【嘱託殺人】伊勢・女子高生殺人事件
で深まる謎と痕跡を追う

●逮捕された男子生徒は「頼まれた」と供述
 9月28日午後5時10分ごろ、男子生徒が虎尾山の記念碑付近で、女子生徒の左胸を包丁で刺し、殺害した。午後9時45分、波田さんの知人男性から「人が倒れている。心臓マッサージをしている」と119番通報があった。通報したのは、別の高校に通う波田さんの香菜相手(18)。現場には、刃渡り約20センチの包丁が落ちていた。胸には刺し傷があった。

 警察の調べに対して、逮捕された生徒は「頼まれた」と供述しているという。自殺願望のある波田さんが殺害を依頼した可能性があるのだろうか。周囲には波田さんは18歳までに死にたいと漏らしていたという。包丁は自宅から持ち出したというから、以前から殺害を依頼していたのかもしれない。

 波田さんの誕生日は7月2日。そのころ、行方不明になっている。そのとき、友人はインスタグラムで捜索をお願いする書き込みをしている。

<1日の夜中から行方不明になっています。警察にも捜索願を出しているみたいです。名前は波田泉有(みう)ちゃんです。そして地元は松坂の子です。2日誕生日だったらしく、1日の夜に友人にお祝いをしてもらってみんなと別れた後から行方がわからなくなったみたいです....みうちゃんは18歳までに死にたい、と言う自殺願望があったみたいです。そして2日がその18歳の誕生日でした。本当に心配しています>

「18歳までに死にたい」。こうして、期限を決めて自殺をしようとする人も珍しいわけではない。その場合、それに向かっていろいろと準備をするが、中には、自殺をする日を過ぎた別の日に約束を入れている場合も少なくない。「会う予定があったのに、自殺するはずがない」と思う人もいたりするが、遺された側の論理に過ぎない。

 ところで、行方不明のときは、逮捕された生徒とは別の友人といなくなっている。学校側のそのことを把握している。その友人も、波田さんの自殺願望は把握していたのだろう。しかし、波田さんは、なんらかの理由でこの時には自殺をしなかった。一方。自殺ができなかった波田さんは「殺して」と、逮捕された少年に頼んだのだろうか。それとも心中未遂だったのか。

 交際相手と思われるネットの書き込みには、複雑な友人関係になっていた、との内容があるが、真偽は不明だ。

 嘱託殺人で思い出すのは、2001年1月、ネット恋愛の末に、自殺願望のあった主婦を男子高校生が殺害しようとした未遂事件だ。栃木県の私立高校3年生の男子生徒(18)は少年審判の過程で、主婦から殺害を依頼されたことを告白。「あなたが殺さなくても、プロに頼むから」と言われていたことがわかった。主婦は親の介護疲れからか、自殺願望を抱いていた。恋愛感情の末に、相手の願望を叶えるかのような行為だったのだろうか。

 2007年10月、川崎市在住の女性(当時21)が殺害された。神奈川県警は、すでに麻薬特例法違反で逮捕されていた千葉県市原市の男(33)を再逮捕した。男は「デスパ」を名乗り、掲示板を開設。何でも屋をしていた。女性は自殺願望があり、「死ねる薬」を依頼していた。料金は20万円。デスパが与えた「死ねる薬」では死なないものだったため、ビニール袋をかぶって口元を縛るようにいい、デスパは首元を締めて殺害した。この女性の場合、デスパには何の感情もない。

 2014年4月、島根県警松江署は、インターネットで知り合った無職の男性(当時31)を殺害したとして、名古屋市に住む女子大生(18)を嘱託殺人の疑いで逮捕した。1日深夜から2日早朝にかけて、岡田さんの祖父が所有する松江市内の空き家で、岡田さんの殺害した。少女は「殺してくれと頼まれ、首を絞めた」と供述。少女は母親に「ネットで知り合った男性に会いに行く」と言っていた。このときは、室内に練炭があったことから、恋愛感情のようなものはないが、ネット心中未遂ではないかと思われる。

 14年11月、千葉県茂原市で、足の痛みを訴えていた女性(当時83)を夫の男(93)が殺害した。女性からの依頼だった。千葉地裁は「短絡的な犯行」としたが、「愛情故の犯行だったことを疑う余地はない」「60年以上連れ添った妻を自ら手にかけることを決断せざるを得なかった被告の苦痛は道場を禁じ得ない」として、懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡した。これは、病気を苦にした希死念慮があった妻を、愛情を持って殺害したケースだ。

 一緒に死ぬという「心中」については、一見、恋愛感情か、それに似た感情を持っている者同士でするというイメージが強いが、必ずしもそうではない。

 私は自殺願望を持つ人たちを取材している。友人としての距離感にかかわらず、「一緒に死にたい」相手と、「殺してほしい」相手。そして、「一緒には死にたくない」相手、といった感覚を持っている持つ人たちがいる。自殺願望があり、恋人がにいたとしても、別の人と「一緒に死にたい」相手がいたり、逆に、「この人だけは死んでほしくない」と思ったりする。むしろ、恋人だからこそ、「心配かけたくない」と、自殺願望を打ち明けないといったこともある。

 119番通報をしたのは交際相手だったが、波田さんは殺害依頼の相手にしなかったということは、交際相手を巻き込みたくなかったのだろうか。それとも、依頼はされたが、交際相手が断ったのだろうか。そのあたりは今後、わかってくるかもしれない。

 学校の対応もベストどころか、ベターとも言えません。行方不明だった波田さんが見つかったあと、波田さんが通っていた高校の校長が会見をしている。学校によると、波田さんは勉強熱心で成績は学級でトップ。演劇部に所属し、看護系の専門学校への進学を希望していた。ただ、担任との面談で「自分なんか生きていても価値がない」とこぼすなど、劣等感の強い面もあったという。

 生きづらさを抱えた少年少女の中には、成績がよく、校内での立場が一見よい場合、例えば生徒会長をしているといった人も少なからずいる。そして、周囲とは適用できていると思われたりする。将来への希望を語ることもできたりする。「死にたい」という本心を悟られないように、「良い子」の仮面をかぶっていたりする。波田さんも、そうした過剰適応な面があったのかもしれない。

 また、7月に家出した時には「自殺しようと思った」と後で打ち明けたという。校長らとの面談では「友人と家族に迷惑をかけた。もう心配かけることはしない」と反省していたという。この時点が、メンタルヘルスの観点でサポートするとか、自殺願望を軽減するようなことをできるチャンスだったが、特別なサポートがあったようには思われない。校長もそれをわかっているのか、「この一ヶ月間の見守り不足は歪めない」と悔やんだ。

Written by 渋井哲也

Photo by TerryChen - Blooming Beauty

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