秋分の日、夕焼け小焼けでまた明日ソ
ングス

選曲のエキスパート“ミュージックソムリエ”があなたに贈る、日常のワンシーンでふと聴きたくなるあんな曲やこんな曲――ようやく暑さも和らぐ秋分の日、今回は「夕焼け小焼けでまた明日ソングス」です。

1.にんげんっていいな/中島義実

●バブル崩壊前夜の日本に生まれた家路ソング
誰もが知るTBS『まんが日本昔ばなし』のエンディング曲より。作曲・小林亜星、編曲・久石譲という、豪華なクレジットを見れば、広く世間に受け入れられたサウンドにも納得です。
ほんわかとするこの国民的ソングは、実は1984年、バブル景気直前の年に発表されました。“モーレツ”の時代から金欲の狂騒期へ――。“夕焼け小焼けでまた明日”と、みんなが今日のつづきを疑わなかったあの時代。「にんげんっていいな」と憧れる家庭的な歌は、今では人の業へのアイロニーを帯びて、どこか哀愁が漂います。
(選曲・文/麻布さやか)

2.「Bridge Over Troubled Water」/S
imon & Garfunkel

●”あしたもまた元気に登校しましょう……”
私の通っていた小学校では、毎日の下校放送でオーケストラ版「明日に架ける橋」を流すことになっていました。放送委員だった私はこの曲が大好きで、下校当番になるのが毎回楽しみでした。台本のセリフを言い終えてマイクをオフにすると、曲を大音量にし、夕陽の射す放送室で黄昏ながら、必ず終わりまで聴いていたものです。
サイモン&ガーファンクルというアーティストのことや、歌詞の本当の意味を知るのは、もう少し大人になってからのこと。
自分が辛い時でも、側に居てくれる人が必ず居るよ――秋の夕暮れ、誰もいない校庭のような寂しさを感じている人に、この曲をお送りします。
(選曲・文/高原千紘)

3.交響曲第9番「新世界」より 第2楽
章/A. ドヴォルザーク

●遠き山に日は落ちて、振り返るあの日の思い出
ドヴォルザークは東欧のチェコ出身の作曲家ですが、晩年は、アメリカのニューヨークの音楽院に招かれて作曲を続けていました。
当時のアメリカは“新大陸”“新世界”と呼ばれた開拓期。新しい世界から望郷の念を抱き、故郷を思う情緒溢れる調べとなっています。日本では、堀内敬三作詞「遠き山に日は落ちて」や「家路」などの唱歌がおなじみで、夕方に小学校の校庭に流れるメロディーとして知られていますね。
ドヴォルザークにとって最後の交響曲となったこの「新世界」。彼がどんな光景を想って譜面を書いたのか、考えると心に沁みるものがあります。
(選曲・文/堀川将史)

4.「たそがれ」/サンズ・オブ・サン

●郷愁の海に溺れる魔法の1曲
昭和の時代。冬の日の子供たちは皆で一緒に田んぼで遊んだ後、駄菓子屋で買い食い。そして黄昏時には一番星を探したり、汽車の煙が夕暮れを染めていくのを眺めたりしながら、明日の春を待っていた。そんな情景を幻想的に映し出した歌詞(松本隆作)が素晴らしい曲「たそがれ」。日本のロック黎明期のバンド、サンズ・オブ・サンが1972年に発表したものだ。カントリー・ギターが紡ぐ美しいメロディーと、汚れなき子供のように中性的で浮世離れしたヴォーカルに彩られた、魔法のひととき。
今、大人になったあなたに。もしかしたらあったかもしれない、幼き日の美しい幻が眼前に広がるだろう。
※次曲につづく
(選曲・文/旧一呉太良)

5.「Final Sunset」/BRIAN ENO

●違うよ、明日来るのは大王じゃなくて腹痛。
(つづき)さて、そんな美しい夕焼けが僕の思い出の中にもあるだろうか。もう1曲の夕焼けナンバーを聴きながら記憶を辿ってみよう。
ウィンドウズの起動音に採用されたことでも知られる環境音楽の巨匠、ブライアン・イーノ。彼が1978年に発表した『MUSIC FOR FILMS』に収録されているのが、この「Final Sunset」(最後の夕焼け)。曲を聴いて受ける印象は人それぞれだが、例えば僕には、美しいけれども不穏な未来を予感させる紫色の空が見える。そして……ある日の夕焼けを思い出してしまった。
昭和の暑い日のこと。当時小学6年生だった友人Fは、学校で怖い話を聞いた。ノストラダムスの大予言。地球がヤバイらしい。
下校途中、恐ろしい予言が頭から離れないFは、気を紛らわせようと駄菓子屋に寄ってアイスを購入。プロレスを題材にした、棒に必殺技が出ると当たりというやつだ。食べてみると「卍固め2本当たり」(ブレーンバスターだったかもしれない。とにかく通常なら1本のところ2本当たりは特別版なのだ)。早速、店に行って交換。食べる。今度は両方の棒に「アックスボンバー・3本当たり」。ありえない。こんなことが起こるなんて。自分の暮らす日常は終わってしまったのか。手には6本のアイス。空は一面紫色。明日は何かが起きそうだ。
そうか、ノストラダムス。恐怖の大王がやってくるのだね。
(選曲・文/旧一呉太良)

6.歌劇『フィガロの結婚』より「恋とは
どんなものかしら」/林美智子

●日々成長する自分をかみしめよう
モーツァルト作曲のオペラアリア。伯爵に仕える少年ケルビーノが、敬愛する伯爵夫人に自分の作った詩を歌って聞かせます。胸は高鳴り震えるけれどその理由が分からない、これは恋なのでしょうか?と軽やかな音楽で初々しく歌います。この少年役を、女性のメゾ・ソプラノ歌手が扮します。歌唱は林美智子さん。中性的な雰囲気を前面に出し、格調高く表現しています。
今日は分からなくても、明日が来れば分かるかもしれない。そんな、未来へ期待をつなぐ“また明日”ソングです。
(選曲・文/山本陽子)
さて、お気に召した選曲はございましたか。
ぜひこれを機にCDやレコードなどの音源でも、各曲をお楽しみいただければ幸いです。
それでは、また明日、もとい来週。

著者:NPO法人ミュージックソムリエ協会

OKMusic編集部

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