大竹しのぶが煌びやかなショービジネ
スの夢と苦悩をパワフルに歌い上げる
 Musical『GYPSY』開幕 ジプシー・
ローズ・リーを演じる生田絵梨花の舞
台写真も公開

2023年4月9日(日)東京芸術劇場プレイハウスにて、Musical『GYPSY』が開幕した。本公演は、東京を皮切りに大阪、愛知、福岡と巡演する。
本作は実在のストリッパー、ジプシー・ローズ・リーの回顧録をもとに、“究極のショー・ビジネス・マザー“の代名詞となった母ローズに焦点を当て、舞台で活躍する2人の娘を育てたローズの夢と努力を追うとともに、ショービジネスの苦難を愛情たっぷりに描いた名作。
初演では、ブロードウェイの女王「エセル・マーマン」が主役のローズを演じ、その後も時代を彩る名女優が演じ続け、1990年トニー賞・ベストリバイバル、2016年ローレンス・オリヴィエ賞・ベストリバイバルを受賞するなど、初演から半世紀たった今でも世界中で愛されている。
2016年『Nell Gwynn』でローレンス・オリヴィエ賞新作コメディ賞を受賞したChristopher Luscombe(クリストファー・ラスコム)が演出を務める。
娘をスターにすることを夢見る母親・ローズ役を大竹しのぶがコミカルに演じ、ローズの上の娘であり、後に”バーレスクの女王”と称されるようになるルイーズ役には生田絵梨花、パフォーマンス力の高いルイーズの妹・ジューン役には熊谷彩春、ジューンと駆け落ちするダンサー・タルサ役には佐々木大光(7 MEN 侍/ジャニーズJr.)、ローズと組んで娘たちを売り込み、次第にローズにひかれていくハービー役には今井清隆と豪華なメンバーが集結。このたび舞台写真と開幕レビューが到着した。

ミュージカル『GYPSY』が問いかける“夢”の行方
 劇場に足を踏み入れる。目の前に広がるのは舞台裏にも素のステージにも見えるそっけない空間だ。だが私たちは知っている。この何もない場所に俳優が立ち音楽が鳴った瞬間から、そこで観客の人生を変えるかもしれない物語が紡がれることを。
 4月9日(日)、東京芸術劇場・プレイハウスにて開幕したMusical『GYPSY』。本作で描かれるのは、劇場とショービジネスを愛し、その世界で生き抜こうと必死にもがく人々の姿だ。ストーリーの主軸になるのは“究極のステージママ”ことローズ。1959年のブロードウェイ初演以来、名だたる大女優が演じてきたこの役を本公演では大竹しのぶが担う。また、ローズの長女であり、のちにバーレスククイーンとしてその名を馳せるルイーズ役は生田絵梨花。さらに熊谷彩春、佐々木大光、今井清隆といった実力派が顔を揃えた。
撮影:田中亜紀
 本作でまず注目してほしいのがローズのキャラクター。数あるミュージカル作品の中でも、これほどアクの強い人物はほぼいないのではないか。とにかく強靭。どんな時でも自らの意思を優先させ引くことはないし、幾多の困難にもへこたれない。なぜなら彼女には絶対にえたい“夢”があるからだ。その“夢”とは娘をスターに育て上げ、功労者として自分が世間から称賛を浴びること。そのためならローズはどんな手も使うし、有望株だった次女・ジューンが一座の青年と出奔した瞬間に、それまで妹の添え物扱いだった長女・ルイーズへといとも簡単に乗り換える。
撮影:田中亜紀
 そんな母親に振り回されながら、次第に自我と自己肯定感を得て変化していくのがルイーズである。長らく妹の影として存在し、無理やり一座の主役にされた彼女だが、ひょんなことから出演したバーレスクの劇場でそれまでどこにもなかった居場所を見つけ、初めて舞台で肌をさらす決心をする。「ママ、私可愛い……可愛い女の子だよ、ママ」。楽屋の鏡に向かい、自らに語りかけたその瞬間からルイーズの自立と大胆な変貌とが始まるのだ。
撮影:田中亜紀
 本作の主軸・ローズを象徴する2曲が物語の序盤で歌われる「サム・ピープル」と終盤の大ソロ「ローズの出番」。「サム・ピープル」はスターになれなかった彼女が、「家でセーターを編み、週末のビンゴ大会を楽しみに生きる退屈な人生なんていらない。私にはどうしても叶えたい夢がある」と父親に金銭の援助を求めるナンバーだが、次第にそれはローズが自身を鼓舞する決意表明となっていく。また「ローズの出番」は最後の希望であったルイーズに拒絶されたローズが「私は生まれるのが早すぎて始めるのが遅すぎた」と吐露した後に「でも私には才能がある、私はまだやれる、さあ見ていなさい」と世界に向かって高らかに宣言する楽曲。2曲とも並の俳優では歌えないビッグナンバーだ。

撮影:田中亜紀

 大竹しのぶは強い個性を宿すローズをチャーミングに魅せる。シリアスな場面でも変にウェットにはならず、全身から溢れるパワーを放出する姿はさすがの一言で、この役は演じる俳優が背負ってきた人生が鮮やかに映し出されるとあらためて実感させられた。歌が上手いだけ、芝居が巧みなだけのプレイヤーがローズを演じても絶対に説得力は生まれない。
撮影:田中亜紀
 生田絵梨花はルイーズの変化の過程を繊細に体現。母親から軽んじられ、誕生日に夜の闇の中で粗末なぬいぐるみを抱いていた少女がヴォードビル一座の主役になり、やがて自らの意志でバーレスクの舞台に立ってスターになる。その変貌を生田は見事に演じきった。
 歌もダンスもビジュアルも優れた次女・ジューン役の熊谷彩春は美しい声を響かせる。ルイーズとともに強すぎる母親に翻弄される姉妹の気持ちを歌う「ママが結婚したら」は劇中でもっともほっこりするナンバーだ。ジューンと駆け落ちする青年・タルサを担う佐々木大光は「彼女さえいれば」でフレッド・アステアのスタイルを取り入れた躍動感溢れるダンスを歌とともに披露。ローズを支えるハービー役・今井清隆は人の好さと懐の深さを「ふたりは離れない」などのデュエットで優しく立ち上げる。
撮影:田中亜紀
 ルイーズが新たな一歩を踏み出すバーレスクの世界で活躍する3人のストリッパー(鳥居かほり、麻生かほ里、咲良)からも目が離せない。彼女たちの強さと明るさ、たくましさやしたたかさは泥水の中で根を張る花のようで、笑顔の奥にふと見える哀しみに胸を射抜かれた。3人のパフォーマンスに心からの拍手を贈りたい。
 さて、ローズである。 
 通常であれば彼女のような人物に対し負の感情を持つ人もいるだろう。だが、私はローズのことをまったく嫌いになれない。なぜならこれほどまでに自らの夢と野心に正直で、なにが起きてもブレない人はそういないからだ。彼女は“母親”でも“可愛い恋人”でもなく、徹頭徹尾“ローズ”でしかありえない。その一片の迷いもない生き方には清々しささえ覚えるし、絶対に夢を諦めない生きざまからは多くのエネルギーを貰う。大丈夫、誰が去っていったって、倒れたって自分が自分を信じていさえすればきっとまた立ち上がれるのだと。
 夢を叶えようと行動するより夢を諦める理由を探す方がずっと簡単だ。だがそれでいいのか、それが本当の人生なのかーー。戦うことを良しとされないこの時代に、全力で夢を掴み取ろうと戦うローズの姿を見て、あなたの心にはどんな火が灯るだろうか。
取材・文 上村由紀子(演劇ライター)

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