「MASH FIGHT! Vol.4」(パノラマパナマタウン)

「MASH FIGHT! Vol.4」(パノラマパナマタウン)

パノラマパナマタウンが「MASH A&R」
オーディションでグランプリを獲得

2012年よりスタートしたオーディション&育成プロジェクト「MASH A&R」。その2015年のファイナルとなる「MASH FIGHT! Vol.4」が12月6日(日)に渋谷WWWで行なわれ、年間通して1000組を超える応募の中から選ばれた6組が集い、熱戦を繰り広げた。
トップバッターとしてステージに立ったのはJunk Robot。女性ヴォーカル・Airiによるソロプロジェクトだ。サポートメンバー3人を率いてバンド編成で登場した彼女は、自身もギターを掻き鳴らしながら、ややハスキーでパワフルな声でその歌を飛ばしていく。衝動的で疾走感の強い“幻想"から一転、ギター1本でじっくり歌を聴かせてからバンドアレンジへと展開していくミドルテンポの「生きているから」。時にフラジャイルな危うさも抱える生の感情を愚直なほどに真っ直ぐな言葉に託し、突き刺すように歌い放っていく様が印象的だった。最後は再びバンドサウンドがエモーショナルに翼を広げる「青い星」。最初は硬さも見られたが、ラストではその歌を通して大きく解き放たれるようなフィーリングも感じさせながら歌い切った。

2組目に登場したのは東京で活動するGateballers。どこかノスタルジックな感傷を宿した日本語のグッドメロディを歌う少年性の強い濱野夏揶の声と、彼の弾く土臭くブルージーなギターの調和がいい。その歌詞に表れる日常の中から生と世を切り取る視点と感受性、その中でもがきながらも前を見つめる想いといったものが、さり気なくも確かに心にリーチしてくる。オーセンティックな3ピースサウンドだが、シンプルだからこそ時に大きな化学反応を生んでいくバンドという生き物の可能性自体を感じさせるライヴ。ラストに演奏された、リヴァーヴがかった音像で深くサイケデリックな景色を描き出していく“バグダッド・カフェ"がとても秀逸で、ぐっとその世界に会場を引き込んでステージを去った。

続いては TRY TRY NIICHE。今年の7月から活動を始めたばかりの、ピアノヴォーカルを擁した4人組バンドだ。蒼く煌めくポップネスを放つ輪郭のはっきりしたメロディと、歌の世界をしっかりと支え確かな彩りを与えようとするアレンジ&演奏は、結成したてとは思えないプロフェッショナルな意識に基づくバンド力とポテンシャルを印象づけるものだった。奥山翔平の歌も、その声の中に感情が鮮やかに表れる太さとエモーションを孕んでいて耳に強く残る。ポップな歌を軸に叙情的なサウンドと力強いダイナミクスが巧みに共存したライヴに、フロアからはハンドクラップも上がっていた。

転換時にはMCの藤田琢己氏による進行の下、審査員から各バンドへの短評が行われたり、集まったオーディエンスの感想をその場で拾い上げたりしながら、オーディションはテンポよく進んで行く。

4組目に登場したのはパノラマパナマタウン。8月の「MASH FIGHT! 夏のセミファイナル2015・東京編」でウィナーに輝いたバンドだ。のっけからソリッドでキレのいいファンキーなサウンドに乗って強気なラップをかまし、フロアの雰囲気をガラリと変える。2曲目の“ロールプレイング"からは岩淵(Vo)もギターを持ち、よりアグレッシヴで扇情的なロックサウンドへと展開。クールに冴えた目線と熱い衝動が縦横無尽に交錯しながら、まさに「音をぶっ放す」という感覚がぴたりとくる不敵で爆発力のあるライヴを行なっていく。曲によっては伸びやかな歌を聴かせるものもあり、アレンジも含め、多彩な音楽的感性とそれをミックスしていく独自の個性、そして華を呼び込む度胸を感じさせた。

続いてのTHE BOSSSは、「MASH FIGHT! 夏のセミファイナル2015・大阪編」でウィナーを獲得した4人組。夏に観た時はバックビート気味のダンサブルなサウンドと夕焼け感のある景色の大きなメロディが気持ちいいという印象だったが、その基本スタンスは引き継いだまま、この半年でだいぶ歌が主役としての存在感を増し、人情味溢れる暑苦しいまでの熱量と訴求力を持ってステージもフロアも引き上げていくバンドへと進化していた。歌の景色をはみ出してグルーヴしていくバンドサウンドも強化。その熱さに引きこまれ、初めて彼らを観るオーディエンスの手も自然と上がっていく。ラストの「YOUNG」では『いつまでもキッズの気持ちで、音楽を愛していきましょうよ!』という言葉を放ち、エネルギッシュな熱気を残した。

オーディション最後のアクトは、THE COLT GOVERNMENT。ライヴスタートと同時に冷めた鋭さを持つポストロック的なアンサンブルで音の壁を構築し、THE BOSSSの陽性のヴァイブスの余韻が残るフロアをダークな陰影を帯びた鋭利で衝動的な世界へと一変させた。間奏ではギターとベースがアクロバティックなアクションを見せるなど、今日登場した中では最も2000年代後期にこの国のシーンを席巻した攻撃的なギターロックの遺伝子を受け継いでいるバンドだとも言える。まだ原石ながら、ドラマティックな歌メロとソリッドに疾駆するビート、バンドで音をぶつけ合うことで鬱屈とした衝動を昇華していくダイナミクスに、確かな可能性を見ることができるステージだった。

以上でオーディションアクトは終了。会場に詰め掛けたお客さんならびにUSTREAM中継で見守ってくれたWEB上のオーディエンスによる投票が行なわれ、その結果も参照しながら、別室で審査員による協議が行われる。その間、ステージにはゲストアクトのTHE ORAL CIGARETTESが登場。山中拓也(Vo&G)の声帯ポリープ摘出手術のために一時ライヴ活動を休止していた彼らにとって、この日は復帰後初となる記念すべきステージだ。

彼らの原点であるこのMASH FIGHT!からもう一度駆け出していくのだという気迫を漲らせ、けれどそれを空回りさせることなくきっちりと音に落とし込み、エネルギッシュかつストロングな音塊をフロアいっぱいに轟かせていくORAL。この1年はポリープに苦しめられた拓也も、無事に手術も終え、湧き上がる感情そのままに自由に声を放ちながら、時にスリリングに時に艶やかに、そして一貫して嬉しそうに力強い歌を響かせていく。自身がエントリーした2012年のMASH FIGHT!の時点でもステージ上から放たれる音の強度と華は目を見張るものがあったが、その始まりの場所に立ったORALは、やはり当時の何倍も何十倍も成長した姿で堂々と自分達のロックを叩きつけていった。実際にステージに立ったことで様々な想いが蘇ってきたのか、バンドはライヴが進むにつれてどんどんテンションも凄みも上げながら不敵さを増していき、熱狂の渦を生み出していった。「初心というものを取り戻すために、ここに帰ってきたんです」という拓也の言葉通り、2016年1月5日に勝負のアルバム『FIXION』のリリースを控える彼らは、ここで最高の凱旋ライヴにして再出発ライヴを果たしたのだった。

ORALの熱い余韻が残る中、いよいよ結果発表へ。2015年のグランプリに輝いたのは、パノラマパナマタウン! 選考の決め手に関して、審査員から「荒削りながら、爆発的な可能性を感じました。その音楽性はもちろん、ステージに立った時に何かやってくれるんじゃないかという期待を抱かせるオーラを放っていたことも魅力だったし、これから一緒にやっていく中で素晴らしいことが起こるんじゃないかと確信したからです」という言葉が送られた。喜びを表すメンバーに、会場からも温かな拍手が送られた。

また、MASH A&Rは2016年1月1日から5年目のオーディションをスタートさせることを発表した。来年も自分達だけの音楽を鳴らすんだという気概を持った素晴らしい才能との出会いに期待したい。

なお、今回グランプリを獲得したパノラマパナマタウンも出演する「MASH A&R presents MASHROOM 2016」は1月17日(日)、LIQUIDROOM ebisuにて開催。出演はTHE ORAL CIGARETTES、フレデリック、LAMP IN TERREN。こちらもぜひお楽しみに。

Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
「MASH FIGHT! Vol.4」(パノラマパナマタウン)
「MASH FIGHT! Vol.4」(表彰式)
「MASH FIGHT! Vol.4」(THE ORAL CIGARETTES)
「MASH FIGHT! Vol.4」(THE COLT GOVERNMENT)
「MASH FIGHT! Vol.4」(THE BOSSS)
「MASH FIGHT! Vol.4」(TRY TRY NIICHE)
「MASH FIGHT! Vol.4」(Gateballers)
「MASH FIGHT! Vol.4」(Junk Robot)

OKMusic編集部

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