KUWATA BANDのライヴ盤
『ROCK CONCERT』に見る
若き桑田佳祐の心意気と、
図らずも示した独自のメソッド

バンドの楽しさを感じるカバー曲

本稿では、『NIPPON NO~』を桑田自身が失敗作だと語った理由を『ROCK~』から推測しつつ、KUWATA BANDがやろうとしたことから逆説的に桑田佳祐の素晴らしさを改めて言葉にしてみようという試みである。が、その前に──。『ROCK~』は全24曲収録の大作ライヴ盤である。まずはライヴアルバムならでの良さといった側面にフォーカスを当ててみたい。『NIPPON NO~』のことを失敗作だったとは言わないと言いつつも、違和感があることは否めないと言ってしまったので、“お前も所詮、KUWATA BANDを批判したいだけなんだろ?”と思われている方もいらっしゃるかもしれない。しかし、そこははっきりと否定させていただく。言うまでもなく桑田佳祐は日本屈指の音楽家であるし、KUWATA BANDもまた優れたバンドであることは疑うまでもない。『ROCK~』でもそれがはっきりと分る。

演奏の巧さは言うまでもない。原由子が産休に入ることをきっかけに、桑田が“ロックバンドをやろう!”としたのがKUWATA BANDの始まり。サザンのYouTubeチャンネルでの『KUWATA BAND特集 前編【松田弘のサザンビート #07】』によると、桑田が松田弘(Dr)に“弘、ロックバンドやろう!”と声を掛けたことに端を発するようであるが、バンドリーダーの今野多久郎(Per)は桑田から“ドラムは弘に決めた。あとのメンバーは任せた。多久郎、まとめてくれ”とメンバー選びを丸投げされたようだ。なので、桑田は松田と今野をほぼ同時期に誘ったようではある。そして、日本の伝説的ブラス・ロックバンド、スペクトラムのメンバーであり、桑田佳祐の実質的初ソロ作品『嘉門雄三 & VICTOR WHEELS LIVE!』(1981年)にも参加していた今野が選んだのは、河内淳一(Gu)、小島良喜(Key)、琢磨仁(Ba)の3人。スペースの都合上、全員のプロフィールを記せないけれど、読者の方のお時間が許せば是非それぞれのメンバーのことをググってもらいたい。皆、日本の音楽界に欠かせない存在であることはよく分かるだろう。つまり、名うてのミュージシャンが集ったのがKUWATA BANDである。最初のリハーサル時、少なくとも松田はその3人と顔を合わせるのが初めてだったそうで、“ドキドキしながらお見合いのような感じだった”と言いつつも、“素晴らしいミュージシャンばかり”と述懐している。サザンの最重要人物と言われる松田を以てそう言わしめたのだから、相当にしっくりと来るメンバーだったのだろう。(ちなみに件のYouTubeチャンネルではさらに興味深い発言も聞けるので、こちらも是非!)

『ROCK~』について言えば、そんな百戦錬磨とも言えるミュージシャンたちが集まって、洋楽のカバーをしている様子が収められているのがおもしろい。そこにこのバンドの何たるかといったものもあるように思う。オープニングはDeep Purple「SMOKE ON THE WATER」で始まり、中盤にはBob Dylan「KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR」「LIKE A ROLLING STONE」「BLOWIN' IN THE WIND」の3連発。後半(ライヴ自体ではアンコールだったようだ)ではThe Ronettes「BE MY BABY」を経て、最後はThe Beatles「HEY JUDE」で締め括っている。M1「SMOKE ON~」とM24「HEY JUDE」はカバーというよりもコピーに近い印象。どんな楽曲でもこなせそうなメンバーたちが、それらをほぼプレーンに演奏している様子からは、ロックバンドをやる楽しみのようなものがそこにあることをうかがわせる。M1では例のギターリフを中心に、M24では後半のシンガロングに沿って、バンドアンサンブルが盛り上がっていく。所謂グルーブがそこにはあって、それを名うてのメンバーたちが確認しながら、キャッキャッと演奏している感じが伝わってくるようで聴いているこちらもとても楽しい。

一方でBob Dylanカバー、The Ronettesカバーは、コピーなどではなく、完全なるカバー。シンセに小気味いいリフレインにサックスが重なり、サビではエッジーなエレキギターも聴こえてくるM9「KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR」。ファンキーでダンサブル、かつハードロックテイストの強いM10「LIKE A ROLLING STONE」。相当アップテンポに改変されていて、かなりのディランのファンでもイントロを聴いただけではどの曲であるか分からないであろうM11「BLOWIN' IN THE WIND」。まぁ、いずれの楽曲もオリジナルがアコースティック基調であるからして、バンドでカバーすればある程度、音圧を増すことになろうが、“それにしても…”と思わずにいられないほどに、いずれも原型を止めていないカバーである。M11はほとんどオリジナルを解体していると言ってもいいかもしれない。M21「BE MY BABY」では、印象的なカスタネットを含めてオリジナルの演奏を当時のサウンドでアップデイトさせたような音色である。いかにも1980年代といった感じは評価が分かれるところかもしれないが、感触の違いはあれど、原曲の演奏をなぞっているところにはオリジナルへの敬愛を感じさせるし、KUWATA BANDのメンバーの生真面目さを受け取れるところではないかと思う。こんな風にカバー曲を見てみても、通り一遍ではなく、様々なことをやっていることがよく分かる。バンマスを任せられた今野は桑田から“トラック1台借りて日本中周れるバンドをやろう”と言われたともいう。セットやダンサーなどステージ演出に凝ることなく、バンド(の演奏)だけでやれることをやろうという意味だろう。それが実現出来ていることは『ROCK~』のカバー曲を聴いただけでもよく分かる。

OKMusic編集部

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