脚本・演出の松尾スズキが思う、松た
か子と長澤まさみの魅力とは 『松尾
スズキと30分強の女優』インタビュー
公開 

大人計画主宰、シアターコクーンの芸術監督、コントの名手でもある松尾スズキが毎回ひとりの女優と組んで繰り広げるWOWOWオリジナルコントドラマの第3弾『松尾スズキと30分強の女優』。2023年3月25日(土)にWOWOWで放送・配信となる本作の脚本・演出を務める松尾スズキのインタビューが届いた。
ーー今回で『松尾スズキと30分の女優』シリーズ3回目となりますが、過去のシリーズでは毎回、ゲスト女優さんが「こんなに面白い方だったのか」と驚かされました。
今の日本の女優さんで、映像で笑いをやってきた人ってあんまりいないですからね。いわゆるテレビのバラエティー番組だと、俳優が入ってくるコントはスタッフがゲラゲラ笑ってくれたり、失敗も込みで作られていたりするじゃないですか。『30分の女優』にはそういうユルさがないから、びっくりしたのかな。
ーー確かに。今回もかなりストロングスタイルのコントばかりですよね。
そうなんですよ。スタッフ笑いが一切許されないっていう。だから、めちゃくちゃ真剣ですよね。どんなに面白いことをやっても笑ってもらえないという、そのパラドックスの中で面白いことをやらなきゃいけない。
「センタア飯店」
ーー今回、松たか子さんと長澤まさみさんが出演されます。それぞれ松尾さんの舞台に主演されていたり、共演もあったりと、非常に松尾さんと関係性の深いお二人ですが、起用の理由からお聞きできますか?
というか、もうこの二人しか残ってなかったんです(笑)。もう『30分の女優』をやろうと思ってもできない。僕のためにこんなに動いてくれる女優さんはもうあとわずかです。最後のカードを使い切ってしまう寸前(笑)。
ーー松尾さんのコントという意味では、松さんも長澤さんも初挑戦だったわけですが、松尾さんとしてはお二人のどういう一面を見せたいとか、狙っていた部分はあったのでしょうか。
こういう一面を見せたいとかいう欲はなくて。松さんにはこういう物語が浮かんだ、長澤さんにはこういう物語が浮かんだ、というだけです。本人の個性に合わせたもの、あるいは本人が今までやってきていないもの、そういうものをぶつけてみようっていうのは、コントに限らずですけど、いつもそんな気持ちでやっていますね。あとは、松さんにはぜひ歌って欲しいというのと、長澤さんはスタイルが良いので、動きで魅せるネタを入れたいな、みたいなのはありました。
ーー松尾さんから見て、お二人の笑いに対するセンスはどのように感じましたか?
松たか子の乱
意外に松さんの方がナンセンスな感じがするんですよね。真面目にやればやるほどシュールというか。松さんは、存在自体がナンセンスっていう笑いができる人だなと思っていて。完全にナンセンスに徹して、真顔でおかしなことができる人というか。長澤さんは明るさの中にどこか哀愁を感じさせる人なので、ちょっと気だるい女性がこんなくだらないことをするんだっていう、振れ幅の大きさで笑わせたいと思いました。
ーー設定からかなりぶっ飛んでいるコントが多かったと思うのですが、松さんは脚本や設定をすんなりと受け入れている印象でしたか?
松さんは仕事を振ったときにすごく悩まれる方で、意外に「自信がない」みたいなことをよく言うんですよね。だから、「まあまあまあまあ」っていう感じで現場に呼ぶんですけど、現場に入ったらスイッチがバチーンと変わって「何でもやる」っていうモードに入るんです。現場に来た時にはすべて覚悟が決まっているのがかっこいいですよね。
ーー今回の現場で改めて感じた松さんの魅力を教えてください。
やっぱり存在がポップなんですよ。画面に映った時に、画面がパッと明るくなるというか。それだけで価値があるというかね。松さんも、長澤さんもそうだけど、ドアップになった時に、もうそれが美術として完成されているんです。余計なセットはいらなくなる。そこは、お二人だからこそだなと思いました。
ーー長澤さんは現場での印象はいかがでしたか?
長澤まさみの乱
現場に入ったら、もう何の迷いもないですよね。でも、すごく準備をしてくる人なんだなっていう感じはしました。現場に入ってからは台本を一切見ないし、三船敏郎みたいだなと思いました(笑)。
ーー「センタア飯店」というコントでは、でたらめな外国語で怒鳴るシーンがありましたが、そこも迷いなく演じられていたんですか?
そうですね。あれは結構、自分で研究してきてくれたんじゃないかと思います。僕からは「東南アジアっぽい言葉」とだけ振っておいたんですけど、長澤さんから「このセリフの語尾の『ガ』を『カ』に変えていいですか?」っていうメールが来て。長澤さんには、役作りの中で譲れない「ガ」と「カ」の違いがあるんだなって、これが一流ということかって、ハッとしました。だから、「どっちでもいいよ」って返事して(笑)。僕なんか一切覚えてなかったから、あのセリフ。
ーーそれ以外にも、改めて感じた長澤さんの魅力はありましたか?
さっきも話に出ましたけど、滲み出るエレジーというのかな。『30分の女優』って、なんとなくエレジーを感じさせるようなネタが多いと思うんです、笑えるけど少し哀しい、みたいな。それが長澤さんの回にはより強く出ていたかなと思いますね。
「センタア飯店」
ーー確かに、松さんと長澤さんの回では全然肌触りが違う印象でした。
松さんの回は全体的にドライなんですよね。だからって、松さんがドライな人で、長澤さんがウエットな人ということではなくて、そういうものを演じさせてみたくなるっていう、僕の中での勘なんですけど。
ーー久しぶりに俳優・松尾スズキが見られるのも、松尾ファンにとっては嬉しいポイントだと思います。
もはや松尾の演技が見られるのは、ここだけになってきましたから(笑)。松さんと長澤さんという緊張しないでやれる相手だったので、すごく自由に演じられましたね。でも、毎回とにかくたくさんの役をやるので、自分の中の引き出しが尽きてしまわないようにするのが大変でしたけど。
ーー今回演じた中でお気に入りのキャラクターはありますか?

「タイムスリップ両親」

どれも好きですけど、長澤さんとやった「センタア飯店」のオヤジとか、松さんとやった「タイムスリップ両親」のお父さんも意外と楽しかったな。娘役の三葉虫マーチが本当に微動だにしない人なので、それが面白かったですね。こんなに目の前でベテランが大ハッスルしてるのに、よくあの無表情を貫けるなって。
ーー『30分の女優』ファンとしては、スニーキーの物語のエピソード0的な「スニーキー・ビギニング『傷』」が見られたのがとても嬉しかったです。(※スニーキー…『松尾スズキと30分の女優2』のコントに登場した謎の地球外生物)
ああいう無国籍な話ができるのは、やっぱりコントとドラマの中間の媒体だからなのかなって。普通のコントだと、あんなに予算も組めないし、あんなにカット割りもできないけど、逆にドラマだと、なんで日本人が外国人をやってんだって話にもなるしね。
「スニーキー・ビギニング『傷』」
ーー最後に、『松尾スズキと30分強の女優』のみどころを教えてください。
このシリーズは、今まで見たことのないコントが見られるっていうのが大きい魅力だなと思います。テレビで見る芸人さんのコントとはかなり違いますから。われわれには手間暇かけるっていうことしか武器がないですけど、それでもここまでたどり着けるんだよっていうのは見てほしいですよね。やっぱり映像作品としてのコントって、日本にはあんまりないから、なかなか見る機会が少ないと思うんですよね。『30分の女優』は、下手したらモンティ・パイソンより映像が凝ってますから。なんでこんなにカット割りが多いんだよって、自分でやってて思うくらいだから(笑)。

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