TAMIW、最新作『Fight for Innocenc
e』で挑む時代の最先端ーーポスト・
トリップホップ・バンドのルーツとア
ップデートしたサウンドを紐解く

ポスト・トリップホップ・バンドを掲げる大阪の4人組、TAMIWが3rdアルバム『Fight for Innocence』を完成させた。これまで以上に先鋭的かつ混沌としてきた同アルバムの手応えは、コロナ禍の最中も活動を止めずに自分達のサウンドを磨き上げてきた、まさに成果と言えるだろう。今回、明らかな意思の下、バンドをアップデートさせることに挑んだTAMIWの4人をサポートしたのが、KIRINJIthe HIATUSiriらを手掛けてきた敏腕エンジニアの柏井日向。共同プロデューサーとしてレコーディングに参加するのみならず、所属レーベルのオーナーとして、さらにはマネージャーとしてもバンドをバックアップする柏井がTAMIWに大きな可能性を感じていることは明らかだ。大阪から鳴らされる世界基準のTAMIWサウンドを、この機会にぜひ知っていただきたい。
今回、SPICEではtamiの実家のお寺にある蔵を改修して運営している、大阪堺のスタジオ・Hidden Placeでインタビューを敢行。バンドの歩みを振り返りながら、tami(Vo.Looper.Violin.Ondomo)と河部翔(Gt.Ba.Cho)に『Fight for Innocence』におけるバンドの挑戦について聞かせてもらった。
トリップ・ホップの魅力。結成2年目で駆け抜けたアメリカ・ツアーの収穫

TAMIW

ーーまずは結成からこれまでの歩みを簡単に振り返らせてください。TAMIWは2018年にtamiさんを中心に結成されたそうですが、その時点ですでに現在掲げているポスト・トリップホップ・バンドという方向性は決まっていたんでしょうか?
tami:田口(智章/Syn, SynBa, Cho)君と私がマッシヴ・アタックやポーティスヘッド、ビョーク、ヤング・ファーザーズといった、主にUKのちょっと暗い音楽が好きというところで意気投合したところから、べっち(河部)とBON-SAN(Dr,Beats)を集めて、TAMIWを始めたんです。厳密に言うと、BON-SANと私はそれ以前に一緒にやっていたこともあるんですけど、TAMIWを始めるにあたってはやっぱり田口君と意気投合したというところが大きかったです。バンドを始める時は、ポスト・トリップホップとは言ってなくて、オルタナティブと思っていたんですけど、音楽性としてはずっと変わらず、そこが芯にありますね。
ーーそもそも現在の4人はどんなふうに知り合ったんですか?
tami:そのうちバンドみたいにしたいと思いながら、1人でライブ活動をしていたんですけど、それと並行して、もっと遊びみたいな形でノーザン・ソウルのバンドもやっていて、そこで知り合ったのがBON-SANだったんです。最初はギターもベースもそのノーザン・ソウルのバンドのメンバーに手伝ってもらっていたんですけど、BON-SANは最初から私のやりたいことに歩み寄ろうとしてくれていて。その当時は今よりももっと暗い曲をやっていたんですけど、詳しくない人にはわからなさすぎる暗さと言うか(笑)。でも、BON-SANは「そこにボサノバのテイストを入れたらどうですか?」とか、いろいろアイデアを出してくれて、それが自分にとってはすごくありがたくて、この人とやりたいと思いました。その後、当時、田口君が名古屋でやっていたMuscle Soulというバンドと共演したとき、田口君と意気投合して、「今度コラボしましょう。僕が曲を作るので、歌を入れてください」といった感じで話が盛り上がって。そこからいよいよバンドを結成、となるわけですけど、最後に入ったべっちは昔から私が一方的に憧れていたギター・ヒーローで。その頃は髪もすごく長くて、革ジャンを着ていて、いかにもロック・ミュージシャンっていうオーラがすごくて、ちょっと近寄りがたかったんです(笑)。 
河部:ハハハ(照)。
tami:だから、ギターを弾いてくださいとなかなかお願いしづらかったんですけど、たまたま飲みの席で一緒になったら、意外に話しやすくて、見た目だけだったんだみたいな(笑)。それで、「手伝ってもらえませんか」とお願いしたんです。もちろん、TAMIWがやっている音楽は、ギターが必ずしも前面に出るものではないとは思うんですけど、マッシヴ・アタックのアルバム『Mezzanine』のようにギターを、ギターらしい方法で鳴らしたり、ギターらしくない方法で鳴らしたりしながら、シンセが鳴っていて当然という音楽にエッセンスとして足していったら何かおもしろいものができるんじゃないかという考えがあったんですよ。
ーー今のお話から想像するに河部さんは加入当初から求められるものが多かったようですね。
河部:そうですね。こういうふうにやってほしいと指定されていたような気はします。僕は元々、ハードめのギター・ロックをやっていたんです。だから、ある意味、一番テコ入れをされていたのかな(笑)。ただ、僕自身もハードなギターやロックだけじゃない音楽もやりたいと思っていたところだったので、それぞれのタイミングがばちっと合った感じでできたのは、本当に幸運だったと思います。

tami

ーーところで、tamiさんはトリップホップという音楽のどんなところに魅力を感じているんでしょうか?
tami:音楽を聴く理由は、ほんとに人それぞれだと思うんですけど、私が好きな音楽を家でかけていると、母とか妹とかは「暗い」とか、「お化けが出そう」とか言うんですよね(笑)。そんなふうに音楽を聴く理由やモチベーションが違うからこそ、同じ音楽を聴いても聴く人間によって全然違う感想になると思うんです。けど、私はちょっと暗いんだけど、その暗い海に沈んでいる感覚を味わいながら、慰められているような気持ちになるところがずっとあって。レディオヘッドもそうですけど、すごく明るい太陽みたいなパワーをいきなり浴びると、私は元気がもっとなくなっていくんです(笑)。暗い音楽に浸らせてもらうことで、じわっと自分がパワーを回復していく感じがあることに、ある時気づいて、すごく自分の人生に欲しい音楽だと思ったんです。そこが一番の魅力ですね。たぶん、こういう音楽を好きな人はけっこうそういうふうに感じているんじゃないかと勝手に思っていますけど。
ーーさて、結成後、TAMIWは18年8月に1stアルバム『flower vases』をリリースして、翌19年には20公演のアメリカ・ツアーを行いました。結成2年目に20公演のアメリカ・ツアーというのはなかなかできないと思うのですが、どんなキッカケがあったのでしょうか?
tami:最初から「海外に向けてやったほうがいいんじゃない?」と言われていたんですけど、インディーズとして自分らでやっているだけだったから、どうしたらいいか全然わからなかったんです。でも、海外で1回、ライブでもしてみたら何かわかるのかなと思っていたところに、tricotを海外に連れていったり、海外のバンドを日本に連れてきたりしていたブッキング・マネジャーと知り合えて。「海外でツアーしたい」と話をしたら、いきなり3週間で20公演というツアー・スケジュールを組まれたんですよ。なんなら1日2公演の日もあるくらいぎゅうぎゅうにライブを詰め込まれて、正直、すっごいしんどくて、メンバー同士喧嘩したり、仲直りしたりしながらという本当に「ドサ回り」という言葉がぴったりのツアーだったんですけど、それが良かったんですよね。バンドの経歴に箔がついたということよりも、海の向こうでも、自分たちの音楽をちゃんと聴いてもらえるし、中には感動してくれる人がいるんだっていう、当たり前のことではあるんですけど、それを体で感じられたんです。

河部翔

ーー苦労はあったけど、収穫は多かった。
tami:バンドの結束力も上がりましたしね。
河部:僕達、好きな音楽は割とバラバラなんですけど、海外の音楽が好きで、ずっと影響されているところは共通しているんです。そんな僕らが作る音楽が海外でどれだけ受け入れられるのか挑戦してみたわけですけど、正直、日本からわざわざ来たんだからというところで、「良かったよ」と言ってくれるお客さんもいたとは思うんです。でも、ツアーが後半になるにしたがって、そういうことではなくて、ちゃんと1つのバンドとして見た上で「かっこいいね」と言ってくれる人が増えていった。自分達がやり続けてきたことは間違ってなかったんだ、と思えたのはすごくよかったですね。
ーー20年4月には2ndアルバム『future exercise』をリリースして、さあこれからというところで、コロナ禍になってしまったわけですが、TAMIWはそこでめげることなく、自分達のスタジオで自分達の音楽性を磨き上げていったようですね?
tami:メンバー全員、近所に住んでいるので、コロナ禍の中でも会えないということがなかったので、それが大きかったですね。その上、私達は曲を作るのも好きで、どちらかというとライブができなくてもメンタルが安定している方だったので、ライブができないなら曲を作ったり、スタジオ・ライブをしよう、という方向に動けていたんだと思います。なのでコロナ禍だからしんどいということはなく、次はこれをやろうというステップを順々にこなしている感覚でやっていました。ライブ配信をYouTubeで半年くらいやったこともそうですけど、いろいろやってみることができたので、コロナ禍が始まった最初の1年は、ある意味で有意義でしたね。もちろん、ライブがいくつか中止になったことはあったんですけど、落ち込むとかはなかったよね?
河部:そうだね。
ーー新曲を作りながら、今後の可能性も見出せていけた、と?
tami:そうですね。私はバンドという形にすごく憧れがずっとあったので、バンドは集まらなきゃとか、膝を突き合わせながらスタジオで曲作りしなきゃとか、思い込みが激しいところが少しあったんです。でも、BON-SANがメールで送ってくれたビートに、それぞれに音を加えるというやり方で曲を作っても全然できるじゃんと、状況も状況だからよけいに思えたと言うか、そこもうまくシフトできたところはありました。
自問自答の末に気づけた「イノセンスのために戦う」というテーマ

tami

ーーその成果とも言える「Lights」「PurePsychoGirl」という新曲を、21年に配信リリースしつつ、22年の後半には自主企画ライブも行って、22年11月からは新曲を3か月連続配信リリース。そして、今回の3rdアルバム『Fight for Innocence』となるわけですが、22年11月から3か月連続で配信リリースした「Eyes on Me」「Kick Off」「My Innocence」を作った時には、すでにアルバムの制作に取り組んでいたんでしょうか?
tami:基本的にはシングルだけを作ることはなくて、アルバムを作る目処がある程度立って、「これぐらいにはアルバムを作れるだけの曲が揃うね」となってから、シングルを考えるという流れが多いんです。なので、3か月連続で新曲を配信した時には、他の曲もベーシックなところは揃っていましたね。
ーー最初に配信リリースした「Eyes on Me」を含め、今回のアルバムの収録曲を作り始めたとき、方向性や目標についてはどんなふうに考えていましたか?
tami:私達の曲の作り方として、まずBON-SANが曲のベースになるビートを送ってくるんですよ。それを全員が「これ、めっちゃかっこいい」とか言いながら一通り聴いた後に、「じゃあ、私、これに歌を付けてみるね」と歌を付けるんですけど、歌を付けると、いろいろ噛み合わないところが出てくるので、楽器を差し替えたり、コード進行を変えたりしながら調整していくんです。ただ、BON-SANはビートを作る時に全然テーマを持っていなくて。
ーーなるほど。
tami:そこに私が歌詞やメロディを付ける段階でテーマが生まれるんですけど、毎回、キーになる曲ができたとき、あ、今回のアルバムはこのテーマで行こうとなることが多いんです。今回のアルバムは、「My Innocence」という3曲目のシングルができたとき、当時の私の心境や日々ニュースを耳にしながら感じていることとあいまって、イノセンスと、そのイノセンスのために戦っていこうというテーマで作ろうというふうに膨らんでいった感じですね。
ーーいろいろ同時進行だったと思うので、何曲目か限定的には答えづらいかもしれないとは思いますが……「My Innocence」は今回のアルバムの全体の作業の中で、何曲目ぐらいにできたんですか? 
tami:最初にできました。今回のアルバムに入れずに今後出そうと思っている曲と「My Innocence」のビートが同じタイミングでBON-SANから上がってきたんですよ。彼は元々、ヒップホップ・ボーイなので、陽気な曲を作ることが多いんですけど、その曲と「My Innocence」は、すごく静かな曲でした。
ーーつまり、アルバムを作り始めた段階でテーマは決まっていったわけですね。今回のアルバムのテーマは、まさに『Fight for Innocence』というタイトルにハッキリと打ち出されていますが、改めて、なぜこのタイミングで「イノセンスのために戦う」というテーマがtamiさんの中から出てきたのだと思いますか?
tami:私、自分を省みる機会がもしかしたら人より多いかもしれないんですよ。「考えすぎるタイプだよね」と人に言われるぐらい自分の頭の中のぐるぐると考える癖があるんですけど、それをずっと自我が芽生えてからやってきたんです。でも、それに少し疲れてきちゃって。「生きていくって、これを死ぬまでしなきゃいけないってことなのかな」と考えた時に、そこを見過ごしたり、私はこんな人間だからしかたないと思ったりするのではなく、そういう自分にそろそろ決着をつけて、納得しなきゃいけないんじゃないかと思い始めたんです。それにはまず自分自身の自意識と戦わなきゃいけない。そう考えたとき、戦うというのは、そもそも何だろうかとふと思ったんです。日本は今のところ戦争と無縁ということになってますけど、ニュースを見ると、常にどこかで戦争している。今だったらウクライナとロシアが戦争しているし、中国と台湾ももしかしたらという話もあるし。前のアルバムを作った時もイランとアメリカが戦争になりそうだという話があったんですけど、そういう国対国の戦争も戦うということだし、さっき言ったように自分の自我と戦うことでもある。「戦う」というとすごく大それた言葉と捉えてしまっているけど、実は日々、どこにでもあるんじゃないかと思い始めて、それについていろいろ考えてみようかと思ったんです。
ーーなるほど。
tami:同時に自分の自我と改めて向き合いながら大人になるにつれ、幼いころから変わらずにある自分の芯と言える部分に、泥がついたり、宝石がついたりして自分の自我ができあがっていることに改めて気づいたんですね。そのときに「イノセンス」と言える、その芯の部分をもっと大事にしなきゃいけないと思ったんです。
ーーそんな思いが『Fight for Innocence』というタイトルには込められている、と。そういうテーマの下、曲を作りながら歌詞を書いていったわけですが、tamiさんの中で答えと言えるようなものは見つかったのでしょうか?
tami:答えが出ないことが1つの答えなのかなと思いつつ、やっぱり「自分自身を愛してあげる」ことなんだと思います。これまでいろいろな人がいろいろな言葉で、それを言ったり、歌にしたりしてきましたけど、トガッていた頃はそういう言葉を聴くたび、何言ってんだと思ってたんですよね。自分を愛することができるなら愛してるよと。でも、やっぱりそれがまず大事なんだな。だからみんな言ってたんだなという当たり前のことに、まずひとつ気づけました。そこから初めて他人のことやもっと大きな事柄に対しても考えることができるんだろうなと気づけた。それができるかどうかは、まだ自分の人間としての進歩が追いついてないんですけど、気づけたことが今回のアルバムの歌とかテーマとかを考えることを通じてできたことかなと思います。
最先端をいく気概をもって、アップデートしたサウンド

河部翔

ーーさて、サウンド面の話も聞かせてほしいのですが、今回のアルバムは前の2枚のアルバムに比べて、表現と言うか、サウンドがぐっと先鋭的かつ混沌としてきた印象がありました。それともう1つ、いわゆるJ-POPの枠組みに、さらに縛られないものになったという印象もありましたが、サウンド面ではどんなテーマがあったのでしょうか?
河部:そうですね。今までのアルバムに比べると、制作中に誰々風のサウンドみたいに具体的なバンド名が挙がることが多くて、バンドとしての狙いがヤング・ファーザーズとか、リトル・シムズとか、洋楽の最先端のところにさらにシフトしてきたと思います。今までは自分達の中に蓄積してきたものから作ってきましたけど、今回、先に目標とするサウンドを思い描きながら、そこに意識を持っていったんです。これまでは中から外でしたけど、今回はそこからさらに外へ向かっていくようなイメージでしたね。それが結果的にサウンドの全体としてのキモになったのかなと思います。
tami:かなりそこは意識しましたね。日本にいる私達の中から勝手に湧いてくる部分だけで作っちゃうんじゃなくて、自分達が目標としている音楽をちゃんと研究した上で、自分達のものとして取り込んでいくことを熱心にやりました。
ーーそうやって自分達のサウンドをさらにアップデートしていった、と?
tami:そうですね。あの人達みたいになりたいなと言っているだけだと、1周遅れになっちゃうと思うんですよ。だから、洋楽の最先端を知った上で、自分達はもっとがっつりとアップデートしていくぞという意識をしっかり持ったと言うか、ちゃんと最先端を行くつもりで作ろうと言うか。結果、それをどう評価するかは聴く人しだいですけど、自分達はその気概を持って、しっかりとアップデートしていったという手応えはあります。
ーーその成果が一番表れた曲を挙げるとしたら?
河部:「Eyes on Me」は、そういう印象があります。tamiが本格的なラップに挑戦しているところや、音像に僕らの意識が表れていると思いますね。
tami:確かにTAMIWの今回のチャレンジがまんべんなくエッセンスとして入っているかもしれない。
河部:それと、「Dawn Down」。
ーー「Dawn Down」にもラップが入っていますね。
tami:そうですね。でも、歌もこれまで以上に、いい状態で表現できていると思います。元々、いろいろなジャンルの要素を取り入れながら、オルタナティブとは?というところを追求していきたいという意識でやっていますけど、今回はそこがより意識してやれたんじゃないかなと思います。
tami
ーーtamiさんのボーカルも以前に増して、表現の幅が広がると同時に、よりエキセントリックになっている印象があって。「My Innocence」ではボーカルも大胆にサンプリングとして使っていますよね。
tami:そうですね。元々、歌手になりたかったので、歌手はこうじゃないとという固定観念があったと言うか。ともすれば視野が狭くなっちゃうところがこれまではあったと思うんですけど、今回のアルバムを作るにあたっては、それを自然になくせたんですよ。何でもやってみようと思ってやってみたら、これ、イケるかもしれない。これ、かっこいいかもしれない、というのがいろいろ見つけられたので、私の声をこんなふうに使うのはイヤだという意識も気づいたら全然なくなってましたね。その結果、いろいろな試みができました。
ーーそう言えば、今回、ラップを本格的に取り入れてみようというキッカケがあったんですか?
tami:何だろう? なんかやってほしそうだったんですよ(笑)。
河部:ハハハ。
tami:BON-SAN、普段ラップばっか聴いてますからね。ラップできたらいいのになと思ってたんでしょうね。マネージャーの柏井さんも「ラップやってみたら?」と言ってたと思います。私がラップしたらいいと、なんでみんな思ってるんだろうかと不思議でしたね、最初は。何年か前はイヤだったんです。ラップはラッパーに頼んだらいいし、韻を踏むなんてできないし。
河部:前はやりたくないと言ってましたからね。
tami:でも、それも固定観念なのかも。うまくできなくても、とりあえずやってみたらいいのかなと思えたのでやってみました。そしたら、意外とイケるかもしれない。やってみるわと、最初は喋る感じのラップからいろいろバリエーションを広げていけたので、次はこんなこともやってみたいっていうのは沸いてますね。
河部翔
ーー河部さんのギターも、以前からのブラック・ミュージックの影響を感じさせるプレイに加え、今回はギターらしからぬプレイやフレーズをこれまで以上に追求しているという印象がありました。
河部:まずは曲にどういうことが合うだろうかと考えているので、ギターじゃなくてもいいのかなってところも柔軟に考えられるようになりました。とはいえギターが一番弾ける楽器なので、他の楽器のエッセンスをギターで表現したいというのが個人的なテーマでもありましたね。たとえば、「Dawn Down」にシタールっぽい音を、ギターで作って入れてみたりとか、効果音みたいなイメージで金属的な音を入れてみたりとか。でも、逆に今までやってきた、いわゆるギターらしいギター……ハード・ロックっぽい歪んだ音でやってみた曲もありますし。割とフリーな感じでやってみようというところから結果的にそうなりました。
ーー足元のエフェクターの数も増えつづけているんじゃないですか?
河部:そうですね(笑)。いろいろなアプローチをしちゃうと、その音を出すにはこのエフェクターじゃないととなって、ものすごく増えてきちゃうので、そこは悩みどころではあるんですけど。でも、プレイのアプローチによっても音色は変えられるので、今はそういうところも学べているところかなと思います。
tami:音源ではギターじゃないけど、ライブでは敢えてギターでやってみるというおもしろさもあるので、そういうアレンジをいろいろ試すのは楽しいですね。バリエーションが広がって。
河部:曲の勢いが増すようにライブでは敢えてギターっぽい音で弾いてみるとかね。ギターを入れる、入れないで、音源とライブをいい意味で違うようにできるんですよ。音源にギターを入れていない曲のほうがライブでギターを入れた時にギャップと言うか、イメージを変えられるんです。そういうライブでの見せ方もできるようになってきたのかなと思います。
ーー全体的にエレクトロな音像が鳴っているのですが、その中でギターが前面に出た「For the Ideal」や「Inter rude」は、一瞬にして流れが変わるという意味で、良いアクセントになっていますね。もう1つの聴きどころなんじゃないかと思います。
tami:「Inter rude」は、まさしくそういうイメージで入れました。べっちが作ったんですけど、作ってきた時からこの感じだったんです。そのネイキッドな感じの音を、聴き手をエレクトロな世界に没入させたところで持ってきたら、けっこうハッとさせられるんじゃないかと考えていたので、その狙いがちゃんと伝わっていてよかったです(笑)。
ーー「Kick Off」も印象的でした。80年代っぽいと言うか、ゴスペルの要素もありつつ、オーケストラ・ヒットっぽい音を作ったユーモラスなところもあるサウンドが、個人的には80年代にバグルス、イエス、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドを手掛けたトレヴァー・ホーンを連想させたのですが。
tami:BON-SANが何をイメージしていたかはわからないですけど、彼、イエス好きだよね?(笑)。BON-SANの妹さんがチェリスト、BON-SANの彼女さんがピアニストなんですけど、他の曲と違って、この曲だけ妹さんに協力してもらったんです。チェロは妹さん、オルガンは彼女さんだから、他のトラックとちょっと違う感じがすると言うか、プレイヤビリティは他のトラックよりも高いので、それが結果、おもしろい感じに仕上がったと思います。BON-SANの中には、明確なイメージがあったみたいですね。リンキン・パークのライブでチェスター・ベニントンが叫んでいるイメージで歌ってほしいと言われて、どういうイメージでこの曲作ったんだろうって(笑)。私には、そのちぐはぐさがおもしろかったんですよ。
ーーそんなところも新境地の1つですね。さて、新境地と言えば、「Genius made by Publishers」がまさにそうだと思うのですが、明るいピアノ・ポップ・ソングとヒップホップとサンプリングの折衷を思わせつつ、インディ・ロック風に鳴っているギターや跳ねるリズムがパーティー・チューンにも聴こえるおもしろい曲になりました。
河部:今までにないタイプの曲ですね。
tami:その曲のベースは田口君が作ったんですけど、彼は私と趣味が似ている上にもっともっと暗い音楽が好きなんですよ。だからなのか、明るい曲をずっと作ってみたいという気持ちがあったようで。それで大好きなジョン・レノンや、私も好きなんですけど、プライマル・スクリームみたいなインディ感を意識しながら明るい曲を作ってみたそうです。そういうわかりやすい曲を、敢えて作ってみるという彼の挑戦に、みんなで協力しながら完成させていった曲なんですよ。なので、今までのTAMIWのイメージとはちょっと違う曲になりましたけど、逆に今、これをTAMIWが出すとおもしろいかなという。
ーーこの曲をライブでやったら、ライブの景色や雰囲気も変わるんじゃないですか?
tami:そうですね。ぜひシンガロングしてほしいですね(笑)。
実家のお寺の本堂にて
ーー前作にひきつづき、今回のレコーディングも日本のブリストルを掲げるバンドのスタジオ、大阪堺のHidden Placeで行ったそうですね?
tami:そうです。Hidden Placeは貸しスタジオとしても営業しているんです。いろいろなバンドさんがレコーディングに来られるので、私達はその合間を使ってレコーディングしたんです。だから、がっと集中してと言うよりは、ちびちびと生活の一部にレコーディングがあるみたいな感覚で作っているんですけど、今回、ようやくその作り方に慣れてきたこともあって、すごく作りやすかったです。歌も何度も録り直しできたんですよ。そこが自分達のスタジオがあるメリットと言うか、録ってから時間が経てば、自分の解釈が変わってくることもあるし、みんなも楽器を入れる上でも違うアイデアが沸いてくることもあるだろうし、日常にスタジオワークを入れることで、納得行くまでできるんです。
大阪堺のスタジオ・Hidden Place
ーー今回、柏井さんが共同プロデューサーとして参加されていますね。
tami:1つ前のEP「FloatingGirls」(22年9月リリース)は途中からの参加だったんですけど、今回は最初からがっつりと参加してもらいました。
ーー柏井さんが加わったことで、変わったことはありましたか?
tami:メンバー以外の方と、完成前の自分達の作品をシェアする経験がなかったんです。エンジニアも2ndアルバムまでは田口君がやってましたから。『FloatingGirls』からライブのPAをやってもらっているエンジニアさんに一部録ってもらったんですけど、基本的にメンバーだけで完結していたので、メンバーじゃない方とやるのはすごく新鮮でした。今回、柏井さんに何曲かミックスしてもらったんですけど、それも自分達の想像を超えていて、こうなるんだったらもっとこうしたいという気持ちにもなりましたね。あと、これまではそれぞれのパートのことに口出ししないという雰囲気があったんですよ。みんな、自立心を持っているプレイヤーなので、あまり言いすぎてもというところがあって、それは変な遠慮だったかもしれないですけど、柏井さんが入ってくれたことで、そこも変わりましたね。
ーーなるほど。そういう面でもサウンドがより磨きあげられたわけですね。お話を聞かせていただいて、今回のアルバムはバンドのアップデートを印象づける作品であると同時に、これをステップに音楽性はさらに進化していきそうだとTAMIWの今後がさらに楽しみになりました。最後にリリース後はどんなふうに活動していこうと考えているのか聞かせてください。
tami:アルバムのリリース・ライブとして、3月10日(金)に東京・渋谷Spotify O-nestで初のワンマン・ライブをやります。VJも入れて、かなり気合の入ったライブになると思います。時間も今までで一番長いので、それも1つの挑戦ではあるんですけど、すごくいいライブにしたいと思っています。もちろん、その後も新しい曲をリリースしていこうと考えていますけど、今回のアルバムのLPも5月24日(水)にリリースします。アルバムを作るって、バンドにとって大きなことじゃないですか。自分達は間違いなく音楽推しのミュージシャンで、バンドだという自覚があるので、レコードでも聴いてほしいんです。それで前のアルバムで初めてLPを作ったんですけど、それがすごく良かったので、今回も作ることにしました。よかったら、ぜひLPでも楽しんでいただきたいですね。

TAMIW

取材・文=山口哲男 撮影=ハヤシマコ

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