L→R 稲村太佑(Vo&Gu)、下上貴弘(Ba)、疋田武史(Dr)

L→R 稲村太佑(Vo&Gu)、下上貴弘(Ba)、疋田武史(Dr)

【アルカラ インタビュー】
人と人がかかわる中で生まれる
コントラストを表現した作品になった

新鮮さと原点回帰を兼ね揃えた
これからまた先に進むための作品

でも、そういうふうにとにかく面白いほうに向かっていくスタンスがアルカラらしさだと思いますし、ユーモアにあふれたライヴや楽曲だからこそ毎回新鮮な驚きがあるし、リスナーも20年間変わらずに楽しめているんだと思います。

稲村
あぁ、ありがたいですね。これは今作にもつながる話ではあるんですけど、過去にライヴで演奏していた楽曲も何曲か収録されているんですけど、披露当時と比べたらアレンジがまったく違うんですよ。そういうマイナーチェンジもライヴに来てくれている人にとっての面白さにつながるといいなって。今日もスタジオに入ってきたんですけど、ドラムのダカダンという部分をダッカダンにするかどうかで40分くらい合わせたんです。
下上
0.2秒くらいの部分をそこまでやるって、ほんま狂っている(笑)。でも、誰も飽きずにやるっていうのがまたすごいよな。
疋田
なんか熱中してまうんよな。
稲村
そうやな。特に今は下上の発案で、20周年を迎えたことでの慣れを打破するために、いろいろと新しいことをしていこうという行動指針が設けられているので、さまざまなトライをしているんですよ。今作の1曲目に入っている「tonight」という楽曲についても、新曲にもかかわらず、ライヴで1発目にやりますからね。誰も知らん楽曲を1曲目に演奏して、例えフロアーで誰の手もあがらなくても何も心配しない。老舗の度量です(笑)。

まさにその構成はライヴでも意表を突かれましたし、「tonight」で今作が始まるというのも新鮮でした。イントロで楽曲の雰囲気を提示して、そこから数多の展開や驚きが待っているがアルカラの定石だったように思うのですが、この曲は歌から、さらにはサビから始まるんですよね。

稲村
イントロからワッと始まっていく構成を当たり前と思ってしまっている自分に飽きてしまったんですよね。そう思った時に、息を吸う音から作品が始まるのってゾクっとするよなと思ったんです。作り手としては楽曲の中にいろんなエピソードを盛り込みたくなっちゃうんですけど、今回はアルバム全体としてのコントラストやバランスを重んじることができたからこそ、「tonight」のようなあっさりした楽曲を入れることができたと思っています。

「tonight」や「ゼロの雨に撃たれて」は1年ほど前からライヴでも披露されていますが、その時からアルバムに対するイメージはあったんですか?

稲村
まったくなかったです。コンセプトを設ける時もあるんですけど、揃ってから共通点が浮かんでくることのほうが多いかもしれませんね。今作は人の生業や、人と人がかかわる中で生まれるコントラストを表現した作品になったと思い、“キミボク”というタイトルをつけたんです。
疋田
『NEW NEW NEW』は太佑が打ち込んでくれたものを忠実に再現しようとしていたんですけど、今作は自分の色を持たせようとしながら試行錯誤を経て出来上がった部分も多くあるので、そういう人間味も出ているように思います。逆に、インストの「鮮やかなるモノクローム」に関しては、最初にもらった打ち込みの音が難解ではあったんですけどすごく良くて、そのフレーズをどうにか再現したいと思って必死に練習しました。
稲村
今まではレコーディングに向けてプリプロダクションをやって、正解にもっとも近い基盤を作っていたんですけど、今回はそれを作らなかったんですよ。なので、クリックもない状態で、全員で“せーの”で合わせられるまで練習しまくったんです。それも新鮮さを求めたゆえのトライではあったんですけど、そのぶん味が出ますよね。今までは音源とライヴは別物という認識があったんですけど、今回の制作を経て、そうではないなと思いましたね。
下上
2マンツアーで今年の頭に出会った大阪の裸体というバンドと対バンしたんですけど、彼らのライヴや音源に懐かしさを感じたんです。ライヴハウスの良さやライヴハウスシーンのてっぺんを獲りにいく気合といった、僕らが最初にライヴハウスに出た時に感じた高揚感が、ライヴにも作品にも詰まっていたんですよね。そういったアプローチの仕方に刺激を受けて『キミボク』を作っていったんです。僕らが2005年11月に出した2ndミニアルバム『サビヅメ』という作品も、稲毛のK'S DREAMというライヴハウスのPAさんに“クリックなんかいらんやろ”と言われて作ったんですけど、今作も新たなスタートを切った前作の『NEW NEW NEW』から考えると2ndアルバムではあるので、そういう過去とのリンクがあったというのも面白かったです。
稲村
『サビヅメ』リリース当時は演奏が下手くそだったぶん、ライヴハウス感はめちゃくちゃ出てるんですよね。今その感じを出そうとすると、そこそこうまくなっているがゆえに出ない。だからって、正解に向かって合わせようとする演奏は面白みに欠けてしまうんですよね。
下上
音源としての完成度は高くなるけど、やっている側としては面白くないんよな。
稲村
そうやな。どっちの方法が正解とかはないんですけど、今作に於いては、そのほうがしっくりきたんですよね。プリプロをしないなんて効率が悪いし、エンジニアさんも絶対に困るんですけど、今の俺らはそこそこの技量があるから、そこまで大きく崩れることはないんで、今のアルカラがこういう作り方をしたというのは、ちょうど良かった気がします。

図らずも原点回帰するには、今のアルカラの状態はベストだったんですね。

稲村
そうですね。当時の僕らは東京に来て舐められたくない気持ちも強かったんですけど、そこからどんどん自分たちの知識も蓄えて、いい楽器を持てるようになって、設備のいい環境でレコーディングもできるようにはなったんですけど、それにも飽きや限界があると思ったんですよね。自分たちの音楽性を一回ぶっ壊さなければ目に見える変化は得られないっていうところまできた中で、今持っている知識や環境をいいバランス感で交えつつ、今回のような緊張感やスリルのある作り方ができたとうのは、単純に面白かったですね。
疋田
ドラムは特にクリックがないとテンポが安定しにくいんですよ。自分の気持ち良いタイミングにどんどん寄っていってしまうというか。でも、逆にそこから生まれる気持ちの入ったグルーブだったりヨレ感だったりを楽しみながら合わせていけましたね。
稲村
パソコン上で生音っぽくもできるんですけど、やっぱりそれでは心の底からは感動できないと思いますし、人って人の生業にこそ感動できる生き物だと思うんです。だから、ちょっとボロが出たとしても、想いが入っているほうがいいと思うし、今回そこに改めて気づけて良かったです。
下上
まぁ、勇気のいる方法ではあるけどな(笑)。

今お話してくださった作品作りへの向き合い方というのも、楽曲を通して感じられる人間味につながっていきますよね。作り方も含めて『キミボク』に辿り着いたというか。

稲村
不思議なんですけど、そうなんですよね。最初はタイトルも“キミボク”ではなく“ヒト”にしようとしたんですよ。でも、それだとぼやっとしちゃうし、男と女の感情を歌っている楽曲が多いので、“キミボク”に落ち着いたんですけど。

歌詞に関しては“少年”“少女”“若いふたり”というように下の世代を彷彿させる人称が頻繁に出てきているので、それは20周年を迎えたアルカラが俯瞰性を携えた上で、次世代に託したいものや伝えたいことが出てきた表れにも思えたのですが。

稲村
僕はそういった意識は持たずに歌詞を書いていったんですけど、そうやって感じてもらえると歌詞に深みが出てきていいですね。聴き手によって曲の解釈が膨らんでいくというのは音楽の面白みでもあり魅力ですし、聴き手の魂や想像力に訴えかける楽曲が作れているということだと思うので嬉しいです。

恐縮です。それだけにインストの「鮮やかなるモノクローム」は歌詞がないぶんメロディーが雄弁で、人生に於ける紆余曲折を感じさせるような、さまざまな変化や要素が散りばめられていると感じました。

稲村
途中でマーチっぽくなったり、暗くなったりしますもんね。“こんなんやったらおもろいな”っていう閃きを詰め込みつつ、打ち込みならではのエラーが功を奏して生まれたユーモラスなフレーズを織り交ぜながら作っていったんですよ。なので、意味を宿しているわけでもないんですよね。ただ、アルバムを聴く上で、途中でちょっと景色を変えてくれる楽曲を作りたかったというのはあります。今ってアルバム通して聴く習慣があまりないと言いますけど、アルバム作品の流れに対する意識は持っておきたいと思っているので。バイオリンにしても自分のできる範囲でやろうと思っていて、難しいフレーズは下上のベースに託しました。
下上
あっ、なんか頼まれたフレーズあったよな。あそこってそんなにムズかったん?
稲村
バイオリンでやるとバリムズいねん! でも、無理することなく、できないことはできないものとして自分に正直になろうと思って。そうやって託すことによって新しく見えてくる景色もあるし、そうしたバランスの取り方ができるようになったのも20年を経てきたからこそかもしれないですね。今作に入っている「秘密」も配信限定でリリースした僕のソロアルバム(2022年4月発表の『n a n a i r o』)に収録されている楽曲をバンドアレンジにしたものなんですけど、僕の家にある機材を使って作ったがゆえに、自分的にはアンバランスなんです。でも、確かに部分的に聴くとガチャガチャなんだけど、曲を通して聴くと、そこに人間味が滲んでいるように聴こえてすごく良くて。だから、あえて調子を揃えずにリリースしたんです。客観的に聴くと“そこは揃えたほうがいいんじゃないの?”という部分も、自分が良いと思ったらそれが正解だと言えるのがアーティストだと思うし、そうした“正解を決めない”という考え方が今作の作り方にも影響したように思います。

取材:峯岸梨恵

アルバム『キミボク』2022年11月23日発売 日本コロムビア
    • COCP-41912
    • ¥3,300(税込)

『20周年記念ワンマンライヴ「YAON no OTOKO!!」』

11/26(土) 東京・日比谷野外大音楽堂

アルカラ プロフィール

アルカラ:2002年に神戸にて結成された自称“ロック界の奇行師”。ギターロックやオルタナティヴロックなどの音楽性を基調としながら、ひと筋縄でいかない自由奔放さで唯一無二の世界を築き上げている。
※ちなみにこの文章はPADOMAの店主・西本氏が昔に書いたアルカラの紹介文をそのまま変わらず使っている。アルカラ オフィシャルHP

「tonight」MV

「秘密」MV/稲村太佑

OKMusic編集部

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