松本幸四郎が紐解き、新たに作る鶴屋
南北『絵本合法衢』4月明治座公演『
壽祝桜四月大歌舞伎』インタビュー

2023年4月8日(土)から、明治座で『壽祝桜四月大歌舞伎』が開催される。明治座の150周年を祝うバラエティ豊かなラインナップの公演だ。松本幸四郎は昼の部で河竹黙阿弥作『大杯觴酒戦強者(おおさかづきしゅせんのつわもの、以下『大杯』)』に、夜の部で鶴屋南北作『絵本合法衢』に出演する。幸四郎が、合同インタビューで作品の魅力や南北物への意気込みを語った。
■ 鶴屋南北の『絵本合法衢』で悪人2役
『絵本合法衢(通称:立場の太平次)』で、幸四郎は2人の悪人を初役で勤める。2役のうち、1人は御家のっとりを企む左枝大学之助(さえだ だいがくのすけ)。もう1人は大学之助の配下にある町人の立場の太平次(たてばのたへいじ)だ。
「大学之助では、大きさを意識します。悪で存在感の大きさを表現できれば。太平次は大学之助とは異なるタイプの悪ですね。大悪人という感じではありませんが、人を殺すことにあまり動じず、悪いことをたくさんします」
幸四郎は、現在歌舞伎座の3月公演『花の御所始末』でも冷酷な大悪人・足利義教を演じている。
「3月の義教は研ぎ澄まされた悪。4月は南北が書く悪人ですから、どれだけ悪を楽しむかが問われるタイプの悪ではないでしょうか」
「この作品は、近年松嶋屋のおじさま(片岡仁左衛門)がなさっていますね。それ以前に父(松本白鸚)と祖父(初代松本白鸚)も勤めました。さかのぼれば鶴屋南北が書きおろし、初演を五代目幸四郎が勤めた作品。縁を感じます。今回は新しく作るような気持ちで挑戦させていただきます」
仁左衛門の公演は映像で観た。
「松島屋のおじさま(仁左衛門)は本……っ当にかっこいいですね。『立場の太平次』も(同じく南北物の)『霊験亀山鉾』も理屈だけで通すのではなく、歌舞伎だからこその大らかさで歌舞伎にしか作ることのできないお芝居を作られます。あれはもう、マジックとしか言いようがありません」
父・白鸚(当時染五郎)が勤めたのは1980年のことだった。
「(当時7歳で)記憶はちょっとないのですが、最後の閻魔堂での立廻りは印象的ですよね。気になる芝居でしたから、父に何度か『やらないのですか』と聞いたことも。父や祖父の台本には書き込みが残っていました。それを参考に『こんな風にやっていたんだ。ならば自分はこうしよう』など、あえて『自分なりの』と掲げ、新たに作るような気持ちで挑戦したいです」
■河竹黙阿弥『大杯觴酒戦強者』は音楽的な台詞で
昼の部では『大杯』に出演する。昼間から酔っぱらっている足軽の原才助に中村芝翫、酒豪の井伊直孝に中村梅玉という顔合わせ。幸四郎は原才助が仕える内藤紀伊守を勤める。1999年以来の上演となり、全員初役となる。
「お酒が強いって良いことなんだな、というお芝居です(笑)。原才助は初めから酔っぱらっています。それを芝翫のおにいさんがどうお見せするのか。高砂屋のおじさま(梅玉)がどう変わっていくか。お芝居としてお楽しみいただけるのはもちろん、役者の芸の見せ合いの部分もあって。歌舞伎だから成立するお芝居ですね。僕は、内藤紀伊守​としてそこにちゃんと存在できるのか。大事な役だなと思います。黙阿弥の音楽的な台詞でお見せします」
さらに昼の部は、片岡愛之助の佐藤忠信実は源九郎狐による『義経千本桜 鳥居前』と、梅玉の鳶頭による『お祭り』も上演される。
「歌舞伎って、見たことがない方にも何となくイメージをもっていただいているお芝居だと思うんです。白塗りでしょ? 見得をするやつでしょ? と。そのようなイメージを生で見ていただけるのが、4月の明治座ではないでしょうか」
■鶴屋南北の作品を紐解いて
取材が行われたのは3月半ば。今回のための台本ができたところだと明かす。補綴は、鈴木英一。近年上演されていなかった、太平次がやられる場面を含めた、通し狂言としての上演だ。
「テンポ感で一気にお見せする、噛み合った会話劇を目指しています。黙阿弥の芝居ならば、台詞に七五調でリズムがあり黒御簾音楽も入ります。音楽があれば無意識にもテンポができます。しかし南北の芝居はいわゆる台詞劇に近く、黒御簾音楽はほとんど入りません。自分たちの言葉でいかにテンポ感を作るか。今は一人で全役の台詞を通してみながら、舞台の見せ方を考えてるところです」
3月は歌舞伎座で『花の御所始末』、4月は明治座『立場の太平次』とチャレンジングな公演が続く。過去の出演作をふり返っても、幸四郎は挑戦的といえる作品に多く携わっている印象があった。しかし挑戦が好きなわけではないようだ。
「挑戦するスリルより平和な方が好きです。ただ、挑戦が多い気はします。自分で何かを選べる時は、結果が分からない方を選んできたせいもあるかもしれません。一度『これは面白いはずだ』と思うと、飽きずに思い続けるタイプ。その中で大変ありがたいことに、挑戦の機会をいただけることもありました」
『立場の太平次』も、これまで思いはあったけれど「たまたま決まった」感覚だ。幸四郎の中で、南北作品への意識が高まっていたところだった。
「去年くらいから、南北の全作品をすべて洗い直して上演してみたいと思うようになりました。たとえば『東海道四谷怪談』など、南北には(『仮名手本忠臣蔵』の外伝でありながら)“反”忠臣蔵という印象があります。四十七士に数えられる人物たちが、あれだけ酷いことをするお芝居です。これで討入りに感情移入できるだろうか。いや、あえてできないようなドラマを南北は書いたんじゃないか。だったらそれを……など思うんです」
「歌舞伎には(現代社会への問題提起のような)社会性やテーマ性が必要ありません。その現実的ではないお芝居の世界に、登場人物たちの生活感を出す。これは歌舞伎にしか作れないファンタジーだと思っています。そこに歌舞伎の得意技を突っ込んでいく。南北のお芝居はそういうふうに作られているのか、と感じていただけるお芝居を目標に準備をしています」
■明治座150周年を祝う賑やかな公演
創業から150周年。幸四郎にとっては、2014年以来の明治座の舞台となる。
「歌舞伎の上演にちょうどいい寸法の劇場です。明治座には明治座のお客様がおられますね。自分の中で歌舞伎公演の中心にまず歌舞伎座がある。では明治座で何をするのか。なにせ4月の歌舞伎座は新演出の『新・陰陽師』ですからね。息子の染五郎も出させていただきますが、10年たったら世代交代みたいな……(※編注:2013年『新作歌舞伎 陰陽師』では幸四郎さんがタイトルロールを勤めました。以下ごにょごにょ続きます)。若手中心の公演なのは分かりますが、猿之助さんは……(同上)」
一同の笑顔を引き出しつつ、節目の公演に明治座の舞台に立てることに感謝を述べた幸四郎。
「明治座さんには、これからも歌舞伎を上演していただきたい、と願うばかりです。そのためには今回ご覧のお客様に、歌舞伎って面白いな! と思っていただかなくてはいけません。大変華やかな興行であると同時に、責任重大な興行。4月は明治座が一番面白いぞ、という気持ちでやらせていただきます。明治座、歌舞伎座、すべての劇場がその気持ちで舞台に立つことで、どの劇場にもたくさんのお客様がお越しくださるはずだ、と信じています」
明治座の4月歌舞伎公演『壽祝桜四月大歌舞伎』は、4月8日(土)から25日(火)まで。
松本幸四郎と、イープラス貸切公演のミニのぼり。
ヘアメイク=林摩規子 スタイリスト=川田真梨子
取材・文・撮影=塚田史香

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