THE BACK HORN・山田×Nothing’s C
arved In Stone・村松×弦楽四重奏
キネマ倶楽部公演の一部始終を振り
返る

ROCKIN’ QUARTET SPECIAL 2022 2022.8.30 東京キネマ倶楽部
弦楽四重奏というクラシカルな編成を背負い、ロックボーカリストが自らのロックのレパートリーを歌うという他に類を見ないイベント、『ROCKIN’ QUARTET』。2017年にACIDMAN大木伸夫を迎えて開催されて以降、コロナ禍にあっても比較的コンスタントに回を重ね、これまで5名のボーカリスト(ゲスト出演を含めれば6名)がステージに上がってきた。
去る2022年8月29・30日の2日間、東京キネマ倶楽部。かつてVol.2とVol.4に出演した、THE BACK HORN山田将司とNothing’ s Carved In Stone/ABSTRACT MASH村松拓が再び『ROCKIN’ QUARTET』のステージへと帰還した。『ROCKIN’ QUARTET SPECIAL 2022』と題して行われた今回のライブには、これまで基本的にビルボードで1日2ステージで行っていたところをロングセット1本にしていたり、そもそも会場がライブハウスになっていたりといった新たな試みも。また、親交が深く年齢も近い山田と村松は、かつてこの『ROCKIN’ QUARTET』シリーズの配信ライブを山田が出演キャンセル(喉の手術のため)した際に村松が代打を務めたという縁もある。
筆者が観たのは2日目(写真は1日目)。ここからライブの模様を振り返っていくが、現在UP!!!にてこの日の模様をアーカイヴ配信中のため、視聴前のネタバレを避けたい人はご注意を。
かつてはキャバレーだったというレトロかつラグジュアリーで、どこか怪しげな空間。ステージ背後で細かなヒダが陰影を映すカーテン、床に貼られた柄物の絨毯など、もう雰囲気はバッチリ合っている。定刻になるとまずNAOTO QUARTETの面々が登場し、「Stay With Me」が始まった。インスト曲ながら、NAOTOの弾く主旋律はどこまでもメロディアスで、広大なサウンドスケープの中にどこかセンチメンタルな響きを含んだもの。次第に厚みを増していくストリングスのアンサンブルに、呉服隆一のピアノがそっと寄り添う。東京キネマ倶楽部って音も良いんだな、といきなり気づかされる。
次曲のイントロが始まったところで、村松と山田が登場する。Nothing’ s Carved In Stoneの「Mirror Ocean」、村松が歌い始めると思いきや山田のボーカルからスタート。じっくりと昂揚を誘うミドルテンポのサウンドに乗せ、全身でリズムを取るように声を張り上げる山田と、サビを歌い終えたところでビシッと客席に煽りを入れ、不敵に笑う村松。ラスサビでは2人が歌声を重ね、迫力のボーカルで魅せる。どちらも“男っぽい”タイプのボーカリストだと思うが、決して似たタイプではなく、かといって交わらないわけでもないのが面白い。村松がステージに残って投下された3曲目は「Rendaman」。繰り返されるスネア連打による原曲の疾走感を損なうことなく、打楽器不在の編成でこの曲を再現・再構築してみせるNAOTOのアイディアと、カルテットの面々の技量はやはりすさまじい。村松の歌はとても伸びやかで、かつて『ROCKIN’ QUARTET』を経験済みだからなのか、ここが勝手知ったるライブハウスだからなのか、最近はソロシンガーとしても活動している故なのか、良い意味で余裕まで感じさせる堂々たるパフォーマンスぶりだ。
流れるようなピアノから始まり、ジャジーな要素も織り込みながらドラマティックに歌い上げたのは「Alive」。続いて、Nothing’ s Carved In Stoneの代表曲の一つ「Out of Control」ではループするチェロ、ピアノの早弾き、トリッキーな刻みからテクニカルなフレーズまでを担うヴァイオリンとヴィオラが立体的に絡み合う。どのパートを集中して追いかけても楽しい。圧巻。
ここで再び山田を呼び込んで、山田からのリクエストだというNothing’ s Carved In Stone「Walk」を。メロディアスな曲調には山田のボーカルの穏やかな側面がよく似合う。丁寧に歌いつなぎながら演奏を終えると、もう一曲デュエットで「シナプスの砂浜」を披露した。スロー、ミディアムの曲調が続くが、こちらはよりヘヴィで重厚な仕上がりとなっていて、ラストのリフレインでは両者のハーモニーも堪能することができた。その後、『ROCKIN’ QUARTET』では恒例のカバー曲、松任谷由実「春よ、来い」まで届けたところで、村松がステージを後にする。
ここからは山田のターン。紅く染まったステージ上、先ほどまでとは一転してスリリングでエッジーな音で奏で出したのは、押しも押されぬキラーチューン「コバルトブルー」だ。いきなりスロットルをぶん回すかのようなスタートを切ったあとは、メロディアスな歌と演奏が琴線に触れる「冬のミルク」へと繋ぐ。世に出て20年以上経つ楽曲だが、曲と歌声に宿るメランコリーとリアリティは少しも褪せることがない。険しい面持ちで四重奏による演奏と、フロアの観客と、そして自己と対時するように、一曲一曲に精魂を込める山田の歌声は鬼気迫るものがある。
妖しくエロティックな歌い出しもタンゴ調にアレンジされた弦楽器の調べも、絶妙にキネマ倶楽部という場にマッチしていたのは「罠」。ポエトリーリーディングのような始まりに息を呑まされ、次第に激情が迸っていく「月光」、それまでの展開とは一転して穏やかにあたたかに歌い上げたバラード「With You」──。ステージのど真ん中で見せる山田の立ち振る舞いは、時にコンテンポラリーダンサーのようであり、時に一人芝居を観ているかのようでもある。それらを決して大仰ではなく圧倒的にリアルなものとして表現する様は、まさに無二のシンガーと呼ぶに相応しい。
ラスト、「とても大切にしている曲」と紹介して村松とともに歌ったのは、デビュー期から「空、星、海の夜」だった。前述した、山田が出られなかった配信ライブの際、ACIDMAN・大木とストレイテナー・ホリエ、そして村松が歌った曲でもある。ピチカートの丸みのある音と、スクラッチで刻むビートがアンビエントな心地よさを生み、2つの声がドラマティックに静と動を行き来しながら、オリエンタルなメロディとともに色々な表情をみせる。なんとエモーショナルで力強い幕切れだろうか。
演奏を終え、ステージを去った7人に注がれた拍手がやがてアンコールを求める手拍子へと変わると、ほどなくしてカルテットの面々が戻ってきた。華やかで軽やかな「Dream in the Dark」のイントロに乗って、2人のボーカリストはステージ下手(しもて)のテラスから笑顔で登場。やわらかな表情からは達成感や安堵が窺え、場内もクラップで演奏を後押ししてピースフルな空気が充満していく。NAOTOの派手なソロも見事だ。そしてTHE BACK HORNの「ネバーエンディングストーリー」で、陽気にリズミカルにライブパートを終えた後は、スペシャルチケットを購入した観客に向けたアフタートークショー(ほぼMCが無かった本編と打って変わり、ここでは書きようのないユルーい時間でした)までやりきり、『ROCKIN’ QUARTET SPECIAL 2022』は終了した。
繰り返しになるが、この日の公演の模様は9月14日よりUP!!!にて独占アーカイヴ配信中。ここでしか見られないバックヤードトークも楽しめるほか、観客席からは観られないアングルも交えた美麗な映像作品に仕上がっている。より多くの目と耳に、この画期的なライブシリーズの様子が届くことを願うとともに、早くも6人目のボーカリストが誰なのか、次なる会場はどこになるのか、すでに気になっている自分がいる。

取材・文=風間大洋 撮影=高田梓

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