odolの曲の強さとジャンルを超えてい
く柔軟性 異なるサポート陣を迎えた
“individuals”の集大成

odol ONE -MAN LIVE 2022 “individuals” 2022.10.4 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
アンコールのMCでミゾべリョウ(Vo/Gt)が話していた。昨年、メンバー二人が脱退(卒業)して新たにメンバーを探すのか、もしくは都度サポートメンバーを迎えて活動していくのかという逡巡はあったものの、昨日も今日も素晴らしいミュージシャンに出会えて、リハーサルから楽しく、新しい体制になったodolの集大成を見せられたと思う、と晴れ晴れとした表情を見せた時、odolはとてつもなくタフなバンドになったのだと実感した。
今年の3月以来、そしてステージを舞台のように見せる演出を施した『individuals』としては4回目となった今回。驚いたのは2Days公演のサポートメンバーが異なることだった。10月3日は3月同様、西田修大(Gt)と深谷雄一(Dr)。4日は、8月末にジム・オルーク、サム・ゲンデル、石若駿、細野晴臣ら錚々たるメンツを迎えた新作をリリースした岡田拓郎(Gt)、石若らとのバンド・SMTKや君島大空らとのユニットなどで活動する細井徳太郎(Gt)という、現代ジャズやエクスペリメンタルなシーンで活躍するギタリスト二人、そしてDATSyahyelという所属バンド以外にもTHE SPELLBOUNDや先日の高橋幸宏50周年ライブのサポートでも注目された大井一彌(Dr)という、最新の音楽を牽引するメンバーが結集。ミュージシャンたちがどんな色を添えるのか?という興味と同時に、odolの楽曲の強度も確認できる側面も確実にあった。いずれにせよ個人的には過去最高にスリリングな顔合わせである。
会場に入ると3月同様に背景には左右2つのスクリーンが配置され、大小のスタンドライトは5つ置かれている。今回も演出は石向洋祐(POOL inc.)、映像は写真家の濱田英明だ。
6人が位置に着くと長いインストが演奏される。ギターなのかシンセなのか判別し難い音が鳴り、民族楽器的な鳴り物を大井が操作し、Shaikh Sofian(Ba)のシンセベースがさらに空間を拡張。「狭い部屋 (Rearrange)」がさらにアップデートされている。映像は前回同様、ピンホールの同心円が大きくなるもの。椅子に座るミゾベの後ろに位置する岡田がまるで陰の支配者のように見えてしまうのだが、恐らく音響的にベストポジションなのだろう。続いて押し寄せる波のような森山のピアノリフが存在感を示す「独り」では、大井の特性であるジャストなビートとタイトな音色でライブアレンジの印象がこれまでと変わった。さらにパラノイアックな展開を見せていた「four eyes」が生音の精緻なハイハットワークや、グッとフィジカルに訴える明快なリズム、細井が出し続けているSE的なノイズによって、曲として生まれ変わっていた。そこでふと気づく。ミゾべのボーカルの安定感がすこぶる前進していることに。
モノクロの街の写真の見覚えのあるような東京の景色と、巻き戻せない時間の中でそれでも進む心情を話言葉のように歌う「reverie」が心に触れる。彼らのレパートリーの中では新しい部類だが、もはや自然とセットリストの中に佇んでいる感じだ。さらにミゾべのファルセットが確かなものになった「声」。細井が出すノイズやシューゲイズなサウンドが「生活」の序盤の感情を沸き立たせると同時に、岡田のギターの素の音を生かした透明感のあるフレーズが加わることで、曲が今を生きている。それは前半のラストと言える「夜を抜ければ」でさらに明確になり、轟音と静けさの往来と言えそうなアンサンブルに全身浸かったような心地になった。
前回同様、スクリーンにはカーテンを開けるミゾべの映像が投影され、インターミッションを経て、「眺め」へ。この曲での岡田のカントリーの素朴さとエレクトロニックな無機物を同時に響かせるスティールギターっぽい音が加わった時、今日この時でしかないライブであることに鳥肌が立った。ステージ上の6人が曲を軸に置きながら、いかに自分の音を出すか? その瞬間の最高値を音色で体感できたのだ。
同様にかなりハードな音像であり、細井のシューゲイズなサウンドが印象的な「泳ぎだしたら」も、ジャンル感では「眺め」と対極にありつつ、ジャンル感を凌駕するアンサンブルのユニークネスを実現していた。これはまさにodolという一言でカテゴライズが困難なバンドがカテゴライズされないまま、圧倒的な存在でいるために最適な手法であり、人選だと思う。コンポーザーの森山が音楽的に目指すところだっただろうし、ミゾべもShaikhも影響を受けながら、伸び伸びと演奏しているのがリアルに分かる。
その場では気づかなかったのだが、「泳ぎだしたら」までは3月と同じ曲順で、映像も曲に沿って同じ内容だった。だが、演奏の変化で感じ方は違うし、ある部分では同じ映像がもたらす安堵もあったりする。曲に対する映像のあて方にきちんと理由があるからだろう。
ライブアレンジならではのサックスの音色のようなギターのロングトーンに気が遠くなる「幸せ?」などは大井のジャストなリズムと森山のYMO好きがハマった感じが強い。非常に相性が良いと思えた。それまで定位置で歌っていたミゾべが前に出てきた「未来」、雪の映像が投影され紙吹雪が舞い降りてきた「三月」は、「未来」からの連続性を生み出す。
歌詞の意味やメロディ、音色やリズムの体に来る圧など全てを耳だけでなく全身の細胞で受容するような時間を経て、現実の世界でしっかり立てるような朗らかさを持った「小さなことをひとつ」まで辿り着いた頃には、旅をしてきた心地になっていた。odolのライブの特徴でもあるその感覚をより感じられた理由は、1曲1曲、1音1音に集中できる演奏に磨きがかかったことではないだろうか。本編ラストはodolを言語化したような楽曲「時間と距離と僕らの旅 (Rearrange)」で、岡田の姿が明確に見えないからこそ人格を表すような滑らかなオブリガートで存在感を示していた。odolのライブはこうしてさまざまなミュージシャンから刺激を受けつつ、毎回同じものがないいい緊張感を維持してくのが似合う。楽曲がそれを求めているのだと確信した。
冒頭に書いたようにミゾべが現在のバンドのスタンスを選んでよかったと、明言したことが腑に落ちる、研ぎ澄まされ、互いの音を最もよく聴いているライブになっていたように思う。アンコールでは日常的な気持ちと共感で素直に反応してしまった「望み」をまず演奏し、メンバーが謝辞を述べた。いいライブができた充実感を6人全員が素直に出した印象の「虹の端 (Rearrange)」が、本物のアンコールに似つかわしい歓喜に溢れていた。自分達の曲への自信を今回の2Daysでさらに深めたんじゃないだろうか。odolの周りでは今、かなり面白いことが起こっている。今回のサポートメンバーに反応したリスナーもodolの世界をぜひ覗いてみてほしい。

取材・文=石角友香 撮影=濱田英明

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