DJ Danger Mouse

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    DJ Danger Mouseディージェイ・デンジャー・マウス

    ナズのアルバム『ゴッズ・サン』のアカペラと自作トラックをミックスさせ、『ゴッズ・ステップサン』というブート・アルバムを作り上げたツワモノ、9thワンダー(リトル・ブラザー)。そのアルバムがアンダーグラウンドでかなり大きな規模のヒットを記録。その噂はN.Y.のキング、ジェイ・Zの耳にも入ることになった(その前にMF・ドゥームらによってブート・リミックスは常套手段となっていたわけだが……)。するとジェイ・Zは自身のラスト・アルバム(と噂される)『ブラック・アルバム』のプロデューサーに9thワンダーを大抜擢。それから9thワンダーのシンデレラ・ストーリーが始まったのである。
    一方でジェイ・Zは、このゆっくりとだがひとつのムーヴメントを築きつつあった“ブート・リミックス”を一種のプロモーション手段として利用しようと考えた。というのも「オレのアルバムのアカペラを自由にこねくりまわしてよし!」というお触れを大々的に発布したのである。これに反応したのが、地下に犇くトラック・メイカー陣。なにせ本人の了承を得たのだから、水を得た魚のごとく楽曲のリミックス/マッシュ・アップに勤しんだわけだ。
    その例に漏れずDJデンジャー・マウスも、である。
    短期間にいったい幾つの(ブート・)リミックス・アルバムがこの世に誕生したのか? バズーカ・ジョー(エイソップ・ロック)にしろ、ジョン・ドーにしろ、ピート・ナイスにしろ、いろいろなメンツが次々にリミックス・アルバムを産出していったわけだが、そのなかでも有名なのがケヴ・ブラウン制作の『ブラウン・アルバム』、そしてDJデンジャー・マウス制作の『グレイ・アルバム』である。
    この『グレイ・アルバム』はビートルズの『ホワイト・アルバム』の音源のみをネタとして使い、その上にジェイ・Z『ブラック・アルバム』のアカペラを被せたイリーガル・リミックス・アルバムである。そのアイディアもさることながら質(クオリティ)においても素晴らしく高い完成度を誇っており、結果、このアルバムはアンダーグラウンドのみならずヒップホップ・シーン全体の話題をかっさらうにまでいたったのである(ビートルズ音源を使った時点で話題性という意味では充分なわけだが)。
    もちろんビートルズ音源を勝手に使うことは許されず、アルバムはすぐさま発禁となったが、デンジャー・マウスの名前は一躍世界的な認知度を獲得。とはいえ、ジェミナイと共作したデビュー・アルバム『ゲトー・ポップ・ライフ』(04年)は大きなヒットになったわけではない……。が、けしてデンジャー・マウスがさらなるキャリア・アップ(とメイク・マネー)に見捨てられたわけではない。なんとブラーのデーモン・アルバーン率いるゴリラズの、ダン・ジ・オートメイターに代わるプロデューサーとして抜擢されたのである。さらにここにきて、US南部が誇るグループ、グッディー・モブの(元)メンバーであるラッパー/シンガーのシー・ローやアングラ界の至宝MF・ドゥームとのコラボ・ユニットの話まで浮上している。さてはて、今後どういった展開を見せていくのか。この“危険なネズミ”デンジャー・マウスの動向に注目だ。