「転げ落ちていく悪役のやられっぷり
は、見ていて気持ち良いはず」~舞台
『桜姫東文章』鳥越裕貴・井阪郁巳イ
ンタビュー

2023年5月3日(水)~10日(水)、東京・こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロにて舞台『桜姫東文章』が上演される。原作は鶴屋南北の歌舞伎演目。美しい桜姫(三浦涼介)をめぐり、桜姫を恋人の転生と信じる清玄(平野良)や盗賊・釣鐘権助との愛憎が描かれていく。花組芝居の加納幸和が脚本、劇団鹿殺しの丸尾丸一郎が演出を手がける。
本作で釣鐘権助を演じる鳥越裕貴、入間悪五郎役の井阪郁巳の対談が実現。俳優としての印象や、悪役への向き合い方などたっぷり語ってくれた。
――お二人が演劇作品で共演するのは、Live Musical『SHOW BY ROCK!!」以来ですね。
鳥越:5、6年ぶりになりますね。この現場で会うと新鮮です。いつもバグッてる郁巳しか見ていないので(笑)。
井阪:鳥さんとはいつも『ぼくたちのあそびば』というYouTubeの番組で長くご一緒していますが、こうして人として会うと全然印象が違いますね。
鳥越:いつも人や(笑)。バケモンやと思っとんのか?
井阪:(笑)。とにかく、稽古場では役者スイッチ全開の鳥さんなんですよ。鳥さん、いろんなスイッチあるんやなって。
鳥越:郁巳こそ、しっかり台本を読み込んで自分の役どころの解釈を言葉にしとるやん? 稽古中も、わからないことはわからないって言えるし、改めて素直ないい子なんだと実感しています。
井阪:個人的に、鳥さんはコメディのイメージが強かったんです。今回は笑いは少ないかもしれないですけど、その中でも鳥さんが権助として仕掛けてきそうでワクワクしています。しっかり向き合ってお芝居する機会は『SHOW BY ROCK!!』でもなかったので、今からすごく楽しみです。
鳥越:そやな。今回は、なかなか共演できないような方々が集まっていますから。桜姫が涼介くんで、清玄が良くんという組み合わせの時点で面白いし、あの二人は本読みから掛け合いがすごかった。残月役の高木稟さんとか、スーパーアンサンブルの谷やん(谷山知宏)は本当にいろんな引き出しを持っているし、これからの稽古が楽しみです。
鳥越裕貴
――この取材時点では、作品が本格始動したばかりのタイミング。現時点での手応えはいかがでしょうか?
鳥越:このあいだ顔合わせと本読みをしたばかりですね。どうやった?
井阪:歌舞伎らしい言葉遣いが結構そのまま書かれていたので、台本をいただいた時点で僕は読むのに苦戦していました。本読みはどうなるんだろうって未知の状態だったんですけど、過去に歌舞伎作品を演じたことのある鳥さんや平野良さんはすでにセリフとして馴染んでいるのを見て「あ、やばいかも!」って焦りました。
鳥越:僕は『絵本合法衢』で、今回と同じスタッフチームでやらせてもらっているんですよ。その時に初めて歌舞伎の演目に触れましたが、今の郁巳みたいに不安でいっぱいでした。確かに難しいかもしれないですが、皆の声で聞くとわかりやすい。ひたすらテーブル稽古をしていたら、気づくとセリフが入っていた感じです。作品がパワーを持ちすぎていて、一人で読んでいると吸い込まれそうになるんですよね。
――今作は退廃的な世界を表現した「狂い咲き」と昭和の浅草的世界観の「乱れ散り」の2バージョンでの上演。さらに、現代劇に合わせた設定の変更もあるそうですね。
井阪:権助のビジュアル、ワルかったですね~!
鳥越:そやね(笑)。悪五郎のビジュアルは、まだ出てないよな?
井阪:今の段階でのイメージは、全身白スーツって言われています。舞台になる場所も、教会とか地下鉄のホームが出てきたりするんですよね。稽古でも、より現代の言い方で昔の言葉を表現してみるのはどうだろうという話をしているので、お客様にとってはもっとわかりやすくなるかもしれない。
鳥越:歌舞伎の良さを出しつつも、自分たちらしく。物語としては、人物像がはっきりしていてすごくわかりやすい。お客さんにどう広げていくのかが課題です。
――演じる役について教えてください。桜姫の運命を大きく変えてしまう男が、悪党である釣鐘権助です。
鳥越:彼は彼なりの地位を見つけた人。隙間産業をうまいことやって、桜姫との出会いでフィーバーを起こしている状態なんです。「こんなにいい女を引っかけたんだぞ!」って調子に乗っちゃって、これまでやってきた悪事が自分に返ってくる。最後にドダダダーッと転げ落ちていく悪役のやられっぷりは、見ていて気持ち良いはずです。
――井阪さん演じる入間悪五郎は、権助と組んで桜姫を陥れようと企む男です。
井阪:悪五郎は、桜姫が転落していくきっかけを作る人物。役どころとしてはかき乱していく存在なんですけど、今はまだ僕は癖の強い共演者の方々に敵わない状態。正直、今はかなり僕に立ち稽古の時間を割いていただいています。
――たしかに、井阪さんの悪役は新鮮かもしれません。
井阪:今まで演じた役の1割にも満たないですね。悪役というところを、ここまで深く意識するのは初めてです。今まで自分が見てきた中でめちゃくちゃ嫌な役が出てくる作品を改めて見たり、その役を演じた役者さんのインタビューを読んだりしています。自分の想像力をもってやりたいんですが、悪五郎について自分に置き換えられるところがないんです。今は、そこを作り上げている状態ですね。先輩たちのヤンチャ話も聞かせてもらいたいです。
鳥越:自分と重ねられるようなヤンチャ話はないの?
井阪:あっても子供の頃なんですよ。ベランダの植木鉢にハトが住み着こうとしてたので、それを追っ払ってしまいました。あれは悪いことをした……
鳥越:かわいいな、おい!
――鳥越さんは、徐々に役柄の幅を広げてきた印象です。
鳥越:そうですね。最初の頃は元気っ子や無垢な役が多かったですけど、結構激しい役をもらえるようになりました。演出の丸さん(丸尾丸一郎)が僕のヤンチャな感じを好いてくれているらしくて。悪役が似合うと言ってくださっているんですが、僕のことどんな風に見えているんでしょうかね?
井阪:(笑)。
鳥越:それこそ『絵本合法衢』は、当時の僕にとってかなり新鮮なクズの役でした。歌舞伎ならではのかっこいいシーンがあって、板の上で演じるのがめちゃくちゃ気持ちよかったんですよ。あの感覚が今でも印象に残っています。悪役って、普段なら絶対にやらない悪行をする。郁巳もそれを楽しさにシフトできたら、やりやすくなっていくんちゃうかな。
井阪:たしかに、まだ思えてないですね。ただ、いろいろ考えているうちに、感覚は掴め始めてきている気がするんです。
――難しさもありつつ、悪役を演じるというのは役者さんにとって憧れの一つではないでしょうか。
鳥越:『アウトレイジ』とか『クローズZERO』とか、ヤンキー映画やドラマの影響が大きい気がします。
井阪:わかります! かっこいいですもん。
鳥越:どの世代も必ず見ていますよね。僕は『ごくせん』やし、郁巳やったら『ROOKIES』やろ?
井阪:ですね! でも僕、痛いのはダメなんです。小学生の時、めちゃくちゃ喧嘩する子だったんですけど。
鳥越:意外!
井阪:でもある日、サッカーしてたら複雑骨折しちゃって。すっごく痛かったんですよ。痛いことは嫌なことなんだってわかってから、人に絶対しちゃいけないんだって考えを改めました。
井阪郁巳
鳥越:優しすぎる子やな。郁巳みたいないい奴が、悪五郎を演じるのは相当な挑戦やと思う。この役に推薦した人は「役者として、早くこっち来いよ」って思いだったんだろうね。
井阪:顔合わせの前に、丸さんから「いっくんを知っているからこそ、正直いっくんが演じるのは難しい役だと思ってる。それでもプロデューサーが『井阪さんにやらせたい』って言ったんだよ」と教えてもらって。ドシーンと来ました、心に。他にも可能性がある役者さんはたくさんいるのに……僕自身、役者を続けるならもっともっと力をつけていかなきゃと思っていた時期に、このような挑戦をする機会をいただいて縁を感じました。正直今は苦しいけど、負けたくない。ここを越えたら先輩たちが見ている芝居の楽しさを、僕も味わえるんだと思って食らいついています。
――役によっては、歌唱シーンもあるそうですね。
鳥越:そう! 涼介くんの歌、聞いたことある? ミュージカル『エリザベート』のルドルフ、すごかったんだから!
井阪:映像ですけど、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』は見ました。桜姫の歌、楽しみでしょうがないです。
鳥越:艶やかさがあって、ふっと崩れてしまいそうな儚さがある。誰が見ても「おっ!」っと思ってしまう表現の仕方を持っている方やから。涼介くんや良くんの歌は、そりゃあ聞きたいですよ……そんななかで今回、なんで僕も歌うんですか? あんな歌うまな人たちの中に、俺を入れんといてください!
井阪:いや、聞きたいですよ! 鳥さん、自分ではこんなこと言ってますけど絶対そんなことない。別の現場でこの話になったとき、丸さんも「鳥越は歌うまいのに、なんで嫌がってるんだろうな?」って言ってましたよ。
鳥越:とにかく、僕は歌が一番怖いです。緊張しています!
――最後に、公演を楽しみにされている方へメッセージをお願いします。
井阪:ここ最近では見たことがないような、新感覚な作品です。これまで歌舞伎に触れてこなかった方にも、面白さが伝わるはず。僕としても挑戦の役ですし、魅力的な俳優さんばかり。後悔はさせませんので、ぜひ劇場に来ていただけたら。
鳥越:歌舞伎の演目は踏み込みにくく、硬いと思われがちかもしれません。この作品は演劇としての面白さを追求していて、たまの息抜きになるシーンは先輩たちが担ってくださっています(笑)。現代風に描かれていてわかりやすいですし、すごく刺激が詰まっている。舞台としてこういう風に見せるんだって感動していただけるはずです。
取材・文=潮田茗、撮影=池上夢貢

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