【藤津亮太の「新・主人公の条件」】
第31回 「シャインポスト」青天国春

(c) Konami Digital Entertainment,Straight Edge Inc./シャインポスト製作委員会※編集部注:本コラムは「シャインポスト」第8話までの展開にふれています。鑑賞後に読むことをお勧めします。
 アイドルにとって「一生懸命さ」というのはとても重要な要素だ。無心にパフォーマンスに打ち込む姿やレッスンでの努力する様子などの全体像が、観客やファンを鼓舞し、感動へと誘う。だから当然、アイドルアニメもまたキャラクターの一生懸命な姿を重要なものとして扱うことになる。「シャインポスト」もその定石を踏まえながら展開するものと思われた。第7話までは。
 「シャインポスト」は青天国春(なばため・はる)、玉城杏夏(たまき・きょうか)、聖舞理王(せいぶ・りお)の3人がメンバーのアイドル「TiNgS(ティングス)」をめぐる物語だ。TiNgSは、定期ライブもちゃんと埋めることができない弱小アイドル。そんな彼女たちが中野サンプラザでのライブを目指すことになり、新たなマネージャー日生直輝がやってくる。日生のもと、3人は気持ちも新たにアイドル活動に取り組んでいくことになる。
 物語が始まると早々にメンバー2人は問題を抱えていることがわかる。歌唱力も踊りも安定している玉城杏夏は自分を出すのに臆病で、一番元気で場を盛り上げる聖舞理王は、しかし身体能力が低くダンスが苦手。そんななかでセンターの青天国春は、巧みな取り回しでライブを支え、どんなときも元気で一生懸命に周囲を盛り上げている。
 シリーズの前半はTiNgSのおかれた状況を見せた後、玉城杏夏と聖舞理王が抱える問題を日生が中心となって丁寧に解きほぐしていく展開。こうして問題をクリアすることでTiNgSは“あるべき姿”へと一歩一歩近づいていく。それは地に足がついた描写で語られてはいるが、自らの問題に一生懸命立ち向かう姿を描いており、「アイドルアニメ」らしい展開といえた。そしてこうした展開のなかでも、春はいつも明るく一生懸命で、いかにも“アイドルアニメ”の主人公らしく描かれていた。それは春がある種の理想像――この作品世界の基準点――として描かれているようにも見えた。
 ところがそんな先入観は第8話で覆される。第8話で春の抱える“問題”が浮上するのだ。その問題とは、春はTiNgSでは本気を出しておらず、みんなをその実力差で絶望させないために力を抑えて活動しているというのだ。“一生懸命”やらないことに“一生懸命”というこのふるまいは、アイドルアニメのキャラクター像を反転したかのような行動だ。どうして春はそんなことをするのか。そこから春の過去にスポットがあたることになる……。
 春をアイドルアニメの主人公たらしめていると思えた「明るく一生懸命」という要素をひっくり返す展開。これは、なかなかインパクトがあった。しかもそれは、“カッコイイふり”をすることを自分に課してまで一生懸命であろうとした祇園寺雪音の頑張りと、きれいな対照をなしている。おそらくこれから描かれる第9話以降で、ほかの2人のドラマがそうであったように、春の心情が丁寧に深掘りされていくのだろう。心の機微を、丁寧な演出と演技で見せる本作だからこそ、今後の展開が非常に楽しみである。
 しかしこの展開の中で春が本作の主人公である理由もまた見えてきたのではないだろうか。「(ほかの人よりも)できてしまうことの孤独」と「集団でアイドルをやることの意味」。ひとりであればどこまでも高く飛べる。でも、それを分かち合える人はそこにはいない。一方で、みんな一緒であれば分かち合えるものは多い。しかし飛べる高さはほどほどになるかもしれない。本作はアイドルという存在を通じて、この2つの状況の板挟みを描こうとしているのではないか? それを体現しているからこそ春は主人公なのではないか?
 もちろんこの予想があたるかどうかはまったくわからない。だからこそ、本作のクライマックスは、春が主人公であることの理由がいかに描かれるかに注目したいと思う。

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