GLIM SPANKYの企画『ロックは生きている。対談』が再び! 好評だった同企画の中でもディープな話に発展し、特に注目を集めた、みうらじゅん氏との対談。今回、そのみうら氏にGLIM SPANKYを勧めた、いとうせいこう氏との対談が実現した。日本の伝統文化である浄瑠璃について熱弁するいとう氏と、その内容に多大な刺激を受けるGLIM SPANKYのふたり。その全編を3回に分けてお届けする! 1回目はロックアーティストとしての姿勢に触れた。

音楽だけで、言葉にしなくても伝わるも
のがある

――前回はみうらじゅんさんとの対談だったのですが、じゅんさんにGLIM SPANKYを勧めたのがせいこうさんだそうですね。しかも、“みうらさんみたいだよ”と紹介されたとのことですが。

いとう:
うん、そうです。最初にGLIM SPANKYを聴いたのは、小説のサイン会みたいなもので東北に行った時、仙台に向かう車中のラジオで「褒めろよ」がかかったのかな? 2回ぐらいかかったんだよね。最初に聴いた時に「お! これ、いいな」と思って、2回目の時に「これ、誰なんだ?」と思って『Shazam』したら、“GLIM SPANKY”って出てきて。で、すごく気になったんで、東京に帰ってすぐにネットで検索したら、松尾さんがひとりで歌っている「焦燥」の動画があったんですよ。それを観たら「これは完全にみうらじゅんの高校時代の歌じゃん!」って思ったんで(笑)、すぐにみうらさんに「あんたみたいな人いるよ」って教えてあげたんです。そのURLを貼り付けてね。そしたらみうらさんも「これはもう俺だ!」って気に入っちゃって(笑)。やっぱりねって思ってたら、実はみうらさんにすごく影響を与えた人が松尾さんの知り合いだったという。

松尾:
そうなんですよ。三浦久さんというボブ・ディランとかの訳詞とかラジオのDJをされていた方なんですけど、『OREAD(オーリアッド)』っていう喫茶店をやられていて、毎週土曜日に飛び入り参加ライヴを開いているんですね。そこに父親と一緒によく出ていたんです。で、私はその人からみうらじゅんさんの話をよく聞いていたんで、つながったか!って(笑)。

いとう:
そうなんだよね。なんて不思議な縁というか、言葉じゃなくても伝わるものってあるんだなって。こういう声で、こういうことを歌っているっていう部分で、みうらさんと同じだと思ってたら、実はちゃんと筋が通ってる上で同じだったということにびっくりした。それがGLIM SPANKYとの出会いだったんだけど、なんかもう他人じゃない感じがする(笑)。ほら、みうらさんとも混ざっちゃってるからね。親戚みたいな感じになっちゃってる。

松尾:
光栄です(笑)。

いとう:
今回のアルバム『Next One』も聴かせてもらったんだけど、そんな松尾さんの歌っている音域のところにギターが付かず離れずにちゃんといるから、音の層としては広がって自分のところに届いてくるし、ふたりがやっていることがさらに良くなってる印象があって、「これはいい!」って思いましたよ。

松尾:
嬉しい! ありがとうございます!

いとう:
大変だよね、音色を選ぶのって。

亀本:
でも、それが楽しくてやってるんで。常にそういうことばかり考えてるし。
松尾:
って言っても、普通の音ばかり作るから、レコーディングでは「つまんない。もっともっと変な音で!」って言って、やっと完成するみたいな(笑)。

亀本:
何、その言い方!(笑)

松尾:
だって、保守的だから。

亀本:
えー、違うよー。

いとう:
そうやって言い合うぐらいがいいんだよ(笑)。この間、『ザ・スライドショー』という僕らのショーを東京体育館でやって…オープニングでGLIM SPANKYの曲も使わせてもらったんだけどね。その打ち上げで、みうらさんとGLIM SPANKYの話になって、「新しいアルバム聴いた? すげぇいいんだよ」って言われて、俺も「すごくいいよね」って。とにかく、1曲もラブソングがないのが素晴らしいと思うよ。

松尾:
なぜかそうなってしまうんですよ(笑)。

いとう:
でも、それって大事だよ。日和って1曲、2曲、どうでもいいラブソングを入れがちだからさ。全部メッセージソングだもんね。ま、それは時代へのラブソングとも言えるけど、全然ちまちましてなくて、俺はそういうところに天邪鬼な意思みたいなものを感じたというか。そこも含めて、みうらさんも「いいよね」って言ってるんだと思う。それもさっきの話と一緒で、「このアルバムいいよね」っていう言葉だけで、今言ったようなことを口にしなくても通じ合っている…音楽だけで、言葉にしなくても通じているわけだから素晴らしいよね。

松尾:
いとうさんにそう言っていただけて、ほんと光栄です。私、『天才ビットくん』(NHK教育テレビで放送されていた子供向け番組)をずっと観ていたんで、いとうせいこうさんってその番組の“セイコーさん”なんですよ。でも、テレビを観ている私の横で父親が、「いとうせいこうがどんな人か分かってないだろ? 音楽もやっていて、カルチャーの知識も深くて~」ってすごい言ってきて…

いとう:
サブカルのパパね(笑)。

松尾:
いとうさんの資料をいっぱい持ってるんですよ。本棚の一画がいとうさんのコーナーになっていて、それを見せられるんですけど、当時の私にとっては『天才ビットくん』のセイコーさんなんで(笑)。でも、中学生になり、高校生になって、サブカルに興味を持つようになったら、「あのセイコーさんって、こんなにすごい人なんだ!」って分かり、しかもこうやってつながることができて、ほんと“まさか!”ですよ。いとうさんが最初にGLIM SPANKYのことをTwitterでつぶやいてくださったんですけど、もちろん父親はチェックしているわけですよ。すぐに電話がかかってきて、もう大変でした(笑)。あれは事件でしたね。そんなすごい方とつながることができた…私たちの曲を“なんだ、これは!?”って思ってもらえて光栄です。
いとう:
いや、それは引っかかるべくして引っかかったから。あと、今回のアルバムでは新境地というか、メッセージだけじゃなくて、インナートリップもしてるじゃない? 「いざメキシコへ」って自分の心の中にトリップした風景を描いているし…それもビートジェネレーションを引っ張ってきている。そうやって松尾さんって自分の好きなものから刺激を受けて、自分の世界を大きくしていっているから、俺とかみうらさんは「これを読むといいんじゃないかな?」ってものをいろいろ送り付けたくなる…そういう可能性を持った人ってなかなかいないんですよ。今回のアルバムではそういう部分も出ていたから。まだ青すぎるところがありつつも危うい部分があって、「このあとどうなっていくのかな?」って思っていたところに、インナートリップが出てきたから、「お、この感じいいな~」って思ったんだよね。あれは、実際にメキシコに行ったの?

松尾:
メキシコには行ってないです。今、私、とにかく海外旅行に行きたいモードなんですよ。特に行きたいのが、アメリカのロスあたりにあるサルベーションマウンテンっていう、砂漠の中にいきなり現れるカラフルな場所で。そこに行きたくて行きたくてどうしょうもなかった時に、今回のアルバムに向けてあと1曲、好き勝手に作ろうってことになって。なので、そんな自分の欲望と、私の血となり肉となっているアレン・ギンズバーグの世界観を掛け合わせたら、若者が自由を求めていくような空気が出るんじゃないかって思って書いたのが「いざメキシコへ」という曲だったんです。この曲を書いたあと、本気で海外に行きたくなってしまって、すぐに台湾行きの飛行機を予約して、次の日に台湾に行きました(笑)。

いとう:
それでいんだよ。僕らの稼業って無駄がないからね。ちょっと旅行に行けば、刺激を受けてさ、ギターの音が変わってくる可能性だってあるわけだし。絶対に行ったほうがいい。

今はどれだけ歳をとっても全然変わらな
いってことがロック

いとう:
この間さ、パティ・スミスが来日してて、ギンズバーグの詩の朗読してたけど、そこで20年振りぐらいに会う奴もいて…“UNDERCOVER”ってブランドをやってるジョニオとかね。横でゴホゴホ咳ばかりしてる奴がいると思ったら小山田圭吾だったりとかさ。やっぱりね、みんな来るんだよ。みんなビートの流れは通ってるよねって。そういうルーツがあって、ものを創っている。だから、そういうところにGLIM SPANKYも若いながらにも入ってくればいいっていうか。

松尾:
私、行けなかったんですよ。行った人の誰に聞いても、パティ・スミスのポエトリーリーディングが素晴らしかったって言ってました。

いとう:
素晴らしかったよ。松尾さんにはあんなお婆さんになってほしい。セクシーだし、力強いし、殺気があるし、やさしいし…「もう人間じゃないよな」って感じなんだよね(笑)。「ああいうふうに歳をとるのってすげぇことだよな」って目の当たりにして、全員がブルブル震えて帰ったという。

松尾:
殺気を失っていないのがいいですよね。歳をとっても尖っているっていうか。

いとう:
うん。戦争批判して、「私たちが平和を作るんだ!」みたいな歌で終わるんだよ。「うわっ、カッコ良い!」ってなるよね。

松尾:
今でもそういうことを伝えようとしているわけですよね。

いとう:
うん。何もぶれてない。すごいよ。
松尾:
生きてるってことですよね。歴史や化石になってない。それはロックが生き続けているわけなので、私たちにしてみればすごく未来に希望が持てるんですよ。

いとう:
まだまだ若いし、これからだもんね。

松尾:
そうなんです! だから、いろんなところで「ロックは死んだ」とか言われる時代になって、「音楽が売れない」って言い訳する人もいたりするんですけど、例えばザ・ローリング・ストーンズみたいな、私たちが「負けた!」と思うぐらい、歳をとっていても生き生きとしていたり、尖がっていたりするロックスターを見ると、小さい目標を立ててたり、泣き言を言ってるようじゃダメだなって思うんですよ。この人たちよりももっとバカなことを言ってなきゃ、若いロックバンドはダメだって思えるというか、すごく勇気をもらえるんです。

いとう:
今のロックは年寄りのほうが元気だったりするからね。

松尾:
若い連中が負けてちゃダメなんですよ。ロックバンドをやってるなら、どんどんデカいことを言っていきたいし、大きな野望を持っていたいと常に思ってます。

いとう:
それには長生きすることが大事だからね。昔は若くして死ぬほうがロックっぽかったけど、今はどれだけ歳をとっても全然変わらないってことのほうがロックだから。それは魂がね。表現は変わっていっていいから。

著者:土内 昇 PHOTO:清水義史 

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