青の女王 藍井エイルのパイを食べた
のは誰か?『Eir Aoi 10th Annivers
ary LIVE 2022〜KALEIDOSCOPE〜 His
tory of 2011-2022』ライブレポート

『Eir Aoi 10th Anniversary LIVE 2022~KALEIDOSCOPE~ History of 2011-2022』2022.11.13(SUN)横浜アリーナ
2022年11月13日、藍井エイルメジャーデビュー10周年を祝う公演『Eir Aoi 10th Anniversary LIVE 2022~KALEIDOSCOPE~ History of 2011-2022』が横浜アリーナで開催された。彼女にとって念願のアリーナ規模での単独公演が、10年目にしてようやくった瞬間だった。記念すべきこの日を目に焼き付けようと駆けつけたファンの数は約6000人。熱気を帯びたペンライトが横浜アリーナを真っ青に染め上げていた。

丸鏡を模したモニターの中で青い蝶が、オルゴールの音と怪しげなワルツに合わせてひらりひらりと舞い踊る。不思議の国のアリスのような、ゴシックな世界観の映像がモニターへ映し出される中、舞台上は真っ白なスモークが充満し始めると、中から人のシルエットが映し出さる。バンドメンバーと共に黒いレースの衣装を身にまとった藍井エイルが姿を現す。
まずは「MEMORIA」「AURORA」を披露。「行くぞ!飛べ!」と下手へ上手へ駆け巡り、そんか彼女の煽り声に会場からのペンライトの勢いも増していく、アリーナが揺れる。
間髪入れずに「シンシアの光」。オープンからトップスピードの彼女に精一杯くらいついていく。
冒頭からギターソロがたぎる3曲を終え、MCへ。
「皆さん、カレイドスコープの世界へようこそ藍井エイルです。いつもと違った感じでカレイドスコープの世界へ皆さんを閉じ込めて、迷い込ませようと思います。迷え、KASUMI」
たったひと言だけ発すると、そのまま「KASUMI」へ。緑色した光の柱がまるで円柱の檻となって、彼女を閉じ込める。暗がりの中、切ない彼女の歌声が横浜アリーナへこだまする。
続いて、勢いよくハイハットのカウントから「サンビカ」。Aメロでの会場からの手拍子の音圧がすごい。2番飛ばしでそのままDメロへからの落ちサビに気持ちが昂る。最後は「心で!」と客席へ叫びながら「growin! growin!」と気持ちを重ねていく。「コバルト・スカイ」ではタオルを回して、「グローアップ」では彼女が指差す方へ指差して身体を揺らしたり、曲中に「写真撮るよ!」と目まぐるしくステージを駆け巡る。ここまでほぼノンストップで7曲を立て続けに歌い上げる彼女のパワフルさに驚かされた。
ここでようやく小休止と言わんばかりに幕間の映像が流れはじめる。写し鏡のようにピンと張った水面に向かって「水鏡の詩」と題した朗読が始まる。"あなた"を幸せにするにはどうしたら良いのか? 幸せになるには女王様のパイを食べる必要がある、と語りかける。
ここまでの7曲も回すごとに様々な表情を見せる万華鏡のように、喜怒哀楽そのどれもを描いたパフォーマンスが繰り広げられていた。しかしまだライブは序盤も序盤。彼女が言う"カレイドスコープの世界"はこの後、一体どうなってしまうのか? 手のひらの上で踊らされるように、まんまと迷わされている事に気付く。
「星が降るユメ」「GENESIS」と、たおやかに、バラードチューンをまずは2曲、そして「鼓動」。拳を突き出し「鳴らせ鼓動 揺らせ鼓動」と歌い上げると、最後にまたひと言、ポツリと「心臓」。最高の流れで、大ヒット上映中の『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ』の主題歌である「心臓」に繋げてきた。モニターではMVも流れていた。「ANSWER」では、倒れ込むように跪いて歌い上げる姿が印象的だった。そして「流星」「シューゲイザー」と、再びここまで7曲連続で休みなく歌い上げる。特にGLAYのHISASHIによる「シューゲイザー」は改めてライブ映えする曲だと再認識させられる。アウトロではドラムロールを煽りながら、激しくヘッドバンキングを繰り返す振る舞いは「まだまだやれんだろ!」と言わんばかりだ。
再びステージ上は白い煙に包まれるとその中に姿を消す。残ったバンドメンバーによるインスト演奏が始まった。まるで犯人探しをするかのように「who ate queen's pie?」と繰り返す楽団がカレイドスコープの世界へ誘う。そして女王のパイを独り占めしていた犯人はアリスだった。
純白のワンピースに着替えた彼女が登場すると、バンドも楽器を持ち替え、アコースティック編成に。披露した「虹の音」に合わせて、虹色のライトが客席にアーチをかける。歌詞に合わせて深々と「ありがとう」と頭を下げる。そして「約束」と2曲続けた所で、ようやくキチンとしたMCパートらしいMCに入る。
……と本来、ここでバンドメンバーの紹介に入るはずだったのだが、ステージに入り込んでしまって進行をド忘れしてしまい、謎の間が空いてしまうのもご愛嬌。気を取り直して1人ずつ、この日の編成はドラム:楠瀬タクヤ、ベース:黒須克彦、ギター:篤志、ギター:新井弘毅、そしてキーボード/バンマス:重永亮介ら、一戦級のプレイヤーたちが紹介されていく。
「PHOENIX PRAYER」「翼」そして「IGNITE」では、銀テープも飛び舞い、疾走感ある流れからいよいよラストスパートへ。それまでずっと青一色のペンライトで埋め尽くされていただったアリーナが、一瞬で真っ赤に塗り変わった瞬間は鳥肌を覚えた。「飛ぼうぜアリーナ!」と間奏でジャンプを促す。続く「INNOCENCE」ではもっと高く、激しく率先して飛びはね、2階席の1番端まで手を伸ばし、一生懸命歌う姿に胸が打たれた。「ラスト~!」と叫びながら「シリウス」に突入した時には「泣いてる暇なんてないから」なんて歌ってる彼女を横目に涙が止まらなかった。「願い事は全部この手で叶える」と歌い上げたように、彼女にとって念願のアリーナ規模での単独ライブという夢が、今日まさに叶った。最後はまるで祝福するようにバンドメンバーもセンターに集まり、弾ける笑顔の中、情熱のままに弾き乱れる。ステージを全力疾走で駆け回り「ありがとうございました藍井エイルでした!したっけ!」と、ここまで21曲、全身全霊のパフォーマンスを見せつけた。
アンコールを求める手拍子に応じて、青のライブTに着替えた彼女が姿を現した。「不思議な世界に導く気マンマンだったんだけど、メンバー紹介が全然出てこんかったよ(笑)」とメンバー紹介のくだりを振り返る。
とある先輩アーティストから「今度、横浜アリーナなんだって?すっごく緊張するよ~」と発破をかけられたエピソードも紹介し「いや~、魔物が住んでたね(笑)」と笑い飛ばす。
アンコール1曲目は「皆さんのおかげで私の夢が叶います」と感謝の気持ちを込めて「HELLO HELLO HELLO」。アリーナを囲う通路にダンサーが登場し、彼女もトロッコに乗って、ファン1人1人に直接、感謝を届けるように歌っていく。1曲終えたタイミングでちょうどトロッコもステージへと戻ってきたのだが、恐る恐るトロッコから降りる姿に思わず笑いが起きる。
「ちなみにエイルがトロッコ乗ってるところ見たことある人~?まあまあ少ないね!見せることができて良かった!(笑)」と振り返り、また登場したダンサーの皆さんは日本工学院ダンスパフォーマンス科の生徒の方々という紹介もあり、ここで同校のCMテーマソングにもなっている新曲「YeLL」を生徒の皆さんのダンスパフォーマンスと共に初披露。
「夢はもう 夢のままにしない」とアンコール3曲目の「HaNaZaKaRi」でそんな前途ある若人たちを送り出す。それと同時にこの曲の歌詞からは藍井エイルという歌手の軸のブレなさを感じる。今日、アリーナでの単独公演という夢舞台を叶えたように、彼女もまた夢の途中なのだ。
「10年前はこんな風になるなんて思ってもいませんでした。本当に皆さんに感謝です。」「しっかりしてるようでうっかりしてるよねって言われるけど、今日もうっかりしちゃったけど、100歳までみんなと一緒にいたいです。こんな私だけどこれからもよろしくお願いします。」最後のMCで思いの丈を残さず語ってくれた。
最後の曲は「ラピスラズリ」。モニターにも青い三日月が浮かび上がる。時に、雲に隠れることがあっても、青い三日月は確かに頭上で輝いている。
「くもりの無い 碧い瞳は 新しい世界に 夢を見て」
見事に歌い上げると、気が緩んだのか思わず涙が込み上げてくる。一瞬、涙を滲ませたその碧い瞳には、きっと夢に見た景色が映っていたことだろう。
"しっかりだけどうっかりしてるね"とは彼女の談だが、確かにその通りだと思った。この10年で藍井エイルが得たものは間違いなく"青の女王"たる貫禄と実績だろう。しかしその実、彼女は純白のワンピースを着たアリスのような、少女のようなあどけなさも併せ持っている。北海道から出てきたばかりの少女の面影を未だに感じられる。10年経っても変わらない魅力と、10年かけて磨き上げてきた魅力の部分、彼女の二面性を存分に感じられた一夜だった。藍井エイルがカレイドスコープの女王であり、アリスであるのならば、自分で作ったパイを自分で食べてしまったようなものだ。けれど実に藍井エイルらしい物語のように感じずにはいられない。
文・レポート=前田勇介

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