3年ぶり開催! 石井琢磨、髙木竜馬ら
若手ピアニストの競演で幕を開けた「
スタクラフェス in TOSHIMA」~オペ
ラから角野隼斗×フランチェスコ・ト
リスターノ公演まで前半戦をレポート

2022年11月13日(日)、3年ぶりとなる『イープラス presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL』が開催された。前回(2019)は横浜赤レンガ倉庫特設会場で行われたが、今回は、株式会社イープラスと豊島区との共同開催で、豊島区制施行90周年記念事業の一環として開催。「in TOSHIMA」を掲げ、GLOBAL RING THEATRE(池袋西口公園野外劇場)、東京芸術劇場コンサートホール、自由学園明日館を会場に催された。
SPICEでは、当日の模様を3つのレポートで紹介する。まずは、イベントの幕開けとなったグローバルリングシアター第1部から東京芸術劇場にて行われた角野隼斗✕フランチェスコ・トリスターノまでの前半戦。序盤は好天に恵まれ、多くの観客を迎えて華やかに開幕した。
『イープラス presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL'22 in TOSHIMA』
【1】若手ピアニストが続々! @GLOBAL RING THEATRE11:00~
石井琢磨
[出演]石井琢磨、髙木竜馬・小井土文哉、大井健・久保山菜摘(以上、ピアノ)・木村善幸(和太鼓)
まずは11時から、グローバルリングシアターでの、人気の若手ピアニストを中心としたステージからスタート。グローバルリングシアターは、2019年に、東京芸術劇場の隣、池袋西口公園にオープンした野外劇場。舞台上の大型ビジョンには演奏者の映像も映し出される。
トップバッターは、石井琢磨。2016年にジョルジュ・エネスコ国際コンクールで第2位に入賞した彼はウィーン在住。YouTubeでの動画配信でも人気を博している。
石井は、ショパンの「猫のワルツ」を楽しくチャーミングに弾き始める。そして「みなさま、おはようございます!」と客席に挨拶。彼はMCで聴衆と積極的にコミュニケーションを取ろうとする。テレビCMでもおなじみのサティの「ピカデリー」は粋でユーモラスな演奏。
石井は「トリルが炎のよう。僕の熱い心が伝われば」と言って、オーケストラ曲として知られるファリャ「火祭りの踊り」を演奏。野外劇場の客席も温まってきたように思われる。
石井琢磨
そしてウィーン在住の石井は、グリュンフェルトの「ウィーンの夜会」を取り上げた。演奏の前に、「ワルツは、3拍子の2拍目で時間を取って、女性を回します」と説明。ヨハン・シュトラウス2世のオペレッタ『こうもり』のメロディを使ったこの作品を、石井は、ワルツの独特のリズムで、テンポを揺らしながら、自在に華やかに奏でた。
最後は、アンコールとして、地元の豊島岡女子学園高等学校コーラス部との共演でモーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」。約50名のコーラスはマスクをつけての歌唱だったが、作品にふさわしい清らかな歌声を聴かせてくれた。
続いての登場は、髙木竜馬と小井土文哉。2018年のエドヴァルド・グリーグ国際ピアノ・コンクールの優勝者で日本とウィーンを拠点に活動している髙木は、アニメ「ピアノの森」での雨宮修平メインピアニスト役でも知られている。まず、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」から「キエフの大門」を演奏。会場の雰囲気やピアノを確かめるかのようにじっくりと弾き始め、次第に熱を帯びていく。そしてスケールの大きな演奏で堂々たるキーウの大門が描かれた。
小井土文哉は、2018年の日本音楽コンクールで第1位を獲得し、今年は霧島国際音楽祭で、ヴァイオリンの前橋汀子、チェロの堤剛という日本の音楽界をリードし続けている巨匠たちとベートーヴェンのピアノ三重奏曲第7番「大公」を演奏するなど、今最も期待が寄せられている若手ピアニストの一人である。リストの超絶技巧練習曲第12番「雪嵐」では、繊細かつ緻密に超絶技巧を披露。

髙木竜馬
小井土文哉

そして、二人の2台ピアノでの演奏。髙木と小井土はともに、イタリアにあるイモラ音楽院でのボリス・ペトルシャンスキーの門下生。今回の共演は、髙木が小井土に声をかけたという。同門の二人は、ロシア・ピアニズムの伝統を受け継ぐ師の十八番であるラフマニノフの作品から2台のピアノのための組曲第2番より第3曲「ロマンス」と第4曲「タランテラ」を演奏した。「ロマンス」は二人の親密な対話。そして音楽は高揚していき、静かに収まる。「タランテラ」は、二人の個性がぶつかり合うような、激しい演奏だった。
続いて、華麗な管弦楽で知られるレスピーギの交響詩「ローマの祭り」を山中惇史と高橋優介が2台ピアノ用に編曲した版から、第4曲「主顕祭」が演奏された。2台のピアノで、まるでオーケストラのような、華かさや多彩さを満喫。プリモ(第1番パート)の小井土が際立っていた。
このピアノのステージの最後では、多方面の活躍で人気の高い大井健が久保山菜摘と連弾を披露した。二人は10年以上共演を重ねているという。久保山がプリモ(高音域)、大井がセコンド(低音域)を演奏。まずは、ハチャトゥリアン「仮面舞踏会」よりワルツ。久保山がクリアな音で積極的に奏で、大井が温かな音で優しく支える。そして、連弾の定番曲、ブラームスの「ハンガリー舞曲」から第1,7,5,6番が弾かれた。息の合った連弾に親密さを味わう。最後は、和太鼓の木村善幸も参加し、2台ピアノと和太鼓によるラヴェルの「ボレロ」。即興的な和太鼓のソロのあと、和太鼓とともに2台のピアノが旋律を奏でたり、リズムにまわったり。終盤、大井の合図で、客席の手拍子も加わり、にぎやかに締め括られた。
奥から 大井健、久保山菜摘

木村善幸

グローバルリングシアターのまわりでは通りすがりの人たちも立ち止まって聴いている。カラスの群の鳴き声が聞こえるのも都会の野外コンサートだなと思う。晴天のもと始まったフェスだが、少し曇ってきた。
>(NEXT)スタクラオケとオペラの世界へ!
【2】オーケストラ&オペラの登場! @GLOBAL RING THEATRE 13:10~
左から 小林沙羅(ソプラノ)、与那城敬(バリトン)
[出演]茂木大輔指揮STAND UP! ORCHESTRA with 東京音楽大学特別編成オーケストラ、小林沙羅(ソプラノ)、与那城敬(バリトン)、髙木竜馬(ピアノ)
13時10分からのグローバルリングシアターは、オーケストラ。茂木大輔指揮STAND UP! ORCHESTRA with 東京音楽大学特別編成オーケストラが演奏するベートーヴェンの交響曲第7番(ショートヴァージョン)で始まった。茂木は、NHK交響楽団の首席オーボエ奏者を務めた後、指揮者に転身。まず、ベートーヴェン第7番の第1楽章と第4楽章のハイライトで、激しく躍動感のある指揮を披露した。
続いて、ソプラノの小林沙羅とバリトンの与那城敬が登場。モーツァルトの歌劇『魔笛』から3曲が歌われた。はじめに二重唱で「恋を知る殿方ならば」。オペラ界の二人の人気歌手のデュオは贅沢である。
小林沙羅
与那城敬
与那城敬は、豊かな声と美しい舞台姿で、現在最も活躍の著しいバリトン歌手の一人。パパゲーノのアリア「俺は鳥刺し」を、笛(パンフルート)を手に陽気に歌う。
小林沙羅は、歌唱も演技も魅力的な日本を代表するソプラノの一人であり、3年前のスタクラフェスではミュージカルも歌った。ソロでは、パミーナのアリア「ああ、私にはわかる。全ては消え」を情感豊かに表現。澄んだ声が心にしみる。
このステージのラストは、髙木竜馬の独奏で、ショパンの「華麗なる大ポロネーズ」。よく演奏されるピアノ・ソロ版ではなく、オリジナルのオーケストラ伴奏版。髙木は、滑らかで優美なタッチで、文字通り華麗な演奏を繰り広げる。茂木が熱のこもった指揮で好サポート。ピアノとオーケストラが一体となって力強く締め括られた。
STAND UP! ORCHESTRA with 東京音楽大学特別編成オーケストラと髙木竜馬

>(NEXT)東京芸術劇場には角野隼斗&フランチェスコ・トリスターノが登場!

【3】角野隼斗&フランチェスコ・トリスターノ @ 東京芸術劇場 14:00~
角野隼斗×フランチェスコ・トリスターノ
[出演]角野隼斗、フランチェスコ・トリスターノ(ピアノ)
14時からは、東京芸術劇場コンサートホールで「角野隼斗&フランチェスコ・トリスターノ」。コンサートホールに満員の聴衆。野外劇場とは明らかに違う張り詰めた空気を感じる。
YouTubeにおいて”Cateen(かてぃん)”名義で自ら作編曲した演奏が大人気を博している角野は、昨年のショパン国際ピアノ・コンクールでのセミファイナル進出に続いて、今年も目覚ましい活躍を続けている。9月にポーランド放送交響楽団日本公演のソリストとして、11公演でショパンのピアノ協奏曲第1番を演奏し、ツアーを成功に導いた。また、10月には、現代イギリスのトマス・アデスの超難曲であるピアノ協奏曲を日本初演するなど、ますます活動の場を広げている。
フランチェスコ・トリスターノは、ルクセンブルク出身で、ジュリアード音楽院などで学ぶ。古楽から現代の音楽(テクノや自作を含む)までジャンルの分け隔てなく活動を展開している。とりわけ古楽に造詣が深く、バッハやそれ以前の音楽を積極的に取り上げている。
なお、この公演は、グローバルリングシアターでパブリックビューイングも行われた。

パブリックビューイングの様子。モニターに東京芸術劇場での公演の様子が映し出された

二人がまず披露したのは、ラヴェルの「ボレロ」。舞台上手(右側)のトリスターノは、椅子には座らず、立ち上がって、ピアノの内部を触り始める。そして、片手で弦を押さえて、もう一方の手で鍵盤を叩いて、「ボレロ」のあのリズムを奏で始めた。ミュートのかかった打楽器的な音。それに乗って角野がシンプルにメロディを弾き始める。途中からトリスターノも座り、ノーマルに演奏。角野は装飾的な音も入れて、エレガントに弾いたり、華麗に弾いたり、メロディに広がりを持たせていく。フルートとピッコロによる多調性の部分をピアノの高音域で奏でるとこうなるのかと感心。トリスターノも少しずつクレッシェンドし、壮麗な音楽を築いていく。角野は音域を広げ、狂おしいほど激しく演奏。二人の高揚がクライマックスに達して、曲を終える。
左から 角野隼斗、フランチェスコ・トリスターノ
そして角野が挨拶。昨年10月にバルセロナのトリスターノの家を訪れ、意気投合したことが語られる。
次は、J.S.バッハの「パストラーレ」ヘ長調 BWV590(オルガンで弾かれることが多い)を2台ピアノで演奏。第1曲から二人がやさしく応答し合う。アイコンタクトも見られる。第2曲では、クリアな音が絡み合い、モダン・ピアノで弾くバッハの美しさが際立つ。第3曲はクリスタルな音色でのレガートな会話。そして、第4曲ではフーガ的な音楽で二人が白熱の演奏を繰り広げる。
そして、このステージの後半では、ラヴェルの「水の戯れ」、ギボンズの「パヴァン」、トリスターノ自作の「リトルネッロ」、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」がつなげて演奏された。
まずは、角野のソロで「水の戯れ」。澄んだ音ときらめくような音。ピアノの多彩な音色を味わうことができた。
角野隼斗

フランチェスコ・トリスターノ

引き続いて、トリスターノがソロで、ギボンズ作品と自作を演奏。オーランド・ギボンズは、バッハよりも100年以上前の1583年にイギリスに生まれた作曲家。グレン・グールドが彼の音楽を好み、ピアノで演奏していたことでも知られる。トリスターノの「リトルネッロ」は、ピアノの響きを活かしながら、リズムが律動していく美しい作品。なお、この2曲は、トリスターノの最新アルバム『オン・アーリー・ミュージック』に収められている。
角野がその音楽を受け継ぎ、切れ目なく二人での「ラプソディ・イン・ブルー」に入っていく。二人は、弾き崩したり、即興的なやりとりを交えたりしながら、演奏をエンジョイ。リズムを体で共有し、不協和音も入れたりしながら、まさにノリノリになっていき、壮絶な即興の応酬。最後は客席の手拍子も入り、最高潮に盛り上がって終わる。ハグし合う二人。客席はもちろん、スタンディングオベーション。この後半の4曲は、一つながりの作品としても聴け、二人のただならないクリエイティヴィティを感じる半時間となった。
角野隼斗とフランチェスコ・トリスターノという二人の才人による大胆かつ緻密で洗練された演奏に圧倒され、2台ピアノの醍醐味を堪能した、濃密な1時間のコンサートであった。
角野隼斗
フランチェスコ・トリスターノ
取材・文=山田治生 撮影=安西美樹

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