Mom 「続・青春」 Momの新曲が内包する様々な記号、要素。時代やジャンルを越境する異質同体なその魅力を紐解く
Momは現行のアーティストの中で一際ユニークな存在だ。国内フォークなどを思わせる親しみやすいメロディ・センスと、現行ヒップホップとの同時代性と愛を感じさせるエッジーなビートメイク。親しんだTyler, The Creatorなどの海外のラッパーと同じように、フリー・ダウンロード作品を発表して名前を広げていったその足取り。“シンガーソングライター/トラックメイカー”と名乗りつつもラッパーとして語ることも不可能ではないMomは、その生み出した傑作の数々と共に年々その存在感を強烈なものにしていった。
そんなMomが先日リリースした新曲「続・青春」は、穏やかなピアノにノイズを乗せて呟いたイントロから始まる。その後ピアノに乗せて《ロックンロールの自惚れから目覚めたのなら》と歌い始め、アコースティック・ギターの涼しげな音や逆再生の音が絡み、少しの無音の後《ウー、アッ!》というアドリブを挟んでブルース・ハープと硬質なドラムが入ってくる。途中ではノイジーなエレキ・ギターのソロも入り、シャウト気味の発声も聴ける。アウトロには犬の鳴き声(の真似?)や奇妙な喋り声などが配され、不思議な余韻を残している。
こうして要素を一つひとつ抜き出してみると、わかりやすい記号のようなものが大量に並んでいることに気付く。スキット的なイントロはヒップホップの記号であり、歌い始めのラインは“ロックンロール”だ。《ウー、アッ!》というアドリブはChance the Rapperを想起させ、ブルース・ハープはそのままブルースの記号だ。ギター・ソロと共に入ってくるシャウトからはヘヴィー・ミュージックを連想せずにはいられない。こういった複数のジャンルを象徴するような記号をふんだんに盛り込みつつも、それらのどれにも引っ張られ過ぎることはない。MomのTwitterプロフィール「ラッパーでもバンドマンでもないです」通りの1曲だ。