北欧デザインファンよ、日本初となる
“イッタラのお祭り”を見逃すな! 
『イッタラ展』レポート

東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで2022年11月10日(木)まで開催中の『イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき』。北欧・フィンランドを代表するライフスタイルブランド「イッタラ」をテーマにした日本初の大規模巡回展となる本展には、同社の軌跡を伝える450点以上の作品が来日している。ここでは実際の会場の様子を交えながら本展の概略を紹介。皆さんを、北欧の自然と歴史の中で育まれたフィンランドガラスの世界へと誘おう!
入り口には、挨拶代わりと言わんばかりに《アアルト ベース》が大集合
ヘルシンキのフィンランド・デザイン・ミュージアムで昨年行われたイッタラ創立140周年の記念展を再構成して企画された本展。会場の入り口には、同ブランドを代表するデザイン《アアルト ベース》を集めた《アルヴァ・アアルトコレクション》が展示されている。その近くにはアアルト本人が描いた《アアルト ベース》のためのドローイングも展示されており、フィンランドの自然にインスパイアされた曲線美に導入から魅了される。
会場入り口

アルヴァ・アアルト「《アアルト ベース》のためのドローイング」 1936年 フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵

日本では「北欧デザイン」とひと括りにされることも多い北欧4カ国のプロダクトデザインにおいて、フィンランドの風土を反映した数々のデザインを生み出し、大衆の生活に馴染んだイッタラの存在は非常に大きい。フィンランド発のブランドといえば、多くの人が初めにイッタラを想像し、それとは逆に、優れた機能美を持つイッタラのプロダクトの中に同国のアイデンティティを感じる人も多いだろう。本展では、その140年にわたる軌跡を4つの視点で紹介している。
北欧デザインファンでも意外と知らない? イッタラ140年の歴史
まず初めに設けられているのは「イッタラ140年の歴史」の章だ。ここではイッタラの歩みを数々の写真や資料とともに時系列で知ることができる。
「イッタラ140年の歴史」展示風景
イッタラの歴史は、ヘルシンキの北120kmにあるイッタラ村で1881年に設立されたガラス工場から始まる。そこから今では伝統となった技術を生み出しつつ、各地のメーカーとの合併や統合を経て国を代表するガラスデザインの雄となり、さらにはフィンランドの生活に欠かせないライフスタイルブランドへと成長した。
今でこそ曲線美で魅せる製品の多いイッタラだが、創業期は《ソシエテ》のようなクリスタルカットの製品を数多く手がけ、19世紀末にはその分野で有名なメーカーになっていたというのが意外だ。この時期には、《アメリコンスカ》のようなクリスタルカットを模したプレス製品の製造にも乗り出し、それらは「貧乏人のクリスタル」と揶揄されることもあったという。
作者不詳 「皿《アメリコンスカ》」 1913年 フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵
フィンランドがロシア帝国から独立した1917年を挟み、1930年代に主催したガラス・コンペティションで、イッタラ(当時の社名はカルフラ=イッタラ社)はひとつのターニングポイントを迎えることになる。このコンペティションに《ボルゲブリック(水紋)》を出品した建築家のアイノ・アアルト、そして、その夫で同じく建築家だったアルヴァ・アアルトとの協働が始まり、同じようにコンペティションに参加したデザイナーを巻き込みながら、実用ガラスだけでなく、アートガラスの分野でも知名度を高めていったのだ。
「イッタラ140年の歴史」展示風景
一方で、現在のイッタラ製品にも使われている赤丸に白抜き文字のロゴが誕生したのは1956年のこと。グラフィックデザインを学び、後にガラスデザイナーとしても同社の歴史に名を刻むことになるティモ・サルパネヴァが生み出した「i」のロゴは、ガラス職人の吹き竿と、その先にある熱を帯びたガラス玉から連想されたものだという。
手前:ティモ・サルパネヴァ「《i-ライン》のパッケージ」 1956年 フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵
そして、そうした今も愛される伝統的なデザインを受け継ぎつつも、2000年代以降はテーブルウェアやインテリアの分野に進出。ガラス製品以外でも国際的ブランドの地位を確立していった。
イッタラを彩ってきた8人のレジェンド・デザイナー
次の「イッタラとデザイナー」の章では、イッタラのあゆみに欠かせない「人」に焦点をあてた展示が見られる。象徴的なフィンランドブルーのタペストリーに並ぶのは、8人の偉大なデザイナーだ。
「イッタラとデザイナー」展示風景
このうちアアルト夫妻は同国の国立大学の名前になるほどの“レジェンド”であり、彼らの一世代後に生まれたカイ・フランクは「色彩の革新」をもたらした。おそらく北欧デザインをかじった人ならほとんどの人が知るであろう彼らの足跡を再認識することはもちろんだが、それに続いたデザイナーたちの貢献をこうして代表作とともに知ることができるのは貴重な機会といえる。
「イッタラとデザイナー」展示風景
例えばオイバ・トイッカは器だけに囚われない「好奇心」を、ハッリ・コスキネンは機能と美しさの間にある極限の「シンプリシティ(単純化)」を落とし込み、イッタラにそれぞれのエッセンスを注入してブランドの価値を重厚にしてきた。一方で、アルゼンチン出身のアルフレッド・ハベリを迎えたところには、伝統を守りつつも決してそれだけにとらわれず、常に新しいものを取り入れてきたイッタラの姿勢を伺うことができる。
《アアルト ベース》の「型」も! 450点超の展示でイッタラの芸術を満喫
続く「イッタラを読み解く13の視点」の章は、イッタラの芸術性をさまざまな角度から紐解く本展の核心的なパートであり、普段はなかなかお目にかかれない大物の花器やオブジェも含め、イッタラが作り上げてきた作品を存分に鑑賞できる空間だ。
「イッタラを読み解く13の視点」展示風景
「素材としてのガラス」「広告イメージ 世界観を伝える」「連ねる 重ねる」など多彩なテーマの展示がある中で、個人的に特に興味が惹かれたのは「職人の技」と「型でつくる」のテーマだ。映像も交えたこのスペースでは、イッタラの吹きガラス職人が使う道具を見ることができる。
「イッタラを読み解く13の視点」展示風景
オイバ・トイッカの代表作《バード バイ トイッカ》の制作過程と並べて展示されているのは、ガラスの加工道具だ。イッタラの吹きガラス職人は、使い勝手の良さから今も木の道具を使っているという。ところどころ黒ずんだ道具からは、まるで職人の息遣いが伝わってくるかのようだ。
手前:イッタラ《ガラスの加工道具》 2021年 フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵
一方で、その近くには、かつて《アアルト ベース》の製造に使われていた木型も展示されている。
手前:イッタラ《木型》 1936年/1996年 イッタラ蔵
職人はこの型の内部にガラスを吹き込むことによって、あの流線的なフォルムを生み出している。現在もスチールの型が使われているといい、ここでは木型で作られたものとスチール型で作られたものの微妙な風合いの違いを見比べることができる。
イッタラ《イッタラのカラーガラスのサンプル》 2020年 フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵

オイバ・トイッカ「花器《レフト》」 1989年/2010年 フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵

かつてのフィンランドでは、吹きガラス職人の仕事は父から子へ伝承されてきた職業だったという。そうしたクラフトマンシップの伝承や、この後に続く「気候と文化」で紹介される自然観などは、四季の風土のある環境の中で伝統を継承してきた、私たち日本人の魂にも強く訴えるものがある。また「リサイクルとサステイナビリティー」のコーナーでは、イッタラが今取り組む、100%リサイクルガラスの製品造りについて紹介されている。
北欧デザインファンの「イッタラ愛」が、さらに深まる展覧会
そして終盤の「イッタラと日本」では、1950年代から60年代にかけて3度にわたって来日したカイ・フランクの記録に加え、イッセイミヤケ、ミナ ペルホネンとのコラボレーションなど、日本との繋がりを紹介しており、最後の最後まで“イッタラ100%”の世界が堪能できる。
「イッタラと日本」展示風景
既にイッタラのアイテムを使っている人ならば愛用品にさらに愛着が沸く機会になるだろうし、そうでない人にとっては、きっとイッタラのアイテムを自分の生活の中に取り入れたいと思える機会になるに違いない本展。普段こうした展覧会で出逢うものは、値段として価値の付けようのない唯一無二のものや、たとえ値段が付けられても手の届きようのない高価なものばかりだ。対して、今回は館内のショップでもいくつかのアイテムを購入できるし、鑑賞後に雑貨店に立ち寄れば、そこで手に入れられるアイテムもあるはず。目で見た後は手ざわりでイッタラの素晴らしさを感じてみることをおすすめする。
『イッタラ展 フィンランドガラスのきらめき』は、11月10日(木)まで東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催中。

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