ティーダとユウナの淡い恋、皆の葛藤
と成長の旅を見守って~『新作歌舞伎
ファイナルファンタジーX』菊之助、
獅童、松也らが意気込み語る会見レポ
ート

ゲーム『ファイナルファンタジー』の1作目は、1987年12月に発売された。世界的な人気を誇る同シリーズの中でも評価の高い10作目『ファイナルファンタジー X(以下、FFX)』が、尾上菊之助により木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』となる。公演は2023年3月4日(土)~4月12日(水)。会場は、豊洲のIHIステージアラウンド東京。
この度、会見が行われ、尾上菊之助、中村獅童、尾上松也、坂東彦三郎、中村梅枝、中村米吉、中村橋之助、上村吉太朗、そしてスクエア・エニックス社の取締役である北瀬佳範氏が登壇。会場は、水のイメージに重なるアクアブルーの照明に彩られていた。
■名作ゲームが歌舞伎役者
菊之助は、今の歌舞伎界の第一線をいく俳優のひとり。立役と女方で古典歌舞伎の大役を着実につとめる一方、蜷川幸雄演出『NINAGAWA十二夜』、インド叙事詩を原作とした『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』、スタジオジブリの人気作を原作とした『風の谷のナウシカ』などの、新作歌舞伎に挑んできた。ゲームを題材とした歌舞伎は、今回がはじめてとなる。製作は、2020年3月にはじまった。
ティーダ役 尾上菊之助
「緊急事態宣言により、当たり前のように毎月あった歌舞伎の公演がなくなりました。先行きが見えない中、何とかしたいという気持ちを掬い上げてくださったのが、20年前に発売された『FFX』でした。登場人物たちは、はじめ心はバラバラです。しかし物語が進むうちに心を通わせ、それぞれの葛藤をこえ成長し、ひとりがみんなのために。皆がひとりのために。互いを思いやり、この世界の強大な敵である“シン”に、諦めることなく向きあいます。その姿勢は、コロナ禍の今、戦争がなくならない今の世の中に強いメッセージを届けられると考えています」
菊之助が演じるのは、主人公のティーダ。ブリッツボールの人気選手だが、父ジェクトもまた伝説的選手だった。
ティーダが迷い込んだ世界“スピラ”は、“シン”と呼ばれる脅威にさらされていた。
同作の歌舞伎化を思いついた菊之助は、スクエア・エニックス社に、企画書とビデオレターを自作しておくったという。その時のことを北瀬氏は、「驚きましたし、歌舞伎俳優の方がゲームをプレイする姿も想像ができなかった」と振り返る。
「ただ驚いただけでなく、ビデオレターや企画書から、菊之助さんがしっかりとゲームをプレイし、テーマやストーリー、キャラクターを理解してくださった上でお話をいただいたものだと分かりました。ファイナルファンタジーを第三者に預け、ふたたび蘇らせてもらうのに不安はないと感じました。最初は驚きましたが野心的で面白そうな企画だと思い、即決しました」
木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』
北瀬氏は、シリーズ5作目から携わり、『FFX』ではプロデューサーをつとめた。『聖剣伝説』『クロノトリガー』など名作を生み出してきた人物でもある。開幕まであと約3か月。
「ゲーム開発の現場でしたら、3月発売となると、今頃は心身ともに追い詰められて、てんぱっているところでしょう(笑)。でも今回は一観客として楽しませていただきますので、完成が楽しみです。ゲームではCGでしたが、歌舞伎ではリアルに演者さんが表現をします。演者さんがキャラクターをどう噛みくだき、表現されるか。20年前に僕らがつくったものとは違う味、僕らが想像できないような表現をしてくれるのではないでしょうか」
■ひとりがみんなのために、みんながひとりのために
菊之助の思いにこたえて、中村歌六、坂東彌十郎、中村錦之助らベテラン歌舞伎俳優も出演。会見に登壇したキャストの、オファーがあった時の思い、衣裳をあわせてみた感想を紹介する。
アーロン役 中村獅童
「まだ緊急事態宣言で自宅にこもり、これからの自分の生き方、これからの歌舞伎界などを考えていた時に、菊之助さんからお電話をいただきました。熱い気持ちをうかがい、賛同させていただきました。菊之助さんとは約10年ぶりの共演です。ふだんもお会いする機会がなかった僕にこの役を。驚きましたし、うれしかったです。その気持ちに応えられるよう一生懸命つとめさせていただきます」
アーロン役 中村獅童
アーロンは、ティーダの父・ジェクトの盟友だ。ユウナの父であり、大召喚士として名をのこすブラスカのガードだった過去をもつ。
「衣裳合わせには菊之助さんも立ち合ってくれました。お互いに意見を出しながら作らせていただきました。袖を通した時はテンションが上がりました」
アーロン
シーモア役 尾上松也
「緊急事態宣言下にお話をいただき、菊之助のおにいさんの前向きな姿勢に感動しました。一緒に作りたい、と言ってくださりとても光栄でした。微力ながら力になれれば。この役が決まり『FFX』というゲームの世界を追求していく中、意欲が沸いてきております。菊之助のおにいさんの演出のもと、今までにない歌舞伎体験をしていただけるようつとめます」
シーモア役 尾上松也
シーモアは、グアド族の族長で老師という立場。グアドの父ジスカルと、人間の母の間に産まれた。「死の安息こそスピラの願い」という歪んだ考えがスピラにもたらすものとは……。
「衣裳と鬘をつけ、気分が高揚するのを感じました。舞台での道具の使い方や動き方など、自然とイメージが広がり、ボルテージも上がってきています」
シーモア
キマリ役 坂東彦三郎
「不安もありますが、素晴らしい共演者が揃っています。勢いのあるカンパニーの中で負けることなくつとめたいです。菊之助さんとは、歌舞伎において(音羽屋という)同じ教室、同じ教科書で育ち、生まれた時からずっと一緒に過ごしてきました。彼が新作を作る姿や、100年以上埋もれていた作品を復活させ今の息吹をいれ、歌舞伎を再構築する姿もみてきましたから、オファーをいただいた時は、『FFX』について考えるより先に、彼に誘われたことがうれしく、その場で返事をしました」
キマリ役 坂東彦三郎
ロンゾ族の寡黙な青年キマリ。ユウナを守ろうという意思が誰よりも強い。人間ばなれした容姿で、全身ブルーのキャラクターだ。
「菊之助さんに『再現度が高い』と言っていただけました。松也さんと米吉さんに写真を送ったところ、爆笑してくださいました。松也さんからは『誰?』とも(笑)。歌舞伎の要素をしっかりと入れ、歌舞伎のキマリを作っていく。その第一歩として大成功だと感じました」
彦三郎のコメントに、爆笑したしてない、言った言わないの水掛け論が勃発。その光景もまた記者たちを楽しませた。
キマリ
ルール―役 中村梅枝
「『FFX』という大きなコンテンツのルール―役をいただき光栄に思います。世界中で愛されているゲームですので、怖い部分もあります。しかしティーダとユウナの旅を少しでも支えていけるように。原作に敬意をもって演じさせていただきます。菊之助のおにいさんとは年の半分以上、舞台で共演させていただいています。新しい歌舞伎にお誘いいただき、うれしいです。」
ルール―役 中村梅枝
本作では黒魔法の使い手、ルールーを演じる。
「ルール―は色気のある大人の女性です。その服装を和装に仕立て直してくださいました。色気がありながら着物の感じがのこっています。一目でこれはルール―だとお分かりいただける衣裳に仕上がり満足しています」
『FFX』はリアルタイムでクリアしていた原作ファン。「トータル5周(5回クリア)はしましたが、役が決まってから、はじめてルール―だけをみてプレイしました」と笑顔で明かしていた。
ルールー
ユウナ役 中村米吉
「ユウナは、まごうことなきヒロインです。ゲームをプレイしながらも、こんなにすごい役をやるんだな。心してつとめなくては、と思いました。おにいさん方に支えていただき、守っていただきながら、しっかりとユウナとして舞台に立ち、旅を続けていけるよう頑張ります」
ユウナ役 中村米吉
新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』の再演では、ナウシカをつとめた米吉。ユウナは、かつて“シン”を倒した大召喚士ブラスカの娘。父に憧れ、ガードたちに守られながら、自身も召喚士としての道を歩み始める。
「ユウナというキャラクターは、上半身ほとんど肌を露出しています。工夫をして歌舞伎らしく、豊かな舞台衣装として素敵なものが出来上がりました。彦三郎さんに写真をおみせしたところ、少し胸が小さいとのおしかりを受け、そこも改良させていただきました。ユウナというヒロインが魅力的であればあるほど、この物語はより面白く、より切なくなると思います」
ユウナ
ワッカ役 中村橋之助
「菊之助のおにいさんに直接お声がけいただけたことが嬉しかったです。ワッカらしく伸び伸びと。おにいさん方の力をお借りしながら、自分自身も楽しんでこの作品の力になれるよう一生懸命つとめます」
これまであまりゲームをすることのなかった橋之助。
「『FFX』の大ファンの友だちに『橋之助くんが、まだあのストーリーを知らないことがうらやましいくらいにいいお話だから、むちゃくちゃ楽しんで』と言われました。とても楽しみです」
橋之助のコメントに、菊之助は目を細め深くうなづいていた。
ワッカ役 中村橋之助
劇中では、召喚士ユウナを守るガード、ワッカをつとめる。ワッカは、ブリッツボールの選手兼コーチでもある。
「原作ファンの方が多くいらっしゃる作品です。不安もありますが、衣裳はとても歌舞伎らしく、何より菊之助のおにいさんが、衣裳をつけた僕をみて『いいよ、いいよ! ワッカだよ!』とどんどん機嫌がよくなられていったので、僕も安心し楽しむことができました」
ワッカ
リュック役 上村吉太朗
「この作品は2001年発売。私が生まれたのも2001年です。ご縁を感じる作品です。重要なキャラクターですので、大切につとめたいです」
リュック役 上村吉太朗
ゲームと吉太郎が同い年という事実に、獅童、彦三郎、菊之助がクールさを失いざわつきはじめたため、会場を笑いが包んだ。リュックはベド族の少女だ。スピラでは禁忌とされている機械を扱う。
「リュックの格好をみた時は、僕にできるかな、と思いました。ホットパンツなんですよね(笑)。また今回、はじめて金髪の鬘をつかいます。今までに髪を染めた経験もありませんでしたので、楽しみに思っています」
リュック
なお、シドに中村歌六、ブラスカに中村錦之助、ジェクトに坂東彌十郎という配役。ルッツと23代目オオアカ屋は中村萬太郎が、ユウナレスカは中村芝のぶがつとめる。
■『FFX』と歌舞伎の親和性
古典歌舞伎の通し狂言では、各段に見どころ、登場人物のしどころがある。「『ファイナルファンタジー』にも見どころ、名台詞がたくさんあります。そこに歌舞伎との親和性を感じます」と菊之助。どこが見どころになるかを意識し、脚本の八津弘幸と相談して歌舞伎用の脚本をつくっているという。会見では、数ある見どころの中から、3つのシーンが紹介された。
1つ目は『マカラーニャの森』。「ビジュアルがとても綺麗です。水の中で2人が淡い恋を通わせる。原作のファンの皆様も、どう表現するか期待されているところだと思います」と菊之助。CGで幻想的に表現される水については、「歌舞伎では本物の水を使う演出がありますが、今回は演出の金谷かほり先生と相談し、あえて本水は使わずに表現します」と説明した。
会見では、キスシーンはどうするのか、との質問も。「歌舞伎は、色事と呼ばれる、男女が心を通わせる表現をもっています。その中にはキスシーンに近いものも。私は、心をかたちにするのが型だと思っています。先人たちが築き上げてくださった型の表現がたくさんありますので、その型に落とし込みつつ、ティーダとユウナならではの心、感情で、新しい型を生み出すところまでもっていければ」と菊之助は答えていた。
2つ目は『異界送り』。ユウナたち召喚士が行う鎮魂の儀式だ。「歌舞伎で表現するならば日本舞踊だと思います。美しくもありどこかとても怖いような儀式を、日本舞踊でどう表現するか。振付家の尾上菊之丞先生と相談し、映像を使いつつ歌舞伎との融合を目指します」と菊之助。
3つ目は『ブリッツボール』。ブリッツボールは、作中に登場する架空のスポーツだ。水に満ちた巨大な球体の中で、選手たちがボールを格闘技さながらにはげしく奪い合い、ゴールを狙う。こちらも水の表現が重要になる。
「お客様に驚いていただけるような、水のかわりになる演出を考えています。最先端のテクノロジーを使いつつ、歌舞伎の立師(たてし)の山崎咲十郎さん、(尾上菊五郎一門の)尾上菊次、中村獅一さんが入ってくれています。百戦錬磨の立師ですから非常に心強いです。歌舞伎ならではの殺陣としてブリッツボールの世界観を表現できれば」
会場のIHIステージアラウンド東京は、客席を中心に、ステージが360度を囲む。客席が回転し、場面場面を観ていくことになる。全方向を巡るスクリーンは縦8m。歌舞伎座の舞台の高さ(21尺=6.363m)を越えるスクリーンの迫力に期待したい。
また、劇中では植松伸夫プロデュースのもと、植松、浜鍋正志、仲野順也が作・編曲した名曲の数々が、和楽器にアレンジされ使用される。歌舞伎版への作編曲は、新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』でも音楽を担当した新内多賀太夫。
■汐留で、皆の成長と旅を見守る1日を
「登場人物それぞれに葛藤があり、旅をして乗り越えていきます。キャラクターたちの成長を見守り、ともに旅をしていただければ」。さらに作中に登場する3組の親子関係の描写にも、「決して遠い世界ではなく普遍的なもの」を感じると語る菊之助。
ストーリーにも演出にも、見どころが多いという本作は、前後編をあわせると、8~9時間劇場に滞在することとなる。会見の司会者によれば、座席は「優しい座り心地のシートクッション完備! 高弾性ウレタンフォームクッションが、ザナルカンドまでの壮大な旅をサポート!」。その経緯を問われ、「Twitterなどで『9時間死ぬ』っていうお声がありまして」と菊之助。正直すぎる回答に、ワッと笑いが起きていた。「腰とお尻に優しい設計にしなくては、とTBSさまにお願いをいたしました」と明かし、感謝を述べていた。
公演期間中は、キッチンカーの出店も予定されている。獅童は「歌舞伎は本来、飲食してよい芸能です。歌舞伎座は社交場として、休憩時間にお食事やお酒をたのしんでゆったりと過ごす場所。そういった、どこかアミューズメントパークのような楽しみ方をしていただければ」と紹介。
会場周辺には、飲食を楽しめるエリアも作られる予定。
近隣ホテルとのコラボでは、「菊之助ウェルカムメッセージカード」特典付きの宿泊プランも。松也は「いいですね~!」と、この日一番の美声でリアクション。皆の爆笑を誘いつつ、「僕もこのプランで劇場に通いたい。菊之助さんのメッセージを毎日いただきながら。よろしければ獅童さんも!」とパスを回す。獅童も「このプランで通うの最高だよね。菊之助さんのメッセージももらえるし!」とさらに笑いを誘い、間に挟まれた菊之助はずっと笑っていた。
木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』は、2023年3月4日(土)~4月12日(水)まで。菊之助は「歌舞伎初心者の方、歌舞伎をいつも見ている上級者の方が、ともに楽しめるもの。それが新作歌舞伎をつくる面白さであり、大切にしていること。世代を超えて楽しんでいただけます。私自身は、お客様に楽しんでいただくことが何より楽しみなこと。そのために一つひとつ準備をしてまいります」と締めくくった。
取材・文・撮影=塚田史香

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