西田尚美インタビュー~舞台『夏の砂
の上』で田中圭・山田杏奈らと共演、
「生の舞台で人の目に晒されるのはや
っぱり怖い」

劇作家・松田正隆の名作『夏の砂の上』が、2022年11月3日(木・祝)~20日(日)に世田谷パブリックシアターにて上演される。1999年の読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞した作品で、演出は栗山民也が務める。
夏の長崎を舞台に仕事と家族を失った主人公と彼を取り巻く人物たちによる静かな会話劇で、主人公の治を田中圭が、彼を捨てて家を出る妻・恵子を西田尚美が、そして治の妹の娘・優子を山田杏奈が演じる。
開幕を約3週間後に控えた西田尚美に、栗山民也の演出方法、田中圭や山田杏奈との共演について、また舞台出演の苦しさと楽しさなどを聞いた。

■人に演出してもらうことが楽しい
──西田さんは今年(2022年)夏に『鎌塚氏、羽を伸ばす』にも出演され、これが今年2作目の舞台ですね。
昨年と一昨年は舞台がなかったので、今年は珍しい年です。コミカルな『鎌塚氏、羽を伸ばす』とはカラーがまったく違うので、すごく新鮮な気持ちで向き合えて楽しいです。
──西田さんは舞台の経験も豊富ですが、あるインタビューで「舞台は決して得意ではない」と答えていて意外でした。
全然得意じゃないです……むしろ苦手です。生で人の目に晒されている状態は、やっぱり怖いです。出番前は緊張して手もカチカチに冷たくなるし。映像とは別次元の緊張感があるから、何度やっても慣れないですね。
──それでも舞台のお仕事を受けられるのはなぜですか?
苦手意識はなくならないけど、お稽古自体はとても楽しいと思えるようになってきたからかもしれません。
──お稽古にはどんな楽しさがありますか?
人に演出してもらうことが本当に楽しいですし、好きですね。キャリアを重ねると、特に映像作品では演出される機会が減ってきたような気がして。監督さんにもよりますけど、「思うようにやってください」ということが増える。任せていただけるのはもちろんありがたいけれど、舞台のお稽古で演出家の方に細かく指示をいただけるのはすごくうれしいし新鮮です​。
──演出のお話が出ましたが、栗山民也さんの作品に出演されるのは今回が初めてですね。栗山さんの演出を受けてみていかがですか?
一言でいうと、ギュッとしてますね(笑)。無意味に何度も稽古をしたりしないので、一回の立ち稽古がすごく貴重です。演出の指導も、集中して聞いてノートに書き留めておかないとどんどん取り残されてしまう。そういう緊張感があります。
──田中圭さんとの場面がたくさんありますが、一緒に演じてみていかがですか?
圭さんと現場でご一緒するのは今回が初めてに近いのですが、間近で見ているとスポンジのような人だと感じます。びっくりしたのが、圭さんは栗山さんの演出指導をほとんどメモしないんですよ。メモしなくてもちゃんと全部覚えてるんです。聞いてるだけなのに全部それをインプットして、言われた通りに次のお稽古でアウトプットしてる。見ていて毎回驚きます。私は必死にメモして、それでも指示された内容を落としちゃうのに。だから圭さんは本当にすごいです。
──稽古が始まる数週間前、山田杏奈さんにもお話を伺ったのですが、「初舞台なので、とにかく不安」とこぼされていました。
いやいや、とてもそんなふうには見えません! 杏奈ちゃん、素晴らしくて、とても素敵ですよ。
──『17才の帝国』(NHK)で共演した時点でこの舞台が決まっていたから、西田さんに「舞台ってどんな感じですか?」と質問したとおっしゃっていました。
そうそう。でも舞台は演出家の方によっても全然違うから、そういう意味では私も栗山さんとご一緒するのは初めてで「どんな感じだろうね」って話してました。ただ今回は書き下ろしではなくて元の戯曲があるので、時間があるときに台本を読んで、話を染み込ませていくのがいいんじゃないかなって、そんな話をしましたね。
──稽古場では共演者の皆さんとどんなお話をしていますか?
それが、コロナ対策でほとんど誰ともおしゃべりできないんです。コロナ前は稽古の後にみんなで飲みに行ったりしていたけど、今は更衣室で居合わせた時にほんのちょっと立ち話するくらいで。寂しいですね。
──山田さんにとっては初舞台だから、これが普通になってしまいますね。ちなみに、西田さんの初舞台は2000年の『S-エス-記憶のけもの』です。当時のことは覚えていますか?
もちろん覚えています! 萩原聖人さんと白井晃さんと私の3人芝居で、白井さんが演出をされました。記憶を巡る難しいお話だったからもう何が何やらわからなくて、あの時もついていくのに必死でした​。
その白井さんが今、世田谷パブリックシアターの芸術監督なので、今回の本読みにも来られていました。久しぶりにお会いできたうれしさのあまり、「あーっ、白井さーん!」って思わず大きい声が出ちゃって(笑)。「まさか尚美ちゃんとここで会えるとは!」と言われて、感慨深かったです。

■作品の中の「乾き」を一緒に体感してほしい
──『夏の砂の上』はこれまでに何度も上演された名作ですが、西田さんが初めて戯曲を読んだ時の感想をお聞かせください。
長崎の街で起きたささやかなお話で、日常的でありふれているような出来事にクローズアップしています。だけどその私的なやり取りの中には、長崎という原爆を経験した土地の歴史が滲み出ています。物語の序盤は、蝉が鳴くじわっとした長崎の夏の暑さを感じますが、物語が進むにつれて徐々に乾いていく。そこに登場人物たちの心の乾きが生々しく重ねられていくような物語だと思いました。
──西田さんは、田中圭さん演じる主人公・治の妻・恵子を演じます。夫を捨てて家を出る女性の役ですが、どんな人物だと感じましたか?
寂しい思いを抱えていたのだろうと同情する一方で、彼女にはたくましさも感じました。治さんとの子どもに起きた悲劇は彼女にとって、ものすごく辛い出来事だっただろうし、それが夫婦関係にも影響したと思います。彼女の中にも、一筋縄ではいかない思いがあったんじゃないかなって。
──この物語の舞台は長崎ですが、行かれたことはありますか?
修学旅行でも行きましたし、ドラマの撮影でも行ったことがあります。長崎出身のさだまさしさん原作の『かすていら』というドラマで、さださんのお母さんを演じました​。
──長崎にはどんな印象をお持ちですか?
私は広島県の福山市出身なのですが、隣の市の尾道に似てるなと思いました。港があって、坂があって。そういう風景の印象があります​。
──セリフはすべて長崎弁ですが、方言の練習は順調ですか?
方言指導の方に音声データをいただいて、稽古場でも指導してもらってますが、やっぱり難しいですね。感情と言葉のせめぎ合いというか。言葉のイントネーションの正しさばかりに引っ張られてしまうと、今度は感情がうまく乗っからない。なるべく感情を重視して、そこにうまく方言が染み込んで来ればいいなと思いながらやっているけれど、なかなか難しいです。
──最後に、この記事を読んでいる方々へのメッセージをお願いします。
観終わってから、今生きていることの尊さを強く感じられるようなお話です。作品の中の乾きを一緒に体感するようなお芝居で、喉が渇いて水が飲める、そんな当たり前のことにありがたみを感じられるんじゃないかと思います。そう言うとひたすら重たいお話のようですが、いろんなことを感じられるお芝居だと思うので、ぜひさらっとした気持ちで来ていただけたらうれしいです。
取材・文=碇雪恵  写真撮影=鈴木久美子

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