新たな物語の始まりの予感『TM NETW
ORK TOUR 2022 FANKS intelligence
Days』 ツアーファイナルぴアリーナ
公演をレポート

TM NETWORK TOUR 2022 FANKS intelligence Days 2022.9.4@ぴあアリーナMM
音楽的で人間的なライブだった。TM NETWORKの3人は進化し続けることと、揺るぎないことを見事に両立していた。つまり、斬新さと懐かしさとが共存するステージだったのだ。『TM NETWORK TOUR 2022 FANKS intelligence Days』ツアーファイナルとなるDays9、2022年9月4日のぴあアリーナMM。ツアータイトルにあるFANKSとはTM NETWORKが1986年から提唱している言葉で、“TM NETWORKのファン”という意味で定着している。“intelligence”には“情報収集・分析活動”という意味がある。つまり今回のツアーは“ファンからの情報収集”というミッションを掲げたツアーと解釈することができるだろう。
「OPENING' Overture」のインパクトのあるサウンドによって、会場内に不穏な空気が充満していった。やがてステージ背後のLED大画面に、宇宙空間の中を浮遊するバトンが映し出されていく。このバトンはTM NETWORKとFANKSの絆を象徴するモチーフとして、過去のライブでも使われてきた経緯がある。再起動後の無観客配信ライブ『How Do You Crash It?』でも、このバトンが重要なモチーフとして登場していた。長い年月、途切れることなくバトンは繋がれてきたということだろう。ステージの後方センターの扉が開き、小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登が姿を現した。宇宙船の中から地上へと降り立ったような鮮やかな登場の仕方だ。

TM NETWORKS

ステージの下手後方には阿部薫(Dr)、上手後方には小野かほり(Per)というサポートメンバー2名が位置している。2人の刻む生音のリズムに客席のハンドクラップが加わり、「Please Heal The World」が始まった。4月にLINE NFTにて限定リリースされた新曲での始まりだ。小室のキーボードが憂いを帯びた印象的なメロディを奏でている。木根もキーボードをプレイ。ドラム、パーカッション、そしてハンドクラップのリズムによって、曲に生命力がプラスされていく。エネルギッシュで人間味あふれる演奏に体が揺れる。胸の中に炎が灯っていくかのようだ。実はDays7まではメンバー3人のみでの編成だったのだが、ぴあアリーナMMでのDays8とDays9では、5人編成になったのだ。リズム隊が加わることによって、人間味あふれるグルーヴが生まれ、互いのプレイが刺激しあうことによって、エモーションがリアルかつダイレクトに伝わってきた。
ドラマティックな始まりから一転して、2曲目に演奏されたのはポップな高揚感を備えている「あの夏を忘れない」だった。宇都宮の伸びやかな歌声が気持ち良く響く。木根と小室のハーモニーも効果的だ。1991年発表のアルバム『EXPO』収録曲であり、夏を舞台にしたラブソングのだが、「Please Heal The World」に続いて演奏されることによって、新たな表情が加わっていると感じた。<守りたいのはひとつ>というフレーズも解釈の幅が大きく広がっていた。
「Welcome to the FANKS!」という宇都宮の言葉に、客席からたくさんの拍手が起こったのは「BE TOGETHER」だ。タイトルどおりに、TM NETWORKとFANKSの再会を祝福するかのような明るいエネルギーが満ちあふれていく。ときめきを音楽に変換したような歌と演奏に、FANKSの手が揺れている。
木根のギターと小室のキーボードの素朴なぬくもりを備えたアンサンブルを導入部として始まったのは、1985年リリースの2ndアルバム『CHILDHOOD'S END』収録曲の「8月の長い夜」だった。キーボードプレイからもギターのストロークからも、体温が感じ取れる。宇都宮のファルセット混じりのジェントリーな歌声に、木根の温かみのあるコーラスが加わっていく。小室の奏でるキーボードもみずみずしくて、キラキラとしている。木根の透明感のあるギターでのフィニッシュ。今もなお、こんなにもみずみずしい歌と演奏を披露できるところが素晴らしい。
続いてはバラードの名曲、「We are starting over」だった。歌心あふれる歌と演奏に聴き惚れた。間奏での木根の叙情的なギターと味わい深いブルースハープ、小室の表情豊かなキーボードが印象的だった。オルガンの音色を交えつつの多彩かつ自在なプレイは、小室ならではのものだろう。3人のミュージシャンとしての表現力の豊かさを堪能した。
「木根尚登!」という宇都宮の紹介で「KINE Solo」へ。木根がルーパーを駆使して、「LOVE TRAIN」をモチーフとした演奏を展開していく。小野のパーカッションと客席のハンドクラップも加わって、躍動感あふれる展開に。ブルースハープや小野とのコーラスが演奏に彩りを添えていく。
エモーショナルな小室のキーボードで始まったのは「Beyond The Time」だ。憂いを帯びた宇都宮の歌声に木根がハモっている。間奏での小室のスペイシーなキーボードプレイが、聴く側の想像力を刺激していく。80年代の曲であっても新鮮に響いてくるのは、今の彼らが歌い、演奏しているから、そして最新のアレンジが施されているからだろう。
「KISS YOU」はドラムとパーカッションを全面に押し出したアレンジが特徴的だ。メンバー3人にドラムスとパーカッションが加わる編成によって、プリミティブかつエネルギッシュな楽曲へと進化を遂げていると感じた。
2021年の再起動発表後に配信でリリースされた『How Do You Crash It ?』で披露された「How Crash?」では、宇都宮の歌に小室と木根のコーラスが加わることによって、力強さと広がりを備えた演奏が展開された。光と影とを合わせて表現するような宇都宮のボーカルが胸に真っ直ぐ届いてくる。小室のキーボードソロもエモーショナル。今の思いを込めた今の演奏が強く響く。
「小室哲哉!」という宇都宮の紹介から始まったのは「TK solo」だ。「End Theme of How Do You Crash It?」をベースとしつつ、エドヴァルド・グリーグ作曲の戯曲『ペール・ギュント』の「山の魔王の宮殿にて」のフレーズも交えての自在な演奏によって、マジカルな空間が出現していく。アナログシンセによる手弾きの演奏が中心なので、デジタルでありながらも、今の瞬間の生々しい感情や衝動が、そのまま音楽に変換されていると感じた。作曲しながら演奏しているかのようでもあった。後半には「GIVE YOU A BEAT」が入ってくる構成。緩急自在なプレイによって、会場内に混沌とした空気が漂っていく。七色の光を効果的に使った照明も見事で、光と音のミクスチャーと表現したくなった。
キーボードのリフの断片に四つ打ちのドラムが加わって、「GET WILD」へと突入する流れも鮮やかだった。大きな炎の柱が数多く上がる演出と集中力あふれる演奏とが、会場内に熱気を充満させていく。観客もハンドクラップで参加。シンセサイザーとドラムとパーカッションがワイルドな疾走感を生み出し、木根のエモーショナルなエレキギターがグルーヴを彩っていく。
荘厳なシンセの音色に導かれて、「We Love The Earth」へ。ワイルドからロマンティックへと、会場内のムードが切り替わっていく。宇都宮のフレンドリーな歌声と木根の温かみのあるハーモニーとが柔らかく混ざり合っていく。曲が後半に向かうほどに演奏が白熱。小室のキーボードも木根のアコギもドラムもパーカッションも人間味にあふれている。新たなアレンジが施させることによって、ヒューマンパワーも大幅に増量。最新の「We Love The Earth」はラブソングの枠を超えた広がりを備えていた。
木根尚登
小室のスリリングなシンセに宇都宮のボーカルをコラージュしたイントルから始まった「Self Control」では、疾走感あふれる歌と演奏が、会場内に一体感をもたらしていく。宇都宮が手を上げて観客をあおっている。木根はキーボードをプレイ。強い意志を備えた歌と演奏がダイレクトに届いてくる。そのままシームレスで歪んだ重低音が鳴り響く新曲「Dystopia」へとたたみかけていく構成。曲と映像が一体になって、環境汚染、アメリカにおける差別問題、コロナ禍、ロシアによるウクライナ紛争など、人類が抱えているさまざまな問題を浮き彫りにしていくかのようだった。後半では爆撃されて部屋の中でのピアノを弾く映像が流れた。『#TKAmenaNFTProject』に参加中のウクライナ人の音楽家Boris氏による演奏とのこと。戦火が上がっている場所で奏でられた音楽が、TM NETWORKのライブ空間で、楽曲の一部としての共有される演出が実現したのは、SNSが発達した今の時代だからこそ、そして小室の発想の豊かさゆえだろう。
時を刻む音が流れて、「Time To Count Down」へ。LEDモニターに「Sing along in your heart !」というテロップが映し出された。声には出せないが、観客それぞれが心の中で歌ってほしいというTM NETWORKからのメッセージだろう。宇都宮も木根も「ラララ~」と歌っている。もちろんFANKSも心の中で大合唱していたに違いない。この日のステージからは、メンバー3人の絆だけでなく、TM NETWORKとFANKSとの絆の強さも見えてきた。
「I am」はドラムとパーカッションの生み出す力強いビートの中で、歌と演奏が展開された。小室がステージの上手前方に出てきて、ショルダーキーボードのMind Controlを演奏すると、観客から大きな歓声が起こった。上手に小室、センターに宇都宮、下手の木根という構図が新鮮だ。宇都宮の伸びやかな歌声に、木根と小室と小野がハーモニーで加わって、ヒューマンな歌と演奏が会場内に充満していく。LEDモニターには、懐かしいスリーショットの映像が映し出されていく。ライブ映像の多くには、ステージ上の3人とともに、観客のたくさんのこぶしが映し出されている。ライブ空間とはTM NETWORKとFANKSがともに作り上げていくものであることを、彼らは深く理解しているのだろう。
小室哲哉
澄み切った小室のキーボードで始まったのは、「Fool On The Planet」だ。壮大な広がりを備えたキーボードサウンドに包み込まれながら、宇都宮が丹念な歌声を披露する。木根のアコギが、歌の世界に吹き抜ける風のような広がりを与えていく。地球を舞台とした希望の歌が、ラスト前のポジションで演奏されるのは必然だろう。「Please Heal The World」、「How Crash?」、「We Love The Earth」、「Fool On The Planet」など、世界や地球を舞台とした歌が、ライブの大きな柱を形成していると感じたからだ。FANKSに楽しんでもらうこと、創造的な音楽を展開すること、そして音楽によって発信していくこと、それらのミッションを達成するライブ。
エンディングナンバーの「Intelligence Days」が鳴り響くと、“Capture and share your favorite moment! SNS OK!”との文字がモニターに映し出されて、観客がステージ上の3人を撮影し始めた。宇都宮、小室、木根もモニターの画面や客席を撮影している。3人が登場してきたのと同じ扉の中へとステージから姿を消すと、モニターに“Day10 147XX”という謎の数字が映し出された。これから先の展開を予告するような演出だ。
ツアータイトルにある“intelligence”とは、TM NETWORKからFANKSへのミッションでもあるだろう。となると、ライブの終演が終わりではなく、SNSでの情報拡散も含めて、ツアーの一部という解釈もできそうだ。バトンはまだ情報網の中でくるくると回転し続けているところかもしれない。そもそもTM NETWORKとは終わりのない物語のようなものだ。終わりがないということは、楽しみが続いていくということ。バトンを渡す人と受け取る人がいる限り、TM NETWORKとFANKSの物語は続いていくのだろう。TM NETWORKの黒いバトンは、青い地球とともに回り続けている。

取材・文=長谷川誠
TM NETWORKS

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