反田恭平×JNOがフィナーレを飾る!
野外劇場で味わうジブリワールドか
ら菊池亮太・ござらピアノ対決まで
「スタクラフェス in TOSHIMA」後半
戦をレポート

2022年11月13日(日)、3年ぶりとなる『イープラス presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL』が開催された。前回(2019)は横浜赤レンガ倉庫特設会場で行われたが、今回は、株式会社イープラスと豊島区との共同開催で、豊島区制施行90周年記念事業の一環として開催。「in TOSHIMA」を掲げ、GLOBAL RING THEATRE(池袋西口公園野外劇場)、東京芸術劇場コンサートホール、自由学園明日館を会場に催された。
SPICEでは、当日の模様を3つのレポートで紹介する。ここでは、ボーカリストの麻衣とNHK全国学校音楽コンクール全国大会銀賞の実績を誇る豊島岡女子学園高等学校コーラス部の生徒たちによるジブリワールドで始まったグローバルリングシアター第2部から東京芸術劇場にて行われた反田恭平✕ジャパン・ナショナル・オーケストラまでの後半戦。陽が落ち、闇に包まれた野外劇場は昼とは様相が一変。雨足も強くなったが、多くの観客がフィナーレのライブビューイングまでを見守っていた。
『イープラス presents STAND UP! CLASSIC FESTIVAL'22 in TOSHIMA』
【1】澄み渡る歌声でジブリワールドにひたる @GLOBAL RING THEATRE16:00~
豊島岡女子学園高等学校コーラス部と共演
[出演]麻衣、菊池亮太、豊島岡女子学園高等学校コーラス部
東京芸術劇場前広場 グローバルリングシアター開催のステージ第2部は、ボーカリストの麻衣とピアニストの菊池亮太、そしてNHK全国学校音楽コンクール全国大会銀賞の実績を誇る豊島岡女子学園高等学校の生徒たちによるコーラスが繰り広げるジブリワールドで始まった。16時開演前からぐずついた天候にもかかわらず多くの人々がレインコートを手に会場内に集まっていた。会場外のギャラリーも、池袋西口公園内の様々な場所に陣取り、今か今かと開演を待ちわびる様子が印象的だった。
まず始めに、麻衣が映画『風立ちぬ』の主題歌「ひこうき雲」とNHKテレビ小説『だんだん』から「いのちの歌」を披露。「いのちの歌」では、“生まれてきたこと、育ててもらったこと、出会ったこと、笑ったこと、そのすべてにありがとう。この命にありがとう”という心に染み入る詞と麻衣の澄み渡った歌声が薄暮に彩られたリング中に響き渡っていた。続いて豊島岡女子学園高等学校の生徒たちによる女声三部部合唱のコーラス。やわらかな歌声とともに歌詞の中に散りばめられたやさしい言葉が風に乗って会場いっぱいに放たれた。
麻衣
続いての作品はオーケストラ・ストーリーズ「となりのトトロ組曲」。この日は女声合唱、麻衣のソロと語り、そしてストリートピアノのYouTubeチャンネルでもおなじみの菊池亮太のピアノによる編成で繰り広げられ、「さんぽ」や「五月の村」そして「ネコバス」などの名ナンバーが歌い紡がれた。アニメの世界をほうふつとさせる情景を描きだすかのような菊池の抒情的なピアノも秀逸。まさにストーリーテラーとしてのオーケストラの役割を一人一台で見事に果たしていた。
菊池亮太、麻衣
>(NEXT)紀平凱成、菊池亮太、ござが登場!
【2】雨にも負けず……ピアニスト3人の熱狂ステージ!@GLOBAL RING THEATRE 17:15~
[出演]紀平凱成、菊池亮太、ござ
前半のジブリワールドに続いて17時15分開始の後半パートは、前半でも大活躍の菊池亮太、そして同じくピアニストの紀平凱成とござも加わってのピアノ対決。残念ながら日暮れとともに雨も次第に強く降りだしてきたが、レインコートを着込んだファンたちの熱気が会場にあふれていた。
トップバッターは、ロシアの作曲家カプースチンの超絶技巧作品や自らが作曲したオリジナル曲の演奏でもおなじみの若き俊英 紀平凱成。全国ツアーの途中での参加だ。演奏曲目はもちろん紀平の十八番、カプースチンの「演奏会用エチュード」や「前奏曲集」から演奏至難ともいえる二作品。冒頭から超絶技巧ピースをいとも軽やかに弾き上げ、早くも会場を沸かせた。
さらに「Blue Bossa Station」と題された紀平作曲の新たなオリジナル曲やチック・コリアの「Spain」をカイル流の艶っぽいアレンジで演奏。「Blue Bossa Station」は4分強の長尺だが、息もつかせぬスピード感とエッジの利いたビート感でジェットストリームのように激しくも痛快な一曲を一息に聴かせた。一曲一曲の間で大きく手を振って客席の喝采に応える紀平らしい天衣無縫なジェスチャーもまた客席を大いに賑わせた。
最後は、菊池亮太が加わってのデュオ演奏でルイ・アームストロングの「What a beautiful world」を披露。菊池が奏でるジャズボーカリストのような骨太でソウルフルな旋律に乗せて、紀平のピアノもいつもよりさらに大人びた音色を醸しだしていたのが印象的だった。
紀平凱成
紀平凱成と菊池亮太
二番目に登場したのはござ。彼もまたYouTubeではおなじみのマルチなピアニストだ。あらゆるジャンルのリクエストに対応し、自在に即興アレンジを加えての演奏が反響を呼んでいる。ステージに登場するなり弾丸トークを繰り広げ、一曲目に演奏するオリジナル作品「Chopin Syndrome」について言及。ショパン作品を20曲ほどつなげたのだという。確かに6分半の尺の中でショパン作品からの引用メロディが数小節ごとにめまぐるしく発展してゆくスゴい作品だ。おなじみのあの旋律が調性を変えて飛び出てきたりと、パロディ性やエンターテイメント性も多分に盛り込みながらも一つの格調ある作品に仕上がっているところが見事だった。二曲目のアイルランド民謡「ダニーボーイ」も途中でショパンの旋律を挿入するなど、最後までござらしいオリジナリティあふれるテンポ感の良いステージングでセッションをさらに盛り上げた。
ござ
最後に登場したのは菊池亮太。一曲目はピアノメドレーのレパートリーの中から、菊池オリジナルの「ラフマニノフメドレー」。冒頭、コンチェルト 第二番の耳慣れた旋律から始まり、前奏曲(プレリュード)数曲を経て、コンチェルト 第三番、そして、「パガニーニの主題による狂詩曲」第18曲のあの最も有名な旋律をたっぷりと聴かせ、ラストは再びコンチェルト 第二番で締めくくるという聴き手の心をくすぐらずにはいられない粋な構成も秀逸だ。
続いても、パガニーニによるヴァイオリンの独奏曲「24の奇想曲」からの主題をテーマにした菊池のオリジナルな一曲「パガニーニの主題による変奏曲」。途中にショパン作品や「エリーゼのために」のフレーズも飛び出し、パロディ風ながらも完成度の高い構成力に加え、その密度の高いエネルギーと集中力あふれる超絶技巧演奏で客席の度肝を抜いた。
菊池亮太
プログラム全体のフィナーレを飾ったのは、菊池とござのデュオ演奏によるビゼーの組曲「アルルの女」から「ファランドール」。「“スタクラ” にちなんで肘で鍵盤を鳴らす “クラスター奏法” を披露しつつセッションを華麗に締めたい!」と宣言しつつ演奏に挑む二人。かなりの音さえ感じられる土砂降りの中、クラスター演奏あり、鍵盤チョップあり、超絶グリッサンドありと、二人の一糸乱れぬエキサイティングな演奏に客席の熱狂ぶりも最高潮に達していた。
鳴りやまぬ拍手に二人は、さらにデュオで「Everything」を披露。熱狂ステージをしっとりとした一曲で締めくくった。演奏中「蛍の光」の旋律を盛り込んで会場にエールを贈る余裕も見せる二人。会場外でも人々が立ち止まって二人の演奏に吸い込まれるように耳を傾けている様子が印象的だった。
左から 菊池亮太、ござ
>(NEXT)フィナーレは反田恭平✕Japan National Orchestra
【3】反田恭平✕Japan National Orchestra@ 東京芸術劇場18:30~
反田恭平、Japan National Orchestra
[出演]反田恭平、Japan National Orchestra
続いて18時30分からは会場を東京芸術劇場のコンサートホールに移して『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL’ 22 in TOSHIMA』のトリを飾る「反田恭平✕Japan National Orchestra」が開催された。本番の模様はグローバルリングシアターの大モニターでライブ・パブリックビューイングが行われるというフェスティバルの最後を飾るにふさわしいコンサートとなった。
当夜のプログラムはベートーヴェン「レオノーレ序曲 第3番」と モーツァルト「交響曲 第38番《プラハ》」を反田指揮で、そして後半ではベートーヴェン「ピアノ協奏曲 第4番」を反田が弾き振りするという豪華なラインナップだ。昨年のショパン・コンクール第二位入賞後、ウィーンで指揮の勉強も開始した反田の、指揮者としての本格的な日本ステージデビュー的な意味合いもあり、事前から大いに注目された。
反田恭平、Japan National Orchestra
まずは「レオノーレ第3番」——荘重な序奏に対して、第一主題の軽やかさと流麗さのコントラストが印象的だ。各パート2~3プルトとは思えない程のオーケストラの音の密度の高さが冒頭から感じられた。反田の指揮も堂に入ったものだ。バトンテクニック的な細かい点はこれからとしても、ピアニスト・音楽家としての反田の音楽性と音楽的知性、そして何よりもそのカリスマ性が充分に発揮され、大きな音のうねりをこの精鋭オーケストラから見事に引き出していた。
ただ、あまりにも一人ひとりのメンバーの能力が高く個性的ゆえに、特に古典レパートリーにおいてアンサンブルの美しさや重層感をいかに磨いてゆくかというのが今後さらに楽しみなところだ。メンバーそれぞれの音楽性の高さがつぶさに感じられるだけに、反田がいかにその個性を自らの手で束ね、一つの点に収斂させていくか、という贅沢すぎる課題を今後どう昇華させていくかが楽しみでならない。

反田恭平×Japan National Orchestra
反田恭平×Japan National Orchestra

続いてのモーツァルト「交響曲 第38番 《プラハ》」。なかなか渋い選曲に反田をはじめメンバー全員の意欲と志がうかがえる。オペラ作曲家としてモーツァルト円熟期の交響曲作品だけに『フィガロの結婚』などの名オペラ作品の旋律が見え隠れする作品だ。その分、厳格な対位法的技法や重層感ある響きの効果など、ダイナミックな要素が求められる点もこの精鋭オーケストラが挑むにふさわしいものだ。
各パートから表情豊かに旋律を引き出そうと働きかける反田。その問いにピタッと寄り添うように応える各パートの奏者たち、両者間のやりとりは、聴いていても、見ていても心地よい。木管をはじめとするソロが複雑ともいえる感情表現を鮮烈に描き出していた。反田はやはりピアニストだけにフレージングの作り方や指示においても細やかで精緻さが感じられたのが印象的だった。三楽章のPresto では、かなりのアップテンポの取り方だが、反田の導く大胆なアクセントの付け方もこの厳格な構成の楽曲を全体的に引き締め、功を奏していた。
反田恭平×Japan National Orchestra
後半はベートーヴェン「ピアノ協奏曲 第4番」。やはり満場の聴衆は反田がピアノを演奏するこの一曲を心待ちにしていたに違いない。冒頭から始まる反田のソロは、粒のそろった流れるような音と精緻に形づくられたダイナミクスで豊麗な旋律を生みだしていた。色彩の絶妙な変化によって音楽が向かおうとする方向性を巧みに暗示する能力もまた反田ならではのものだ。このような古典作品だからこそ一つ一つの反田の職人芸が光る。反田が中央に陣取って自ら弾きぶりするスタイルは、オーケストラに化学反応を起こさせるのか、オーケストラもよりいっそうの精彩さを放っていた。
反田恭平×Japan National Orchestra
フィナーレに向けては、反田のカデンツァを含め、若さとエネルギーあふれる溌溂とした締めくくり。フェスティバルの最後を飾る公演として厳粛ながらも祝祭的な盛り上がり感も十分に感じられ、若き精鋭たちの快い演奏に会場からも満場の喝采が贈られていた。
鳴りやまぬ拍手にアンコールとして ベートーヴェン「ピアノ協奏曲 第4番」の第二楽章をもう一度演奏。そして、さらに反田がショパンの「子犬のワルツ」や「ラルゴ」をソロ演奏し、さらに盛り上がったところでお開きという何ともフェスティバル感あふれる幕切れがカッコよくもあり、心地よかった。
反田恭平×Japan National Orchestra
取材・文=朝岡久美子 撮影=荒川潤

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