佐々⽊佑紀、声優・野⽔伊織、元Kal
afina・Hikaru、小見山直人(lol-エル
オーエル-)らが共演 舞台『アンビエ
ントボーダー』稽古場レポート

2023年2月1日(水)から5日(日)まで、CBGKシブゲキ!!にて上演される、舞台『アンビエントボーダー』。稽古場レポートをお届けする。
訪れたのは、初日を間近に控えた1月某日夜の通し稽古。外気温は−1℃だというのに、稽古場にはもうもうたる熱気と緊張感がみなぎっていた。通しの開始予定時刻より少し前に到着して様子を見ていたのだが、殺陣の最終確認などが続き、なかなか稽古は止まらない。演出家から「じゃあ、18時半から通し開始します!」と締めの言葉が出たのが
18:28
である。えっ、休憩2分?!
小道具をきびきびとセットしながら「はい!」と応じる俳優たち。この集団、相当気合い入ってるゼ……と、前のめりに座り直して開始時刻を待った。通し稽古は、本当に2分後に始まった。
作・演出・出演を務める主宰の秤谷建一郎
本公演を主催するのはエンタメ劇団のCreative Company Colors(C.C.C)。役者、声優、クリエイターなど、エンタテインメント各界で活躍するメンバーが集まったプロフェッショナル集団だ。本作『アンビエントボーダー』は、歌あり、殺陣ありのド派手なエンタメ作品であり、その世界観はバリバリのSFである。
ここは本作を楽しむうえで結構重要なポイントだと思うのだが、ぜひ観劇の前に【あらすじ】に目を通してみてほしい。サイバーパンク的な世界観ゆえに聞きなれない用語が多く、人物名も独特なのだ。予備知識なしでも本質の人間ドラマは充分に味わえるけれど、幕が上がったら1秒でも早く没入して楽しんだもの勝ち! やはり事前に軽〜く知識を仕入れておくのがおすすめだ。ちなみに、C.C.Cの劇団ホームページでは【あらすじ】のほか、【キャラクターシート】という登場人物紹介も見ることができて面白い。
【あらすじ】
2023年世界は核の炎に包まれた。核の冬が訪れ、地球は生命が存在することは困難になった。
そこで生き残った人々はコールドスリープを実行、種の保存を願って100年後に命を送り出した。
空白の100年。多くのスリープ装置は寒冷にやられその機能を止める中、
日本の漆原工業が手がけた装置は唯一機能をつづけた。
氷河期を乗り越えた100年後、目を覚ました僅かな人々は、開拓、文化の復興を始める。
そこから数十年。
レンゴクシティと名付けられた、この世界で唯一の文化的営みを続ける都市は、
漆原のアンドロイド技術と、AI技術を駆使して復興を遂げていた。
しかし、人の記憶。それを保存する方法、メモリーボールを生み出し、AIへと活用することにより
爆発的な作業効率で開拓されたその街は、歪みを抱えていた。
記憶を提供した人民の無気力化、反対に知能をつけすぎたAIのシンギュラリティが迫っていた。
漆原工業一強とも言える独裁体制の中、それには対抗し市民の記憶を守る、レジスタンス、
義賊のような盗賊も出現するものの、間も無く訪れる技術的特異点を前に、
漆原の決定に逆らえるものは無かった。
そんな中1人の男、朱師庵時の元に
義賊「空蝉ノ骸」が主領、羊谷からある記憶と、馬酔木と呼ばれる一体のAIが届けられる。
彼の記憶が紐解かれる時、絶対的とも思われたこの街の環境の境界線に、揺らぎが生じていく。
これは、その記憶を辿り、それぞれが失った感情を取り戻す物語。
地球が失ったはずの未来を見つけ出す物語。
声が、歌が紡ぐ物語。
あなたの大切なものは何ですか?
それではネタバレに用心しつつ、本公演の見どころをいくつかご紹介していこう。
アドレナリン大放出
白熱の殺陣シーン
まずは通しがスタートしてすぐ、ダイナミックな殺陣のシーンに目を奪われた。まだ話の内容もよくわからないまま、手元を見ずに書いた観劇メモをあとで見返すと「かっこいい」とだけ興奮した字で残っていた。それがどの俳優のことだったのかはもはや不明だが、いずれにせよ、脚の長い俳優たちが目の前で演じるアクションには問答無用のカッコよさがある。
手前:「雑蛾(サイガ)」役の木幡良樹
中でも特に目を奪われるのは、警備用アンドロイド「雑蛾(サイガ)」役を演じる木幡良樹の身のこなしだ。本公演の殺陣監修も務めている木幡は、本当にアンドロイドなのでは、と思いたくなるような美しい動きを見せてくれる。この作品において、彼がリードする殺陣のシーンは大きな見どころのひとつと言えるだろう。
失われた記憶を求めて
物語を紡いでいくのは、個性豊かな劇団員&客演陣の計25名だ。舞台をいっぱいに使い、役者たちの歌と動きで魅せるオープニング部分は華やかで、さすがエンタメ劇団! と一気にテンションが上がる。
序盤からスピード感のある展開。振り落とされないようにしっかり掴まって……
そして、開演したと思ったらストーリーはいきなり怒涛の展開を見せ、あれよといううち、いちど確信犯的に観客は置いてけぼりにされてしまう。けれどその戸惑いがいよいよ高まったところで、佐々木佑紀演じる主人公「朱師庵時(アカシアンジ)」が思いを代弁してくれるので実にスッキリする。
「いいかげん説明しろよ!」
いやほんと、その通りである。
主人公「朱師庵時(アカシ アンジ)」役の佐々木佑紀
この物語は時間軸に沿って一直線に進むのではなく、人物たちの過去を織り交ぜつつ、謎や伏線を少しずつ回収しながら進んでいく。まさかこの人が〇〇だったなんて……と、一つひとつの「?」が解き明かされていくたびに、どんどん物語にのめり込んでしまうニクイ仕掛けなのだ。
シンガーとしての能力を活かし、佐々木が歌声を披露するワンシーンも
庵時の身にかつて何が起きたのか? そしてこの街で5年前に何が起きたのか? 記憶を紐解いた先には、胸がギュッとなるような出来事が待っている。
「朱師レコ(アカシ レコ)」役の野水伊織
主人公の愛妻「朱師レコ(アカシレコ)」を演じるのは、声優の野水伊織。こんなの卑怯だわ〜! とハンカチを噛みたくなるような可憐な声で、病弱なヒロインをひたむきに演じる。かと思えば、時には耳を疑うほどの冷たさや高慢さを覗かせる瞬間もあり、その引き出しの多さに驚かされた。
「羊谷 翔(ヨウガイ ショウ)」役の小見山直人(lol-エルオーエル-)
そして庵時や、小見山直人(lol-エルオーエル-)演じる相棒の「羊谷翔(ヨウガイショウ)」が凛々しく眼福なのはもちろん、おじさんたちのシーンにもまた違った色気が漂っている。この物語は奇跡を起こそうとする熱い若者の話であると同時に、自分の引き起こした結果と、その責任に向き合う大人の話でもあるのだ。友達同士でありながら、違う道を歩むことになった4人の男たちのシーンは、体だけでなく心の殴り合いを見ているようで印象に残った。
それぞれに違う覚悟を見せる男たち。きっと誰かに感情移入してしまうはず
聞かせてよ愛の歌を
出演者の中には、元Kalafina・Hikaruの姿もあった。昨年夏に初舞台を踏み、俳優として新境地を拓いたばかりのHikaru。彼女の連続初舞台企画『TRIGGER』の2作目にあたる本作では、アンドロイドの「馬酔木(アセビ)」役を務め、その歌声は物語の重要なキー、つまりトリガーとなっている。
「馬酔木(アセビ)」役のHikaru
アンドロイドらしい抑制の効いた演技トーンで大声も張っていないのに、Hikaruの声はどんなシーンでも驚くほどよく聞こえるのが不思議だ。まわりの音の凪いだ一瞬の隙間にポンと浮かべるように喋るのは、意識してのことだろうか。役者としての彼女の計り知れなさを感じさせられた。
感情の昂るシーンからコミカルなシーンまで、振れ幅の大きい演技を見せるHikaru
写真撮影とは別に、稽古場での通しはマスク着用で行われた。仕方ないと知りつつも、ハイライトとなるキャストたちの歌唱シーンでは、どうしようもなくもどかしくなってしまう。歌声でブブブと震えるマスクを眺めながら、劇場なら、どこまでもこの音が伸びていくんだろうな……と想像すると切ない。魂を込めて歌っている彼女たち自身は、きっともっともどかしいだろう。ああ、早く劇場で観たい。そしてマスクじゃなくて私の鼓膜とハートを震えさせてほしい……! この点は、初日が明けてからの最大のお楽しみだ。
※レポート当日はマスクをつけての通し稽古。文中の写真は別日に感染対策を十分に行いマスクをとってのシーン撮影をしている。
「Cle-ar//(クリア)」役の濵田茉莉奈
そしてアセビと対称形を描くアンドロイド「Cle-ar//(クリア)」の歌唱シーンもまた、見応えのあるポイントだ。キュートな振りをクールにこなす様には “歌姫アンドロイド” としての説得力が満ちている。クリアを演じるのは濵田茉莉奈。ただの可愛いお人形に終始するのではなく、作中で自らに疑問を持ち、しっかりと成長を遂げる彼女にも注目だ。
舞台を活性化させるスパイス
登場人物たちは一人ひとりが魅力的なのだが、個人的にとても惹かれるのは、泥棒集団「空蝉の骸(ウツセミノムクロ)のひとり「烏星(エボシ)」である。人との距離がバグっている不器用な彼女が、たびたび舞台上にピュアな風を吹き入れてくれるのが心地いい。観劇中、何度も声を出して笑わせてもらった。演じるのは元スターダムの⼥⼦プロレスラーでありながら、現在は⼥優としてアクトレスガールズを中心に活動中の安川結花(惡斗)。なるほど元レスラーとは、ここ一番というシーンでのダイナミックな演技にも納得かも!

手前:「烏星(エボシ)」役の安川結花
舞台上に風を吹かせていると言えば、河本景が演じる美少女「漆原遊杏(ウルシバラユアン)」もまたそうだろう。恋愛リアリティ番組への出演経験があり、SNS累計フォロワー数約40万人の彼女は、他の役者と佇まいがちょっと違う。異質とも言えるユアンが現れるたび、場に一種の緊張感が漂い、同時に彼女自身のまとうほんわかしたムードでそれが中和される……という絶妙なマッチポンプぶりである。どうしても目が行ってしまうのを逆手に取ってか、要所要所で彼女が場の清涼剤となっているのはお見事だ。
左:「漆原遊杏(ウルシハラ ユアン)」役の河本景
稽古場ではしばしばあることだが、通しの最中にはアクシデントで芝居の進行が止まり、ドキッとするような数分間もあった。そんな中で、「釈迦牟尼仏滅(ニクルベメツ)」役の阿川祐未が底力をもって状況に対応し、さらにそのストレスを燃料にしていっそう熱のこもった演技を見せたのは、稽古場取材の冥利に尽きる瞬間だった。自分がなんとかしなくては……! という孤独な使命感は、物語の影の支配者的存在・ニクルベの役作りの根本にも通ずるだろう。この俳優なら、本番でもさらに奥行きのある人物像を見せてくれるに違いない。

中央:「釈迦牟尼仏 滅(ニクルベ メツ)」役の阿川祐未
通しの終了後、作・演出家の秤谷建一郎と役者との間で、まずそのアクシデントについて短く振り返りの時間が持たれた。どうするのが良かったか? と自由に意見を交わし合う彼らの姿を見ていて、ここから本番までの数日間で、この公演はもう何段階も面白くなるだろうと感じた。大きなビジョンを持ちながら、稽古場全体に和やかな空気を生み出す秤谷のリーダーシップには、彼が演じる革命家「九頭龍雷銅(クズリュウライドウ)」の面影が重なるように見えた。いや、休憩は2分だったけど(しつこくてすみません)。
大きな拍手と期待を
何も無い稽古場で、役者の素ヂカラのみで演じられていたのに、「レンゴクシティ」の風景や降りしきる酸性雨まで感じられる2時間強だった。やっぱり舞台上と客席で力を合わせれば、私たちはどこへだって行けるのだ。
これから劇場入りし、音響照明映像、美術に衣装、すべてが芝居にさらなる魔法をかけるだろう。彼らが織りなす物語、そして響かせる歌声を、ぜひ客席で体感してみてほしい。
舞台『アンビエントボーダー』稽古場にて
舞台『アンビエントボーダー』は、2023年2月1日(水)から5日(日)まで、CBGKシブゲキ!!にて上演。チケットはイープラスにて販売中。
文=小杉美香 撮影=大橋祐希

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