連日満員となった話題作、『星の王子
さま』が待望の再演決定 森山開次(
演出・振付・出演)&島地保武(出演
)が魅力を語る

2020年秋、サン=テグジュペリの名作『星の王子さま』を題材に美しく心に響く舞台が生まれた。演出・振付を森山開次が手がけたKAAT DANCE SERIES​『星の王子さま―サン=テグジュペリからの手紙―』は、ダンスならではのイマジネーション豊かな世界を立ち上げて好評を博し、連日満員御礼となった。その話題作が2023年1月21日(土)~29日(日)KAAT 神奈川芸術劇場<ホール>にて待望の再演を迎える(2月上旬~中旬に、滋賀県立劇場びわ湖ホール 中ホール、JMSアステールプラザ 大ホール、熊本県立劇場 演劇ホールでも上演)。森山と、狐を踊る島地保武(ダンサー、振付家)に、同作を踊り演じる魅力やクリエーションの内幕、新メンバーを加えての上演に向けての抱負を聞いた。
■『星の王子さま』の世界を、ダンスを通して豊かに表現する
前回公演の様子(c)Maiko MIyagawa
――『星の王子さま―サン=テグジュペリからの手紙―』が初演された2020年秋は、コロナ禍で一時途絶えかけた舞台活動が本格的に再開する時期でした。そうしたなか、KAAT 神奈川芸術劇場およびツアーの全公演を無事に終えました。当時を振り返っての思いをお聞かせください。
森山開次(以下、森山):感染対策など手探りの時期でした。舞台をやれる機会が少なくなっていたなかで大きなプロダクションをやらせていただき、いいダンサーに集まってもらって幸せでした。思いっきり全うして楽しんでやりたいなという思いでやっていました。
島地保武(以下、島地):感染症対策でリハーサルでは他の出演者とコミュニケーションを取るけど、それ以外のところでは食事も黙食で皆気を付けていました。全公演無事にできたのは素晴らしいことでした。
――『星の王子さま』といえば、誰もが何かしらの形で触れたことのあるような題材ですし、舞台化も少なからずあります。『星の王子さま―サン=テグジュペリからの手紙―』を初演時に拝見しましたが、ダンスを通してイマジネーション豊かな世界が伝わってきました。「いちばんたいせつなことは、めにみえない」に代表される、詩的で美しく、物事の本質を語っているような言葉の数々を、ダンスを通して立ち上げる際に意識したことは何ですか?
森山:「サン=テグジュペリが物書きとして俯瞰して見ている」という態で創りたかったんです。原作の言葉自体を体に置き換え過ぎてしまうのは、ちょっと違う気がします。無駄なこととかも喋ったり、呟いてみたりする。観る人が「何か分からないけど凄くよかった」とか「いい動きだったな」と拾ってくれます。なので、僕たちは言葉にのっていない、本にのっていない言葉みたいなものを表現していきたいと思い始めました。
島地:狐をやるにあたりYouTubeの映像を観て、背骨や尻尾、耳の感じとか、生き物としてどうやって世の中を見ているのかとかを研究しました。物真似ですが、それは舞踊の原点の一つだと思います。ストーリーは既にあるので、体で狐になるのがダンサーの役割だなと思って。
前回公演の様子(c)Maiko MIyagawa
――ご自身で研究されたことが、森山さんとのリハーサルによって何か変わりましたか?
島地:開次さんはどこまでやったら嫌がるかな(笑)。怒るかなと(笑)。「こういうふうにしてくるんだろうな」という予想を裏切りたいですね。その時にいくつかやったなかで見ていただいて「こっちの方法がいいよ」とディレクションしてもらいます。ただ、僕は基本的に言われた通りにはできないので(笑)。それに「毎回違っていい」と許してもらっています。もちろん、あまりにも違い過ぎないようには気を付けていますけれど。
――「その場その場で生きている」というような感じですか?
森山:そうですね。細かく振付をする感じではないですね。「こうでなきゃいけない」はなく、ダンサーに世界観や出すものを委ねていきたい部分もあります。自分が他の演出家の舞台に出る時も言われたことはやるけれど「自分の言葉は自分で発します」っていつも思います。その意味では、演出する時は皆から出てくるものを信じています。島地くんとも絡んで遊びたい。決められた世界観は特になくて、こういう物語だからこそ遊びたいという思いもあります。自由でいてほしいですね。
それは星の王子さまのアオイ(ヤマダ)ちゃんに関しても同じです。彼女には積み上げていける能力があるし、彼女そのものが王子だと思っています。だから僕は演出していないのかもしれない(笑)。毎回同じである必要はなくて、そこで出会ってくれれば、表現してくれれば。原作自体にそういう器があると思うので、僕は自由にやっているつもりです。
>俯瞰した視点から描く、重層的な物語
■俯瞰した視点から描く、重層的な物語
前回公演の様子(c)Maiko MIyagawa
――小㞍健太さんが演じる飛行士とサン=テグジュペリが二重写しになりますし、坂本美雨さんが扮する歌声はサン=テグジュペリの最愛の妻コンスエロと重なります。このようにいくつものイメージが重なり像を結ぶのが魅力的ですね。どのように生み出すのですか?
森山:原作にある「ウワバミの絵が帽子に見える」という話が分かりやすいかと思います。そうした「~のように見える」「~のつもりだったんだけど」みたいな話がおもしろいなと思って。ダンスって「僕はこういうつもりで踊っているけれど、受け取る人は全然違うように取っている」ようなところがあります。そんな「~のつもりでやっている」みたいなものが重層的に散りばめられていたらおもしろいと考えています。
(坂本)美雨さんの歌もダンスのようであり、音楽のようでもある。音楽のなかにもぴったりビンゴというところもあるけれど、阿部(海太郎)さんのなかでは別の情景を描いていて全然違うこともある。それぞれの答えが違って受け取れるような、それぞれの舞台のストーリーを紡いでいってもらえたら。その意味で、少し俯瞰して「サン=テグジュペリからの手紙」として見ている創り方をしたような感じでした。
島地くんが踊っているときの気持ちなんか分からないという人もいるし、凄く分かるという人もいる。それに「気持ちが読まれてたまるか!」ってところもあるじゃないですか。そうしたやりとりの感覚こそ、僕が島地くんの好きなところですね。リハーサルでもちょっと寄り道をしながら「何を言いたいか分かりましたか?」みたいな謎かけをしてくるのが好きです。
島地:ありがとうございます!
前回公演の様子(c)Maiko MIyagawa
――ダンサー12人、歌手1人、音楽家2人(佐藤公哉、中村大史)によるアンサンブルがみどころです。王子のアオイヤマダさん、飛行士の小㞍さん、歌声の坂本さん、バラの酒井はなさん、それに狐の島地さん、蛇の森山さんらは前回に続いて出演します。この座組ならではのケミストリーがあるのではないかと考えますが、その点に関していかが思われますか?
島地:おのおのが自分の身体言語を持っている人というんですかね。その人たちが、皆で同じ動きをしていても、そうは見えないのが魅力だと思います。
森山:素晴らしいダンサーで経験も積んできている人たちと一緒にやれるのは贅沢です。楽しんでやりたいし、観る人にとっても楽しんでもらえると思うんですよね。その意味で、このメンバーだからこそできることもあります。皆が培ってきたものを持ちこんでくれるので、それで深みが増していく感じがあります。最高のメンバーです。
――経験豊富な方々の間に、気鋭のダンサー、モデル、表現者のアオイヤマダさんが星の王子さまとしてまっすぐに存在しているのが素敵でした。どのようなアーティストだと感じますか?
森山:初演時は20歳になるかならないかくらいだったかな、大人になる時期で葛藤も感じながらやっていました。それから2年経ちます。彼女は「表現したい!」と体がウズウズして止まらないので、それを見ているのが本当に楽しくて。今回の舞台用に写真撮影をしていても、カメラを向けられれば動くこと動くこと! 服を変えれば違う顔を出すし、若さをどんどん出してくる。「いいなあ」と思いますね(笑)。今回はどのように違った彼女が見られるか楽しみですし、それはきっとお客さんにとっても楽しみなことになると思っています。
>新メンバーを迎えて
■新メンバーを迎えての楽しみな再演
前回公演の様子(c)Maiko MIyagawa
――今回、7名のアンサンブルのダンサー(浅沼圭、五十嵐結也、池田美佳、薄田真美子、川合ロン、水島晃太郎、南帆乃佳)のうち池田さん、水島さん以外の5名が初出演ですね。
森山:遠慮せず自分を出してほしいし、それに応えられるように僕も導いていきたいです。この間、ウズベキスタンに行って、砂漠にいたんですよ。それで『星の王子さま』みたいな光景だなと思って。砂漠は風が強くて「精神の風が粘土の上を吹くと人となる」みたいなサン=テグジュペリの別の本の言葉があって、その言葉を考えながらやっていたなと思い出しました。女性たちがメインとなって踊る抽象的なものは何なのか?みたいなのを考えたなかで、この作品でしかできないダンスの風を『星の王子さま』として吹かせられるんじゃないかなと思っています。僕も粘土となり、砂となり、風となって、新しいメンバーと接していきたいです。
それから五十嵐くんは濃いキャラクターなんだけど、美しいダンスも踊ってもらいたい(笑)。
島地:イガちゃんには僕の作品に出てもらっているので、好きというかファンで(笑)。開次さんと彼と一緒の現場でやるのは楽しみです。
――美術(日比野克彦)・衣裳(ひびのこづえ)にも新たなアイデアが加わるそうですね。
森山:こづえさんとは本当によくご一緒しています。こづえさんの衣裳には動き難さとかデコラティブな面もあるんですが、そんなのをもろともせず、パジャマだくらいの感じで踊りたいといつも思っています。克彦さんに関しては、「ウワバミの絵が帽子に見える」という話じゃないけれど、アートの原点を持っている方。ともすれば、幼稚園の時に遊んだ粘土細工や紙遊びを思い起こすようなところもあります。段ボールアートで一世を風靡されましたが、工作男子のような雰囲気が今も健在、いや、むしろ増している感じなので、作品の大きな力になります。
――あらためて意気込みをお聞かせください。
森山:最後は自分の話を。蛇をやるので、皆さんを星空へ届けるくらいの蛇をやりたい(笑)。
島地:やるのみです。ダンサーとしていい時期・おもしろい時期にきていると自分でも感じるので、思う存分やりたいですね。ストーリーはあるんですけれど、ストーリー以外の、それこそ粘土が出てきたみたいな、あるいはブラックホールに見えるとか、そんな踊りがしてみたいです。そこにモノが無くても魅せられるという舞踊ならではのことをしてみたいですね。
森山:その意味で舞踊に合っているというか、舞踏だからこそサン=テグジュペリの感覚に近いものができると思っています。自由な感性を殺さずに楽しんでやりたいです。
取材・文=高橋森彦

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