フジファブリック、2年ぶりのライブ
ハウスツアーで伝えたもの「“あの頃
に戻ろう”ではなく、ここから新しい
光を作っていきたい」

フジファブリック LIVE TOUR 2022 ~From here~ 2022.7.30 日比谷野外大音楽堂
「ライブというのは光なんだなって、このツアーを回ってすごく思いました。こんなに素晴らしい景色が見られるなんて、フジファブリックは本当に幸せなバンドです」
山内総一郎(Vo&Gt)の言葉どおり、フジファブリックは約2年ぶりとなるライブハウスツアーのファイナル、日比谷野外大音楽堂でのワンマンを見事なまでの大成功に収めた。新型コロナウイルスが各地で猛威を振るう状況ながら、全15公演を無事に完走できたのも何よりだったと思う。
フジファブリック
快晴に恵まれたライブ当日。夕刻の野音は程よく日陰ができていて、気温32℃とまだまだかなりの暑さがあるものの、都会のオアシスといった感じでいくぶん過ごしやすい。この日はオンラインで生配信も実施される中、最前列から最後方の立見席までを埋め尽くすほどたくさんのファンが現地に駆け付けた。
いよいよ開演時間の17時半。「LOVE YOU」をSEに、山内、加藤慎一(Ba)、金澤ダイスケ(Key)、そしてサポートの玉田豊夢(Dr)が満員の観客を前に笑顔で現れると、真夏の野音の開放感に似合うアッパーな「SUPER!!」から、ライブが歯切れよくスタートした。曲中に「日比谷ー!」と叫び、じっとしていられないようなテンションで早くも熱く歌う山内。さらに、最新アルバム『I Love You』に収録のサイケ/ファンク色の濃い「楽園」、各パートのソロ回しを入れたアレンジで惹き込む「東京」、金澤の爽やかなエレピがリードする「スワン」……ボーカル&ギター、ベース、キーボード、ドラムのみのごくシンプルな編成で、大きな会場にまったく引けを取らない、これほどまでにピュアで柔和なアンサンブルを澱みなく聴かせるのが今のフジファブリックなのかと、序盤にして心を揺さぶられる。
フジファブリック
野外の高温を受け、最初のMCで「今日は暑いぞ!」と笑う金澤。山内も「お水を飲んだりとか扇いだりとか、体調第一で観てもらえたらありがたいです」とファンを心配しつつ、「ツアータイトルの『From here』には、フジファブリックとして“ここから”またみんなといっしょに歩んでいきたい、新たに始めたいという想いを込めました。2022年の4月でデビューして18年が経ったんですけど、20年、25年、30年、その先無限大に続けていけるようにね。気持ちも熱くやっていきたいと思います」と告げ、節目節目で演奏される「桜の季節」へ。18年の時が流れてもまるで色あせることのない曲の魅力に浸る一方、“ならば愛をこめて”“手紙をしたためよう”のあたりでは山内のパワフルな歌声にドキッとして、本当に頼もしいボーカリストだなと改めて実感させられた。ギターソロのリフレインするメロディはたまらなくやさしい。
セットリストからもメンバーの意欲が伝わってくる。フジファブリックらしいポップさが散りばめられた鍵盤リフが際立つ「徒然モノクローム」は、大きなターニングポイントとなった3人体制初のシングル曲。前を意識したビートとトリッキーなグルーヴで駆け抜けた「モノノケハカランダ」は、過去2回の日比谷野音でも披露してきたやはり思い入れの強いナンバーで、オーディエンスもとりわけ嬉しそうなリアクションを見せ、客席のボルテージが明らかに跳ね上がったのが印象的だった。演奏後にはその「モノノケハカランダ」について、「『FAB FOX』(2005年発表の2ndフルアルバム)を作っているときにめちゃくちゃ勢いのある曲ができて、“ここから”すごいアルバムが生まれるんじゃないかって感じた思い出があります」と話し、『FAB FOX』のタオルを持ったファンに山内が「ありがとう~!」と声をかけるシーンも。
「“ここから”何かをまた新しく始めたいとき、力になったらいいなと思って作った曲」だという、先程とは打って変わってグッと溜めの効いたテンポで聴かせた「Water Lily Flower」と続き、これまでの18年間を総括しながら、これからの未来を切り開いてもいく、想いの詰まったライブを繰り広げるフジファブリック。伸びのある温かいボーカル、胸にやさしく沁み入る繊細なサウンド、そっと隣にいてくれるような安心感は「透明」でいっそう深まる。曲の合い間にジリリと大きく聞こえる鳴き声に対し、「セミとセッションしてるみたいだね」と山内が穏やかにつぶやく。日が暮れ出した頃、そんな良きムードをより豊かに彩ったのは「若者のすべて」。真夏のピークに野外で味わうこの曲も格別で、4人はしみじみとした表情とともに気持ちの籠った演奏を届け、観客がその一音一音を大切に噛み締める時間となった。
中盤では、観客を座らせて山内がゆっくりと語る。「セミも元気だし、さっきはシオカラトンボも飛んできた(笑)。いやー、ファイナルで感慨深くなりますね。「若者のすべて」はリリースしたのが2007年ですけど、最近はテレビで紹介していただいたり、King & Princeのみなさんに“ドライブで聴く”と言っていただけたり、これまでも素敵なアーティストにカバーしていただいたりと、すごく幸せな運命を辿っていて、今年から高校の教科書にも載っています。「桜の季節」も参考書に載せてもらって、志村くんは絶対に喜んでいると思うんだよな。ここからいろんな世代にいろんなタイミングでフジファブリックや志村くんのことを知ってもらえる機会があるというのは、本当に嬉しいです」
金澤ダイスケ
加藤慎一
「(暑すぎて)ジャケットなんて着てらんない! 寒い(2006年)→寒い(2015年)→暑い(2022年)という感じで、野音ワンマンは3回目ですね。私は夏生まれ・夏男なので、暑さとともに楽しみたいと思います」(加藤)、「(自身の故郷・大分での)ライブハウス公演もすごくよかったし、開放された野音もめっちゃ気持ちよくてとても楽しいです」(玉田)、「野音は天候を含め、本当にいろいろな力が働いてますよね。2年後は20周年。そのとき自分たちがどんなステージに立っているのかはまだわからないけど、今この瞬間を大切にして繋げていきたいです」(金澤)と、メンバー紹介を兼ねたMCが続き、「行動制限があった中で、街の空気を吸ったり土を触ったりしながら、それぞれの地と同化するように僕はライブをやれて、これまでにない経験ができました」と、山内もリリースありきではないツアー(前半は黒猫チェルシーの岡本啓佑がサポートドラムを務めた)の充実ぶりを打ち明ける。
そして、“飛び出すのならここからだ”と再びバンドを続けていく覚悟を綴った「STAR」以降、曲タイトルの羅列だけでも光が伝わる終盤の畳みかけは圧巻だった。加藤のダンサブルなベースラインから始まる「LET'S GET IT ON」では、ネオンカラーの照明が灯る中、“ウ!ハ!”のコーラス、プログレ感ありの痛快なアレンジで盛り上げ、音頭とハードロックを融合させたような「Feverman」でお祭りモードがさらに加速。夏に映えるエネルギッシュな曲調+“両の手を振って返し押して返し”の歌詞に合わせて、オーディエンスが両手をくるりくるりと回し、野音は歓喜の大盆踊り会場と化した。
フジファブリック
とっぷり日が暮れた時間に始まった「電光石火」は、金澤が弾く鍵盤のカラフルな音色、軽やかな疾走感をもってイメージの先、すなわち彼らの未来を明るく照らすように響く。絶好のシチュエーションで届けられた「星降る夜になったら」を聴いて、晴れわたった野音の空を、志村の居る天を、幾度も見上げながら、指差しながら歌う山内の姿を目にして、何か腑に落ちた感じを覚えたファンも多かったのではないだろうか。それはデビュー18年の今、フジファブリックが新旧のさまざまな楽曲をより自然体で混ぜ合わせたうえで、非常にスケールの大きいライブができているということ。つまり、疑いようもなくバンドが過去最高の状態にあるということだ。
冒頭に記した言葉に加え、「デビュー当時って争いごとや疫病は遠いところにあった気がするんですけど、今はそれが日常になっていて……。フジファブリックは日常の中のものを曲にしているし、“あの頃に戻ろう”ではなく、ここから新しい光を作っていきたい! そういう願いも込めた『From here』です。この不穏な現状で、職場、学校、家庭、友人関係などが大変な方もいらっしゃると思います。あなたの心の居場所になれるよう、僕らは音楽とライブをずっと作り続けていくと約束しますので、また会いに来てください」と、観客に伝えた山内。本編ラストの「光あれ」では、“正解は何時でもひとつじゃないよ”“会えて嬉しかった”といった歌詞が聴き手を一段とやさしく包み、最後のサビで銀テープも華々しく発射され、目に焼き付いて離れない感動的な景色が生まれたのだった。
フジファブリック
バンドの生きざまを清々しく証明したような「LIFE」、玉田の素手ドラムを含む全員のソロ回しがダメ押しの如く決まった「虹」と、メンバーが“From YAON Tシャツ”で戻ってきたアンコールも大盛況。特に「虹」での精悍な顔付きで声を重ねる3人、“もう空が持ち上がる”で天に両手を掲げるオーディエンスの姿は、この日のハイライトと言っていいかもしれない。客席にマイクを向けてもルールを破って合唱したりはせず、力強く腕を振って黙唱で応えてくれるファンとの関係性も、他に類を見ない美しさだった。「今日のことは一生忘れません!」と山内が締め、愛にあふれた約2時間半に及ぶファイナル、そして誓いのツアーに幕を下ろしたフジファブリック。ここから新たな歴史がまた始まる。

取材・文=田山雄士 撮影=森好弘

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