DEZERT、夕闇に誘いし漆黒の天使達を
迎えた対バン企画『すっごいツインテ
ールを決める会』公式レポ

DEZERTが10月28日にShibuya WWW Xで開催した対バン企画『すっごいツインテールを決める会』のオフィシャルレポートが到着した。

DEZERTが10月28日に対バン企画『すっごいツインテールを決める会』をShibuya WWW Xにて開催した。およそ3年ぶりとなるイベントに彼らが迎えた相手は、“コミック系ラウドバンド”を自称する夕闇に誘いし漆黒の天使達(以下、夕闇と略す)。
夕闇に誘いし漆黒の天使達
登録者数60万人を誇るYouTuberとしても活動している彼らは“信念のないお笑いを中心とした活動”をコンセプトに様々なネタ動画の制作を行っており、バンドの音楽性も“あるあるネタ”や小ボケが盛り込まれた歌詞をラウドミュージックに乗せるというスタイルが特徴だ。ゆえにマキシマム ザ ホルモンヤバイTシャツ屋さん、あるいは打首獄門同好会といったバンドとの共通項を感じるが、同じくコミックバンドを標榜する徳島の至宝、四星球とはギャグセンがやや異なる印象。こんな感じでプロフィールだけでも300字を要する説明が面倒なバンドをどうしてDEZERTは対バン企画に迎えたのか、その理由を確かめるべく会場に足を運んだ。ちなみに『すっごいツインテールを決める会』というイベント名は、両バンドのボーカリストのトレードマークであるヘアスタイルによるもので、どっちのツインテールがすごいのか、を何らかの方法で決めるのだろう。
夕闇に誘いし漆黒の天使達
夕闇に誘いし漆黒の天使達
チケットは即ソールドアウトとなったこの日の公演。フロアは開演前からオーディエンスですし詰め状態になっていた。開場のBGMはなぜか夕闇と思しき楽曲のインストバージョン。その選曲にバンドからの意図を感じることはできない。そのぶんこれから夕闇がどんなステージを繰り広げるのかと、期待に胸が高まる。叙情的なピアノの旋律とともにメンバーが登場し、小柳(Vo)が「ツインテールが好きなみなさん、おはよー」という挨拶から夕闇のライブがスタートする。1曲目は「Good Morning Dead」。向かってステージ右手に設置されたスクリーンには、演奏に合わせて矢継ぎ早に歌詞が表示される。もちろんライブは声出し禁止なので無意味な演出じゃないかとツッコミを入れたくなるものの、この曲が“朝起きるのってしんどいよね”というダルい気持ちを歌った曲であることが即座に理解できる。以降も全ての曲に歌詞が表示されます!とわざわざMCで説明しているのが妙に面白かった。
夕闇に誘いし漆黒の天使達
夕闇に誘いし漆黒の天使達
その一方で巨大なツインテールを振り乱しながら歌う小柳の存在感を筆頭に、メンバーそれぞれのキャラもしっかり立っていて、バンドとしての成り立ちが真っ当であることを実感する。各々が人を楽しませることや笑わせることに腹を括っているのがわかるパフォーマンスだ。そしてバンドのプロフィールに“ブス担当”と明記されている小柳は、ぽっちゃり型だった過去の自分と決別した(のかどうか知らないけど)ことによって、ブサメンどころかツインテールが似合うヴィジュアル系としてのメタモルフォーゼを遂げている。とはいえ彼らの武器は“お笑い”であり、それを過剰なバンドサウンドで増幅させることによって一点突破を目指しているようだ。DEZERTの「脳みそくん。」のカバーでは千秋(Vo)の飛び入りによって笑いの秩序が乱されるものの、あくまでも彼らは“コミック系ラウドバンド”であるスタンスを崩そうとはしない。自らを“お笑い”というテーマに縛りつけているのだ。
「ツインテールと言えば小柳、という証拠を今日は持ってきた」と前置きしてスクリーンに投影された小柳の免許証(本物)が大写しにされると、果たしてその写真にはツインテールの彼が収まっていた。さすがに笑いをこらえきれず盛大に声を漏らすフロア。公演名に即したこんなネタまで準備する小柳に生真面目さを感じつつも、この日の彼らにとってこれが一番の切り札だったのだろう。さらにその後披露された「正義の味方「ジャスティスマン」」で、彼らがなぜ“お笑い”に執着しているのか、その理由をこの曲に見たような気がした。小柳似の赤タイツ姿のジャスティスマン(という設定)が戯けたダンスで歌うこの曲が訴えるのは、“正義”という価値観に対する問題提起である。幸か不幸か、この曲には笑えるネタや小ボケがどこにも見当たらない。正義とジャスティスを連呼する中、《誰だって「正義」の意味知らんし/価値とか以前に偽善も正義》というフレーズに刻まれている思いは、世の中にはびこる“正義のようなもの”に対する疑念であり、それだけ彼らは正義というものや正しさといった価値観と真剣に向き合っている、ということを示唆している。
つまり、ユーモアとペーソスの関係は説明するまでもない一般常識だが、彼らは悲哀や屈託の感情を、笑いという巨大なエンタメ装置を使うことで解放しようとするバンドなのだ。ゆえに“コミック系”であることを自負し、そこに自身を縛りつける必要がある、ということなのだろう。そういう意味ではミスター千葉(ギター)が11月27日の日比谷野音を持って脱退する理由が、その縛りから解放されたところで音楽を作りたくなったというのも頷ける。つまり彼は音楽に大きな勇気をもらった、ということなのだ。
DEZERT
そんな回りくどい自己表現に徹したバンドの騒がしいパフォーマンスから一転、DEZERTはいつも通りのライブにスタートさせる。幕開けは「「不透明人間」」。これまでなんども原稿で指摘したことだが、彼らもまた大きな悲哀と屈託を抱えたバンドであり、千秋は“この世の生きづらさ”をヴィジュアル系という世界観の中でずっと描いてきた。つまり、夕闇の小柳とは対照的な方法ではあるものの、やっていることは2人とも同じなのだ。とはいえ夕闇とDEZERTではバンドのポテンシャルがまるで違うことを見せつけようと、ケンカ腰な演奏が痛快だ。なかでもSORA(Dr)とSacchan(Ba)による冷徹なビートには、貫禄すら窺えるほど。さらに印象的だったのは「Thirsty?」で見せたMiyako(Gt)の奔放なギターソロだ。ギタリストとしては比較的控えめな存在だった彼の中で、何かが今変わりつつあるのかもしれない。アプローチがヴィジュアル系としては斬新な「モンテーニュの黒い朝食」は、この対バンにどんな意図があるのか、を明らかにさせてくれる曲だった。ヴィジュアル系というシーンを逆手にとって生まれたこの曲は、その型破りなスタイルゆえライブではまだ消化しきれていない面もある。しかし、彼らがヴィジュアル系であることにこだわっている理由が明確になっている曲でもあることにも気づかされた。夕闇がコミック系バンドであることにこだわっているのと同じように、彼らはヴィジュアル系というスタイルを自ら更新していくことで、音楽の可能性やバンドの未来を掴み取ろうとしているのだ。
DEZERT
DEZERT
DEZERT
こうして彼らがこの対バンを企画した意図がわかってからは、原稿という責務を放棄しライブを楽しむのに専念することにした。ライブ後半、小柳が千秋の衣装を着用して登場して千秋にラップバトルの勝負を挑もうとするが、千秋が見事なフロウとアンサーで小柳を撃破し、『すっごいツインテールを決める会』に決着をつけてしまう場面には大笑いした。さらに「「変態」」を2人で歌った後、ふとこんなことをつぶやいた千秋に思わず“おいおい”とツッコミを入れたくなった。「なんか仲良いロックバンドみたいでいいじゃん」――。ここまで千秋がメンバー以外の誰かとステージでイチャついてる姿を見るのは初めてだったが、つまりこの一言で対バンが企画された理由がさらにはっきりした。千秋は、小柳のことが大好きなのだ(笑)。
以前の彼はとにかくバンドマン同士がイチャつくことを激しく嫌悪していた。イベントで仲良しこよしぶりをSNSでアピールするバンドを忌み嫌い、そういった繋がりに中指を立てていたのだ。そんなヤツが今アンコールのステージで、誰よりも後輩を可愛がり、後輩の前でボケ倒し、それを義理堅く拾ってはツッコミを入れてくれる後輩のデレになっている。夕闇のカバーセッションを終えた後も全員での記念撮影はもちろん、千秋と小柳が撮ったプリクラをプレゼントするジャンケン大会まで実施。それは“人間とはいったんタガが外れると、どこまでも自分を許せてしまうものだな……”という感慨に浸るには十分の光景で、それほど彼らはお互いのことを理解し合い、強いリスペクトを持って付き合っている仲であることを理解した。開演から3時間弱、ようやく「「殺意」」で長いアンコールを締めくくった彼ら。ステージの去り際にファニーピースを決めるその姿を見て、DEZERTにとって今日の対バンは、いつか夢見ていた自分たちへのご褒美だったのかもしれない……そんなことを思ったのだった。
文=樋口靖幸(音楽と人) 撮影=西槇太一

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