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テレビを見なくなってから10年以上の月日が経つが、年末から年明けにかけて大量に流されていたGYAO!のCMには驚いた。映像自体は今をときめくJ-POPアーティストの面々なのだが、後で流れている音源がblurの「Song 2」だったのだ。まるでWindows95のCM(THE ROLLING STONESの「Start Me Up」が使われていた)のような耳を奪われるインパクト!
でも何故、今「Song 2」なのだろう? おそらくは90年代のいわゆる“ブリット・ポップ”ブームを経験したCMクリエイターによる思い入れの選曲だろうと思い、問い合わせてみると違っていていた。“GYAO!のメジャー感とインパクト、登場感と宣言トーンの空気感などを綿密に計算して起用した”との事だそうだ。

確かに「Song 2」の“Woohoo~!”と繰り返されるあのサビのインパクトは絶大だ。マリンスタジアムにしろ、武道館にしても。この曲でのオーディエンスのシンガロングは彼等のライブのハイライトでもある。しかしながら一方でこの曲はblurの代表曲のひとつでありながら、彼等のレパートリーの中ではどちらかというと異質な作品でもあった。曲タイトル(実際にアルバムの2曲目に収録されている)に始まり、リフ、歌詞と全てが極めてシンプル、というかほとんど意味を成してない。フロントマンのデーモン・アルバーンはデビュー当初から、ポップソングに意味を求めることをシニカルに語っていたが、ここまでシンプルにナンセンスに徹したナンバーは97年のリリース時には大きな驚きを持って迎えられたものだった。「Song 2」はアルバム『blur』からのセカンドシングルとして、結果、バンド自身のアメリカでのブレイクをもたらすことになるのだが、果たして世界中で受け入れられたこの曲の魅力とは一体、何なのだろうか?

ギターがあれば試しに弾いてみるといい。2本指で簡単に弾けるリフだが、初心者でも思わず身体を揺らしてしまうほどの強烈な“躍動”が潜んでいる。そして、今度は“Woohoo~!”と叫んでみよう。言葉を超えた雄叫びに沸き上がる自らの衝動を感ぜずには居られないだろう。この“躍動”と“衝動”こそが、この曲の最大の魅力だ。噂によると、作曲には1時間もかからなかったらしい。それはこの曲が“作曲された”ものではなく、なんらかのきっかけでメンバーに“降りてきた”ものである何よりの証でもある。名曲の多くがふとしたひめきで書き上げられるように、この曲もまた音楽の女神から与えられたインスピレーションの原型をととどめる奇跡の一曲といっていい。“躍動”と“衝動”という音楽の素の力が世界中の人々にとってこの曲を特別にしている理由だと思う。

現在、CMのオンエアーを受けて「Song 2」のダウンロード数が飛躍的に伸びているそうだ。blurを知らない若い世代がこの奇跡の曲を体感してくれるのは何よりだと思う。そして、そう考えてみると、楽曲のインパクトを重視したというGYAO!のCM起用は見事な選球眼だと言える。頭で考えるよりも前に先ず身体で「Song 2」の“躍動”と“衝動”の魅力に浸って欲しい。

TEXT:藤井哲夫
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アルバム『The Best Of 』

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