INTERVIEW / doggie 新世代ラッパー
・doggieの軌跡と野心。ドラマーから
ラッパーへ、鮮やかな転向を遂げた新
鋭の現在地

新鋭ラッパー、doggieがミニ・アルバム『AEROBLUE』をビクターエンタテインメント内のレーベル〈CONNECTUNE〉よりリリースした。
近年のSoundCloudを中心とした先鋭的なラッパー/アーティストら特有の折衷性の高いそのサウンドは、ヒップホップ、ロック、フューチャー・ベース、インディ・ポップ……などなど、もはや従来のカテゴライズはほとんど機能しない。その混沌としたサウンドを少し前までは“ハイパーポップ”と称することも多かったが、当事者たちにとってはそれももはや遥か昔のことのように感じられることだろう。
doggieの新作『AEROBLUE』はそういった流れを汲みつつも、より開けたポップスであることを志向しているように感じる。サウンドのテクスチャはトレンドと共振しながらも、求心力の高いメロディ・センス、叙情的なリリックが詰め込まれたウェルメイドな作品だ。
今作を携えより広い世界へと飛び立たんとするdoggieに、ここまでの歩みと秘めたる野心などを語ってもらった。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Maho Korogi(https://www.instagram.com/maho_korogi/?hl=ja)
ドラマーからラッパーへ転向した異色のキャリア
――doggieさんは元々ドラムをやっていたんですよね。ドラムを始めたきっかけは何だったんですか?
doggie:両親がMr.Childrenのファンで、母は特にドラマーのJENさんが大好きなんです。なので、息子をドラマーにしたいと思っていたらしく、小学生のときからドラム・スクールに通わされていました。でも、そのときは嫌々習ってるという感じで、中学生になってからはバスケ部に入ったので一旦ドラムから離れました。ただ、その後SPYAIRというバンドが好きになったり、ラップも聴き始めたりして、やっぱり音楽やりたいなって思ったので、高校では軽音楽部に入って3年間みっちりバンドに費やしました。
――軽音楽部ではどのような音楽をやっていましたか?
doggie:いわゆるロキノン系というか、当時流行っていた邦ロック・バンドのカバーをすることが多かったです。それとは別に学校外でもバンドを組んでいて、オリジナル曲を作って下北でライブしたりしていました。リュックと添い寝ごはん クジラ夜の街などと同期で、高校生向けのバンド・イベントに一緒に出演したりしていましたね。
――かなり本格的に活動されていたんですね。
doggie:レーベルからお声掛け頂くこともあったんですけど、高校を卒業したくらいのタイミングでバンドは解散してしまって。それからどうしようかなって考えたとき、元々ラップには興味があったので、2020年に一律で給付された10万円で機材を買って、曲を作り始めました。
――新しくバンドを組んだり、ドラムを続けていくことは考えなかったんですか?
doggie:正直、めちゃくちゃ考えました。ありがたいことに他のバンドからも声を掛けてもらったんですけど、すでにdoggieというプロジェクトへの熱が高まっていたので、全てお断りしました。バンド時代から作詞もしていたので、ラップもいけるだろうという根拠のない自信があったんです(笑)。
――中学生の頃からラップには親しんでいたとのことでしたが、当時はどのようなラッパーの作品を聴いていましたか?
doggie:『高校生RAP選手権』がめちゃくちゃ流行ってた時期で、たまたまSNSで流れてきたANATOMIAくんの試合を見て喰らって。ANATOMIAくんのルーツを辿る形で電波少女を知りました。そこからジメサギさん(Jinmenusagi)とか4s4kiちゃんなどなど、ネット・ラップ、ニコラップ界隈の作品をたくさん聴くようになったし、ネット・サイファーにも参加していました。高校生になってバンドをやるようになってからも電波少女のライブには行ってましたね。去年発表した「Snooze!」のMVにもさり気なく電波少女のCDが映っています。
自身の転機となった「ivory」
――現時点でオンライン上で聴ける、最も古い曲は2020年発表の「Flight feat. izolma」になります。これはどのようにして生まれた曲なのでしょうか。
doggie:「Flight」は自分で作り始めて2曲目とかにできた曲で、タイプビートを使って作りました。ちょっとややこしいんですけど、僕は中学のときに関西からこっち(東京)に引っ越してきて、izolmaは東京の地元の先輩なんです。ラップを始めることを後押ししてくれた存在であり、今でもすごくリスペクトしています。
――一方で、同年11月には正式な1stシングル「Moonlight」をリリースしています。
doggie:「Moonlight」は当時流行っていたチルラップに挑戦した作品です。できる限り全部自分でやりたいっていう気持ちがあったので、タイプビートを買ってミックスまで自分で手がけて、マスタリングだけは友人にお願いしました。今聴き返すとやっぱりちょっと粗さが目立ちますね。
――あのビートはGokou Kuytさんの「Suginami Town」と同じビートですよね。
doggie:そうなんですよね、Kuytくんと初めて会ったときもその話をさせて頂きました。タイプビートって金額によってライセンスの種類が分かれるんですけど、僕は値段の高い独占ライセンスではない方を買っていたので、お互い知らずして被っちゃったんですよね(笑)。
――izolmaさんだけでなく、活動を開始してすぐにitachiさんやVapesharkさんだったり、他のラッパーさんとのコラボレーションも盛んに行っていますよね。
doggie:itachiは僕がやってたバンドのボーカルを通じて紹介してもらったんですけど、彼はizolmaと繋がってたんです。サンクラ(SoundCloud)で聴いてitachiから声を掛けてたみたいで、不思議な縁を感じましたね。彼がベルリンに引っ越してからも連絡を取ってるし、東京に帰ってきたときは一緒に遊ぶくらい今でも仲良いです。
基本的に僕のサンクラにUPされているのは地元の先輩や仲間たちと作った曲が多いです。Vapesharkも高校が一緒だったし、僕はどちらかというとリアルな場で出会った人と一緒に曲を作ることが多いですね。
――今年7月にリリースされたawasetsu monaさんの曲も同様ですか?
doggie:monaくんとは『GREENLAND』っていうイベントで一緒になったんですけど、そのイベント前に「一緒に曲作ろうよ」って連絡くれて。そこからすぐにスタジオに遊びに行って、曲を作ってる途中でmonaくんが「BBY NABEにも参加してもらうわ」って言って、あの曲ができました。それからは3人で遊んだりもしてますね。
――過去の音源を改めて振り返ってみると、去年リリースされた「ivory」辺りからスタイルの変化を感じます。
doggie:「ivory」はめちゃくちゃ大きな転機でしたね。『SNOOZE』っていうEPをリリースして少し経った頃、『trackmaker』(渋谷SOUND MUSEUM VISIONで開催されていた人気イベント)のオーガナイザーの方から声を掛けてもらったんです。当時、全然知名度のない僕に出演オファーをしてくれて、めちゃくちゃ嬉しかったんですけど、当日は他の出演者の方たちとの力量差を痛烈に感じました。
「ivory」はそのイベントで憧れの方とお話したことがきっかけでできた曲なんです。最初、勝手にちょっと怖い人なんじゃないかなって思ってたんですけど、いざ話してみたらめちゃくちゃ優しくて、僕みたいな無名のラッパーにも気さくに接してくれたんです。今でも先輩として仲良くしてもらっているんですけど、その人柄に憧れてすぐに作ったのが「ivory」です。その人が軸としているオルタナ・ヒップホップに自分も挑戦してみたくて。
――「ivory」は確かにロック的要素も感じられますが、同時にフューチャー・ベースなどのエレクトロニックなサウンド感も強いですよね。
doggie:僕はジャンルレスに音楽を聴くので、色々なサウンドがゴチャ混ぜになって今のdoggieになっているというか。元々Porter Robinsonなども大好きですし、それこそ“Kawaii Future Bass”も聴いていました。「ivory」に関してはその当時めっちゃハマっていたglaiveの影響も大きいと思います。メロディやリリックでは自分の中に根ざしている邦ロック的な要素も強く出ていると思いますし、とにかく自分にしか作れない曲ができたんじゃないかなって感じました。
20歳の“青さ”をパッケージした『AEROBLUE』
――その後もいくつかのリリースを挟んで、12月にミニ・アルバム『AEROBLUE』がリリースされました。制作はいつ頃から始めたのでしょうか。
doggie:『AEROBLUE』の収録曲は全部20歳のときに書いたものなんです。これから歳を重ねるにつれて、鬱屈とした感情だったり、ジェラシーやハングリー精神とか、そういった“青い感情”が薄まっていってしまうんじゃないかなって思って、20歳の今しか描けない“青さ”をパッケージした作品を作ろうと考えたんです。本当にその当時の私生活のことしか歌ってないし、自分の感情がブワーッと溢れているような曲ばかり収められています。結局は色々あってリリースが遅くなってしまったんですけど。
――トラックはどのように制作したのでしょうか。
doggie:今回のミニ・アルバムは全曲 nu_imi(https://www.nu-imi.me/) さんというプロデューサーさんにアレンジしてもらっています。「ivory」を作った頃から少しずつ自分でもトラックを作るようになったんですけど、今作のデモを作っているタイミングでビクターの〈CONNECTUNE〉からリリースさせてもらえることになって、レーベルの方にnu_imiさんを紹介してもらいました。僕が作ったデモだったり、友だちからもらったビートやタイプビートをnu_imiさんにお投げして、リファレンスや方向性などもお伝えした上でトラックを仕上げてもらいました。
個人的にnu_imiさんとはめちゃくちゃ波長も合うなと感じていて、今作を作り終わった今でも個人的なLINEをするくらい仲良くさせてもらっています。個人的には今後も一緒に曲を作りたいなって思っています。
――リリックはトラックが仕上がってから書いていったのでしょうか。
doggie:いえ、『AEROBLUE』に関してはリリックを先に書きました。普段から街を歩いてるときなど、ふとした瞬間に感じたこと、思ったことをバーっとメモ帳に書き残していて。曲を作るときはそれをキレイにまとめて、トラックを乗せるという感じですね。最近作っている曲ではまた方法が変わったんですけど。
――そうなんですね。
doggie:例えば今年6月にリリースした「FallingDown*」は、実は『AEROBLUE』よりも後に作った曲なんです。この曲はタイプビートを使って、メロディ先行で後から歌詞を書く形で作りました。『AEROBLUE』がレーベルからリリースすることになって、ちょっと時間がかかってしまうということだったので、その間に何かリリースしたいなと思ったんですよね。
――「FallingDown*」はギター・サウンドと攻撃的なベース・ミュージックが合わさっていて、ハイパーポップともリンクする世界観の曲ですよね。
doggie:当時、私生活で悩んでいた気持ちを書き殴った曲で。いわゆるハイパーポップっぽいトラックに、 邦ロック的なアプローチをしてみたらおもしろいんじゃないかなって思って作りました。今でもすごく気に入っている1曲です。
――話を『AEROBLUE』に戻しまして、nu_imiさんのアレンジで特に印象に残った曲を挙げるとすると?
doggie:1曲目の「Horn」ですね。この曲は〈CONNECTUNE〉からリリースできることが決まってから作ったんですけど、その嬉しさとか高揚感のままに書きました。デモはもっと落ち着いた感じというか、メロウなテイストだったんですけど、それをnu_imiさんにお渡ししたらめっちゃアグレッシブな感じに仕上げてくれて。めちゃくちゃアガりましたね。
――《売れるまで眠れない》や《アングラ超えて今オーバーグラウント》といったリリックはまさに今の心境を綴っている感じがしますね。
doggie:僕、めっちゃ犬が好きなんです。実は昔、ゲーム実況をやってたこともあるんですけど、そのときも犬に関連する名前を使ってたし、今のdoggieっていう名前もそこに由来しているんです。だから、ニッパーくん(犬)をロゴにしているビクターから自分の作品をリリースできたらなって、バンドをやってたときから考えていました(笑)。〈CONNECTUNE〉はインディ・レーベルですけど、ビクターと関われて本当に嬉しいですね。
――運命みたいなものを感じますね(笑)。他にもアレンジで大きく変化した曲はありますか?
doggie:「24/7」も僕が最初に思い描いていた曲とは大きく異なる感じで返ってきて驚きましたね。あの曲は地元の友だちについて歌った曲で、これも最初はもっとメロウな感じだったんです。それが100 gecsみたいなハイパーポップ・テイストに仕上がって返ってきて。構成とかも結構変わったので、自分のボーカルやラップの乗せ方は少し苦戦しましたね。でも、これも結果的にめっちゃいい曲になったと思います。
――地元の友人というのは、これもまた東京の?
doggie:そうですね。よく川沿いに集まる仲のいい友人たちがいて、それぞれラップやってたり服を作ってたりデザインをやってたり、クルーとは言ってないですけどそういう感じの仲間たちで。訳もなく集まって、朝までダラダラ喋ってたりしてたときのことを綴っています。
――地元への愛情が強いんですね。
doggie:最初にお話した通り、僕は中学のときにこっちに引っ越してきたんですけど、それには当時の人間関係とかも理由にあって。でも、東京の友だちたちは、そんなオタクで引きこもりがちだった僕を外に引っ張り出してくれたんです。「24/7」はそんな大事な仲間たちに向けた曲ですね。
――先行シングルであり、MVも公開されている「Passport」についてもお聞きしたいです。「Horn」にも通ずる風通しのよさがありながらも、リリックでは少し影を感じさせるような内容になっています。
doggie:ちょっとネガティブなことがあったタイミングで、それを振り払うように遠くへ行くぜっていう意思表示でもあり、自分の曲がどこまでも旅して行ってくれたらなっていう気持ちで書きました。曲を作るとき、ネガティブな感情がトリガーになって書き始めることも多いんですけど、書いてるうちに「いや、こんなんじゃダメだ」って方向転換することもあって。この曲は最終的に上手くまとめられたなと感じています。
バンドで果たせなかった夢をdoggieでえる
――『AEROBLUE』のリリース前からすでに新たな曲を作っているとのことでしたが、今の音楽的なムードはどのような感じですか?
doggie:もっとインディ・ポップな作品を作りたいと思っています。実はアコギの練習もしていて、ライブでも弾き語りを混ぜたりすることができたらなって思っています。それこそClairoみたいな曲をやってみたいですね。
今も周りから「doggieはハイパーポップだよね」って言われたりするんですけど、自分としてはそこにこだわりはなくて。『AEROBLUE』制作中に一番聴いていたアーティストもJames Ivyっていうインディ・ポップ寄りのSSWだったんです。だから、今はめっちゃインディ・ポップな気分ですね。ただ、僕はいつもやりたいことがころころ変わるので、実際にどうなるかはわからないんですけど(笑)。
――インディ・ポップにはいつくらいから興味を持っていたのでしょうか。
doggie:doggieを始める前、下北沢のBASEMENTBARに足繁く通っている時期があって。そこで観たLIGHTERSBearwearにめちゃくちゃ影響を受けたんです。実は他のメディアでインタビューしてもらったときに、影響を受けた存在としてBearwearの名前を挙げたらメンバーさんが僕のことをフォローしてくれて、今年3月に開催されたBearwear主催のフェス(『:CHAMBER FEST 2022』)にも出演させてもらいました。
KOTORIやTHE ティバといった憧れのバンドさんとdoggieとして共演できたことが光栄でしたし、Bearwearの方が僕のことを「James Ivyみたいだね」って言ってくれたのもすごく嬉しかったですね。インディ・ポップやインディ・ロックも今の自分を形成してくれた大事な音楽なので、今度は僕が恩返しをしたいなって。
――国内のインディ・ロック・シーンとも繋がりつつ、その一方でSATOH主催の『FLAG RETURNS』にも出演するという振れ幅の広さがすごいですね。
doggie:どちらにも属しているようでどこにも属していない、みたいな(笑)。『FLAG』も最高でしたね。Instagramの出演者募集に応募したら、LINNA(FIGG)くんから「ぜひ『FLAG』に出演してほしい!」って返信を頂いて。今ではSATOHのkyazmくんともプライベートでも遊ぶ仲になりました。
――そういえば、kyazmさんも元々はバンド畑出身ですよね。
doggie:そうなんです。クラブ・シーンの中にもバンドを通ってる人も少なくなくて。それこそ今はsafmusicっていう名前で活動しているDENYEN都市のyoくんもそうだし、HEAVENのみんなもだし。それもあってか、『FLAG』周りの人たちはライブハウスを思い出して懐かしい感じがするんですよね。演者だけでなくオーディエンスも含めて最高に居心地のいいイベントだなって思いました。
――今後やってみたいことはありますか?
doggie:doggieとしてロック・フェスに出たいですね。バンドのときにできなかったことを全部doggieで叶えてやろうって思っています。
――いいですね。最近、バンド・セットでライブを行うラッパーさんも増えていますが、doggieさんもそういった構想があったりしますか?
doggie:直近ではまだ考えていないんですけど、いつかはやりたいですね。それこそ最終的にはdoggieをバンド・プロジェクトみたいにしたくて。doggieとサポート・メンバーではなくて、メンバーもひっくるめてdoggieっていう感じ。Mega Shinnosukeさんみたいな活動スタイルに憧れてるんです。
あとはタイアップとかもガンガンやっていきたいです。僕はセルアウトとかも気にしないし、アングラにはこだわりたくないんです。もっともっと大勢の前で、バカでかいステージで歌いたいですね。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://doggie.lnk.to/aeroblue)
■doggie: Twitter(https://twitter.com/doggie_inu) / Instagram(https://www.instagram.com/doggie_e/)
新鋭ラッパー、doggieがミニ・アルバム『AEROBLUE』をビクターエンタテインメント内のレーベル〈CONNECTUNE〉よりリリースした。
近年のSoundCloudを中心とした先鋭的なラッパー/アーティストら特有の折衷性の高いそのサウンドは、ヒップホップ、ロック、フューチャー・ベース、インディ・ポップ……などなど、もはや従来のカテゴライズはほとんど機能しない。その混沌としたサウンドを少し前までは“ハイパーポップ”と称することも多かったが、当事者たちにとってはそれももはや遥か昔のことのように感じられることだろう。
doggieの新作『AEROBLUE』はそういった流れを汲みつつも、より開けたポップスであることを志向しているように感じる。サウンドのテクスチャはトレンドと共振しながらも、求心力の高いメロディ・センス、叙情的なリリックが詰め込まれたウェルメイドな作品だ。
今作を携えより広い世界へと飛び立たんとするdoggieに、ここまでの歩みと秘めたる野心などを語ってもらった。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Maho Korogi(https://www.instagram.com/maho_korogi/?hl=ja)
ドラマーからラッパーへ転向した異色のキャリア
――doggieさんは元々ドラムをやっていたんですよね。ドラムを始めたきっかけは何だったんですか?
doggie:両親がMr.Childrenのファンで、母は特にドラマーのJENさんが大好きなんです。なので、息子をドラマーにしたいと思っていたらしく、小学生のときからドラム・スクールに通わされていました。でも、そのときは嫌々習ってるという感じで、中学生になってからはバスケ部に入ったので一旦ドラムから離れました。ただ、その後SPYAIRというバンドが好きになったり、ラップも聴き始めたりして、やっぱり音楽やりたいなって思ったので、高校では軽音楽部に入って3年間みっちりバンドに費やしました。
――軽音楽部ではどのような音楽をやっていましたか?
doggie:いわゆるロキノン系というか、当時流行っていた邦ロック・バンドのカバーをすることが多かったです。それとは別に学校外でもバンドを組んでいて、オリジナル曲を作って下北でライブしたりしていました。リュックと添い寝ごはん クジラ夜の街などと同期で、高校生向けのバンド・イベントに一緒に出演したりしていましたね。
――かなり本格的に活動されていたんですね。
doggie:レーベルからお声掛け頂くこともあったんですけど、高校を卒業したくらいのタイミングでバンドは解散してしまって。それからどうしようかなって考えたとき、元々ラップには興味があったので、2020年に一律で給付された10万円で機材を買って、曲を作り始めました。
――新しくバンドを組んだり、ドラムを続けていくことは考えなかったんですか?
doggie:正直、めちゃくちゃ考えました。ありがたいことに他のバンドからも声を掛けてもらったんですけど、すでにdoggieというプロジェクトへの熱が高まっていたので、全てお断りしました。バンド時代から作詞もしていたので、ラップもいけるだろうという根拠のない自信があったんです(笑)。
――中学生の頃からラップには親しんでいたとのことでしたが、当時はどのようなラッパーの作品を聴いていましたか?
doggie:『高校生RAP選手権』がめちゃくちゃ流行ってた時期で、たまたまSNSで流れてきたANATOMIAくんの試合を見て喰らって。ANATOMIAくんのルーツを辿る形で電波少女を知りました。そこからジメサギさん(Jinmenusagi)とか4s4kiちゃんなどなど、ネット・ラップ、ニコラップ界隈の作品をたくさん聴くようになったし、ネット・サイファーにも参加していました。高校生になってバンドをやるようになってからも電波少女のライブには行ってましたね。去年発表した「Snooze!」のMVにもさり気なく電波少女のCDが映っています。
自身の転機となった「ivory」
――現時点でオンライン上で聴ける、最も古い曲は2020年発表の「Flight feat. izolma」になります。これはどのようにして生まれた曲なのでしょうか。
doggie:「Flight」は自分で作り始めて2曲目とかにできた曲で、タイプビートを使って作りました。ちょっとややこしいんですけど、僕は中学のときに関西からこっち(東京)に引っ越してきて、izolmaは東京の地元の先輩なんです。ラップを始めることを後押ししてくれた存在であり、今でもすごくリスペクトしています。
――一方で、同年11月には正式な1stシングル「Moonlight」をリリースしています。
doggie:「Moonlight」は当時流行っていたチルラップに挑戦した作品です。できる限り全部自分でやりたいっていう気持ちがあったので、タイプビートを買ってミックスまで自分で手がけて、マスタリングだけは友人にお願いしました。今聴き返すとやっぱりちょっと粗さが目立ちますね。
――あのビートはGokou Kuytさんの「Suginami Town」と同じビートですよね。
doggie:そうなんですよね、Kuytくんと初めて会ったときもその話をさせて頂きました。タイプビートって金額によってライセンスの種類が分かれるんですけど、僕は値段の高い独占ライセンスではない方を買っていたので、お互い知らずして被っちゃったんですよね(笑)。
――izolmaさんだけでなく、活動を開始してすぐにitachiさんやVapesharkさんだったり、他のラッパーさんとのコラボレーションも盛んに行っていますよね。
doggie:itachiは僕がやってたバンドのボーカルを通じて紹介してもらったんですけど、彼はizolmaと繋がってたんです。サンクラ(SoundCloud)で聴いてitachiから声を掛けてたみたいで、不思議な縁を感じましたね。彼がベルリンに引っ越してからも連絡を取ってるし、東京に帰ってきたときは一緒に遊ぶくらい今でも仲良いです。
基本的に僕のサンクラにUPされているのは地元の先輩や仲間たちと作った曲が多いです。Vapesharkも高校が一緒だったし、僕はどちらかというとリアルな場で出会った人と一緒に曲を作ることが多いですね。
――今年7月にリリースされたawasetsu monaさんの曲も同様ですか?
doggie:monaくんとは『GREENLAND』っていうイベントで一緒になったんですけど、そのイベント前に「一緒に曲作ろうよ」って連絡くれて。そこからすぐにスタジオに遊びに行って、曲を作ってる途中でmonaくんが「BBY NABEにも参加してもらうわ」って言って、あの曲ができました。それからは3人で遊んだりもしてますね。
――過去の音源を改めて振り返ってみると、去年リリースされた「ivory」辺りからスタイルの変化を感じます。
doggie:「ivory」はめちゃくちゃ大きな転機でしたね。『SNOOZE』っていうEPをリリースして少し経った頃、『trackmaker』(渋谷SOUND MUSEUM VISIONで開催されていた人気イベント)のオーガナイザーの方から声を掛けてもらったんです。当時、全然知名度のない僕に出演オファーをしてくれて、めちゃくちゃ嬉しかったんですけど、当日は他の出演者の方たちとの力量差を痛烈に感じました。
「ivory」はそのイベントで憧れの方とお話したことがきっかけでできた曲なんです。最初、勝手にちょっと怖い人なんじゃないかなって思ってたんですけど、いざ話してみたらめちゃくちゃ優しくて、僕みたいな無名のラッパーにも気さくに接してくれたんです。今でも先輩として仲良くしてもらっているんですけど、その人柄に憧れてすぐに作ったのが「ivory」です。その人が軸としているオルタナ・ヒップホップに自分も挑戦してみたくて。
――「ivory」は確かにロック的要素も感じられますが、同時にフューチャー・ベースなどのエレクトロニックなサウンド感も強いですよね。
doggie:僕はジャンルレスに音楽を聴くので、色々なサウンドがゴチャ混ぜになって今のdoggieになっているというか。元々Porter Robinsonなども大好きですし、それこそ“Kawaii Future Bass”も聴いていました。「ivory」に関してはその当時めっちゃハマっていたglaiveの影響も大きいと思います。メロディやリリックでは自分の中に根ざしている邦ロック的な要素も強く出ていると思いますし、とにかく自分にしか作れない曲ができたんじゃないかなって感じました。
20歳の“青さ”をパッケージした『AEROBLUE』
――その後もいくつかのリリースを挟んで、12月にミニ・アルバム『AEROBLUE』がリリースされました。制作はいつ頃から始めたのでしょうか。
doggie:『AEROBLUE』の収録曲は全部20歳のときに書いたものなんです。これから歳を重ねるにつれて、鬱屈とした感情だったり、ジェラシーやハングリー精神とか、そういった“青い感情”が薄まっていってしまうんじゃないかなって思って、20歳の今しか描けない“青さ”をパッケージした作品を作ろうと考えたんです。本当にその当時の私生活のことしか歌ってないし、自分の感情がブワーッと溢れているような曲ばかり収められています。結局は色々あってリリースが遅くなってしまったんですけど。
――トラックはどのように制作したのでしょうか。
doggie:今回のミニ・アルバムは全曲 nu_imi(https://www.nu-imi.me/) さんというプロデューサーさんにアレンジしてもらっています。「ivory」を作った頃から少しずつ自分でもトラックを作るようになったんですけど、今作のデモを作っているタイミングでビクターの〈CONNECTUNE〉からリリースさせてもらえることになって、レーベルの方にnu_imiさんを紹介してもらいました。僕が作ったデモだったり、友だちからもらったビートやタイプビートをnu_imiさんにお投げして、リファレンスや方向性などもお伝えした上でトラックを仕上げてもらいました。
個人的にnu_imiさんとはめちゃくちゃ波長も合うなと感じていて、今作を作り終わった今でも個人的なLINEをするくらい仲良くさせてもらっています。個人的には今後も一緒に曲を作りたいなって思っています。
――リリックはトラックが仕上がってから書いていったのでしょうか。
doggie:いえ、『AEROBLUE』に関してはリリックを先に書きました。普段から街を歩いてるときなど、ふとした瞬間に感じたこと、思ったことをバーっとメモ帳に書き残していて。曲を作るときはそれをキレイにまとめて、トラックを乗せるという感じですね。最近作っている曲ではまた方法が変わったんですけど。
――そうなんですね。
doggie:例えば今年6月にリリースした「FallingDown*」は、実は『AEROBLUE』よりも後に作った曲なんです。この曲はタイプビートを使って、メロディ先行で後から歌詞を書く形で作りました。『AEROBLUE』がレーベルからリリースすることになって、ちょっと時間がかかってしまうということだったので、その間に何かリリースしたいなと思ったんですよね。
――「FallingDown*」はギター・サウンドと攻撃的なベース・ミュージックが合わさっていて、ハイパーポップともリンクする世界観の曲ですよね。
doggie:当時、私生活で悩んでいた気持ちを書き殴った曲で。いわゆるハイパーポップっぽいトラックに、 邦ロック的なアプローチをしてみたらおもしろいんじゃないかなって思って作りました。今でもすごく気に入っている1曲です。
――話を『AEROBLUE』に戻しまして、nu_imiさんのアレンジで特に印象に残った曲を挙げるとすると?
doggie:1曲目の「Horn」ですね。この曲は〈CONNECTUNE〉からリリースできることが決まってから作ったんですけど、その嬉しさとか高揚感のままに書きました。デモはもっと落ち着いた感じというか、メロウなテイストだったんですけど、それをnu_imiさんにお渡ししたらめっちゃアグレッシブな感じに仕上げてくれて。めちゃくちゃアガりましたね。
――《売れるまで眠れない》や《アングラ超えて今オーバーグラウント》といったリリックはまさに今の心境を綴っている感じがしますね。
doggie:僕、めっちゃ犬が好きなんです。実は昔、ゲーム実況をやってたこともあるんですけど、そのときも犬に関連する名前を使ってたし、今のdoggieっていう名前もそこに由来しているんです。だから、ニッパーくん(犬)をロゴにしているビクターから自分の作品をリリースできたらなって、バンドをやってたときから考えていました(笑)。〈CONNECTUNE〉はインディ・レーベルですけど、ビクターと関われて本当に嬉しいですね。
――運命みたいなものを感じますね(笑)。他にもアレンジで大きく変化した曲はありますか?
doggie:「24/7」も僕が最初に思い描いていた曲とは大きく異なる感じで返ってきて驚きましたね。あの曲は地元の友だちについて歌った曲で、これも最初はもっとメロウな感じだったんです。それが100 gecsみたいなハイパーポップ・テイストに仕上がって返ってきて。構成とかも結構変わったので、自分のボーカルやラップの乗せ方は少し苦戦しましたね。でも、これも結果的にめっちゃいい曲になったと思います。
――地元の友人というのは、これもまた東京の?
doggie:そうですね。よく川沿いに集まる仲のいい友人たちがいて、それぞれラップやってたり服を作ってたりデザインをやってたり、クルーとは言ってないですけどそういう感じの仲間たちで。訳もなく集まって、朝までダラダラ喋ってたりしてたときのことを綴っています。
――地元への愛情が強いんですね。
doggie:最初にお話した通り、僕は中学のときにこっちに引っ越してきたんですけど、それには当時の人間関係とかも理由にあって。でも、東京の友だちたちは、そんなオタクで引きこもりがちだった僕を外に引っ張り出してくれたんです。「24/7」はそんな大事な仲間たちに向けた曲ですね。
――先行シングルであり、MVも公開されている「Passport」についてもお聞きしたいです。「Horn」にも通ずる風通しのよさがありながらも、リリックでは少し影を感じさせるような内容になっています。
doggie:ちょっとネガティブなことがあったタイミングで、それを振り払うように遠くへ行くぜっていう意思表示でもあり、自分の曲がどこまでも旅して行ってくれたらなっていう気持ちで書きました。曲を作るとき、ネガティブな感情がトリガーになって書き始めることも多いんですけど、書いてるうちに「いや、こんなんじゃダメだ」って方向転換することもあって。この曲は最終的に上手くまとめられたなと感じています。
バンドで果たせなかった夢をdoggieで叶える
――『AEROBLUE』のリリース前からすでに新たな曲を作っているとのことでしたが、今の音楽的なムードはどのような感じですか?
doggie:もっとインディ・ポップな作品を作りたいと思っています。実はアコギの練習もしていて、ライブでも弾き語りを混ぜたりすることができたらなって思っています。それこそClairoみたいな曲をやってみたいですね。
今も周りから「doggieはハイパーポップだよね」って言われたりするんですけど、自分としてはそこにこだわりはなくて。『AEROBLUE』制作中に一番聴いていたアーティストもJames Ivyっていうインディ・ポップ寄りのSSWだったんです。だから、今はめっちゃインディ・ポップな気分ですね。ただ、僕はいつもやりたいことがころころ変わるので、実際にどうなるかはわからないんですけど(笑)。
――インディ・ポップにはいつくらいから興味を持っていたのでしょうか。
doggie:doggieを始める前、下北沢のBASEMENTBARに足繁く通っている時期があって。そこで観たLIGHTERSやBearwearにめちゃくちゃ影響を受けたんです。実は他のメディアでインタビューしてもらったときに、影響を受けた存在としてBearwearの名前を挙げたらメンバーさんが僕のことをフォローしてくれて、今年3月に開催されたBearwear主催のフェス(『:CHAMBER FEST 2022』)にも出演させてもらいました。
KOTORIやTHE ティバといった憧れのバンドさんとdoggieとして共演できたことが光栄でしたし、Bearwearの方が僕のことを「James Ivyみたいだね」って言ってくれたのもすごく嬉しかったですね。インディ・ポップやインディ・ロックも今の自分を形成してくれた大事な音楽なので、今度は僕が恩返しをしたいなって。
――国内のインディ・ロック・シーンとも繋がりつつ、その一方でSATOH主催の『FLAG RETURNS』にも出演するという振れ幅の広さがすごいですね。
doggie:どちらにも属しているようでどこにも属していない、みたいな(笑)。『FLAG』も最高でしたね。Instagramの出演者募集に応募したら、LINNA(FIGG)くんから「ぜひ『FLAG』に出演してほしい!」って返信を頂いて。今ではSATOHのkyazmくんともプライベートでも遊ぶ仲になりました。
――そういえば、kyazmさんも元々はバンド畑出身ですよね。
doggie:そうなんです。クラブ・シーンの中にもバンドを通ってる人も少なくなくて。それこそ今はsafmusicっていう名前で活動しているDENYEN都市のyoくんもそうだし、HEAVENのみんなもだし。それもあってか、『FLAG』周りの人たちはライブハウスを思い出して懐かしい感じがするんですよね。演者だけでなくオーディエンスも含めて最高に居心地のいいイベントだなって思いました。
――今後やってみたいことはありますか?
doggie:doggieとしてロック・フェスに出たいですね。バンドのときにできなかったことを全部doggieで叶えてやろうって思っています。
――いいですね。最近、バンド・セットでライブを行うラッパーさんも増えていますが、doggieさんもそういった構想があったりしますか?
doggie:直近ではまだ考えていないんですけど、いつかはやりたいですね。それこそ最終的にはdoggieをバンド・プロジェクトみたいにしたくて。doggieとサポート・メンバーではなくて、メンバーもひっくるめてdoggieっていう感じ。Mega Shinnosukeさんみたいな活動スタイルに憧れてるんです。
あとはタイアップとかもガンガンやっていきたいです。僕はセルアウトとかも気にしないし、アングラにはこだわりたくないんです。もっともっと大勢の前で、バカでかいステージで歌いたいですね。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://doggie.lnk.to/aeroblue)

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