坂ノ上茜

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【坂ノ上茜インタビュー】主演映画『
ぬけろ、メビウス!!』公開 人生にも
やもやした思いを抱える主人公に共感
できる部分も

女優・坂ノ上茜さんの主演映画『ぬけろ、メビウス!!』が2月3日に公開された。進路や恋について“これでいいのか”ともやもやした思いを抱えた主人公が人生の一大決心をする物語。地元・熊本にいた中学生のときにオーディションを受け芸能界デビュー、その後試行錯誤を重ねながら主演女優になった坂ノ上さん自身とも重なる部分もあったようだ。

本作は、建築会社の契約社員として働く優子(坂ノ上茜)が、正社員になる前に雇い止めを宣告され、24歳にして突如大学進学を志す。その過程で生じる、母親、婚約者、友人との間での問題に向きあっていく成長物語となっている。

--実は、この『ぬけろ、メビウス!!』が坂ノ上さんにとって劇場公開で初の主演映画になるところが、まさかの主演映画2作目になったそうですね。
「そうなんですよ! 自主上映を想定して撮られた『愛ちゃん物語』(2022年)のほうが先に劇場公開されたので。劇場公開作としては『ぬけろ、メビウス!!』が初主演作と思って撮っていたので、こんな形になるとは思っていなかったです(笑)。でもありがたいお話です」
--撮影は『愛ちゃん物語』のほうが先で?
「はい。3年前まだコロナ禍に入る前でした。その2年後くらいに『メビウス』の撮影がありました」
--今回座長ということで、自分が場を引っ張らなければ、という思いもありましたか?
「自分が引っ張るというよりは、チームとしての一体感を大切にしていました。みんなで作っていくという感覚で。その中でコミュニケーションが大事だと思ったので、まずは基本的なことなんですけど、現場の人の名前をちゃんと覚えて、現場で何か尋ねるときでも、仕事以外の時間でも名前で呼び合って、仲のいい組になりたいなと思いました」
--『メビウス』の共演者では、相手役の細田善彦さんはお付き合いがとても長いとか。
「はい。私の女優デビュー作『ウルトラマンX』でご一緒させていたのが19歳の頃で、“ドライ(リハーサル)って何?”みたいな頃から知ってくださっているので、成長したところを見せないとな、という緊張感はありました。でも、とても気さくな方なので、当時と変わらず仲良くお話ししたり、現場では大先輩として引っ張ってもらっていました」
--細田さん演じる太一とは恋人同志で、一応婚約者ということになってるんですね?
「お母さんの強引な話の進め方で、勝手に婚約者になっているんです(笑)」
--細田さんは、12月の完成披露舞台挨拶のときには、“二人で恋人役という気持ちになかなかなれなかった”という話もされていましたね。
「やっぱり変な感じがするんです(笑)。『ウルトラマン X』のメンバーに『今度、彦さんと共演するんだけど、恋人役なんだよね』と伝えると、『それは絶対見に行く(笑)』と言われました。みんなも面白がっています(笑)」
--照れ臭かった?
「私はそれほど気にならなかったです。すごく人懐っこく接していける方だから、“初めまして”の人と比べると距離はつめやすくて、あまり照れ臭さはなかったかなと思います」
--今回演じている優子は、専門学校卒がコンプレックスで、会社では正社員になれないまま雇い止めに遭い、私生活では恋人がいるものの、結婚するものだと親たちが勝手に盛り上がるもなんとなくしっくりとはきていない中、一念発起して……という役柄。どんな印象を持ちましたか?
「優子は田舎育ちの普通の女の子。私も熊本で生まれ育って、高校生までは地元の友達と一緒に過ごしてきたので、決して遠くはない存在な気がしていて、自分の周りでも専門卒コンプレックスがある友達もいたことを思い出しました。東京の大学に行きたかったけど行かせてもらえなかった子、また熊本を離れたいと思っていたものの、長女であるが故に親御さんと衝突して、熊本の大学に行って就職したけど、しっくりきていない子など、身近にそういう感情を持つ人がいたので、こういうことってあるよなと感じる場面が多く、自分にとって遠くない存在だという印象を持ちました」
--前回のインタビューのとき、13歳でオーディションに受かったものの、中高生時代は地元・熊本で過ごして活動することになり、焦りもあったけど、すぐに上京していたら得られないものもあったという話をしてくれました。こんなふうに芸能人じゃない一般の人がぶつかる悩みとか、そういう話を聞くことができる人が多いというのも大きな財産かも。
「はい。今回専門学校卒で悩んでいるという役柄なんですが、さっき挙げた子たちのほか、本当は大学に行きたかったけど受験で落ちてしまって、専門学校に進んだ子がいて、その子は就職したあと、お給料の面でも4年制大学卒の人と比べると差が出てしまって、それがコンプレックスだと言っていたのですが、ある日突然LAの大学に行ったんです。“メビウスから抜け出した人”としてその子がパッと思いついて、いろいろ聞きました。“どういうきっかけだったの?”とか。その子の場合親が背中を押してくれたとのことで、優子とは違う部分もあるけど、そういうとっさの勢いというか、飛び出す瞬間の衝動的な感じは話を聞いていて、すごいなと思い参考にさせてもらいました」
--親が敷いてくれた路線に乗ってもそれなりに幸せにはなると思いますが……。
「そうですよね。優子も人と比べながら“なんだかな”と思いつつも、今の自分の人生に対してめちゃめちゃ大きな不満があるわけではないけど、自分がなんとなく諦めてしまったものがあり、“〜たら”“〜れば”みたいな感情がずっともやもや残って、その衝動が出たんだろうなと思いました」
--坂ノ上さんは自分から志してこの世界に入ったんですか?
「はい。もともと自分が憧れて入りました。両親も応援してくれて」
--優子のように親から反対されることもなく?
「それがなかったんですね。私はやりたいことをダメと言われることなく育ってきて、そこは優子と違うところですね。優子もなんでもかんでもお母さんからダメだと言われていたわけではないと思うんですけど、やりたいという熱量が、お母さんの意見に対して折れるてしまう程度だったのかなと」
--これまでの自分の人生の道筋はわりと自分の意志で決めてこられたほう?
「そうですね、自分の意志もですし、両親の気持ちもすごく合っていて、それはありがたかったです。でも私の親も優子のお母さんみたいに結構心配性で、親に手助けをしてもらいながら生きてきたところは似ていると思います。思うようにならないところをお母さんのせいにしている優子と違い、支えてもらった、フォローしてもらったところにちゃんと行こうと思っていましたが、優子の気持ちがわからなくもなくて、親の過保護さは似ているのかもしれません」
--気の持ち方もありますよね。今がうまく回っている坂ノ上さんと、うまく回ってなかった優子との違い、そこは紙一重かもしれません。
「紙一重ですよね。多分ポジティブにとらえるか、ネガティブにとらえるか。私も地元にいたままだったら優子のようになっていたのかもしれません」
--18歳を過ぎても上京を反対されたら、まさに優子のようになっていたのかも。
「もうテレビを見るたびにもやもやしていたと思います。13歳でオーディション(『アミューズ全国オーディション2009「THE PUSH!マン」)に合格させてもらってこの世界に入って、でも18歳までの5年間、事務所には所属しているけどほぼ活動していない時期もありました。同期の野村周平や吉沢亮、福田彩乃ちゃんたちが活躍しているのを、熊本でずっとテレビで見ていたので、ちょっと置いていかれている感じもあったり、自分も早く東京に出てもっとたくさん仕事がしたいと思ったこともありましたから、それが高校卒業後もずっと続くと考えたら、私も絶対どこかで爆発していたんだろうなと思います」
--18歳でようやく上京して、いよいよ本格的に活動が始まります。でも大学3年生頃には一般企業への就職活動も考えたとか。
「大学2年のときに『ウルトラマンX』をやらせていただいて、そのときには本当に学業との両立が大変なくらい忙しくさせてもらっていたんですけど、大学3年生くらいから4年生の夏休みくらいまでがすごく仕事が落ち着いていて、大学の友達が卒業して就職してお給料をもらう中で、私は卒業後それくらいの金額を稼げるようになるのか、生活していけるのか、それが厳しいならバイトしながらでもこの仕事をやっていきたいのか、そんなことを考えるようになりました。そのときに先輩から、“その道一本って決めていくのも素晴らしいことだけど、せっかくそういう機会(就職活動)があるのなら、就職するかしないかは別にして、その世界を知るのもいいんじゃない?”と言われて、それで心が軽くなった気がして。“確かにな”と。それでやっぱり芸能の道に決めたとしても、その経験も生きるかもしれないと思って就活をしました。その結果一般企業で働くことは違うなと思ったし、最終面接で全部落ちたこともあって(笑)」
--最終面接までは行った?
「最終面接まではなぜか行けたんですよね(笑)」
--以前、面接にはカジュアルな服装で行って、周りとの違いに驚いたという話をしてくれましたが、最終面接もカジュアルな服で?
「カジュアルな服で行きました(笑)。ベンチャー企業ではカジュアルな服でOKだったから、その勢いで大手企業の面接にも行ったら、周りはみんなスーツで(笑)。隣でメモを見ながら、こう聞かれたらこう答えようと確認しながら、ドキドキ呼ばれるのを待っている人の姿を見て、独特の緊張感を感じました。今となっては悩みながらもいろいろな経験ができてよかったと思っています」
--さて『メビウス』の話に戻って、今回はベテランの共演者には初共演の方も多かったと思います。
「寺脇(康文)さんはご挨拶させていただいたことはあったんですけど、共演は初めてでした。加藤貴子さんも初めてで。気さくで明るくて、いらっしゃるだけで現場の空気も明るくなるというか、活気付く感じがして、やっぱりすごいなと思いました」
--寺脇さんと加藤さんは、優子が、恋人とは別に好意を寄せるようになる瑛斗(田中偉登)の両親という役どころですが、エリート一家だけど世間の価値観とはかけ離れた独特な空気の家族。ホームパーティのシーンはかなりコミカルです。チェリーパイをやたら勧めてきたり。
「かなりパンチがあって、台本を読んだときに、“これどんなシーンになるんだろう(笑)”と思っていたんですけど、寺脇さんも加藤さんも想像を超える感じで、振り切ったお芝居ですごい! 笑いをこらえるのに必死でした。アドリブもいっぱいで」
--お母さん役の藤田朋子さんも今回が初共演ですね。和気藹々と楽しいシーンもありつつ、やはり進路や結婚のことをめぐって、お母さんが望む人生を歩いてきたことにもやもやしていた優子が爆発してぶつかり合うシーンは見どころです。
「いつも気さくに接してくださいましたが、喧嘩するシーンでは“もっともっと”“この程度だと私止められないよ”みたいに追い込んでいただきました。親子喧嘩のシーンがいくつかあって、自分の本当にやりたいという感情と心配する母の心がぶつかって、私の芝居に対してお母さんが止めるパワーもだんだん大きくなっていくので、最後の喧嘩シーンでは藤田さんのパワーがすごいから、そこに負けないように頑張りました。最初の頃は何度もそのパワーに圧倒されましたが、支えていただき乗り越えることができました」
--藤田さん演じるお母さんは居酒屋を経営していますが、そのお店で一緒にお酒を飲むシーンでは坂ノ上さんだけ本物のビールだったとか。
「はい(笑)」
--『町中華で飲ろうぜ』(BS-TBS)では毎回大瓶ビールを飲みながら食レポしているだけあります。でも、それで芝居がちゃんとできるのはさすがです(笑)。
「リアルなほうがいいかなと思って飲んだんですけど、グビグビ飲んじゃって、藤田さんに心配されて、『まだ撮影があるんだから、ほどほどにしておきなさい』と言われました(笑)」
--さて今年も始まったばかりですが、どんな1年になりそうですか。
「この1、2年で撮影した作品で、『メビウス』だったり、1月に公開された『BAD CITY』だったり、そのほかにも公開待機作がいくつかあるんですけど、それらの作品が今年続けて公開される予定です。そのキャンペーンで、思っていることをちゃんと言語化できたらいいなと。ちょっとまだ苦手なので、お話ししながら成長できたらと思います」
--今でも、こういうインタビューや舞台挨拶でのお話は十分面白いですよ。
「本当ですか? でももう少し上手に伝えられるようになりたいと思います。まだ勢いでごまかしてしまうところもあるので、作品を届けるためにも、ちゃんとお伝えできるようにしたいなと。また取材に臨むにあたって、自分と役柄を照らし合わせたりだとか、自分について考える機会も増えました。そういう意味ではさらに自分と向き合うことができる1年になるのではないかと思います」
--今後の待機作も楽しみですね。
「今情報が解禁されている作品でいえば、『神回』という映画があって、それはヒロイン役で出演させていただいているんですけど、高校生役なんです。一回り下の年齢の役! これもすごく面白い作品です」
--こちらも取材や舞台挨拶が楽しみです。
「2020年も映画の公開作がいくつかあったんですけど、コロナ禍で舞台挨拶などのイベントが行われなかったんです。せっかくいろいろ見てもらえる機会なので、自分の思いを伝えたかったんですが……。その点今年はちゃんと発信もできるし、もちろん2020年もSNSはあったんですけど、お客さんの顔を見て伝えられたり、上映後に挨拶があればお客さんの表情を見ることができたり。観てくださった方と顔を合わせて同じ空間にいることができるのが嬉しいなと思いました」
--これからやってみたいことは?
「やりたいことはいっぱいあるのですが、まずは食わず嫌いな性格から脱したい。食べ物でもいつ決まったものを食べて、食べたことないものをためらいがちなんです。仕事に対しても最初そういう感じだったんですけど、ありがたいことにバラエティとかいろんな仕事をさせてもらう中で“意外と面白いじゃん”と感じることが多くて、ちょっとでも興味があると感じたものには、積極的に挑戦していきたいと思っています。そこでいろんな人に知ってもらいたい。バラエティで知ってもらった人には映画を観てもらえたり、映画で知ってもらった人にはバラエティも、といった感じで広がっていけばいいなと思います。だから、あんまりこだわりすぎずに楽しそうと思えるところにはどんどん飛び込んでいきたいです。あとはみなさんに作品を届けるまでが役割だと思うので、作品を作るということだけではなく、きちんと送り届けられる人になれたらいいなと思います」
--筆者はどちらかといえば、まず『町中華で飲ろうぜ』で坂ノ上さんの魅力に触れたほうですが、そういう人も多いのかも。
「本当に『町中華』に出たことでいろんな人に知ってもらえて、声をかけてもらうことが増えたと思うので、そういう方々が私のお芝居にも興味を持ってもらえるようになったら嬉しいです。お酒飲んでニコニコしている茜ちゃんもいいけど、真剣にアクションをキメている姿を見てそのギャップもいいなと、私を通じて作品も知ってもらえるようになれたらいいなと思います」
坂ノ上茜(さかのうえ・あかね)
1995年12月15日生まれ、熊本県出身。2015年にドラマ『ウルトラマンX』で女優デビュー。以降、映画&ドラマ『BACK STREET GIRLS-ゴクドルズ-』(2019年)、『監察医 朝顔』(フジテレビ系/2019年)などに出演する一方、『王様のブランチ』(TBS系/2021年まで出演)、『町中華で飲ろうぜ』(BS-TBS ※レギュラー出演中)など情報&バラエティ番組でも活躍。近年では映画『愛ちゃん物語』(2022年、※主演)、映画『BAD CITY』(2023年)などに出演。
映画『ぬけろ、メビウス!!』は2月3日より新宿シネマカリテほか全国順次公開。The post 【坂ノ上茜インタビュー】主演映画『ぬけろ、メビウス!!』公開 人生にもやもやした思いを抱える主人公に共感できる部分も first appeared on GirlsNews.

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