ユーミンの何度目かの
ブームをけん引したエポック作
『Delight Slight Light KISS』に
隠された戒めの眼差し

奥深き「リフレインが叫んでる」

『Delight Slight~』は、[1989年度のアルバム売上年間1位作品。ユーミン初の年間チャート首位となった。本作以降、ユーミン・ブームはバブル期における社会現象となり、バブル崩壊までの3年にわたり年間チャートを制覇し続けることとな]ったという([]はWikipediaからの引用)。1980年代以降のユーミンにとってのエポック作だったと言える。このアルバムのビッグヒットは映画『私をスキーに~』のヒットと無縁ではなかったと筆者は見る。映画公開が1987年11月で、『Delight Slight~』は1988年11月リリースと、その間は1年空いているわけだが、同作のVHSのレンタル開始が1988年3月だったということを忘れてはならない。ビデオレンタル店、華やかなりし頃である。『私をスキーに~』の初見がVHSだったという人は結構、多かったはずである。話題作を半年遅れで家で見た人たちがその影響を受けて、スキーブームにどんどん拍車をかけていったというのが筆者の見解だ。事実、スキー人口がグッと増えたのは1989年からで、本格的なブーム到来は『私をスキーに~』公開から2年後であって、劇場公開後も映画作品がジワジワと人気を集めたと見るのは大きく間違ってないと思う。1987年冬から1988年にかけてスキー熱を高めた人たちが、1988年冬にゲレンデに向かった。道中のBGMは当然ユーミン。これはほぼ当時のマナーと言って良かっただろう。『SURF&SNOW』や『NO SIDE』はもちろんのこと、この年の新作『Delight Slight~』もまた必携のアルバムであったのである。

本作はオープニング、M1「リフレインが叫んでる」のインパクトがとにかく強い。先日放送された『関ジャム 完全燃SHOW』の“松任谷由実特集”において、レギュラー出演者である古田新太が注目していたのも同曲。また、当サイトの『5SONGS』でも、今週は“祝・松任谷由実50周年! 歌い継がれる名曲たち、ユーミンカバー5選”と題してユーミン楽曲を紹介しており、そこに挙げていたナンバーのひとつが「リフレインが叫んでる」であった。それ以外にも、最近ネットに上がっていたユーミンに関するコラムでもこの曲名を目にすることが多かったように思う。同曲に関しては個人的にも少し思い出すことがある。思えばあれは『Delight Slight~』が発売されたばかりの頃。長年の友人から「リフレインが叫んでる」の歌詞のすごさを熱弁されたことがある。どんなシチュエーションでその話をされたのかは完全に失念したものの、その内容は30年数経った今も忘れてはいない。

《どうしてどうして僕たちは/出逢ってしまったのだろう/こわれるほど抱きしめた》《どうしてどうして私達/離れてしまったのだろう/あんなに愛してたのに》(M1「リフレインが叫んでる」)。

友人曰く、“僕”…すなわち男は出逢ったことを後悔し、“私”=女性は離れてしまったことを後悔する。その対比が見事であり、ユーミンの表現力はやっぱりすごい。詳細はさすがに忘れたけれど、そういう内容だった。今になって思えば誰かの受け売りだったのかもしれない。そう考えるのが普通だろう。だけど、今でも覚えているということは、それだけ彼の物言いがアツかったからだし、それによって筆者自身、何か腑に落ちるところがあったからなのだろう。当時その友人も自分もお付き合いしている女性はいなかった。これは間違いない。そんな恋愛の渦中にいるわけでもなかった男ふたりが真剣にユーミンの歌詞について語っている様子は、今となると痛さを通り越して、我ながらどこか神々しさすら感じてしまう話である。それほどに同曲の磁場は強かったということだろう。

ちなみにその友人は現在、これまた某法人で部長に就任している。自分の界隈ではユーミンに影響を受けた人物は概ね出世している。そう思うと、あの頃、ちゃんと聴いておけば…と思うところがないわけではないが、それはともかくとして──。「リフレインが叫んでる」という曲名で、サビは何度かリフレインされながらも、歌詞は単純に繰り返されるわけではないところに、この曲の奥深さがあることは言うまでもない。筆者の友人が当時、指摘したことが真理なのかどうかは知る由もないけれど、ひとつの歌詞の中で男と女の視点を分けてそれぞれの価値観の違いを明確にし、それによってろくに恋愛もしていないようなリスナーにも恋愛の何たるかを考えさせるユーミンの筆致はホントすごいものだと思う。こんなふうに思考を操られるなら、それは決して悪いことではないし、むしろありがたく思うほどである。

OKMusic編集部

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