細野晴臣が
狭山市の自宅でのレコーディングで、
アメリカの空気を創造した
『HOSONO HOUSE』

“狭山アメリカ村”の自宅で録音

前置きが長くなったが、音楽には環境も大事ということ。環境による演者の心境は大きくプレイに影響するし、レコーディングではそれがダイレクトに記録される。プロフェッショナルにとって何処で録るかは極めて重要なのである。ここからは細野晴臣のソロ1stアルバム『HOSONO HOUSE』の話。タイトルの“HOUSE”とは、文字通り、細野晴臣の当時の自宅で録音されたところが来ている。その自宅の場所は…というと、前置きからして勢い海外、それこそ西海岸辺りか思われるかもしれないが、ファンはよくご存の埼玉県狭山市。通称“狭山アメリカ村”と呼ばれた旧米軍基地(現在の航空自衛隊の入間基地)の近くの土地で、基地の返還後、民間に払い下げられた米軍基地隊員用住宅を細野は借りて住んでいた。『HOSONO HOUSE』のM8「恋は桃色」の歌詞にある《土の香りこのペンキのにおい/壁は象牙色 空は硝子の色》はその自宅の描写だという。もちろん音楽家としてアメリカンカルチャーへの憧憬も影響していたことは間違いないけれど、狭山市へ引っ越したのは、広さのわりに賃料が安かったことに加えて、都市生活者ゆえの田舎指向もあったという。東京都港区生まれの細野はそれまで実家暮らしだったというから、単に親元を離れたかったのかもしれない。

どうしてその狭山市の“HOSONO HOUSE”で初のソロアルバムを録ることになったのかと言えば、それ以前、つまり、はっぴいえんどの頃、細野自身がスタジオで録る音に飽きていたからだという。飽きたというと少し語弊があるかもしれないが、当時、氏自身がスタジオで出来上がる音に慣れてしまって面白みを感じられなくなっていたとか。そのことをエンジニアの吉野金次氏と話している中で、“自宅で録ってみたらどうだろう”というアイディアが出てきたという。早速、自宅で自身のプレイをテープレコーダーに録ってみたところ、その音像はとてもリラックスしたものであったことで、細尾晴臣のソロ1stアルバムは“HOSONO HOUSE”での宅録が決まった。本当の米国ではなかったが、日本の住宅とはまったく雰囲気の異なる、かつて米国人が暮らしていた場所で作業したこと自体に高揚感もあったのだろう。のちに細野は『HOSONO HOUSE』のことを“バーチャルアメリカンカントリーを狭山で作った”と述べている。

『HOSONO HOUSE』の数年前、1968年に発表されたThe Bandの『Music from Big Pink』の影響も小さいものでなかったと聞く。このアルバムタイトルにある“Big Pink”とは、一時期The Band とBob Dylanが借りていた住宅の通称。アルバム自体はその“Big Pink”でレコーディングされたものではないとのことだが、Wikipediaには以下のように紹介されている。[サイケデリックブーム真っ盛りの1968年初めにレコーディングされた。しかしその流れとは正反対に、ザ・バンドのメンバーは従来のR&Bやゴスペルなどの黒人音楽と、カントリーやトラデイショナルソングなどの白人音楽とが融合したサウンドを作り上げた]([]はWikipediaからの引用)。米国でカントリーロックが盛り上がり始めた時期でもあり、その辺りも『HOSONO HOUSE』に影響を与えた。レコーディングに参加した鈴木茂、林立夫、松任谷正隆ら、のちのキャラメル・ママ→ティン・パン・アレーのメンバー、ペダル・スティール・ギターの名手、駒沢裕城をレコーディング現場である自宅に招き入れ、細野自らミルで豆を挽いたコーヒーを振る舞ってくれたという。氏がいかにリラックスしていたかという微笑ましいエピソードだが、その時のBGMにはThe Band『Music from Big Pink』もよく流れていたそうだ。

OKMusic編集部

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