ミュージカル『SPY×FAMILY』が開幕
~【ゲネプロレポート】帝劇上演ミッ
ションSTART! 原作の名場面が次々と
生で現れる悦び

ミュージカル『SPY✕FAMILY』が2023年3月8日、東京・帝国劇場で開幕した。この作品は、同劇場(~3月29日)を皮切りに、兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール(4月11日~4月16日)、福岡・博多座(5月3日~5月21日)にて上演される。遠藤達哉原作による累計発行部数2,900万部突破の超人気コミック「SPY✕FAMILY」(集英社「少年ジャンプ+」連載中)は、「スパイ&超能力者&殺し屋が互いの秘密を抱えたまま仮初めの家族になる」というユニークな設定とスタイリッシュでキュートなキャラクターたち、シリアスとコメディが絶妙にブレンドされた世界観、巧妙なセリフ回しとアクションとギャグを織り交ぜたストーリーテリング等により、連載開始直後から閲覧数・コメント数・発行部数における「少年ジャンプ+」の最高記録を次々と更新し、読者の圧倒的な支持を獲得。テレビアニメ化に続き、このたび満を持して初めてミュージカル化された。脚本・作詞・演出はG2、作曲・編曲・音楽監督は、かみむら周平が手掛ける。上演時間は公式アナウンスで2時間55分(20分の休憩含む/多少前後する可能性あり)。
【あらすじ】
世界各国が水面下で熾烈な情報戦を繰り広げていた東西冷戦時代。隣り合う東国〈オスタニア〉と西国〈ウェスタリス〉では、十数年間にわたる仮初めの平和が保たれていた。西国の情報局対東課〈WISE(ワイズ)〉所属の凄腕スパイであるコードネーム〈黄昏(たそがれ)〉は、高い諜報能力を駆使して幾度も東西両国間の危機を回避させてきた。そんなある日、〈黄昏(たそがれ)〉は、東西平和を脅かす危険人物、東国の国家統一党総裁ドノバン・デズモンドの動向を探るため、極秘任務を命じられる。その名も、オペレーション〈梟(ストリクス)〉。任務の内容は、“一週間以内に家族を作り、デズモンドの息子が通う名門校の懇親会に潜入し、デズモンドに接触せよ”というもの。〈黄昏(たそがれ)〉は、精神科医ロイド・フォージャーに扮し、家族を作るため《娘》と《妻》を探すことに。彼が出会った《娘》候補のアーニャは心を読むことができる超能力者、《妻》候補のヨルは殺し屋という裏の顔を持っていたが、3人の利害が一致したことで、お互いの正体を隠しながら共に暮らすこととなる。案の定、変わった素性を持つ3人の《仮初めの家族》の日常はおかしなことだらけ。時には大事件に巻き込まれ、それぞれの敵や難問に立ち向かいながらも、とにかく《普通の家族》を装うために全力を尽くす3人に、世界の平和は託されたのだった……。
精神科医のロイド・フォージャーこと凄腕スパイの〈黄昏(たそがれ)〉役は 森崎ウィン・鈴木拡樹 のWキャスト、殺し屋でコードネーム〈いばら姫〉ことヨル・フォージャー役は 唯月ふうか・佐々木美玲(日向坂46)のWキャストで演じられる。そして、姉のヨルを溺愛する東国〈オスタニア〉秘密警察のユーリ・ブライア役を 岡宮来夢・瀧澤翼(円神)のWキャストで、〈黄昏〉の後輩スパイでコードネーム〈夜帷(とばり)〉ことフィオナ・フロスト役を 山口乃々華 、〈黄昏〉に協力する情報屋フランキー・フランクリン役を 木内健人、アーニャが入学を目指す名門イーデン校の教諭ヘンリー・ヘンダーソン役を 鈴木壮麻、〈鋼鉄の淑女〉の異名を持つ〈黄昏〉の上官シルヴィア・シャーウッド役を 朝夏まなとが、それぞれ務める。
そして原作およびアニメでも圧倒的人気を誇る超重要キャラクター、アーニャ・フォージャー役(ロイド・フォージャーこと〈黄昏〉の養女:テレパシー能力の持ち主)は、池村碧彩・井澤美遥・福地美晴・増田梨沙がクワトロキャスト(交互出演)で務める。筆者は、3月8日(水)の初日公演の直前に公開されたゲネプロ(総通し稽古)を見学した。
スパイの〈黄昏〉はロイド・フォージャーとして、オペレーション〈梟(ストリクス)〉の任務遂行のため、孤児院で見つけたアーニャと、昼間は市役所に勤めるヨルと家族になる。だがアーニャは実は他人の心を読める超能力者(エスパー)、ヨルは殺し屋という裏の顔があった。そのことを互いに知らない(アーニャだけは超能力で察している)仮初めの家族・フォージャー家だが、さまざまなミッションを乗り越えていくうちに関係を深めてゆく。
オープニング、一人の少年が後に〈黄昏〉というスパイとして生きていくきっかけともなるシーンが印象的に描かれる。それが視覚・聴覚に訴えるリアルな実写となることで、「こどもの泣かない世界」「よりよき世界のために」という〈黄昏〉の信念がより明確になる(美術:松生紘子、照明:松本大介、音響:秋山正大)。このシーンのみならず、松生紘子の美術は、盆を多用して場面をシームレスに行き来させ、私たちを『SPY✕FAMILY』の世界へと誘う。
ミュージカル『SPY×FAMILY』  製作:東宝 (c)遠藤達哉/集英社
かみむら周平の音楽も印象的だ。暗めで強烈なオープニングの後、「さあ、ミュージカルの始まりですよ!」と、ジャジーで華やかなオープニング曲「よりよき世界のために」につなげる。梅棒(楢木和也・天野一輝)振付の群舞、朝夏まなと演じるシルヴィア・シャーウッドのダンスが目に楽しい。この曲は第一幕のエンディングにもつながり、ミュージカルならではのわくわく感を演出してくれる。また、アーニャが2022年12月のFNS歌謡祭でも披露した「アーニャをしるとせかいがへいわに」のメロディが、ライトモチーフとしてアーニャの心情に寄り添って使われたり、イーデン校の伝統を表す曲にチェンバロの音色を加えるなど、世界観を細やかに表現する。
ミュージカル『SPY×FAMILY』  製作:東宝 (c)遠藤達哉/集英社
さて、原作・アニメのファンにとって、「どのシーンが舞台化されるのか」は大きな関心事だろう。もちろんそれは観てのお楽しみだが、既にアーニャ役のお披露目会見において、「イーデン校合格」「ロイドがひったくり犯をやっつけるところ」「お洋服を買いに行くシーンで、“アーニャ、ははいなくて、さみしい〜”と言うところ」があることは明かされていた。中でもイーデン校受験序盤の名場面が、次々と立体となって目前に現れるのは、コミック実写化ならではの興奮だった。アーニャが視聴しているスパイアニメの登場人物・ハニー姫や、ヨルの妄想上の人物・イケニエール書記官なども登場するのが心憎い。また、コミックの実写化らしく、セリフやト書きが映像となって笑いをプラスする(映像:橋本亜矢子)。
ミュージカル『SPY×FAMILY』  製作:東宝 (c)遠藤達哉/集英社
アクションとコメディの両要素を持つミュージカル『SPY✕FAMILY』は、ロイドやヨルが、よりよき世界のために行うアクションの数々が見せ場となる(アクション:諸鍛冶裕太/アクション吹き替え:依里)。こんなに強い“ちち”や“はは”がいたら、カッコいい、わくわく! ……そんなアーニャの気持ちを観客も一緒に体験できるのだ。
ミュージカル『SPY×FAMILY』  製作:東宝 (c)遠藤達哉/集英社
コミカルな要素として、情報屋フランキーのお人よしでポジティブな明るさ、ユーリのシスコンぶり、フィオナの強烈すぎるキャラクター、そして第3寮寮長(ハウスマスター)・ヘンダーソン先生による「エレガント」の活用形のシャウトは最高だ。ヘンダーソン役・鈴木壮麻は、耳心地のよい声、漫画から飛び出してきたかのような姿、モノクルにエレガンスが漂う。本を読む姿、お紅茶を淹れる姿はベリー エレガント!スマート&エレガント!!
ミュージカル『SPY×FAMILY』  製作:東宝 (c)遠藤達哉/集英社
ミュージカル『SPY×FAMILY』  製作:東宝 (c)遠藤達哉/集英社
ミュージカル『SPY×FAMILY』  製作:東宝 (c)遠藤達哉/集英社
ミュージカル『SPY×FAMILY』  製作:東宝 (c)遠藤達哉/集英社
そして何といってもアーニャの可愛さ!! 原作どおりの三頭身フォルム、ピンク色のふさふさの髪の毛。体全体を使った演技や、レストランで足が床につかずにブラブラさせる子どもしぐさ。料理への「美味しい~~」というリアクション。「ハッ!」など心の声を口にしながら驚く表情、声色、口調。一挙手一投足から目が離せない。子育てという未知のミッションに挑むロイドは、大人のセオリーが通用しないアーニャに翻弄される。そんな時「《娘》ならば他を探せばいい」と思いつつも、けっして見捨てることができないのは、里子に出されては何度も孤児院に戻された過去を持つアーニャが、瓦礫の下で泣いていた幼い自分の境遇と重なり、「こどもの泣かない世界」を目指したきっかけを思い出すからであろう。それは、《妻》のヨルも同じで、ヨルがロイドに結婚をもちかけるシーンは、お互いの利益のための契約といえど、ロミオとジュリエットさながらのロマンスさえも漂っているかに思えた。
ミュージカル『SPY×FAMILY』  製作:東宝 (c)遠藤達哉/集英社
血縁でなくとも、ファミリーは作れる。それぞれに家族には見せない裏の顔がある彼らだが、ロイド・ヨル・アーニャの3人が協力して助けたおばあさんに、「あなたたち、とても素敵な家族ね」と言われるほどになってゆく。3人が最も結束する、イーデン校受験のための予行演習(美術館でのアーニャの言動、オペラを鑑賞してポカンとするヨルの表情に爆笑!)、イーデン校受験でのさまざまな難題を乗り越える連続場面は痛快だ。アーニャの合格で、オペレーション〈梟(ストリクス)〉のフェーズ1は終了。フェーズ2へとつながっていくエンディングは思わず続編も期待してしまう華やかさだ。
ミュージカル『SPY×FAMILY』  製作:東宝 (c)遠藤達哉/集英社
人はみな、誰にも見せない自分を持っている。裏社会で素性を隠して暗躍する人たちが、実は私たちの平和な日常を守ってくれているかもしれない。フォージャー家の裏の顔・表の顔、両方を、コミック、アニメ、舞台で見続けていたい。
取材・文=ヨコウチ会長

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