髙畑結希(SKE48)ら出演、一人娘と
“溜まり続けていく”父達が織りなす
異色家族劇── 平塚直隆の書き下ろ
し新作による〈オイスターズ〉本公演
が名古屋と東京で

劇作家・演出家・俳優の平塚直隆が座付き作家及び演出を務める、名古屋の劇団〈オイスターズ〉。その第26回公演『ちちんち』が、2022年10月29日(土)~31日(月)は名古屋の「愛知県芸術劇場 小ホール」にて、11月18日(金)~20日(日)には東京の「王子小劇場」で上演される。
今年2022年に入って〈オイスターズ〉は、3月に第25回公演『日本語おじさん辞典』、9月にはオイスターズプロデュース公演『劇玉V』(短編6本)を上演。そのひと月後に本作『ちちんち』公演と精力的に活動しているが、先の『日本語おじさん辞典』は、初日開幕後に出演者の新型コロナウイルス陽性反応が確認されたため、残り6ステージは残念ながら中止に(振替公演は2022年12月に名古屋「ささしまスタジオ」にて上演予定。詳細については後日、当サイトでも紹介予定)。
また、それ以前の活動としても、2019年10月の第23回公演『みんなの力』以降は、約1年に渡って活動を休止。2020年11月には第24回公演『人と火と』で活動を再開するも映像配信公演だったため、今作『ちちんち』は、平塚の長編書き下ろし及び〈オイスターズ〉本公演の劇場上演作としては久々の作品になるという。
オイスターズ『ちちんち』チラシ表
本作では、中尾達也、田内康介、芝原啓成、平塚直隆の〈オイスターズ〉メンバーに加え、平塚作品には3度目の客演となる佐治なげる、さらに、声優・タレントとして活動するイヲリが初参加。そして、物語の主軸を担う娘役として、名古屋・栄を拠点に活動するアイドルグループ〈SKE48〉の髙畑結希も初参加している。「落語が趣味」という高畑は、高座に上がった経験はあるものの(『酔狂落語~二〇二一春の陣~』や『麗和落語~二〇二二夏の陣~』などに出演)、外部での本格的な舞台出演は今回が初だという。
こうした異色の顔ぶれも加わっての久々の長編新作はどのような作品になるのか、作・演出を手掛け、出演もする平塚直隆に話を聞いた。

── 今回は、お父さんの話、ということなんですよね?
はい。お父さんと娘の話というか、物語としては単純で。お母さんは仕事が忙しいらしくて、朝早く出ていって夜遅く帰ってくるみたいな生活をしていて、家にいるのはほとんどお父さんと一人娘だけなんです。その娘が小学生の時、お父さんは仕事をしてなくて昼間からお酒ばっかり飲んでて、お母さんによく叱られてるみたいな家庭で、そのうちにお父さんは亡くなっちゃうんですよ。そしたらお母さんが再婚して新しいお父さんがやってきて、その人も最初は仕事してるんですけど、なんかだんだん働かなくなってお酒を飲むようになっちゃう。娘からすると、「あ、(実の)お父さんみたいだな」っていう感じで新しいお父さんのことを思うんですけど、お母さんは当然怒って、離婚させられることになるんですけど出ていかないんですよ、その男が。そこにまた新しい夫がやってきて、娘が大学生になるまでお父さん達が家にどんどん溜まっていく…という話です(笑)。
── この話はどこから発想を?
いつもそうなんですけど、まずタイトルをつけて、ずっとタイトルのことを考えていたら浮かんできた、という感じですね。家族の話を書こうかなぁと思ってはいたんですけど、僕の中ではちょっと面白味がないなぁとも思っていて。でも、タイトルを付けなくちゃいけない、となった時に、西原理恵子の「ぼくんち」という漫画が好きなのでそこから想を得て、『ちちんち』って平仮名で書くと、見た目も内容も面白くなりそうだなぁなんて思って、そこからです。だから最初は何のあらすじもなくタイトルだけ付けた、という感じでしたね。
── 物語としては、2番目のお父さんと3番目のお父さんのやりとりが中心になって展開していくわけですか?
そうですね。2番目と3番目が回していく感じになって、そこから4番目、5番目と増えていくので。
── 増えていくんですね(笑)。
お母さんが離婚して再婚するたびに、新しいお父さんを嫌がらせのように家に送り込んできます(笑)。自分はその夫達には愛想を尽かして顔も見たくないと思うから家には帰って来なくなっちゃうんですけど、娘とは連絡を取っていて信頼関係が結ばれているんです。
『ちちんち』稽古風景より
── お父さん同士の関係というのは?
同じ人を好きになった同志だからか、みんな仕事をしなくなっていっちゃうので傷を舐め合っているのか、良好なんですよね。あと、新しいお父さんが来る度に共闘するので団結力も生まれてきて、より出ていかなくなる(笑)。
── 面白いですね(笑)。娘は新しいお父さん達を拒絶することなく、容認している感じなんですね。
そうなんですよ。その状況を面白がってますね。
── 娘役に〈SKE48〉の髙畑結希さんを起用したというのは?
こういう話にしようと決めてから、僕らが知らないような役者さん居ないかな? と思って。華があるというか、じっと座っていても見ていられるような、そんな子を探していたんですけど、やっぱり僕らの知ってるような小劇場の役者さんじゃない方がいいなぁと思って。あまり芝居の経験が無くても。それで知り合いのツテをたどって、髙畑さんを紹介していただきました。
会うまでどんな人かも知らなくて、芝居の経験もほぼないみたいで声もあまり出なかったんですけど、最近はセリフも入ってきたので大丈夫だろうと思ってます。彼女自身、何を考えてるかわからないような雰囲気もあるので、今回の役にぴったりだな、と思ってます。楽しんでくれているかどうかはわかりませんけど、話を聞いてると辛そうではないから大丈夫かな、と(笑)。
── 佐治なげるさんとイヲリさんも客演ですが、お二人のキャスティングについては?
佐治君は『日本語おじさん辞典』から連続で出てもらっていて、めちゃくちゃ良いんですよ。僕が今、一番書きやすい俳優さんなので出てもらいました。イヲリ君は、今回の集まりの中でフォルムがちょっとポッチャリしてワイルドな感じの人がいるといいなぁと思って、人づてに紹介してもらって写真を見て決めました。声優さんなので声もめちゃくちゃ良いです。
『ちちんち』稽古風景より
── 先日上演された短編集『劇玉V』は、大胆な空間の使い方のバリエーションも魅力的で、とても面白く拝見させていただきました。作品ごとに構図や照明の当て方など、かなり工夫されていたと思います。名古屋公演は今回も同じ劇場ですが、舞台美術はどんな感じになりそうですか。
『劇玉V』は、「愛知県芸術劇場 小ホール」の素舞台(フルフラットで天井高のあるブラックボックス)を作品によってこれだけ違う見せ方で使えますよ、っていうのを観てもらいたくて、アクティングエリアを広く使ったり狭く使ったりしたので、僕自身もやっていて楽しかったですね。今回は会話劇なのであまり凝ったことはしなくて、わりと普通です(笑)。『十二人の怒れる男』(陪審員たちの審議の様子を描いた、レジナルド・ローズ脚本の法廷劇)とかああいう感じのものにしたかったので、ワンシチュエーションですね。お父さん達は結局はその家に居続けたい人達なので、ダラダラと不毛な会話を続けてるんだけどなんだか真剣なことを話していそうな、会議モノっぽい感じにしたいと思って。
── 不毛な会話、というのにこだわった?
本当はそういうところで開き直ってやっちゃえばいいんでしょうけど、どうもそこまで勇気がないというか、行き来ってない感じはありますね。ケラさんとかみたいにナンセンスで突っ走るところまで行けたらいいんですけど、どこか理屈が通ってる感じがあって。最初は演出でなんとかなるかなぁとか思ったんですけど、やってみると意外と「自然に会話をする」っていうことが難しくて、あれ? なんか全然生っぽくないな、と思って。そこにむちゃくちゃ苦労してます。今までのオイスターズのスタイルと違うというか。やっぱり僕らって生っぽくなかったんだね、って。
── たしかに、平塚さんの書かれるものに生々しさを感じることはあまりないですね。登場人物も感情の抑揚が見えにくいというか、無機質な感じもあって。
そうですよね。だから今まで生っぽいことをやってなかったんだなって、改めて知って。僕の文体は口語体というより文語体の感じもするし、ちょっと言葉遣いが古かったりするので。それを急に会話の感じを変えて書いたので役者が戸惑ってる感じがあって、今まで通りの芝居をするとすごく不自然なやりとりに見えちゃうんですよね。
『ちちんち』稽古風景より
── 今は生々しい会話に興味があるということなんですね。そちらにシフトした理由というのは?
去年『日本語私辞典』という芝居を10年ぶりにやったんですけど、そこでなんか、あれ? 今こんなことやってたら古いなとか、恥ずかしいなと思うようになってきて、そこから書き方が変わったっぽいんですよね。だからエチュードで創っていくようなことに興味があって、それをやりたくて設定だけ創って、「ここまで書くから、あとはアドリブで喋ろうか」っていうことを最初やろうと思ったんですけど、全然喋れないじゃん、ってなって。
今までは極力無駄なセリフを削ぎ落として書いてたんですけど、生っぽく書いてると同じことを2回言ってみたりとか、「あー」とか「うー」とかもたくさん入ってくる。なんかそういう無駄な感じを今は書きたいのかもしれないですね。はせ(ひろいち)さんの戯曲講座とかに通って戯曲を書き出した頃は、はせさんだったり三谷幸喜さんだったり、ああいう会話劇を書きたくて書いてたんですけど、どこかからもっとコントに寄った感じになってきて、それが一周回ってきちゃった、みたいな感じですね。
最近は他所には長編も書いたりしてたんですけど、〈オイスターズ〉に長編で新作を書くっていうのが本当に久しぶりで。外で仕事していろいろな俳優を見たりとかして、劇団としてこれじゃダメだなぁ…って思いましたね。役者一人ひとりスキルアップしていかなくちゃいけないんじゃないかなぁ、みたいな。劇団として停滞してる感じがするから、僕は変わりたいです、っていう意思表示で書いた側面もあります。
── 平塚さんとしては、皆さんに課題を提供した、という感じでもあるんですね。
今までは登場人物がポンっと現れて、そこの場で起こる現象を書いていたのが、なぜその人物がそこに来たかっていう、これまでの経歴まで考えないと出来ない感じですね。普通役者って考えるよね、っていうことを今までやってこなかった。そんなこと考えなくてもよかったホンばかり書いてたから、それが大きいかもしれないです。セリフが入ればなんとかなるとは思ってはいるんですけど、まだなんか難しそうな感じ。とはいえ結局、蓋開けたら「いつもと一緒じゃん」って思われるかもしれないですけど(笑)。
── 今作のチラシの文面に、「今年に入って「父」をテーマに書くのは二本目だ。よく「父」のことを考えている」とありますが、作品のテーマとして考えるようになったきっかけというのは?
僕の親父は僕が大学生の時に亡くなっていて、だから思い出はあまりないんですよ。思い出がないから特に考えてみたいというか。特別仲が良かったとか、どこかへ一緒に行ったこともないなぁ…とか最近思っていて。きっかけがあったわけじゃないんですけど、父親ってなんだったのかな?って思ってるだけです。この前の『劇玉V』で「お父さん達はキャンプへ」という短編を書いて、この『ちちんち』の後にも、まだ仮ですけど親父をテーマにした作品を創る予定です。なんか今は「お父さん」という存在が面白くて、面白いものが書けそうな可能性を感じてるんですよね。
オイスターズ『ちちんち』チラシ裏
取材・文=望月勝美

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