新たな一年のスタートを切るための5曲

新たな一年のスタートを切るための5曲
新年あけましておめでとうございます。本年もOKMusicをよろしくお願いいたします。ついでに私のこともよろしくお願い申し上げます。帰省ラッシュで静まり返った東京のビル風に凍えながら仕事をするのにも慣れたもので、wi-fiのある店で同じような事情の人々と一心不乱にキーボードを叩くのが通例となっています。パソコンの照明が作る影の深さと自分が積み重ねてきたものの大きさが比例しているような気がしつつも、「もっともっともっと高いとこにいかなきゃ好きなことできないんだよ!」と吹けば飛ぶような名もなきライターのまま日々を過ごしてしまっている現実に歯痒さを覚えています。今年はこれまでよりさらに大好きな表現者さんの創作と読者の方々の間に動線を引けることを願って、自分で自分を鼓舞するのに相応しい音楽でスタートを切ります。
「誅犬」収録アルバム『あのち』/GEZAN with Million Wish Collective
「ノーワー」収録EP『恋と戦争』/リーガルリリー
「都合」収録アルバム『映帶する煙』/君島大空
「例大祭」収録シングル「守」/オワリズム弁慶

「誅犬」(’23)/
GEZAN with Million Wish Collective

「誅犬」収録アルバム『あのち』/GEZAN with Million Wish Collective

「誅犬」収録アルバム『あのち』/GEZAN with Million Wish Collective

ラテンのメロディーがひび割れた命の亀裂に差し込んで裏側から光る時、蔦のように伸び行くバグパイプの音色が解放を求めて空に放たれる時、あらゆる性別と国籍とバックボーンを乗り越えたコーラスのスキャットが胎動して蠢くリズムとなる時、マヒトゥ・ザ・ピーポーがBLACK SMOKER REDORDSからpeepow名義でリリースしたヒップホップアルバムに連なるラップが鼓膜を叩いた時、闇を焦がす音楽の塊が持て余した自信の才能を怒りに振り切った時。私たちは肌と肉の中で酸素を携えながら巡り巡る血が何のために流れているのか、その意味をようやく知る。沸き立つマグマよりも熱く、太陽の煌めきよりも鋭く、心の鼓動よりも早く躍らせてくれる。

「ノーワー」(’22)/リーガルリリー

「ノーワー」収録EP『恋と戦争』/リーガルリリー

「ノーワー」収録EP『恋と戦争』/リーガルリリー

昨年8月に配信リリースされたEP『恋と戦争』に収録されている「ノーワー」は、反戦歌やプロテストソングと括ってしまうには惜しい、息をふうっと吹きかけただけで崩れてしまいそうな脆さと柔らかさをそのまま結晶させた一曲。甘やかな舌足らずの声で歌い上げられる、あまりに苦い鉄の味に満ちた《風が吹くたびに 蹴り飛ばされて傷が深まった》《ノーワーノーワーのごり押しで 対立が始まって》というフレーズに心臓が締め付けられる。衝動のままに動くのではなく、あらゆる弱さの違いをそっと包み込むようにかき鳴らされるギターと、余白を透明な糸で編むように緩やかに進み続けるベースとドラムの跳ねるリズムが、悲劇を蹴飛ばして踊る自由を与えてくれる。

「都合」(’22)/君島大空

「都合」収録アルバム『映帶する煙』/君島大空

「都合」収録アルバム『映帶する煙』/君島大空

子供の幼気さと肉体の縛りから解かれた老練さが共生するトーキングブルースのような歌のなか、恋を含んだありとあらゆるコミュニケーションへの切なさと諦めの悪さが息と絡まって吐き出される。カッティングの効いたギターと縦軸のリズムを漂うベースとドラム、虹色の油膜を生みながら暗闇を裂くキーボードが、乾燥した空気に湿り気を籠らせながら、昼と夜の合間を繋いでいく。絶望にも希望にも似合う美しさ、叫喚と静けさが行き交い、ほんの束の間に与えられた無言の余白にも“音楽”と名付けられる不思議と奇跡が詰められている、宝石のように輝き、宝石よりも希少で貴重な楽曲。

「Lydia」(’20)/ZZZoo

ヤマジカズヒデ(Gt)、森川誠一郎(Ba&Vo)、田畑満(Gt&Vo)、若林一也(Sax)、DEN(Per)、KAZI(Dr)からなるスーパーバンドZZZooのインストゥルメンタル楽曲。鉱石の奥から伸びる光芒のように光るギターとリズムの間隙を縫い合わせるように泳動するベース、純化して音楽以外の何物でもなくなったサックスの音色が“スペーシー”という比喩では追いつかない速度と包容力でもって瞬く間に拡散されていく。ひりつくような贅沢さとストイックさが心地いい。

「例大祭」(’22)/オワリズム弁慶

「例大祭」収録シングル「守」/オワリズム弁慶

「例大祭」収録シングル「守」/オワリズム弁慶

総勢30人以上のメンバーからなり、三密であってこそ最も輝いてしまう総合芸術集団オワリズム弁慶。長きにわたる沈黙を破り、新章の幕開けに先駆けて発表したのは、ギターソロがスキップされてしまうこのご時世に喧嘩をふっかける気満々のインストゥルメンタル楽曲「例大祭」のMV。四方八方に跋扈する魑魅魍魎を追いかけ続ける間に辿り着いた未知なる空間のど真ん中は、どこに視線をやり、耳をすましても、「こんな地獄なら喜んで堕ちる」と胸をときめかせ、口角を上げてくれる山盛りいっぱいの幸福感しかない無限の夢幻にあふれている。危うい花の蕾が綻び、実を結び、散ってはまた芽吹くような瞬き分の早さで展開するキーボードと管楽器の音色が破茶滅茶に楽しい。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着