INTERVIEW / Monthly Mu & New Cale
donia新たなスタンスを掲げるMMNC。
新章に突入した4人の現在地 新たなス
タンスを掲げるMMNC。新章に突入した
4人の現在地

Monthly Mu & New Caledoniaのインタビュー企画、後編はバンドの新しいフェイズを紐解く全員取材である。2月に行ったワンマンライブを機に、自身らの核となるものを見つめ直したという彼ら。曲ごとにサウンドの主役や音楽性を変えていくことを楽しんできたバンドだが、今後は門口夢大(Vo.)の言葉とメロディを中心に、メンバーたちが音楽的な彩りを与えていくような創作へとシフトしたという。いわばバンドの心臓となる“聴かせたい歌”を、前景化させていくのが今後のMMNCの音楽なのだろう。
すでにリリースされている「愛されたいよ」と「涙」、そして7月発表の「Rollin’」と、3ヶ月連続での新曲リリースを行っているMMNC。彼らは来るべきアルバム・リリースに向けて動き出しており、本取材では3つの新曲の制作背景を紐解きながら、2023年の創作のモードに迫ってみた。
Interview & Text by Ryutaro Kuroda(https://twitter.com/KURODARyutaro)
Photo by fukumaru(https://www.instagram.com/fkdmnm_08/)
Hair & Make-up:Komomo Satou
新たに固めた作曲の優先順位
――2月には初のワンマン・ライブを行いましたね。
門口夢大(Vo.):マンスリーはいろんな人を巻き込んでデカくなっていくバンドなんだなって思いました。マンスリーのために何かやりたいと思ってくれているやつらと、一緒にひとつのモノを作れたのがよかったです。あと、ステージ・セットは龍行が中心になって作ったんですけど、インディであそこまでやる人はなかなかいないんじゃないかなと思います。
――ステージ演出は鈴木さんのこだわりなんですね。
鈴木龍行(Gt.):主催イベントをやることは、僕の中では楽曲を作ることと同じくらいプライオリティが高いことなんです。これだけコンテンツが溢れている世の中で、ライブに来てくれた人をどうやって楽しませるかって考えたら、サウンドという要素だけでは僕は弱いと思うんです。
――なるほど。
鈴木:もちろん僕らの核になるのは音楽なんだけど、そこで伝えたいストーリーを、視覚でも楽しめたらいいなって思うんですよね。だからステージに立つときの衣装やヘアスタイルも大事ですし、どういう空間で演奏するかもちゃんと考えたくて。そこは最初のワンマンでも一切手を抜きたくなかったです。
――演奏やステージングは充実したものだったんじゃないかと思いますが、一方で「何がしたいのかわからない」という意見も受け取ったそうですね。
若林達人(Gt.):それでみんなで今後のことを話し合って、曲を作るときの一番の優先順位を夢大に置くことにしました。夢大の歌詞を絶対に崩さないし、出されたメロディに対して、サウンドで味付けをしていくという考え方に変えたんですよね。
――つまり楽曲の中心になるものを決めたと。
若林:そうです。そして、サウンド面でもとっ散らかったところがあったんですけど、ちょっとだけ絞っていくようにしました。
――でも、マンスリーはバラエティの豊さを個性にしてきたところもありますよね。
鈴木:それが自分たちのサウンドだと思うし、そこは崩したくなくて。ただ、僕たちがやりたいことをやっても、それが理解しにくかったら意味ないなとは思いました。夢大が伝えたいことが、聴いている人とのコミュニケーションの軸になる部分だと思うので、そこはしっかり伝わるようにしたい。その上でおもしろいことをやるのが、今後の制作になっていくのかなって思います。
――3つの新曲は、そういうことを踏まえて作ったものなんですね。
鈴木:そうですね。「愛されたいよ」は主役が夢大ということを大事にして作った曲で、それは今までと全然違うスタンスなんです。過去にも似たようなアプローチをした曲はあって、そのときはベースやギター、ドラムを前に出したりしていたけど、今回はそういうことはなくて。カッティング・ギターを入れるときも、彼の色を潰さないことを念頭に置きました。
門口:あと、歌詞の面でもやらないことを決めたというか。これからは自分が経験したことや、自分が見ている景色しか書かないつもりです。「愛されたいよ」で言えば、これまでだったら恋愛の話として書いてたと思うんですけど、自分が歌うならそうじゃないよなと思って。“相手に愛されたい”のではなく、他人の目ばかり気にせずに、“自分が好きな自分でいたい”っていうことを書きました。
――楽曲としては、タメの効いたファンクが久々に出てきた印象です。
若林:最初に龍行からトラックをもらったんですけど、その段階で結構ノリがよくて。アッパーなファンクという印象だったから、そのまま明るめの曲を作ろうと思いました。
――ベースで意識したことはありますか?
小笹龍華(Ba.):最近は曲の元ネタを聞かないようにしているんです。というのも、それを聞いちゃうとご機嫌を伺うようなものを作るしかなくなっちゃうんですよね。なので「愛されたいよ」は自分の中で敢えて空耳を狙って、星野源の「SUN」から少し拝借したり、Vulfpeckの音をイメージしながら形にしていきました。
――鈴木さんは曲に対してどんなイメージを持ってました?
鈴木:デモで歌ってるときに夢大が軽快に踊っていたんですけど、それがいい意味で絶妙にダサかったんです。
若林:(笑)。
鈴木:そこで僕が感じたのは、80’sの日本のアイドルでした。レトロで可愛いんだけど、今見るとちょっとコミカルみたいな。そういうイメージが浮かんできて、サウンドもそっちに近づけていきましたね。
門口:カッコつけられないんですよね。どう頑張っても僕は常田大希さんにはなれないんですよ。だから自分を出すしかないというか、そしてそれは大事なことだと思っています。自分が出てる人って、ダサくてもカッコよく見える瞬間があるじゃないですか。
――「涙」は門口さんのパーソナルな部分が出ている曲だと思います。
若林:そうですよね。この曲は門口夢大、濃縮還元100%という感じです。
“陽気”と“悲哀”が表裏一体──3人からみた夢大の個性
――3人は門口さんらしさってどんなところにあると思いますか?
小笹:僕は彼が書く歌詞は、駅前にいるおじさんと同じだと思っているんですよ。
――哀愁が漂っているということですか?
小笹:表裏一体なんですよね。西小山に住んでいたとき、仕事に行こうとすると朝からぐでんぐでんに飲んでるおっさんがいたんですけど、それを陽気だと捉えることも、悲哀と捉えることもできるわけです。門口の世界はマーブル模様の全部があって、彼を通して世界を見てるというか、彼はひとつの鏡なんですよね。だからこそ、「愛されたいよ」や「涙」を聴くと、自分自身についても考えさせられるというか。
――なるほど。
鈴木:僕は夢大らしさって、誰かに対して語りかけているところだと思います。でも、それが押し付けがましくないんですよね。
若林:あと、彼は「明日も頑張ろう」じゃなくて、「明日もがんばらなきゃいけないよな……」というテンションなんですよ。
――ちょっとため息混じりなんですね。
若林:そうです。でも、それが夢大らしいし、生活の中でそう思っている人は多い気がして。だから夢大の言葉は共感を得られるんじゃないかなと思います。あと、「涙」はヒップホップ調の曲なんですけど、韻を踏めているようで踏めていないところも、彼っぽいなと思います。
――前半の《時間》を繰り返すところですか?
若林:そう! まさにそこなんですよ。《時間》って3回言っているだけやんって(笑)。
門口:(笑)。いや、でも、自分はラップをやりたいとは思っていないんですよね。自分がやっているのはフォークだと思っているから。
――なぜ「涙」というタイトルをつけたんですか?
門口:大人になるほど、泣けない場面って多いんじゃないかなと思って。そういう人が聴いたときに、素直に泣けるような曲があればいいなぁと思ってつけました。あと、やっぱりこれくらいの年齢になると、みんなそれぞれ環境の変化があって。たとえば結婚したり子供が生まれたりして、自分がやっていたことを諦めたり、次の道に進んでいくことってありますよね。でも、音楽って景色を共有できるものだと思うので、これを聴いた仲間たちが頑張れるきっかけになればいいなと思っています。
――《働くあなたに届けたい/家事をするあなたに届けたい/介護するあなたに届けたい/あなたに向けて歌ってたい》という歌詞が、この曲の心臓だと思います。そしてここで歌われている“あなた”って、みんな誰かを支えている人たちですし、必ずしもスポットライトが当たるわけではない役割をこなしている人たちでもありますよね。
門口:そういう人にスポットを当てたい気持ちはありますね。あと、歌う相手を限定したくなくて、そうしたらこのワードが出てきました。
鈴木:日々やっている仕事が誰にも見られていないんじゃないかと思うことは、自分にもあるんですよね。このパートを作ったときに友だちの顔が浮かんできたんですよ。それくらい距離感が近い曲だと思っていて、そこがすごく好きです。
――間奏から後半にかけてのギターは凄くエモーショナルですね。
鈴木:そこは結構大事にしているところです。辛いことがあったら泣いてもいいんだよって歌ってて、それはすごく理解できるんですけど。泣くだけじゃやり切れない気持ちもあるよなあって思うんですよね。曲がすんなり終わるとその気持ちが浮かばれないと思うので、どっかに抱えているピリッとした部分を、楽曲の中でも出そうとしました。
――小笹さんはベースで意識したことはありますか?
小笹:ぶっちゃけこの曲、ベースの印象ってありました?
――「Rollin’」のようなドライブしていくサウンドと比べると、あまり印象がないですね。
小笹:そうなんですよ。「涙」は試行錯誤した結果ベースは白玉(全音符)に落ち着いて……最初は「なんだこのクソみたいな曲は」と思ったんですけど(笑)。
鈴木:録ってるときは相当ピリつきましたね。(フレーズを)持ってきてくれるんですけど、「もっと減らして」の連続で。
小笹:途中から顔が死んでました。
若林:何もしないもんね(笑)。
小笹:レコーディング風景を見て欲しいくらいですね。ただ、この3日間くらいで感じたことなんですけど、さっきの話にもあったように、世の中には日の目の当たらない人がたくさんいるわけじゃないですか。逆に言うと、日の目が当たる必要のない人もいるわけですよ。
門口:そこをベースで伝えてたの?(笑)。
小笹:そう思うようにしてる(笑)。この曲の世界観を自分が代表してやっていると思えば、それは充分意義があることだと思いました。
――それで言うと「Rollin’」は、ベースが疾走感を生み出していますよね。
小笹:「Rollin’」は心の中にくるりの佐藤さんを置いて、目立つけど目立たないようなベースを意識しました。曲の世界観や歌詞には、夏の昼に電車や自転車が疾走していくようなイメージがあったので、それに寄り添えるベース・ラインにしたいと思いましたね。
――マンスリーの中でも、とりわけ爽やかな曲になっていると思います。
若林:龍行が作ったデモに夢大が歌を乗せて、それから僕がアレンジをしたんですけど、歌詞ができてアレンジをしていくところでガラッと変わりました。そのタイミングで湿気が減ったと思います。
――ということは、デモの段階では湿っぽい曲だったんですね?
鈴木:じめじめでした。
若林:UKインディみたいな感じでしたね。
鈴木:デモを作ったのはコロナ禍の緊急事態宣言のときで、家でごろごろしながら作ったから「Rollin’」なんですけど。当時、卒業式ができませんとか、家族が亡くなっても立ち会えませんとか、そういうニュースを見たときに、人生の区切りにちゃんと言葉にして伝えることができなかった想いって、後々ずっと残るなって思ったんですよね。作曲はそういう思いから始まったので、最初はじめっとした空気がありました。
――なるほど。
鈴木:だから「Rollin’」は別れの歌なんです。曲としてはドライブ感があるんですけど、僕は最終の電車が行っちゃう3分前みたいな、後ろから迫ってくる忙しい感じに捉えています。
――門口さんは歌詞で意識したことはありますか?
門口:AメロのフックやBメロの《エンドロールが流れてしまう》のところは、龍行とふたりでやってるときにできてきたんですけど。それから肉付けをしていくときに、やっぱり自分が思ってる景色を歌いたいと思いましたね。就職するときに好きだった女の子がいるんですけど、その人は大阪に就職して、僕は東京に行くことになって。最後に名古屋駅で会ったときのことを思い浮かべて書きました。
――そしてその歌詞ができた後、アレンジでこの音像になったと。
若林:昔の人のことをふと思うのって、開けた場所に行ったときだと思うんですよね。それで自分の中では、淡い色合いのお花畑の画が浮かんできて。海っぽい印象もあったから、そういうイメージを表現できたらいいなと思っている内に、このサウンドになりました。
――「愛されたいよ」の《かまわずGoing》という歌詞や、「Rollin’」のサウンドからは、どこかロックンロール的な推進力を感じました。
鈴木:バンドの置かれている状況にも近い気がしますね。今年はアルバムを出そうと思っているので、そこに向けてどんどんスピードを上げていく。そうやって前に進んでいく感じが、今のマンスリーにはあるのかなって思います。
門口:今言われてみて、もっとそういう曲をやりたくなりました(笑)。サニーデイ・サービスの最新アルバム『Doki Doki』にめちゃめちゃ喰らったので、エイトビートの曲をやりたいですね。推進力があって突き進んでいく感じ、すごくいいなと思います。
加速するバンドの今後
――初のアルバム、楽しみです。作品で目指していることや、やってみたいことはありますか?
小笹:僕はふたつあって、まずはいろんなドラマーさんに出会いたい。今サポートして下さっている、彦坂さんが素晴らしいドラマーであることは大前提なんですけど。まだ見ぬドラマーさんと出会い、自分たちの開けていない箱を開けることで、どんな音楽ができるのかすごく楽しみです。
――もうひとつは?
小笹:手応えみたいなものなんですけど、僕らの楽曲は以前はプレイリストのような感じだったんですけど、今はスティーヴン・キングの世界みたいに、それぞれの曲がひとつの街の中で起きている出来事のように感じているんですよね。特に新曲はマンスリー村の中で起きている、3つの事象のように僕は感じていて。アルバムでもそれができたら、もっとこの村の世界観を色濃くできると思うし、いろんな人が聴きにきてくれるんじゃないかなと思います。
――若林さんはどうですか?
若林:いい曲だなぁって思える曲を作りたいです。(再生回数が)回るとか回らんとか、売れるとか売れないとかじゃなくて、自分が納得できる曲を作りたい。「Rollin’」ができたタイミングから、スタジオに入るのがすごく楽しいんですよね。それってある種の到達点というか、今までも達成感を得られた曲は何曲かあるんですけど、スタジオやライブでやっていて楽しいかと言われたらちょっと違っていて。難しかったり、どう表現しようかなって悩んでいたんですよね。
――なるほど。
若林:でも、「Rollin’」は気持ちがいいし、バンドでやってて楽しいんです。そんな曲が集まったらすごくいいアルバムになると思うので、そこを目指していきたいです。
門口:僕は今まであんまり恋愛をテーマに曲を作ってこなかったんですけど……最近はそこが目まぐるしくてですね。
――ご自身の生活の中で?
門口:そうですそうです。
若林:(笑)。
門口:みんなは大体、いけそうかなぁっていうものに喰らいつくじゃないですか。でも、自分はそういうのが全く無理で。10戦したら1勝できるかできないか、みたいな戦いを挑み続けてしまうんですよ。
鈴木:(笑)。
門口:そこで出てきた恋愛のテーマが大量にあるんですよね。ソロ・インタビューでもお話した雨の中のコインランドリーの出来事とか、そういうことを形にしたいなって思います。
――そして6月には、自身が主催するツーマン・ツアー『PANGAIA』が控えています。呼んでいる方たちはみな、バラバラの個性を持ったアーティストたちですね。
鈴木:イベントは個人的にもバンドとしても大事にしているものですし、そこでどういう体験設計ができるかっていうのがすごく大切なんですよね。今回はツーマン・ライブなので、イベントを観に来てくれた人たちで、横の繋がりが広がったらいいなと思っています。大人になると、人と出会う機会を作るのって難しいじゃないですか。
――わかります。
鈴木:場を設けてたとしても、話しづらかったりしますよね。でも、音楽ってそういうときにキーワードになるものだと思うから。人と人が出会える場所を作るのを目標に、実現可能なラインでバラバラな人たちを呼んでみました。
小笹:『PANGAIA』は今のように大陸が分かれる前の、まだひとつだったときの大陸の名前のことなんですけど。それにちなんで、別々の大陸の人がまた交流できればいいな、という裏設定があります。なのでお三方とも、実は過去に接点があるんです。たとえばペンギンラッシュは昔門口が名古屋で共演していたり、NIKO NIKO TAN TANとは2020年に配信でスリーマン・ライブをやったし、a子さんは2019年の『出れサマ』(出れんの!? サマソニ!?)で並びが1個手前だったんです。大人になってから関わるときって、「実は……」っていうことが多いので、そういうのもひとつのギミックとして込めています。
鈴木:タイトルにはあと10個ぐらい重要な意味があるんですけど、全部知っちゃうとつまらないと思うので、残りはご想像にお任せします。ぜひ皆さんに遊びに来て欲しいです。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://MMNC.lnk.to/i9Xahy)
【イベント情報】

日時:2023年6月9日(金) OPEN 18:30 / START 19:00

会場:東京・下北沢ADRIFT
料金:ADV. ¥3,800 (1D代別途)
出演:
Monthly Mu & New Caledonia
a子

日時:2023年6月13日(火) OPEN 18:30 / START 19:00

会場:大阪・梅田Zeela
料金:ADV. ¥3,800 (1D代別途)
出演:
Monthly Mu & New Caledonia
NIKO NIKO TAN TAN

日時:2023年6月14日(水) OPEN 18:30 / START 19:00

会場:愛知・名古屋UPSET
料金:ADV. ¥3,800 (1D代別途)
出演:
Monthly Mu & New Caledonia
ペンギンラッシュ

[問い合わせ]

東京公演:HOT STUFF PROMOTION 050-5211-6077
大阪公演:YUMEBANCHI(大阪) 06-6341-3525(平日12:00~17:00)
愛知公演:JAILHOUSE 052-936-6041
■ Monthly Mu & New Caledonia オフィシャル・サイト(https://mmnc.jp)
Monthly Mu & New Caledoniaのインタビュー企画、後編はバンドの新しいフェイズを紐解く全員取材である。2月に行ったワンマンライブを機に、自身らの核となるものを見つめ直したという彼ら。曲ごとにサウンドの主役や音楽性を変えていくことを楽しんできたバンドだが、今後は門口夢大(Vo.)の言葉とメロディを中心に、メンバーたちが音楽的な彩りを与えていくような創作へとシフトしたという。いわばバンドの心臓となる“聴かせたい歌”を、前景化させていくのが今後のMMNCの音楽なのだろう。
すでにリリースされている「愛されたいよ」と「涙」、そして7月発表の「Rollin’」と、3ヶ月連続での新曲リリースを行っているMMNC。彼らは来るべきアルバム・リリースに向けて動き出しており、本取材では3つの新曲の制作背景を紐解きながら、2023年の創作のモードに迫ってみた。

Interview & Text by Ryutaro Kuroda

Photo by fukumaru(https://www.instagram.com/fkdmnm_08/)
Hair & Make-up:Komomo Satou
新たに固めた作曲の優先順位
――2月には初のワンマン・ライブを行いましたね。
門口夢大(Vo.):マンスリーはいろんな人を巻き込んでデカくなっていくバンドなんだなって思いました。マンスリーのために何かやりたいと思ってくれているやつらと、一緒にひとつのモノを作れたのがよかったです。あと、ステージ・セットは龍行が中心になって作ったんですけど、インディであそこまでやる人はなかなかいないんじゃないかなと思います。
――ステージ演出は鈴木さんのこだわりなんですね。
鈴木龍行(Gt.):主催イベントをやることは、僕の中では楽曲を作ることと同じくらいプライオリティが高いことなんです。これだけコンテンツが溢れている世の中で、ライブに来てくれた人をどうやって楽しませるかって考えたら、サウンドという要素だけでは僕は弱いと思うんです。
――なるほど。
鈴木:もちろん僕らの核になるのは音楽なんだけど、そこで伝えたいストーリーを、視覚でも楽しめたらいいなって思うんですよね。だからステージに立つときの衣装やヘアスタイルも大事ですし、どういう空間で演奏するかもちゃんと考えたくて。そこは最初のワンマンでも一切手を抜きたくなかったです。
――演奏やステージングは充実したものだったんじゃないかと思いますが、一方で「何がしたいのかわからない」という意見も受け取ったそうですね。
若林達人(Gt.):それでみんなで今後のことを話し合って、曲を作るときの一番の優先順位を夢大に置くことにしました。夢大の歌詞を絶対に崩さないし、出されたメロディに対して、サウンドで味付けをしていくという考え方に変えたんですよね。
――つまり楽曲の中心になるものを決めたと。
若林:そうです。そして、サウンド面でもとっ散らかったところがあったんですけど、ちょっとだけ絞っていくようにしました。
――でも、マンスリーはバラエティの豊さを個性にしてきたところもありますよね。
鈴木:それが自分たちのサウンドだと思うし、そこは崩したくなくて。ただ、僕たちがやりたいことをやっても、それが理解しにくかったら意味ないなとは思いました。夢大が伝えたいことが、聴いている人とのコミュニケーションの軸になる部分だと思うので、そこはしっかり伝わるようにしたい。その上でおもしろいことをやるのが、今後の制作になっていくのかなって思います。
――3つの新曲は、そういうことを踏まえて作ったものなんですね。
鈴木:そうですね。「愛されたいよ」は主役が夢大ということを大事にして作った曲で、それは今までと全然違うスタンスなんです。過去にも似たようなアプローチをした曲はあって、そのときはベースやギター、ドラムを前に出したりしていたけど、今回はそういうことはなくて。カッティング・ギターを入れるときも、彼の色を潰さないことを念頭に置きました。
門口:あと、歌詞の面でもやらないことを決めたというか。これからは自分が経験したことや、自分が見ている景色しか書かないつもりです。「愛されたいよ」で言えば、これまでだったら恋愛の話として書いてたと思うんですけど、自分が歌うならそうじゃないよなと思って。“相手に愛されたい”のではなく、他人の目ばかり気にせずに、“自分が好きな自分でいたい”っていうことを書きました。
――楽曲としては、タメの効いたファンクが久々に出てきた印象です。
若林:最初に龍行からトラックをもらったんですけど、その段階で結構ノリがよくて。アッパーなファンクという印象だったから、そのまま明るめの曲を作ろうと思いました。
――ベースで意識したことはありますか?
小笹龍華(Ba.):最近は曲の元ネタを聞かないようにしているんです。というのも、それを聞いちゃうとご機嫌を伺うようなものを作るしかなくなっちゃうんですよね。なので「愛されたいよ」は自分の中で敢えて空耳を狙って、星野源の「SUN」から少し拝借したり、Vulfpeckの音をイメージしながら形にしていきました。
――鈴木さんは曲に対してどんなイメージを持ってました?
鈴木:デモで歌ってるときに夢大が軽快に踊っていたんですけど、それがいい意味で絶妙にダサかったんです。
若林:(笑)。
鈴木:そこで僕が感じたのは、80’sの日本のアイドルでした。レトロで可愛いんだけど、今見るとちょっとコミカルみたいな。そういうイメージが浮かんできて、サウンドもそっちに近づけていきましたね。
門口:カッコつけられないんですよね。どう頑張っても僕は常田大希さんにはなれないんですよ。だから自分を出すしかないというか、そしてそれは大事なことだと思っています。自分が出てる人って、ダサくてもカッコよく見える瞬間があるじゃないですか。
――「涙」は門口さんのパーソナルな部分が出ている曲だと思います。
若林:そうですよね。この曲は門口夢大、濃縮還元100%という感じです。
“陽気”と“悲哀”が表裏一体──3人からみた夢大の個性
――3人は門口さんらしさってどんなところにあると思いますか?
小笹:僕は彼が書く歌詞は、駅前にいるおじさんと同じだと思っているんですよ。
――哀愁が漂っているということですか?
小笹:表裏一体なんですよね。西小山に住んでいたとき、仕事に行こうとすると朝からぐでんぐでんに飲んでるおっさんがいたんですけど、それを陽気だと捉えることも、悲哀と捉えることもできるわけです。門口の世界はマーブル模様の全部があって、彼を通して世界を見てるというか、彼はひとつの鏡なんですよね。だからこそ、「愛されたいよ」や「涙」を聴くと、自分自身についても考えさせられるというか。
――なるほど。
鈴木:僕は夢大らしさって、誰かに対して語りかけているところだと思います。でも、それが押し付けがましくないんですよね。
若林:あと、彼は「明日も頑張ろう」じゃなくて、「明日もがんばらなきゃいけないよな……」というテンションなんですよ。
――ちょっとため息混じりなんですね。
若林:そうです。でも、それが夢大らしいし、生活の中でそう思っている人は多い気がして。だから夢大の言葉は共感を得られるんじゃないかなと思います。あと、「涙」はヒップホップ調の曲なんですけど、韻を踏めているようで踏めていないところも、彼っぽいなと思います。
――前半の《時間》を繰り返すところですか?
若林:そう! まさにそこなんですよ。《時間》って3回言っているだけやんって(笑)。
門口:(笑)。いや、でも、自分はラップをやりたいとは思っていないんですよね。自分がやっているのはフォークだと思っているから。
――なぜ「涙」というタイトルをつけたんですか?
門口:大人になるほど、泣けない場面って多いんじゃないかなと思って。そういう人が聴いたときに、素直に泣けるような曲があればいいなぁと思ってつけました。あと、やっぱりこれくらいの年齢になると、みんなそれぞれ環境の変化があって。たとえば結婚したり子供が生まれたりして、自分がやっていたことを諦めたり、次の道に進んでいくことってありますよね。でも、音楽って景色を共有できるものだと思うので、これを聴いた仲間たちが頑張れるきっかけになればいいなと思っています。
――《働くあなたに届けたい/家事をするあなたに届けたい/介護するあなたに届けたい/あなたに向けて歌ってたい》という歌詞が、この曲の心臓だと思います。そしてここで歌われている“あなた”って、みんな誰かを支えている人たちですし、必ずしもスポットライトが当たるわけではない役割をこなしている人たちでもありますよね。
門口:そういう人にスポットを当てたい気持ちはありますね。あと、歌う相手を限定したくなくて、そうしたらこのワードが出てきました。
鈴木:日々やっている仕事が誰にも見られていないんじゃないかと思うことは、自分にもあるんですよね。このパートを作ったときに友だちの顔が浮かんできたんですよ。それくらい距離感が近い曲だと思っていて、そこがすごく好きです。
――間奏から後半にかけてのギターは凄くエモーショナルですね。
鈴木:そこは結構大事にしているところです。辛いことがあったら泣いてもいいんだよって歌ってて、それはすごく理解できるんですけど。泣くだけじゃやり切れない気持ちもあるよなあって思うんですよね。曲がすんなり終わるとその気持ちが浮かばれないと思うので、どっかに抱えているピリッとした部分を、楽曲の中でも出そうとしました。
――小笹さんはベースで意識したことはありますか?
小笹:ぶっちゃけこの曲、ベースの印象ってありました?
――「Rollin’」のようなドライブしていくサウンドと比べると、あまり印象がないですね。
小笹:そうなんですよ。「涙」は試行錯誤した結果ベースは白玉(全音符)に落ち着いて……最初は「なんだこのクソみたいな曲は」と思ったんですけど(笑)。
鈴木:録ってるときは相当ピリつきましたね。(フレーズを)持ってきてくれるんですけど、「もっと減らして」の連続で。
小笹:途中から顔が死んでました。
若林:何もしないもんね(笑)。
小笹:レコーディング風景を見て欲しいくらいですね。ただ、この3日間くらいで感じたことなんですけど、さっきの話にもあったように、世の中には日の目の当たらない人がたくさんいるわけじゃないですか。逆に言うと、日の目が当たる必要のない人もいるわけですよ。
門口:そこをベースで伝えてたの?(笑)。
小笹:そう思うようにしてる(笑)。この曲の世界観を自分が代表してやっていると思えば、それは充分意義があることだと思いました。
――それで言うと「Rollin’」は、ベースが疾走感を生み出していますよね。
小笹:「Rollin’」は心の中にくるりの佐藤さんを置いて、目立つけど目立たないようなベースを意識しました。曲の世界観や歌詞には、夏の昼に電車や自転車が疾走していくようなイメージがあったので、それに寄り添えるベース・ラインにしたいと思いましたね。
――マンスリーの中でも、とりわけ爽やかな曲になっていると思います。
若林:龍行が作ったデモに夢大が歌を乗せて、それから僕がアレンジをしたんですけど、歌詞ができてアレンジをしていくところでガラッと変わりました。そのタイミングで湿気が減ったと思います。
――ということは、デモの段階では湿っぽい曲だったんですね?
鈴木:じめじめでした。
若林:UKインディみたいな感じでしたね。
鈴木:デモを作ったのはコロナ禍の緊急事態宣言のときで、家でごろごろしながら作ったから「Rollin’」なんですけど。当時、卒業式ができませんとか、家族が亡くなっても立ち会えませんとか、そういうニュースを見たときに、人生の区切りにちゃんと言葉にして伝えることができなかった想いって、後々ずっと残るなって思ったんですよね。作曲はそういう思いから始まったので、最初はじめっとした空気がありました。
――なるほど。
鈴木:だから「Rollin’」は別れの歌なんです。曲としてはドライブ感があるんですけど、僕は最終の電車が行っちゃう3分前みたいな、後ろから迫ってくる忙しい感じに捉えています。
――門口さんは歌詞で意識したことはありますか?
門口:AメロのフックやBメロの《エンドロールが流れてしまう》のところは、龍行とふたりでやってるときにできてきたんですけど。それから肉付けをしていくときに、やっぱり自分が思ってる景色を歌いたいと思いましたね。就職するときに好きだった女の子がいるんですけど、その人は大阪に就職して、僕は東京に行くことになって。最後に名古屋駅で会ったときのことを思い浮かべて書きました。
――そしてその歌詞ができた後、アレンジでこの音像になったと。
若林:昔の人のことをふと思うのって、開けた場所に行ったときだと思うんですよね。それで自分の中では、淡い色合いのお花畑の画が浮かんできて。海っぽい印象もあったから、そういうイメージを表現できたらいいなと思っている内に、このサウンドになりました。
――「愛されたいよ」の《かまわずGoing》という歌詞や、「Rollin’」のサウンドからは、どこかロックンロール的な推進力を感じました。
鈴木:バンドの置かれている状況にも近い気がしますね。今年はアルバムを出そうと思っているので、そこに向けてどんどんスピードを上げていく。そうやって前に進んでいく感じが、今のマンスリーにはあるのかなって思います。
門口:今言われてみて、もっとそういう曲をやりたくなりました(笑)。サニーデイ・サービスの最新アルバム『Doki Doki』にめちゃめちゃ喰らったので、エイトビートの曲をやりたいですね。推進力があって突き進んでいく感じ、すごくいいなと思います。
加速するバンドの今後
――初のアルバム、楽しみです。作品で目指していることや、やってみたいことはありますか?
小笹:僕はふたつあって、まずはいろんなドラマーさんに出会いたい。今サポートして下さっている、彦坂さんが素晴らしいドラマーであることは大前提なんですけど。まだ見ぬドラマーさんと出会い、自分たちの開けていない箱を開けることで、どんな音楽ができるのかすごく楽しみです。
――もうひとつは?
小笹:手応えみたいなものなんですけど、僕らの楽曲は以前はプレイリストのような感じだったんですけど、今はスティーヴン・キングの世界みたいに、それぞれの曲がひとつの街の中で起きている出来事のように感じているんですよね。特に新曲はマンスリー村の中で起きている、3つの事象のように僕は感じていて。アルバムでもそれができたら、もっとこの村の世界観を色濃くできると思うし、いろんな人が聴きにきてくれるんじゃないかなと思います。
――若林さんはどうですか?
若林:いい曲だなぁって思える曲を作りたいです。(再生回数が)回るとか回らんとか、売れるとか売れないとかじゃなくて、自分が納得できる曲を作りたい。「Rollin’」ができたタイミングから、スタジオに入るのがすごく楽しいんですよね。それってある種の到達点というか、今までも達成感を得られた曲は何曲かあるんですけど、スタジオやライブでやっていて楽しいかと言われたらちょっと違っていて。難しかったり、どう表現しようかなって悩んでいたんですよね。
――なるほど。
若林:でも、「Rollin’」は気持ちがいいし、バンドでやってて楽しいんです。そんな曲が集まったらすごくいいアルバムになると思うので、そこを目指していきたいです。
門口:僕は今まであんまり恋愛をテーマに曲を作ってこなかったんですけど……最近はそこが目まぐるしくてですね。
――ご自身の生活の中で?
門口:そうですそうです。
若林:(笑)。
門口:みんなは大体、いけそうかなぁっていうものに喰らいつくじゃないですか。でも、自分はそういうのが全く無理で。10戦したら1勝できるかできないか、みたいな戦いを挑み続けてしまうんですよ。
鈴木:(笑)。
門口:そこで出てきた恋愛のテーマが大量にあるんですよね。ソロ・インタビューでもお話した雨の中のコインランドリーの出来事とか、そういうことを形にしたいなって思います。
――そして6月には、自身が主催するツーマン・ツアー『PANGAIA』が控えています。呼んでいる方たちはみな、バラバラの個性を持ったアーティストたちですね。
鈴木:イベントは個人的にもバンドとしても大事にしているものですし、そこでどういう体験設計ができるかっていうのがすごく大切なんですよね。今回はツーマン・ライブなので、イベントを観に来てくれた人たちで、横の繋がりが広がったらいいなと思っています。大人になると、人と出会う機会を作るのって難しいじゃないですか。
――わかります。
鈴木:場を設けてたとしても、話しづらかったりしますよね。でも、音楽ってそういうときにキーワードになるものだと思うから。人と人が出会える場所を作るのを目標に、実現可能なラインでバラバラな人たちを呼んでみました。
小笹:『PANGAIA』は今のように大陸が分かれる前の、まだひとつだったときの大陸の名前のことなんですけど。それにちなんで、別々の大陸の人がまた交流できればいいな、という裏設定があります。なのでお三方とも、実は過去に接点があるんです。たとえばペンギンラッシュは昔門口が名古屋で共演していたり、NIKO NIKO TAN TANとは2020年に配信でスリーマン・ライブをやったし、a子さんは2019年の『出れサマ』(出れんの!? サマソニ!?)で並びが1個手前だったんです。大人になってから関わるときって、「実は……」っていうことが多いので、そういうのもひとつのギミックとして込めています。
鈴木:タイトルにはあと10個ぐらい重要な意味があるんですけど、全部知っちゃうとつまらないと思うので、残りはご想像にお任せします。ぜひ皆さんに遊びに来て欲しいです。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://MMNC.lnk.to/i9Xahy)
【イベント情報】

日時:2023年6月9日(金) OPEN 18:30 / START 19:00

会場:東京・下北沢ADRIFT
料金:ADV. ¥3,800 (1D代別途)
出演:
Monthly Mu & New Caledonia
a子

日時:2023年6月13日(火) OPEN 18:30 / START 19:00

会場:大阪・梅田Zeela
料金:ADV. ¥3,800 (1D代別途)
出演:
Monthly Mu & New Caledonia
NIKO NIKO TAN TAN

日時:2023年6月14日(水) OPEN 18:30 / START 19:00

会場:愛知・名古屋UPSET
料金:ADV. ¥3,800 (1D代別途)
出演:
Monthly Mu & New Caledonia
ペンギンラッシュ

[問い合わせ]

東京公演:HOT STUFF PROMOTION 050-5211-6077
大阪公演:YUMEBANCHI(大阪) 06-6341-3525(平日12:00~17:00)
愛知公演:JAILHOUSE 052-936-6041
■ Monthly Mu & New Caledonia オフィシャル・サイト(https://mmnc.jp)

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