熊田茜音が語る新曲「VISIONS(feat
.寺島拓篤)」寺島さんにちょっとは
大人になったと思ってもらえたのかな
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オーディション「ANISONG STARS」でグランプリを勝ち取り、2020年1月29日にシングル『Sunny Sunny Girl◎』でアーティストデビューした声優・熊田茜音が、久しぶりにSPICEに登場! 彼女にとっても思い入れの深い『転生したらスライムだった件』のアプリゲーム主題歌としてリリースされ「VISIONS(feat. 寺島拓篤)」についてはもちろん、前回から2年9カ月の間にリリースした楽曲や出演したライブの振り返り、そして「売れたい」と語る彼女の活動へのモチベーションについて、じっくり語ってもらった。
ライブイベントでは「Brand new diary」の反応が「ずば抜けて違う」
――まずは前回SPICEに登場していただいた2020年1月から、現在まで振り返っていきたいのですが、2枚のシングル「Brand new diary/まほうのかぜ」(21年4月)、「ココロハヤル」(21年8月)とアルバム『世界が晴れたら』(22年2月)が発売されました。お気に入りの楽曲、印象に残っているフレーズなどはありますか?
「自分磁針」という「ココロハヤル」の2曲目に収録されている曲なんですけど、一般公募した現役高校生の方が作詞をしてくださったんです。初めて楽曲の制作で自分よりも若い方と一緒にお仕事をしたことがありまして。
――伝書鳩さんですね。どういった印象がありました?
言葉がすごく素直で真っ直ぐで。この前ライブで歌ったんですけど、「僕だけがコンパスだった」っていう歌詞に、すごく私自身も気付かされたというか。アニメのタイアップ曲ではないんですけど、ファンの方がすごく盛り上がってくれて嬉しかったです。
――テレ玉で『高校野球埼玉大会中継』のテーマソングとして使用されていた曲ですね。熊田さん自身もまだかなりお若いですけど、さらに若い方と一緒にお仕事をされたということで、世代の差とかは感じましたか?
物事への向き合い方というか、お話したときに私が伝えたこと全部に感動してくれたんですよ。私も今、お仕事をする度に新しいことがいっぱいで同じようになるんですけど、作詞家さんで音楽が好きだから私とは違う視点で。スタジオの機材とかに「わ~!」ってしている姿を見て、すごくいいなと思いました(笑)。
――憧れのプロの世界への第一歩という点で、ドラフト指名を目指す高校球児にも重なっていいですね。曲にかぎらず、熊田さんが参加したアニメ作品で「これは大きかったな」という作品をあげるとしたら何になりますか?
やっぱり『転生したらスライムだった件』が初めて声優として声をあてた作品なので、自分のなかでもすごく思い出になっています。今年は昨年度に比べてライブをたくさんやらせていただいているんですけど、『転スラ日記』のOPテーマになっている「Brand new diary」は、楽曲が流れた瞬間に会場に来てくださっている方が盛り上がってくれるので、私も自信を持って歌えるんですよね。

――フェスやイベントにも精力的に出られているなかで、反応が一つ違う感じ。
そうなんです。「聴いたことある!」と思ってくれるのか、ずば抜けて違うなって(笑)。私のことをまだ知らない人が多い方が多い環境で歌うことが多くて、そういうときはより緊張するんですけど、そういうときでも最初の出だしから手をたたきやすいというか。すごくノッてくれやすくてライブにもってこいだなと。
新曲は寺島拓篤がフィーチャリング参加
「一緒に歌うって……全部を!? ハモるの?」
――なるほど。新曲「VISIONS(feat. 寺島拓篤)」は、そんな『転生したらスライムだった件』のアプリゲーム『転生したらスライムだった件魔王と竜の建国譚』(以後、『まおりゅう』)の主題歌です。このお話を聞いたときは感慨深いものがあったのでは?
はい。まさか『転スラ』にもう1回関われると思っていなかったので。しかも、『まおりゅう』の主題歌ということですごくびっくりしました。私が演じているエレンちゃんというキャラクターが、今回新しく追加されたんですけど、それまで「どうにか『まおりゅう』に出してください」ってずっといろんな方にお願いしていたんです(笑)。それより先に主題歌のお話が来たからそれもビックリして。熊田茜音としても『まおりゅう』に関われることにすごくビックリして、さらに寺島さんと一緒に歌うというので。
――理解が追いつかないと。
「どういうことですか?」って聞きました(笑)。「一緒に歌うって何ですか!?」って。フィーチャリングっていう形も初めてだったし、しかも寺島さん!? ってすごくビックリした記憶があります。
――喜びとかよりも疑問が先に来たんですね。
「?」がいっぱい浮かびました。何? 何? 何? 何で? どういうこと!? みたいな(笑)。
――疑問というより、混乱に近いですね(笑)。キャラクターソングでは他の方と一緒に歌うこともあったと思いますけど、それとはやはり違いましたか?
やっぱり感覚がぜんぜん違いました。キャラソンだと、熊田茜音というよりもキャラ同士で歌うというイメージなんですけど、熊田茜音と寺島拓篤さんで歌うとなったら、何が生まれるんだろう、どういう曲が来るんだろうと思いましたし、一緒に歌うって……全部を!? ハモるの? みたいな(笑)。すごくワクワクしました。
――新曲のタイアップの話を初めて聞いたときの気持ちって定番の質問ではあるんですけど、ここまで率直な言葉で答えてくれるとありがたいです(笑)。「Brand new diary」と同じく作詞を寺島拓篤さん、作編曲をR・O・Nさんが担当されています。曲を聴いたときの印象は?
光ってるな……というか。それこそ「Brand new diary」の好きなところがぎゅぎゅっと詰め込まれながら新しい感じになったように思いました。私はR・O・Nさんが作る曲も大好きなので、キタキタ……! って、すごくテンションあがりました。
――グルーヴ感があって勢いもあって良いですよね。
最初聴いたときに、寺島さんとの掛け合いになっている部分を音だけ聴いたので、「ここは何だろう、どうなるのかな」とすごく思った記憶があります。
――なるほど最初はガイドメロディだけだったと。
そうです。歌詞が決まったのはけっこう後だったんですけど、サビの「今だIt's time to break」のところとか、寺島さんは英語を詰め込むのがすごくお上手で、歌っていても聴いていても気持ちいい感じにしてくださるんです。一緒に歌っているから歌い方を合わせるということをすごく意識しました。
――ほかの熊田さんの曲と比べて、ちょっとキーが低めになっていますよね。
それこそR・O・Nさんがそこを最後まで悩まれていた記憶があって。私が「寺島さんに合わせます」って言うべきだったんでしょうけど、寺島さんが「熊田さんが歌いやすいところに合わせてください。僕は合わせるんで」と言ってくださって。自分の実力がぜんぜんないのと、ディレクターさんもR・O・Nさんも「寺島さんはどのキーでも大丈夫だ」とおっしゃっていたから「ありがとうございます! それじゃあいいですか?」って(笑)。私が歌いやすいキーにしてもらいました。
――寺島さんがどれだけ先輩であっても、熊田さんの曲ですからそこで遠慮する必要はないと思いますよ。ただ、それでもほかの曲よりキーが下がったぶんだけ、曲にあった力強さがあるというか、熊田さんの歌声と曲がいい形で合わさっているような印象がありました。
ありがとうございます。もともと、私は声がハスキーで。そこを活かせるキーってどこだろうねという話をしていたんです。スタッフさんとの間でも「思っていたより低いところでもアリなんじゃないか」という話が出ていて。でも、デビュー当初は体幹とか私の身体ができあがっていなかったので、ちゃんと声が出せなかったんですね。でも、2年間の間に筋トレをしたり鍛えたりしていたら、低い音からちゃんと出るようになって、そういう面でも、今できることを詰め込めたんじゃないかなと思っています。
――最初の配信アルバム『Colorful Diary』の曲だと、かなりキーが高いですもんね。
めっちゃくちゃ高いです(笑)。そうなんですよ、地声が高いところまで出るので、高いところは歌いやすいんですけど、低いところも出せたらカッコいいので頑張ろうと。
(c)川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会(c)柴・伏瀬・講談社/転スラ⽇記製作委員会(c)Bandai Namco Entertainment Inc. Developed by WFS
ライブ映像には寺島拓篤も出演!
「これが本当の『VISIONS(feat. 寺島拓篤)』だったんだ!」
――以前のSPICEのインタビューで「歌詞が届くと、まずは朗読してみる」とおっしゃっていましたが、今回の歌詞も朗読はされたのでしょうか?
しました。ただ、以前は絵本を読むような感じで朗読していたんですけど、寺島さんに作詞していただくのは2回目ということもあって、しっかり朗読する前から歌詞がスッと入ってきたので、読み方はちょっとだけ変わりました。ひとつひとつの言葉から自分の経験を引っ張り出すというか。この言葉だったら、このときの自分の感情を引っ張ってくると合うなとか。
――言葉の意味を理解するための朗読ではなく、より自分の気持ちを込めて歌うためのステップになったんですね。ちなみに、寺島さんとはレコーディングのときに直接お会いされてるんでしょうか? 曲についてお話をされたりはしましたか。
今回はレコーディングが別々で、スタッフさんを介して「(寺島さんは)こうやっていたから、こっちはこう合わせよう」みたいな作り方をしていて、直接お会いできたのはこの間あったライブ映像の撮影でした。
――なるほど。どういった映像になっているのでしょうか?
本当にライブをするような感じで撮りました。それがめちゃくちゃ楽しくて。掛け合いの部分とかで、まったく打ち合わせしていないのに顔を見合わせる瞬間があったりして。寺島さんと会うことも話すこともせずに、どういう思いを込めて書いてくださったのかを自分のなかで考えていたからこそ、二人で歌ったときにすごくいい形でぶつかりあったというか。「これが本当の『VISIONS(feat. 寺島拓篤)』だったんだ!」と思いました。
――VISIONじゃなくてVISIONSと複数形になっていることにも意味があるような気がしますね。アニメやゲーム作品のタイアップがある楽曲を個人の名義で歌われるときって、作品のことだけが書かれているのか、歌う人の経験を踏まえた歌詞になっているのかで表現の仕方が違うものになると思うんですが、その辺も加味して書かれた歌詞なのかなと感じました。
「Brand new diary」もそうだったんですけど、「VISIONS(feat. 寺島拓篤)」も作品のこのシーンだろうなという言葉も散りばめながら、熊田茜音として歌ってもちゃんと意味が届くように歌詞を書いてくださっていて。「Brand new diary」のときより歌詞が大人っぽくなったなと感じていたので、その話を聞いてちょっとは大人になったと思ってもらえたのかなって(笑)。それこそ「VISIONS(feat. 寺島拓篤)」から知ってくださった方には、「Brand new diary」のほうも聴いていただいて。生まれたての熊田のほうも観ていただきたいなと思います。

――生まれたての(笑)。どちらも未来に向かって進んでいこうという歌ですが、「VISIONS(feat. 寺島拓篤)」はキラキラした未来への憧れより現実の困難さの要素が増えている感じがしますね。
はい。いろんな葛藤があって、戦いながら突き進んでいくということも、『まおりゅう』ともリンクしていますし、『転スラ』ともリンクしているなと思います。
――この秋冬も、いろいろなフェスやアニメイベントへの出演が決まっています。「VISIONS(feat. 寺島拓篤)」を聴いて、すごくライブで映えそうな曲だと思ったんですが、お客さん、ファンの前でどういうふうに歌いたいと考えたりはしましたか?
すごくイメージ……というか妄想をよくするんですけど(笑)。
――想像じゃなくて妄想なんですね(笑)。
(笑)それこそ「VISONS(feat. 寺島拓篤)」はすごく妄想しやすくて、「回せWheel of Fortune」のところだったら、絶対に回せるよ! と思ったり。ファンの方がここで(右手を上げて何かを振り回す動きをしながら)こうやったら楽しいだろうなって。
――タオルだったり、ペンライトだったりを振り回している姿を妄想すると。
それこそ寺島さんが歌ってくださっている掛け合いの部分をファンの方にやってもらえたら楽しいだろうなとか。そうじゃなかったとしても、すごく「Brand new diary」に続く、熊田茜音の神器じゃないですけど(笑)。「この曲はノレるぞ!」と思ってもらえる曲になるんじゃないかなと。
――ライブの新しい鉄板曲ができたぞと。
キタキタ! と思ってもらえる曲に、ファンの皆さんと一緒に育てていきたいと思います。
――もちろん、寺島さんと一緒にライブで歌ったりとかも……。
したいです! ずっと周りの人には言ってるんですよ。「だって、いるじゃないですかぁ」「フィーチャリングじゃないですかぁ」ってすごくアピールしてるんですけど(笑)。やっぱり寺島さんはお忙しい方なので……。リムル役の岡咲美保ちゃんと『転スラジオ』(文化放送『転生したらスライムだった件 ~転スラジオ~』)をやっていて、二人で「『転スラ』のライブ、『転スライブ』ができたらいいよね」とずっと話していて。そうなったら寺島さんも行くしかないと思ってくれるかなと(笑)。
――来ないと始まらないくらいの(笑)。
そうなんですよ。どんな手を使ってでも一緒に歌いたいです!
ファンとの絆は「コロナ禍でも関係なく、オンラインでも生まれるもの」
――それでは、熊田さんのライブ活動について改めてお聞きしていきたいと思います。「Brand new diary」はお客さんの反応が「ずば抜けて違う」ということでしたが、緊張したときというのは、具体的にどんなライブでした?
大先輩方のなかに新人は私一人、みたいな感じになったりすることがけっこう多くて(笑)。この前『TOKYO CYBER MUSIC FESTIVAL』(10月14日、中野ZERO小ホール)というイベントに出演させていただいたんですけど、いちばん新人で大先輩方のなかにいる感じだったので。そういうときでも「Brand new diary」は自信を持って歌えました。
――榊原ゆいさんやAiRIさんはじめ、共演されているのが10年以上歌っている方たちばかりですもんね。
そうなんですよ。もうすごかったです! リハーサルから自分とぜんぜん違ってカッコよくて。
――そういう方、そういう方のファンの前で歌うというのは緊張しそうですね。ただ、先輩のやり方を見て勉強になることも多そうですね。
めちゃくちゃあります。リハーサルで、音周りを自分の聞きやすいように整えるんですけど、最初は本当に何をしたらいいのかぜんぜんわからなくて。なんとなく聞こえたらいいか、くらいで考えていたんですけど、レコーディングとかに近い環境に調整するのがいいという話で。それにすごく時間がかかっちゃうんです。音量の調節でも「やっぱり戻してください」とか言っちゃって。だけど、先輩方は一発で「この音を上げてください。OKです」みたいな。「早っ!」って(笑)。
――体にその感覚が染み付いているんでしょうね。実際にお客さんが入って聞こえ方が変わることとかも踏まえて決めておかないといけないわけですし。
そうなんです。思っていたよりちょっと音を大きくしておかないと吸い込まれちゃうんだなって最近学びました。
――音が小さかったときは、本番中に歌いながら音響スタッフ(PA)に指示を出して調整したりもされますよね。
PAの方は「歌ってるときにこうやって(お客さんに)分からないように合図してくれたら対応するんで」(上を指差すような動きをしながら)って言ってくれるんですけど、歌っているときは緊張しちゃってそれどころじゃなくて(笑)。でも、いつか大きい会場とかで(お客さんに)わからないようにサインしたいなって思いました。
――本当はそうしないで済むようにリハーサルで調整すべきなんでしょうけど(笑)、憧れというか、あの人がやってたやつ自分もやってみたい! みたいなものってありますよね。
そうですそうです! ちょっとカッコいいなって(笑)。
――今年の2月に行われたオンラインライブのアーカイブがYouTubeで公開されていますよね。MCを聞くと緊張していたんだとわかるんですけど、表情も動きもしっかりライブを届けようとしていて、すごく場数を踏んでライブ慣れしている人だと思ったんですよ。
ええ!? 嬉しいです。喋りベタで、MCになると急に自信がなくなっちゃうんですよね。「あああ…」って。
――ワンマンライブやフェス、イベントだけでなく配信での歌い方、見せ方を考えなければいけないのはコロナ下という特殊な状況が生んだものだと思うんですよね。
特殊ですよね……本当に、最初は難しくて。だって、偉い人が腕を組んで観ているなかで、どうテンションを上げたらいいんだろう? と思っていたんですけど(苦笑)。それこそ、幸いバースデーイベントを有観客でできていたんですよ。それがあったから想像できたんですけど、本当に最初からオンラインの方たちも今は多いじゃないですか。そういう人は本当に難しいだろうなと思って。
――バースデーイベントが2020年2月2日。ライブがどんどん中止になっていく直前、ギリギリのタイミングでしたね。
私はその1回の経験を胸に、オンラインをやっていくという感じでした。最近ちょっとずつ有観客になってきてから、(無観客のオンラインとは)まったく違うなと改めて思って。テレビっぽくなるというか、収録! みたいな気持ちになるので。ただ、そのなかでも今は(観ている人が)コメントできるじゃないですか。あれがすごく心強くて。とくに私みたいにMCが苦手なタイプだと、コメントを拾わせてもらいながら「本当に今、同じ時間で歌を共有してくれている人がいるんだな」と思えて。それだけで気持ちがちゃんと入るというか。より、ファンの方に助けられているなと感じます。
――オンラインライブの最後に歌われていたのが「またね、よろしくね」でしたよね。『絆体感TV機動戦士ガンダム第07板倉小隊~ゆく絆くる絆~』のEDテーマということもあって「絆」という歌詞も何度か出てくるように、すごくファンの方に向けて歌っているというか。収録ではなくライブをしているという印象がありました。
そう言っていただけると嬉しいです。私は本当にファンの方が大好きで。でも、絆はコロナ禍でも関係なく、オンラインでも生まれるものなんだなと思っています。
――けっこうTwitterやInstagramも積極的に更新されていますけど、ファンの方の反応をチェックしたりも。
すごくします、私は“いいね!マン”なんですけど(笑)。自分のことをつぶやいてくれた方とか、コメントをくれた方に「いいね!」するんですけど。なんだろうなあ……。めちゃくちゃ嬉しいんですよね。1日のなかの大事な時間のどこかで私を思い出してもらって、それをわざわざSNSに打ち込んでくれる時間があるんだと思うと。結局見るんなら、「いいね!」しても一緒だろうと。
活動のモチベーション「スタッフさんに認めてもらって、ファンの方に会える場所を増やしていく」
――6月に1st LIVE『世界が晴れたら』が開催されました。熊田さん個人のライブとしてはいちばん大きなものだったと思いますが、ほかのイベントやライブに出演するときと違ったことは何かありましたか?
やっぱり、ライブの前はすごく緊張していたんですよ。人ってこんなに緊張できるの? ってくらい、1週間くらいずっと緊張し続けてて。前日はすごくちゃんと寝れたんですけど(笑)。
――余裕があるのかないのかわかりませんね(笑)。
自分のことを観に来てくれている方で埋め尽くされた会場というのがほぼほぼ初めての経験だったので、舞台に立った瞬間に知った顔がバーッと見えてホーム感があったというか、すごく温かくて。いつも歌うときは言葉を届けようと意識しているんですけど、意識せずとも全部が前に前に、外に開いていく感覚というか。安心感のなかで歌えたのは初めてだったなと思います。|

――やっとホームで歌えた感じ。
絶対に私を受け止めてくれるって確信できて。でも、舞台に上がるまではどうしよう、誰もいなかったら……とまで思っていたんですけど(笑)。もう、すごく楽しかったです。
――2年前のインタビューでも、バースデーイベントについて「『本当にみなさんっていらっしゃるのかな?』と若干思っているんですけど……」とおっしゃっていますね(笑)。
言ってましたか!? 変わってないですね(笑)。
――その時は初めてのライブですもんね。それから、ファンと会う機会もできて「本当にいてくれた」という安心感もあって。
本当に、2年前に比べて一緒に歩いてくれるファンの方も増えて。私、すごく覚えちゃうんですよ、ファンの方の顔とか名前とか。本当に友達レベルで意識し会える方が増えて。
――それは歌手活動をされている声優の方のなかでも、かなりファンとの距離が近いほうですよね。
ネットを見ていても「近い」ってすごく書かれてるんですよ……。でも、近く在りたくて。それこそ2年前と比べると、どうやって恩返ししていったらいいかわからなくなっているというか。せめて、その方にとって1日のちょっとうれしいになったらいいなと思ってSNSでも「いいね!」をしているし、今年は『大井どんたく夏まつり2022』という無料で観に来てもらえるお祭りにも出て歌う機会をいただいたんですけど、なるべくそういう近い距離で楽しめることも作り続けていきたいなと思います。
――大きな場所で歌いたいということを目標として話す人は多いですけど、そういう近い距離での活動も意識していると明言される方は珍しい気がします。
もちろん、大きな会場でやりたいという夢はあるんですよ。今、応援してくださっているファンの皆さんを連れて行って、それこそ武道館とかで歌えたら、それはそれで楽しいだろうなと。でも、私はライブをしている時間がいちばん楽しくて。できるなら毎日ライブしていたいくらいなんですよね(笑)。でも、さすがに毎日とはいかないし、ライブできるのが1カ月の間に数日だとしたら、大きいところはドン! とやりたいけど、近い距離でもできるだけたくさんやりたい。私がただ単に元気をもらいたいだけなんですけど、やっぱり近いと顔が見えるからいいなと思います。
――最近も秋葉原のMOGRAでクラブイベント「アニソンインデックス」にゲストとして出演されていましたよね。ステージとフロアの距離でいうとかなり近かったと思いますけど。
めちゃくちゃ楽しかったです。ちょっと観てください、動画(TwitchのMOGRAチャンネルでアーカイブが視聴可能 ※要サブスクライブ)。もう、すごい、こんな距離だったんで。もう、目の前に! みたいな。すごい幸せな時間でした。いいイベントだなと思いました。
――クラブイベントだからフロアは暗くなっていると思いますけど、ステージから表情とかはわかるものなんですか?
見えるんですよ! 照明の加減で、バーッと顔が見える瞬間があって。そうするといちばん後ろの方までハッキリとわかります。しかも、私がめっちゃ見るんで(笑)。
――このときはアウェイというわけでもないと思いますけど、クラブイベントということでお客さんのノリも違ったりしたのでは?
皆さんそれこそお酒も入っていたので、すごく盛り上がってくれて。いつもだったら振り付きで踊ったりしているんですけど、このときは曲に合わせて飛び跳ねながら。曲によってはこういう感じで(手を上げて上下に動かしながら)みんなと一緒に踊りながら歌う一人という感じでした。
――形式や会場の大小を問わず、いろいろなイベントに出演されていますよね。熊田さんご自身の2ndワンマンライブをやりたいという気持ちは。
すごくあります。それこそ、「VISIONS(feat. 寺島拓篤)」みたいにライブ映えするような曲もバッチリなんですけど、私の曲はすごくピアノが印象的だったりとか、気持ちいい曲も多いのでバンドさんと一緒にライブができるようなアーティストになれたらいいなと思っていて。自分の歌でどんな音が鳴っているのか、どんな楽器がどんなことをしているのかをちゃんと聴き取って歌える人になりたいなと思って、今、音楽の勉強中なんですよ。ドラムだけ、ベースだけ、ギターだけの音源をもらって聴き込んでみたりとかして。その音を覚えてから自分の曲を聴くと「ああ、本当にここでこう鳴ってるんだ」とわかったり。耳を鍛えている最中です。
――ステムデータ(ドラム、ギター、ドラム、ベース、ボーカル、といったように各パートごとに分けて作ったデータのこと)と呼ばれている音源ですね。歌うときはリズム隊の音を聞くように、という話はよく言われていますよね。
言われます。実際、歌に集中しちゃうと難しいところもあるじゃないですか。音がガッツリ聞こえるところもあれば、どうなっていたんだろうと感じる曖昧なところもあって。そこをちゃんと聴けるようにしたいなと。
――「ください」と言って、ちゃんともらえるのもすごいですね。
「もっと(欲しいものを)言っていいんだよ!」と言われていて、そのときは「何を?」と思っていたんですけど、こういうことかと(笑)。遠慮なく言っています。
――ランティスのスタッフの方は、声優・アニソンシンガーを問わず長く一緒にやっていこうという姿勢で向き合われているイメージがあります。
本当に、ランティスさんはアーティストの意思を大事にしようと思ってくださっている方ばっかりで。熊田茜音はこういう性格なので、何を言ったらいいかよくわからないことも多いから、「例えばこういうことをやってみたら?」と提案してくださることがたくさんあって。そのなかで、本当にたま~に自分発信で何かを言えると「そういうことだよ」って褒めてもらえます(笑)。
――いい環境で活動できているんですね。
ときには厳しいことも言われるんですけど、それも愛だなと思って。「褒めてください!」って言ってもぜんぜん褒めてはもらえないんですけど(笑)、もがいている最中です。
――期待があるから厳しいことを言うという部分も大きいんでしょうね。
はい。でも、忘れちゃいけないのはファンの方のために歌っているわけであって。スタッフさんに褒められるためじゃないんですよね。スタッフさんに認めてもらって、ファンの方に会える場所を増やしていくという精神で、最近はちょっと切り替えてやっています。
――なるほど。ライブの機会を増やすことが、いまの目標なんですね。
私の最大の目標です。できるだけ、ライブがしたい。
基本は前向きでも実はマイナス思考
「ガッと突き進んでいく芯を持っていないとキツイときもある」
――どんなライブがしたいですか?
それこそ、最近顔の見える会場で、生バンドで歌わせてもらう機会があって。いつもは元気な曲、明るい曲を歌って飛び跳ねるようなライブをするんですけど、しっとりとしたライブもすごくいいなと思って。そうなってくると、やっぱりバンドさんがいることも、しっとりするならより重要だなと思って。
――10月17日に出演された『maruxenon Live Vol.53 夜間飛行』ですね。アコースティック編成のバンドと聴かせるライブというのもやっていきたいと。
いろいろな熊田茜音をお見せできるライブを増やしていきたいなと思っています。あとは、この間の「アニソンインデックス」が本当に楽しくて(笑)。元気な飛び跳ねる熊田茜音がベースにあって、ちょっと縦ノリの熊田だったり、しっとり熊田だったり。増やしていきたいなと思います。
――いろいろな見せ方ができるようになると、歌手として強いですよね。
この形のライブなら行きやすい、という方もいるでしょうし。あ、あとは野外でやりたいです! 野外ライブ。『Colorful Diary』に入っている「Summer Jump YYYY!」という夏の曲があるんですけど、絶対に野外が合うんですよ。やりたいです。
――それこそ、ランティスさんなら『ランティス祭り』がありますもんね。
そうなんですよ(と同席しているスタッフをじっと見ながら)。
――僕は「まほうのかぜ」(アニメ『スーパーカブ』OPテーマ)が好きなんですけど、アコースティックでも合いそうですし、野外で風を感じながら聴けたらきっと最高ですよね。
ありがとうございます。「まほうのかぜ」も本当に育っている最中の曲で。最近はイントロから皆さん手を左右に振ってくださるようになって。ちょっとアレンジでしっとりバージョンでできる場所を作りたいです。
――元気で明るい曲ももちろん良いんですけど、スイカに塩みたいな感じでちょっと毛色の違う曲があるとどちらもより生きるというか。アルバムに収録されている「くらげ」もそんな曲ですよね。
ありがとうございます。「くらげ」は初作詞の曲なので、積極的に歌っていきたいと思っています。
――歌詞のなかで、声優や歌手活動に対しての向き合い方がご自身の言葉で綴られているように感じました。「VSIONS(feat. 寺島拓篤)」についておっしゃっていた「葛藤があって、戦いながら突き進んでいく」という言葉や「Brand new diary」「自分磁針」もそうですが、目標や思い描く未来に向かって前に進んでいこうという一貫した強い思いがあるのかなと。
私は基本的にけっこう前向きで。歌う場所を増やしたいので、そのためには人気、実力ともにトップクラスを目指さなきゃ! と思っているんです。なんか、すっごくマイナス思考になってしまって後ろ向きに考えることも多いんですけど。後ろに考えた分、前に行きます! みたいな感じで。結局、ガッと突き進んでいく芯を持っていないとキツイときもあるので。自分に言い聞かせるためにも、そういう思考回路ですね。
――歌う場所を増やしたいからトップクラスを目指したいってわかりやすくていいですね(笑)。
「ライブ増やしてください」って言いやすくなるじゃないですか(笑)。
――問題に対して悩んで、解決策を見つけたらそれに対して進むしかないっていうのは、すごくいいスイッチの入れ方ですよね。『転スラ』はじめ、いろいろなアニメの登場人物の姿にも重なりますし。アルバム『世界が晴れたら』のリード曲、「いいんだよ」では、そういう気持ちの変化のプロセスを歌われていますよね。
あっ、そうですね……。あの曲は、けっこうターニングポイントになりました。「突き進んでいくぞ!」っていう性格なので、悩んでいるところは人に見せたくないと思っていたんですけど「でも私、悩んでるしな! じゃあ隠しちゃうのはウソじゃん!」と思って。
――そう思えるのは大きな変化ですよね。
ファンの方との絆ができたからこそ生まれた曲っていう感じです。そうじゃないと、引っ込み思案が出ちゃって歌えなかったんですけど、受け止めてくれると思っていたから、一旦全部見せてみようと思って。
――「こう見られたい」という自分を出すのではなくて、等身大の自分自身を出せるようになった。
ありのまま。自分にもみんなにも「いいんだよ」と言ってあげられる人でいたいし、聴いてくれた人が自分に「いいんだよ」と言ってあげられるきっかけになってくれたら嬉しいし。ということもあって、「自分磁針」と「いいんだよ」が好きなんですよね。
――なるほど。しっかり売れて、そういった思いを歌える場所を増やしていけるといいですね。
はい(笑)、増やします!
聞き手・文:藤村秀二

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