連続企画『アニメソングの可能性』第
三回 葉月ひまり、つんこ対談 D4D
Jキャストとして見せるDJとしてのバ
ランス感

“アニメソング”とは果たして何なのだろうか?
一つの音楽ジャンルを指し示しているように感じさせるが、しかしそこに音楽的な規則性はない。それでも多くの人の頭の中には“アニメソング”と言われて思い浮かべる楽曲の形がぼんやりとあるだろう。この“アニメソング”という音楽ジャンルの形を探るための連載インタビューがこの『アニメソングの可能性』だ。
話を伺うのは、アニメソングを日々チェックし、時にそれをDJとしてプレイするアニメソングDJの面々。多くのアニメソングを日々観測し続ける彼らが感じる“アニメソング”の形とはどんなものなのかを訊き、アニメソングというものを紐解いていこうと思う。
そんな連載企画の第三回に登場していただいたのは、「DJ」をテーマにしたメディアミックスコンテンツ、D4DJに登場するユニットMerm4idのDJ・日高さおり役を演じる葉月ひまり燐舞曲のDJ・三宅葵依を演じるつんこの二人。全く異なる道筋を辿り、現在共にD4DJのキャストとして活躍する二人。そこにはキャラクターコンテンツを背負ってDJをする二人ならではの共通した視点があった。また、本インタビューではクラブに興味を持ちつつ、まだクラブに行ったことがない葉月ひまりの視点から語られる “クラブに行くことへの抵抗”と“その壁を乗り越えるための提案”まで聞くことが出来た。これまでになかった視点からの提言、こちらも注目ポイントだ。

■アニメソングが友達とのコミュニケーションツールだった
――お二人は現在、声優やコスプレイヤーといった、アニメに関連する仕事をしていますが、まずはその道に進むきっかけとなったアニメ作品からお聞きしたいです。
葉月ひまり:私は『鋼の錬金術師』がすごく好きで、あの作品がきっかけだったように思います。
つんこ:私も見てた! 懐かしい!
葉月:私、エドワード・エルリックがすごく好きだったんですよ。彼を演じている朴璐美さんが女性だって知った時にすごく衝撃を受けて、それで声優という職業に興味を持ったんですよね。
つんこ:それ、すごいわかります。私も似た衝撃を『NARUTO -ナルト-』で受けましたね。うずまきナルトを演じているのが竹内順子さん、女性だって知った時はすごく衝撃的でした。あとは『シャーマンキング』の麻倉葉役を佐藤ゆうこさんが演じていたのも同じく驚かされましたね。
――アニメの少年主人公を女性声優さんが演じることはよくありますからね。今お話に出ていたアニメ、どれも主題歌が複数曲ありますが、記憶に残っている曲はありますか?
つんこ:『NARUTO -ナルト-』のエンディング「Wind」がすごく印象に残っています。『NARUTO -ナルト-』シリーズはオープニングが「GO!!!」をはじめとして明るい曲が多い。でも作品自体は重厚なテーマを扱っている部分もあるじゃないですか。その重厚さを音楽的に担っていたのがエンディング曲だったと思うんです。「Wind」はすごく暗い曲、でもそれが『NARUTO -ナルト-』という作品らしさをすごく表現していると感じたんです。
――作品のバックグラウンドが曲の中に現れていた、ということですね。
つんこ:そう、あの曲聴くとナルト自身の抱えている生い立ちやコンプレックスを感じられる。アニメ本編の外側で物語が展開される感じがして嬉しかったです。アニメソングとして素晴らしい曲だと思いましたね。
つんこ
――アニメ本編の外側でさらに物語が語られている、それは作品ファンとしてすごく嬉しいことですよね。葉月さんは『鋼の錬金術師』の楽曲で思い出に残っている曲はありますか?
葉月:私は『鋼の錬金術師FULLMETAL ALCHEMIST』の「again」がすごく思い出に残っています。歌っていたのがYUIさんだったのでアニメを見ない友達と一緒に行ったカラオケでも歌えたんですよ。
――確かに、アニメを見ていない人にとってはJ-POPとして認識される曲ですからね。
葉月:そうなんですよ。その上、この曲を歌う時に「これ『鋼の錬金術師』の曲だよ~」ってさりげなく言うとアニメ好きの友達を探りあてられるんです(笑)。結果的に、この曲のおかげでアニメ好きな友達を作ることもできました。
――J-POPでもありながら『鋼の錬金術師』らしさ、アニメソングらしさもあるという。
葉月:歌詞の内容にはすごく『鋼の錬金術師』に寄り添っている。その反面、サウンド感は当時のJ-POPの流れなんですよ。アニメソングでありながらJ-POP、両方の魅力を持っていた曲になっていると感じていました。
――なるほど。つんこさんはアニメソングを介して友達のコミュニケーションをとるといったことはありましたか?
つんこ:ありましたね。私のまわりはアニメ好きな人ばっかりだったので好きなアニメ主題歌の情報交換をすることが一つのコミュニケーションの形でした。その当時、『シャーマンキング』のキャラクターソングを教えてもらって聴いていたのを覚えていますね。当時はキャラクターソングの意味もよくわかってなくて、ただただ「大好きな麻倉葉くんが歌っている!」ぐらいの気持ちで聴いていましたけど(笑)。特に私が好きだった曲に「SILENT WEAPON」というのがあるので、これは今回のインタビュー記事に必ず書いておいてください!
■DJをはじめて聴こえ方が変わった楽曲たち
――その後も多くのアニメソングと出会ってきたかと思いますが、その中で思い出に残っているアニメソングはありますか?
葉月:私、『フルーツバスケット』もすごく好きなんですよ。なのでアニメの主題歌である「For フルーツバスケット」がすごく思い入れがあります。あの曲を聴くとそれだけで泣けてしまう、岡崎律子さんの歌声が本当に印象的で。
つんこ:いや、あれは聴いたら泣きますよ。わかる。
――はっきりとアニメと紐づいて好きな曲、ということですね。逆にアニメに紐づいて記憶していないけれど、好きな曲というのはありますか?
つんこ:私はありますね。アニメソングDJで使っている人がいて、それで知った曲としては『天体のメソッド』のオープニング「星屑のインターリュード」とか。あとは『武装少女マキャヴェリズム』のオープニング「Shocking Blue」は曲を知ってからアニメを見始めた感じでした。
葉月ひまり
――ありがとうございます。アニメソングが音楽と出会う場所であり、アニメと出会う場所にもなっていたと。ではDJを始めてから好きになった曲というのもありますか?
つんこ:「JUST COMMUNICATION」がそうですね。クラブの音響にすごく映える曲調になっているし、イントロが特徴的。イントロの一音目で曲と映像を思い浮かばせられるのが、本当にDJとしてありがたいな、と思っています。
――あの前奏は確かに印象的ですよね。一方で好きだけどDJとしては使いづらい曲というのもあると思うのですが。
葉月:歌やセリフで始まる曲は好きだけどどうやって使ったらいいのか迷いますね。D4DJでもカバー版が出ている「めざせポケモンマスター」は始まった瞬間に入る「ポケモンゲットだぜ!」というセリフが印象強くて、どのタイミングで使ったらいいのか迷います。
――確かに、あの一言でDJの流れがガラッと変わってしまいますからね。
葉月:そうなんですよ。ただ他の方のDJを聴いた時に、スクラッチを使ってうまくセリフ部分を入れ込んでいる人がいて、あれはすごいなと思いましたね。悔しい! でも勉強になる! そう思いました。
――やはりDJで流すことを考えると曲の聴き方も変わりましたか?
葉月:変わりますね。前奏とか間奏とかついつい拍数数えちゃいます。
つんこ:え、私全然そんなこと考えずに聴いてる。
――お二人で意見が分かれましたね。
つんこ:私は曲をただ聴く時と、DJとして使う用に曲を聴く時がはっきり分かれているんです。なので普段は全然拍数とか気にしないんですよ。逆にすごく気に入った曲だけど、いざDJで使おうと思って繋ぎ方考えたら「これ無理じゃん!」ってなる時もありますね(笑)。
――その気持ち、わかります。つんこさんはそういう時はどうされています?
つんこ:潔く使うのを諦めますね。あまり長考しても結果的にいいものにたどり着けることの方が少ないんで。いつか繋ぎが閃けるだろう、と思ってそのままにしちゃいます(笑)。
葉月ひまり つんこ
■D4DJのキャストとしていかにパフォーマンスを見せていくのか
――お二人の場合、D4DJのキャストとしてDJブースに立っているわけですが、DJをするにあたって何か意識していることはあるのでしょうか?
葉月:私はMerm4idのDJとして舞台に立つことが多いので、求められているのはアゲアゲなDJなんですよね。そこは一貫してプレイができるように気をつけています。
――そうすると先ほどお話に出た「For フルーツバスケット」などは、DJでは使いづらくなってしまいますね。
葉月:そうなんですよ。私自身、しんみりした気持ちになった時に音楽を聴く習慣があるのですが、そういう時に聴く曲はDJとしては使えないんです。そこは悩みどころですね。
――求められているものとは合わなくても、好きな曲をやはりDJで使いたいという気持ちはある。
葉月:あります! ただ、ちょっとまだ勇気が出ないです。告知の時点で「今日はしんみりした曲しかかけません!」って言えばできるかな……。
――確かに事前にお客さんに予告をしていればできるかもしれないですね。
葉月:はい、それなら……いや、それでもかけられる勇気が出ないかもしれないです。しんみりした曲をかけた時ってお客さんが楽しんでいるのかどうかわかりづらくないですか? それがすごく怖いと言いますか。
つんこ:そう、わかりづらいよね……。私はつんことしてもプレイするので、しんみりとした曲もかけるんですよ。そういう時は少し不安な気持ちになる。
葉月:やっぱり不安になるものなんですね……。そう考えると、やっぱりアッパーな楽曲でDJをするところからは離れづらい。でも、いつかは挑戦したいですね。理想的には、途中にしんみりした曲を挟んで展開に強弱なんかつけられるようになったらいいなと思っています。
葉月ひまり
――それは楽しみです。ではつんこさんはプレイする際に選曲や展開で気をつけていることはあるのでしょうか?
つんこ:私の場合は逆に、意識的に気をつけないようにしています。“燐舞曲らしいDJ”にこだわると展開や選曲がワンパターンになってきてしまうというか、結果的にお客さんに似たDJを披露することになってしまうんですよ。それは何度も聴きに来てくれている人にとって退屈なDJになってしまうと思っていますから。
――求められるものではあるけど、ワンパターンになるのも怖いと。
つんこ:そうなんです。とはいえ“燐舞曲らしいDJ”から外れすぎてもよくない、そこの匙加減も大事ですよね。そのバランス感はSNSのリアクションを見ながら調整していく感じです。
――そのバランス感はとても難しいですし、選曲も気を使うことになりますよね。
つんこ:そうなんですよね。お客さんの層を考えるとやっぱり皆さんブシロードさんの楽曲が好きな方たちだと思うんです。だからこそ、これまでに見せていない選曲をしつつ、同時に「好きな曲が流れた!」という喜びは作っていく必要がありますから。
――D4DJのキャスト、DJとして、というお話を伺ってきましたが、逆にDJプレイ以外の振る舞いにおいてもキャラクターを意識することはありますか?
葉月:そこはライブの時とDJの時で少し違いますね。ライブの時はキャラクターを全面的に演じながら出演しているんですよ。対してDJの時は素の自分に近いと言いますか。
つんこ:完全にキャラクターを演じてDJをするとなると、他のユニットの曲かけた時どう振る舞っていいのかがわからないというのもありますからね。生身の自分としてでないと中々DJは成立させづらい。
――特につんこさん演じる三宅葵依はクールなキャラクターなので難しそうですね。
つんこ:そうですね、葵依は堂々と構えてDJをするキャラクター。でもあの堂々とした所作を貫いてDJしたらそれは見栄え的にどうなんだろうか、という問題も生まれますからね。やはりDJとしては声や身体も使って、楽しそうにパフォーマンスするのがお客さんにとっていいDJに繋がると思いますから。
■D4DJをきっけけにDJに興味を持ってほしい
――現在DJとしての活動も積極的に行っているお二人ですが、いわゆるプライベートでクラブに行ったことはありますか?
つんこ:私はD4DJのキャストになる前からDJやっていますからね。今でも日常的にいきますよ。
葉月:私はないんですよ。行ってみたいとは思うんですが、なかなか勇気がなくて。
――やっぱりクラブに対して怖いというイメージがある?
葉月:怖いというのもありますが、それ以上に雰囲気についていけるのかに不安があるんです。なので一人ではなかなか行けない。
つんこ:一人の方が気楽だよ? 同行者に気を使わなくていいから。私は一人で行くことの方が多い。
葉月:そうなんですか? 知らない人ばっかりの場所に行ったら浮いちゃう気がしていて……。
――クラブ自体が怖いというよりは、その場に馴染めるかどうかが気になると。
葉月:特にDJイベントって言われると、お金を払ってイベントに行く人たちの熱量に自分がついていけるんだろうか? と不安は出てきてしまいます。もっと気軽に、それこそDJイベントとしてではなくDJが聴ける場所があったらいいのに、そう思う時はありますね。
――それはいわゆるカフェにDJがいて、曲がかかっているようなイメージですか?
葉月:はい、そうであればふらっと入る勇気は湧くかなと思います。そこをDJを聴く入門として徐々にクラブに行けるようになったらいいんですが……。
つんこ:確かにそういう場所、増えて欲しいですよね。居酒屋の端にDJ機材があって、居酒屋に行ったらたまたまDJやっているみたいな場所、もっとあってほしい。そうすればDJカルチャーってもっと広がるとは思います。
――確かにもっとDJというものに気軽に触れる機会があるといいですよね。
つんこ:そうですね。クラブに行ったことがない人でも、DJは聴いたことがあるという人がまずは増えてほしい。そうすれば自然とクラブに行く人も増えるでしょうし。
つんこ
――D4DJもクラブに行ったことない人がDJに触れる機会を作っていると思います。もしかしたら、D4DJを観て影響を受けて、DJデビューする人も出てくるのかもしれないですね。
葉月:SNSを見ているとDJ機材を買ったという人は頻繁に見かけますからね。
――今後もさらに、D4DJの影響でDJを始める人が増えてくるかと思います。そういった人たちにメッセージをお願いできますか?
つんこ:そこからもう一歩、どういう方向でもいいから踏み出してみて欲しいですね。気になるDJさんがいたらその人のプレイを見にいくでもいいし、クラブやDJバーに遊びに行ってみてもいい。とにかく何か一歩踏み出すことが大切だと思います。そこから始まる何かもあると思いますから。
葉月:今は自分のDJプレイをインターネットを通じて発信することもできるので、そういったものも活用してみてほしいと思いますね。そして、もしよければその時にD4DJの楽曲を使ってほしい。私自身もみなさんのDJプレイを聴いて勉強できたらと思っていますから。
葉月ひまり つんこ

DJにとって最も大切で、最も作り上げるのが難しいものが、個性。個性を持ち、その個性を周りが認知されて、初めてそのDJはリスナーから認識されるだけの力を持つ。D4DJのキャストとして活動する二人はスタートラインに立った時点でその個性が与えられている。
しかし、それは決して楽なことばかりではない。個性があるからこそ、個性に縛られてDJに窮屈さを感じてしまうこともあるだろう。
その縛りを磨き続け武器とするかは彼女たちにかかっている。今回の話を聞いて、二人は必ずその個性を独自に進化させてさらなる“武器”としていくだろう、そう感じさせられた。今後もさらなる盛り上がりが期待されるD4DJ、注目していきたい。
インタビュー・文=一野大悟撮影=池上夢貢

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