに持ち替えての「The Day」。『ORB』の中では、ビートが強く鍵盤も入った、リリー・アレンやテイラー・スウィフトを思わせるようなポップナンバーなのだが、Reiの強みはその発想力を以て音をどんどん足しても、ギターと声だけで勝負しても見せられる世界がしっかりあること。この曲で言えば、滑らかなメロディーや、バイリンガルならでは、発音形体が異なる英語と日本語が溶け合う様が際立ち、聴き手の想像力を掻き立てる。

「こんばんはReiです」と、7曲目でこの日初めてとなる軽いMCが入っての「eutopia」もまた、こんなにも優しく細かく刻まれるギターの単音があるのだろうかと感じさせられる。まさに至福のとき。そして玉木が再登場、片山もドラムに戻っての次なる展開が凄まじかった。

アコースティックセットが終わった静けさの中で響く、ダブテイストの空間的な音色やオリエンタルな旋律に誘われるがままに迷い込んだ森は、深く入れば入るほどにカオスな色を強めていく。狂気的な轟音の快楽に正気が奪われつつも、最後は凛として存在していた歌の力に導かれ、出口に差す美しい光が見える。人生の苦楽そのものを体験したかのような「POMELO」から「Long Way To Go」。終わったあとに皆が息を飲み、すこしの間があってから湧き上がった大きな拍手と歓声が、そのドラマの激しさと奥深さを物語っていた。実は「The Day」からここまでの流れで、ちょうど一週前の東京公演でのセットリストから「Cinnamon Girl」が削られている。ワンマンライブで時間もたっぷりある。そういう意味では無くす必要は全くない演奏をなぜ? おそらくその方が“伝わる”という判断だったのだろう。

Rei 撮影=kazuya tanaka

ライブはいよいよ終盤へ。『UNO』のリードソングである「JUMP」は、イントロでビートルズ「Day Tripper」のリフを入れるなど、さらにキャッチーに力強く塗り替えられたアレンジがお見事。フロアをばっちり揺らしたあとは『ORB』から「Route 246」。ここで「JUMP」以上の“待ってました”と言わんばかりの歓声が。MVの出ていない最新作の曲が、前作のヒット曲を上回る期待度を持たれていたことは、Reiの常に前を見る姿勢が伝わっている証。ダイナミックにスウィングするロックンロールに、片山と玉木のソロもばっちりキマり、会場の熱はピークに……と、まだまだこんなもんじゃなかった。

今回のステージで最もフィジカル度数の高い演奏をみせた「OCD」から「BLACK BANANA」では、再び片山のソロにReiが「もういっちょ!」の掛け声。さらに強く激しくテクニカルに叩きまくる。続く玉木のスラップベースに対しても「もっとできるやろ!」と煽り5本の弦がますます躍動、そして自らのソロへ。もはや観客の興奮は天井知らず、そして「COCOA」で完全に楽しみの向こう側、未体験レベルの領域までフロアの空気を持って行く。Reiは、今回のツアーの前に行った本誌のインタビューで、「とにかくスカッとして帰って欲しいです。爽快感があるというか、汗はかいても心にひとっ風呂浴びたようなというか」と意気込みを語っていたが(インタビュー記事はこちら)、それをはるかに凌ぐパフォーマンスを堂々と繰り広げ、ステージをあとにした。

Rei 撮影=kazuya tanaka

アンコールの1曲目は、雨音と「コツ、コツ、コツ」という足音のSEから入って、Reiと玉木の二人による「POLPETTA」。異国情緒とノスタルジーが滲むアコースティックギターとウッディーなベースのサウンドが、まるで映画や舞台のワンシーンのような空間を描き出す。そしてレトロな車のエンジン音も重なってきての「We」。「And in the dream, you are driving」という歌詞が沁みる。

「ありがとうございました。実は大阪ワンマンは12歳以来11年振り。それから上京したりCDを出したり、いろいろあって、でもこうして自然体で自分らしくやれているのは、出会った方々のおかげ。また10年後も20年後も、走った先にこういう場所があることを」と話して最後は「Keep On Driving」。一言一句を噛み締めるように丁寧に歌う姿が印象的で、それはその場にいた人、まだ見ぬ人に向けての、誓いであり約束なのだと感じた。もっと楽しい音楽を作って、良いライブをして、素晴らしい景色を見せると。

演奏や歌の技術が飛び抜けて高く、作曲やアレンジのセンスも独創的。最新のヒットポップス、インディーミュージックから古き良きブルースにロックンロール、様々な音楽的要素が詰まっていながら、真っ直ぐに刺さり、シンプルに踊ったり口ずさんだりできるため、どの角度から入ってきても親しみやすい。そして自らの音楽性に自信も信念も向上心もあるからだと思う。ライブではMCも観客を直接言葉で煽って盛り上げることもほとんどしない。だからと言って、パーソナルな側面の強い、観客を突き放すようなライブではなく、誰も置いていかないように考えられている。Reiが創り出す原点的であり攻撃的なポップワールドが、さらにワイドに広がっていくことを予感させる一夜だった。

取材・文=TAISHI IWAMI 撮影=kazuya tanaka

セットリストRei Release Live『ORB』 2016.12.16 心斎橋Live House Pangea

1. Pay Day
2. my mama
3. Black Cat
4. Love Sick
5. Oo-Long-Cha
6. The Day
7. eutopia
8. POMELO
9. Long Way To Go
10. JUMP
11. Route 246
12. OCD
13. BLACK BANANA
14. COCOA
[ENCORE]
15. POLPETTA
16. WE
17.Keep On Driving
リリース情報3rd Mini Album 『ORB』
発売中Rei『ORB』


DDCB-12402/1,389円(税抜)

1. Pay Day
2. COCOA
3. Oo-Long-Cha
4. Route 246
5. The Day (I Fell In Love With You)
6. Polpetta
7. Keep On Driving

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