続「レナード・コーエンの世界」を知
らない人に贈る曲

選曲のエキスパート“ミュージックソムリエ”があなたに贈る、日常の1コマでふと聴きたくなるあんな曲やこんな曲――。先月7日に逝去したレナード・コーエンを「実はよく知らない」という方におすすめの5曲をご紹介したところ(第106回)、思わぬたくさんの反響・好評が寄せられましたので、今回は、その続編をお贈りします。

1.「Suzanne」/LEONARD COHEN

●美しい夢想が寂しい、片思いの歌
パリで出会った女性をモデルに書いた曲。憧れの女性との精神的な繋がり――“For you've touched her perfect body with your mind”を描いています。途中、イエスが出てくるなど天国の様に穏やかでありながら、聴いた後とても寂しい気持ちになる曲です。レナード・コーエンが初めて書いた曲であり、1966年にジュディ・コリンズが歌ったヴァージョンがオリジナル。これがレナード・コーエン(当時32歳)のレコード・デビューへと繋がりました。
1967年作『Songs of Leonard Cohen』収録。

2.「Bird on the Wire」/LEONARD COH
EN

●次は上手くやる、だから許してほしい
自分の身勝手な振る舞いで迷惑を掛けてきたことを懺悔して、許しを乞う歌。「電線の上の鳥のように、自分なりの自由を求めてきた」。ストリングス・アレンジは、望んだ自由に届かず、行き詰まった男の侘しい気持ちに寄り添うようにセンチメンタルです。しかしながら、うちひしがれた彼から放たれる、最後の歌声「Free」の力強さたるや。自由を見失わず、追い続けているレナード・コーエンのしぶとさが印象的な曲です。
1969年作『Songs from a Room』収録。

3. 「Famous Blue Raincoat」/LEONAR
D COHEN

●三角関係の終わり
男二人女一人による三角関係を題材とした曲。かつて妻を奪った親友へ向けて、綴った手紙が題材となっています。妻は戻ってきたがわだかまりは解けず、もはや愛情は戻らない。それでも恨み言を言わず親友を懐かしむのですが、やはり絶望している様子が漏れ伝わり、居たたまれない気持ちになるラブソングです。ララララララ……という欝々としたコーラスが印象的。1987年、ジェニファー・ウォーンズ(後述)がこの曲をタイトルとした彼のカバー・アルバムを発表。レナード・コーエン再評価へと繋がります。
1971年作『Songs of Love and Hate』収録。

4.「Smokey Life」/LEONARD COHEN

●44歳のレナード・コーエン、穏やかに人生を振り返る
彼はヘヴィ・スモーカーでした。この曲は、放っておけば飛んで消えてしまうような、まさにたばこの煙のような人生を送ってきた、と自己を振り返る歌です。1972年、かねてより自身の低い歌声に劣等感を抱いていたレナード・コーエンは、バンド・メンバーとして女性コーラスを二人加入させます。そのうちの一人が、先述のジェニファー・ウォーンズ、ここではデュエットで参加しています。深い孤独を感じさせるレナード・コーエンの歌声を、ジェニファーの優しい歌声とエレピが包み込んでいます。
1979年作『Recent Songs』収録。

5.「Hallelujah」/LEONARD COHEN

●神への敬服と反抗
愛する女性との出会いと別れ。それぞれの場面で発せられるハレルヤに込められた感情を歌っています。1994年にジェフ・バックリィがカバーしたことで、多くの日本人にも知られている曲です。
大仰でキラキラとしたバンド・サウンドは賛否が分かれるところですが、レナード・コーエンの歌唱は唯一無二。呟かれる低い歌声には、深いしわが刻まれているかのようです。
1984年作『Various Positions』収録。
前回の選曲にはたくさんのうれしい反響をいただき、ありがとうございます。再びレナード・コーエンをご紹介できる機会に感謝します。彼の楽曲を年代順に追っていると、声質の変遷がよく分かります。女性のこと、宗教のこと、自分の声のこと、様々なことに悩みながら、もがいて生きたレナード・コーエン。一生を掛けて残された彼の歌で、これからも多くの人が慰められ、励まされることでしょう。
(選曲・文 ジェシー芝池)

著者:NPO法人ミュージックソムリエ協会

OKMusic編集部

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