フレデリック初のホールワンマン『優
游涵泳回遊宴』 歌とビートの劇的進
化が3年ぶりの歓声と響き合った夜

優游涵泳回遊宴-FREDERHYTHM HALL 2023- 2023.03.29 東京・NHKホール
「音楽が大好きで、14年バンドをやってまいりました。『俺たちの音楽は間違いないな』っていう確信を持って、いつもステージに立ってます。今日も一緒です。あなたの2時間を全部、俺らに任せてください。今日はよろしくお願いします!」
オーディエンスに呼びかける三原健司(Vo/Gt)の声に応えて、NHKホール満場のオーディエンスから惜しみない拍手と歓声が湧き起こる。ツアーを経てますます磨きのかかったフレデリックのバンドサウンドの多幸感に、長かったコロナ禍を経て「声出し解禁」の状況となった解放感が重なって、場内の高揚感は刻一刻と昇り詰めていく――。
2023年3月29日、フレデリックのワンマンライブ『優游涵泳回遊宴-FREDERHYTHM HALL 2023-』の東京公演がNHKホールにて開催された。2022年9月から「LIVE HOUSE編」(20公演)〜「Zepp編」(8公演)と続いたツアー『FREDERHYTHM TOUR 2022-2023〜ミュージックジャーニー〜』、さらに大阪・オリックス劇場と東京・NHKホールを舞台とした自身初のホールワンマン『優游涵泳回遊宴』(2公演)に至る、全30公演のロングツアーのファイナルを飾る形となったこの日のステージ。2月22日にリリースされた最新ミニアルバム『優游涵泳回遊録』にちなんだ公演タイトルの通り、ライブ冒頭を飾った「MYSTERY JOURNEY」をはじめ、随所に最新楽曲が盛り込まれていたのはもちろんのこと、既発曲群のアンサンブルも格段にブラッシュアップされ、開演早々から会場は高らかなクラップの響き渡る祝祭空間へと塗り替わっていた。
「KITAKU BEATS」からノンストップで「ジャンキー」へ繋ぐ三原康司(Ba)・赤頭隆児(Gt)・高橋武(Dr)のタイトなビートが観客を一面のダンスとジャンプへと誘い、「飄々とエモーション」で湧き上がった場内一丸のコーラスが、三原健司とのコール&レスポンスでさらに高まっていく。「声出しが解禁になりました! 3年分出せてる? 知らない間にみんな、歌うの上手くなってない? めちゃめちゃピッチ(音程)いいやん!と思って。でもさ、ピッチは俺に任せて! 今までのフレデリックのライブで一番でっかい大声、出してもらっていいですかね?」という健司の言葉に、客席から熱い拍手喝采が巻き起こる。
「名悪役」「TOGENKYO」のアグレッシブな流れの中で際立つ、健司&康司の兄弟のハモリを活かした絶妙のボーカルワーク。疾走感あふれる「蜃気楼」やシティポップ感漂う「midnight creative drive」など、多彩なアレンジやサウンドアプローチを自在に音像化するバンドの表現力。そして、ポップでダンサブルなナンバーとコントラストを成す、「ナイトステップ」から「峠の幽霊」に至る場面のディープかつミステリアスな音の深度……。バンドの幅広いポテンシャルをひとつの物語へと編み上げるようなセットリストも、この日のライブの重要なポイントだった。
「midnight creative drive」では車のヘッドライトを思わせる照明がコーナリングのように左右に揺れ、「ナイトステップ」では原曲よりもさらにクールかつダンサブルなアレンジが施され――といった具合に、ライブならではの演出や新たな挑戦が要所要所で光っていた今回のワンマンライブ。どこかブルージーな響きを帯びた「FEB」では、舞台前面を覆った紗幕に白い霧が映し出され、メランコリックな歌の世界をファンタジックに彩っていた。
「めっちゃ気持ちいいね、NHKホール!」。テレビ収録以外での本格的なライブ開催は初めてというNHKホールを見回して感慨深げな健司。そこへ「テレビの収録って言っても『紅白』じゃないよ?」と続けて会場を沸かせる赤頭。そこから、今回の一連のツアーで定番となっているMCコーナーでは赤頭&高橋の2人によるトークへ。高橋自身も「漫才みたい」と評していた2人のトークを、三原兄弟が後方から眺めている……という珍しい場面のリラックスした空気感も、メンバー4人の一体感とツアーの充実感を物語っていた。
見渡す限りのハンドウェーブを呼び起こした「熱帯夜」から、ライブはいよいよクライマックスへ。レーザー光線の眩しさと競い合うような「銀河の果てに連れ去って!」の疾走感。ミラーボールのきらめきと観客のクラップと共鳴しながら、歌とサウンドでダンスの絶景を生み出した「YONA YONA DANCE」。熱気あふれる客席を健司が「そんなもんか? 残り2曲よ? この2曲でちゃんと全力出せる?」と煽りながら流れ込んだ「スキライズム」では、赤頭がセンターで見事なソロプレイを決め、ひときわ大きな歓声を集めてみせた。
「長いツアーやった。9月から30本! その中で一番、今、俺たちが見せたい曲を最後にやって帰ります」という健司の言葉に続けて、本編の最後に披露したのは、ファンキーなビート感が印象的な『優游涵泳回遊録』の楽曲「虜」だった。メンバーのソロ回しや観客とのコール&レスポンスも盛り込んだ「虜」の演奏の中で、「あなたにとって大事なフレデリックでありたいし、フレデリックにとって大事なあなたでいてほしい。俺たちの音楽とあなたは、一生離れることができないんです!」と健司はエモーショナルに呼びかけていた。曲がアウトロに差し掛かるのに合わせて、舞台の左右から幕がゆっくり閉じ、メンバーの姿が完全に隠れたところで、ツアータイトルがリズミカルに表示され、最後のキメと同時に巨大なバンドロゴが映し出されて終了。自らの音楽を信じる4人の歌と演奏の訴求力が、演出も含めたステージングの完成度と相俟って、至上のライブ空間を描き出していた。
一度舞台を降りた4人が、観客の手拍子を受けて再び登場。「すんーごい、俺たちにとって大事なツアーになったなと思っています」とツアーを振り返って健司が語る。
「9月から毎週毎週ワンマンライブをしながら、フェスにも出たり、本当にライブ三昧の2022年を経て、最高のミニアルバムができて。この公演をもってツアーファイナル――とはいえ、この先も全然決まっております! いろんな場所でライブをしてきて、いろんな“ひとり”としっかり一対一で音楽をやってきて。新しい仲間も一緒に繋がって、またカッコいい場所で、進化していく俺らと一緒に遊べたらなと思っております。その時に、あなたがいてくれたら、めちゃくちゃ嬉しいです」
バンドの「これから」への決意の言葉に続けて、アンコールではバンドの歩みを代表するアンセム「オドループ」が繰り出され、NHKホールの客席に壮大なダンスとシンガロングの輪が広がる。そして、この日最後の楽曲は、テレビCMでもお馴染みのキラーナンバー「スパークルダンサー」。ミュージックビデオとリンクするように、ステージ背後が銀ラメの幕に変わり、ライブの最後をよりいっそう目映く煽り立てていく。健司の決然とした歌が、そしてバンド一丸の強靭なビートが、サビの後にさらにもう一段サビがくるようなハイパーな楽曲構成と渾然一体となって、オーディエンスを激しいハンドウェーブの渦へと巻き込んでみせた。
「最高の2023年にしような!」という健司の言葉を残して、4人が舞台を去った後、スクリーンには6都市9公演の全国ツアー『FREDERHYTHM TOUR 2023-2024』のスケジュールが映し出され、観客の驚きと喜びの声を呼び起こしていた。ロックとポップの「その先」へと邁進するフレデリックの在り方が凝縮された、圧巻のステージだった。

取材・文=高橋智樹 撮影=西槇太一

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