ザ・ローリング・ストーンズ、11年ぶ
り新譜で原点回帰 全ての源

ミック・ジャガー(左)とキース・リチャード。11年ぶり新譜は原点回帰を思わせるブルース・アルバム

ミック・ジャガー(左)とキース・リチャード。11年ぶり新譜は原点回帰を思わせるブルース・アルバム

 ザ・ローリング・ストーンズ(THE ROLLING STONES)が12月2日に、11年ぶりとなるニュー・アルバム『ブルー&ロンサム(BLUE&LONESOME)』をリリースする。11月某日には都内で、報道陣に向けに試聴会が開催され、一足先にその音源を聴く機会が得た。ここではその貴重な体験をもとにレビューする。

旧友も参加、原点回帰のアルバム

 『ブルー&ロンサム』は2005年7月にリリースした『ア・ビガー・バン』以来、11年ぶりとなるスタジオアルバム。構想に50年をかけ、3日間でレコーディングしたという、全てが常識を覆す作品だ。彼らの1stアルバム『ザ・ローリング・ストーンズ』は、大半がカバー曲であり、ミック・ジャガー(Vo)とキース・リチャーズ(Gt)のコンビで作ったオリジナル曲は「テル・ミー」のみだった。今回も全曲がカバーで、しかもその楽曲はブルース。まるで原点回帰を思わせるブルース・アルバムとなっている。

 今作のレコーディングは2015年12月。その場所は、彼らがブルース・バンドとしてキャリアを始めた英・リッチモンドやイール・パイ島に程近いロンドン西部の「ブリティッシュ・グローヴ・スタジオ」。構想に50年をかけながらもレコーディングに費やした時間はたったの3日間。その理由は、オーバーダブなしの生演奏でおこなったためであり、これにより、スタジオアルバムでありながらも、ライブ感や彼らの初期衝動がそのまま詰め込まれた。

 驚くことに、レコーディング時には偶然にも隣接するスタジオでアルバムを録音していた旧友のエリック・クラプトン(Gt)が急きょ参加。そのうちの2曲に加わるなど豪華共演も実現している。

 プロデューサーを務めた、米プロデューサーのドン・ウォズは「このアルバムは彼らの純粋な音楽作りへの愛情の証であり、そして、ブルースはストーンズにとって、やること全ての源になっている」と語っている。

楽しむための音楽に回帰、全曲レビュー

ザ・ローリング・ストーンズ「ブルー&ロンサム」

ザ・ローリング・ストーンズ「ブルー&ロンサム」

 このアルバムは「ジャスト・ユア・フール(Just Your Fool)」で幕を開ける。小気味の良いブルースで、ミックの奏でるハープの音が曲全体の雰囲気と絶妙に絡まる。オリジナルは米国ルイジアナ州出身のブルース・ハーモニカ奏者・Little Walter(リトル・ウォルター)による1960年のナンバー。彼は1964年に、ローリング・ストーンズとともに英国をツアーで回っている。

 2曲目に印象的なギターリフが繰り返されるHowlin’ Wolf(ハウリン・ウルフ)こと、Chester Burnett(チェスター・バーネット)の1966年の「コミット・ア・クライム(Commit A Crime)」、そして表題曲「ブルー・アンド・ロンサム(Blue And Lonesome)」と続く。「ブルー・アンド・ロンサム」は1曲目と同じくリトル・ウォルターの1959年のスローバラード曲。ロニー・ウッド(Gt)のギターソロが映える1曲となっている。

 4曲目の「オール・オブ・ユア・ラヴ(All Of Your Love)」は、冒頭部の繰り返される印象的なギターサウンドからベース、そして、チャーリー・ワッツ(Dr)の叩くドラムが加わり、曲の世界が広がっていく。そこにミックの哀愁を帯びた歌声が重なり、この曲の世界にどっぷりとはまり込むような感覚に陥る。同曲は1967年のMagic Sam(マジック・サム)によるナンバー。

 5曲目には、再びリトル・ウォルターによる1955年の「アイ・ガッタ・ゴー(I Gotta Go)」を収録。ミックによる馬の嘶くようなハープから、蹄で土を強く巻き上げて疾走するように曲が駆け巡る。そして、6曲目の「エヴリバディ・ノウズ・アバウト・マイ・グッド・シング(Everybody Knows About My Good Thing)」には、エリック・クラプトンがゲスト参加。彼のギターが楽曲の細部を縫うように精巧なサウンドで彩りを与え、艶やかに輝きを増している。

 7曲目は「ライド・エム・オン・ダウン(Ride ‘Em On Down)」で、1955年のエディ・テイラー(Eddie Taylor)がオリジナル。ファンキーなベースラインに合せ、メンバーの演奏が自由に踊るように響き渡りながらも、絶妙な緊張感を保ちながら曲として成立させるあたりには、ストーンズの50年のキャリアの重みを感じさせる。

 8曲目にはみたび、リトル・ウォルターの1955年の「ヘイト・トゥ・シー・ユー・ゴー(Hate To See You Go)」、9曲目の「フー・ドゥー・ブルース(Hoo Doo Blues)」では、ミックの御年73とは思えぬ妖艶な歌声が響き渡る。

 10曲目の1957年、ジミー・リード(Jimmy Reed)の「リトル・レイン(Little Rain)」では歪んだギターサウンドの上に、ミックのハープが哀愁感を漂わせるように乗る。チャーリーの少しリバーブのかかったドラムも効果的に響く。

 11曲目は「ジャスト・ライク・アイ・トリート・ユー(Just Like I Treat You)」でオリジナルは1961年のハウリン・ウルフによるもの。キーボードが跳ねるように演奏される、ごきげんなR&Bナンバーだ。

 最後を飾るのは「アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー(I Can’t Quit You Baby)」で1956年のオーティス・ラッシュ(Otis Rush)のナンバー。この曲にもエリック・クラプトンがゲスト参加。オーティスは1950年代当時、リードギターを前面に押し出した“ウェスト・サイド・サウンド”と称されたシーンを代表する、米国シカゴのブルースギタリストであり、シンガー。クラプトンも彼に多大な影響を受けており、何曲かカバーもおこなっている。

 冒頭からそのクラプトンのギターが全開で披露され、チョーキングを多用するギターソロでは、ミックが歓声を上げる様子も録音されており、微笑ましい。最後は各々が奔放にプレイし、楽しげなレコーディング風景が目に浮かぶようなセッションが繰り広げられている。

 ストーンズは、1963年に米ミュージシャンのチャック・ベリーのカバーシングル「カム・オン」でデビューしている。『ブルー&ロンサム』は半世紀に渡り、世界のトップに君臨し続けている彼らが、当時“ただ楽しむ”ために始めた「音楽」を、原点回帰して取り戻した、その様子が真空パックされたような1枚である。

 気は早いが、彼らはこのアルバムを経て新たな次元へ踏み出したその先に、新たなる創造の源泉を見出しているのではないだろうか。(文・松尾模糊)

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